地球環境概論 厳網林 第12回 地球温暖化問題と国際的取り組み 地球温暖化とは • 地球全体の年平均の気温が長期的に上昇することである. 世界の年平均地上気温の平均差の経年変化 平成12年環境白書 地球表面の平均温度(大気がなかったら) ( 1-0.3)338=5.67 × 10 -8 T G 4 反 射 率 日 射 エ ネ ル ギ ー マス ンテ 定フ 数ァ ン ボ ツ 地 表 面 の 温 K度 (1-ρ)I = σ TG4 入射エネルギー 放射エネルギー • 大気がないと,TG=-19℃ 地球表面の平均温度(大気があるとき) (1-0.3)338= 5.67×10-8 TA4 TA=-19℃ (1-0.3)338+σTA4=σTG4 ( 1 - ρ ) I + σ TA 4 = σ T G 4 日射 ↓大気放射 放射 • TG=29℃ 地球表面の平均温度(蒸発散あるとき) ( 1 - 0 . 3 ) 3 3 8 + σ TA 4 = σ T G 4 + 8 0 236+236-80 = 392 = σTG4 (1-ρ)I+σTA4 =σTG4 + H 日射 ↓大気放射 • TG=15℃ 放射 蒸発散 地球表面の温度を決める要因 • 太陽放射エネルギー – 太陽から地球に送られる放射エネルギー(太陽常数):1368w・m-2・s-1 – 地球表面が単位時間に受ける放射エネルギー:342w・m-2・s-1 – この値は緯度,時間によって変化はあるが,全地球平均値は変わらない • 反射率 – 一部の太陽放射は宇宙に反射される.反射率(アルベドともいう)平均値は0.3 • 大気層(今週の授業の話題) – 大気が日射エネルギーを透過,吸収,拡散,放射する. – 大気層の厚さは30kmほど. – 大気の成分が変ると,放射効果(下向き,上向き)が変わる. • 蒸発散 – 地表の構成によって入射エネルギーは反射されたり,吸収されたりする. – 吸収されたエネルギーが直接大気中に熱として放射されるものは顕熱,水や植生 の蒸発散を通して放出されるものは潜熱という. 温室効果ガス • 大気の中で,水蒸気を除く殆どの成分は熱赤外エネルギーをよく吸収する性 質を持っている.それらの大気成分は温室効果ガスという. • 温室効果ガスに,二酸化炭素,メタン,亜硫酸窒素,フロンなどがある. 大気中に増え続けるCO2濃度 ハワイ島のマウナロア山のアメリカ海洋大気局の観測所の観測結果 ハワイのマウナロア山観測所における大気中の二酸化炭素の変化(MoorとBokin(1987)) 人類活動と気候変動 • 二酸化炭素の発生源 – 人為に基づく二酸化炭素の主要な発生源は、土地利用の変更と化石燃料 の燃焼に類別できる。 • 人類による地表面の改造の影響 – ゆっくりとした二酸化炭素の増加なら、海洋に吸収されて大気中にはとど まらず、地球の温暖化には結びつかない。 – 森林が砂漠化すると、森林に固定されていた炭素は、ほぼすべて大気中 に放出される。人類が有史以来、森林伐採によって放出した炭素の総量 は、約3000億トンという試算がある。 – しかし、その放出は数千年かけて徐々に行われたため、地球の平衡を保 つ機能により海洋に吸収され、大気中の二酸化炭素濃度の安定が図られ、 地球の平均気温はほぼ15℃に保たれてきた。 温室効果ガスが増える原因 • 森林の破壊 – 単なる森林の伐採では、伐採前の生態系が伐採後の生態系より多くの炭素を貯蔵 していることが多く、その場合、両者の差だけ二酸化炭素が大気に放出される。おお まかにいって、森林の破壊は二酸化炭素の発生源でありうる。 – 伐採された樹木は新たな建築材の利用により炭素の固定をある期間維持すること になる。 • 産業の発展が温室効果ガスの排出を増大 – 人口の爆発的な増加と人々の生活水準の向上などの結果、石油、石炭などの化石 燃料の消費量が増大し、温室効果ガスの増加をもたらした。 – 人口は、この100年間に約4倍に増加し、このためエネルギー消費が飛躍的に増加 したと考えられている。 • 土地の不当な利用 – 農地の不当な耕作 – 生態系の破壊 CO2の吸収源 • 二酸化炭素の吸収源として最も重要なものは 植物による光合成と海洋である。 – 二酸化炭素の吸収源として最も重要な働きをして いるのは植物による光合成である。その際に、植物 は空中の二酸化炭素を吸収し、炭素同化作用によ り酸素を放出する。 – 海洋へ融け込む二酸化炭素もある。海洋も二酸化 炭素の大きな吸収源である。 地球温暖化がもたらす被害 世界のCO2の排出量 世界のCO2排出量の推移(1950~1995年) (出典:環境白書 平成12年度版) 日本上空のCO2収支 • 日本の国土上空の大気に5.2億トンのCO2の炭素が含まれている。 • 日本が輸入した化石燃料の燃焼によるCO2の炭素の排出量は3.1 億トン/年 • 日本の森林が純生産速度によるCO2の炭素の吸収は0.1億トン/年 • 結局、日本上空に毎年3.0億トンの炭素が蓄積される。 • もし、大気循環がなければ、日本人が数年のうちに自ら排出した CO2で呼吸障害を起こすことになる。 • 世界中の国が日本と同じレベルの豊かさになったら、地球環境はた ちまち崩壊してしまうことがわかる。 国内におけるCO2排出 エントロピー・エクセルギーから温暖化問題への考察 • 不可逆の過程 – 化石燃料の消費による二酸化炭素の増加は基本的に不可逆で、一度大気中 に拡散した二酸化炭素は、再び石油や石炭となることはない。 これはエントロ ピー増大の法則と一致する. – 石炭、石油や石灰岩は、太古の地球大気の二酸化炭素を「化石」として地中 深くに「固定」してできたものである。これらの化石化した炭素は、人為的に掘 り出さない限り再び地上に出て二酸化炭素に戻ることはない。 • 化石燃料の分布の変化 – 地球上、集中的に分布する化石燃料資源は、エントロピーが小さい。化石燃 料を掘り出し、世界中に運ばれることは、エントロピーの増大である。 – 各地に散らばった化石燃料は再度集約して、利用することができない。燃料 に閉じていた炭素は集約度が高いため、エントロピーが小さいが、燃焼後の 炭素のエントロピーは大きい。 エネルギーの流れと温暖化の進行 • 化石燃料の利用はエクセルギーの消費である – 化石燃料を利用することは、燃料に含まれるエクセルギーの 消費である。エクセルギーを消費するときに、エントロピーが 増大する。増大したエントロピーは、廃熱やCO2として捨てら れる。 – 大気中に拡散したCO2は、エクセルギーの高い太陽エネル ギーを反射・吸収する。吸収された太陽エネルギーは熱放射 を放出する。それはエネルギーの劣化である。そのうちの一 部は再び地表面を暖め、地球環境の温暖化をもたらす。 地球温暖化を軽減する選択肢 – 地表面にある炭素が大気中に入らないようにすること • 土壌,森林をよく管理すること • 二酸化炭素へ還元する時間を遅らせること – 大気中へ放出する炭素を減らすこと • エネルギー構造の転換 • エネルギー消費の削減 • 産業効率の改善 – 地球上の炭素貯蔵を増やすこと • 生物固定:植林して森林を増やすこと • 工業固定:炭素集積と地中・深海中へ放出すること 地球環境問題への国際社会の取り組み 京都議定書 • 先進国(付属書I国)の温室効果ガス排出量について、法的拘束 力のある数値目標を各国毎に設定した国際条約。 • 国際的に協調して、目標を達成するための仕組みを導入(排出 量取引、クリーン開発メカニズム、共同実施など) • 途上国に対しては、数値目標などの新たな義務は導入せず • 数値目標 – 対象ガス: 二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、HFC、PFC、SF6 – 吸 収 源: 森林等の吸収源による温室効果ガス吸収量を算入 – 基 準 年: 1990年 (HFC、PFC、SF6 は、1995年としてもよい) – 目標期間: 2008年から2012年 – 目 標: 各国毎の目標→日本△6%、米国△7%、EU△8%等。 – 先進国全体で少なくとも5%削減を目指す。 京都メカニズム • 国や企業が目標達成のために市場原理を利用する方法 • 排出権取引(Emissions Trading) – 温室効果ガス排出量の数値目標が設定されている付属書I国間で,排出権の獲 得及び移転を行うことができる制度である.これにより,市場メカニズムを活用して, 目標達成のための全体費用を削減することが可能である. • 共同実施(JI: Joint Implementation) – 付属書I国間同士が共同で排出削減(または吸収増大)などのプロジェクトを実施 し,その結果生じた排出削減量(または吸収増大量)に基づいて発行されたクレ ジットの一部または全部をJI関係国間で分け合う手法である. • クリーン開発メカニズム(CDM:Clean Development Mechanism) – 付属書I国が,非付属書I国に対して,技術や資金を提供して排出削減(または吸 収増大)などのプロジェクトを実施し,その結果生じた排出削減量(または吸収増 大量)に基づいて発行されたクレジットをCDM関係国間で分け合う方法である. 排出権取引の仕組み 2005年国内で試行 Begins from 2005 in Japan Emission right seller Emission right buyer 売り Sale 超過部分 購入補填 Emission right 実質排出-> Over emission 排 出 権 削減部分 Cut 売り Sale <-目標排出 Goal <-実質排出 Real Emission 国内A会社 Domestic company A 目標排出-> Goal Trade companies 国外C会社 Domestic company C 商 社 等 仲 介 会 社 削減部分 Cut <-目標排出 Goal <-実質排出 Real emission 国外B会社 Company B aboard 京都議定書の発効条件 ロシアの批准が重 要だった. 日本の約束と対応 • 2002年3月に,1998年に決定された地球温暖化対策 推進大綱が地球温暖化対策推進本部により見直された (新大綱). ▲2.5% CO2,CH4,N2Oの排出抑制 内訳:±0.0%:エネルギー起源CO2の抑制 ▲0.5%:非エネルギー起源CO2,CH4,N2Oの排出抑制 ▲2.0%:革新的技術及び国民のさらなる防止活動の推進 ▲3.9% +2.0% ▲1.6% 森林整備,バイオマス利用の促進,都市緑化の推進に よる吸収量の確保 代替フロンなど3ガス (HFCs,PFCs,SF6)の排出抑制 京都メカニズム(排出権取引,JI,CDM)などの活用 排出権取引の事例 • 農家の排出権を集める – カナダの電力会社トランズアルタは,アイオワ州のたくさんの農家から排出権を購 入した.農家は農法の改良によって温室効果ガスの排出を抑え(排出権を作り), IGF保険が農家ごとに契約することで排出権を集め,さらに大手ブローカーのキャ ンター・フィッツヅエラルドが仲介した(1999). • 米国先住民による植林を依頼 – 英国の会社SFMは1994年の山火事で焼失した米国モンタナ州の森林100haの 再植林を先住民に依頼し,それにより固定される分の排出権(CO2約5万トン)を 取得するという内容の契約.取引はモンタナ炭素削減協会が仲介して行われた. SFMが払ったのが5万ドル(1$/1トン). • 排出権とセットになった石炭開発 – 東北電力は,オーストラリアの石炭供給会社から相次いで「排出権付き石炭」を購 入した.排出権は,石炭採掘時に発生するメタンを回収し発電を行っている分で, 住友商事が仲介した.逆に,出光興産はオーストラリアの自社炭鉱にユーカリを 植林し,その分の権利とともに石炭を販売しようとしている.石炭を燃焼すると,他 の燃料よりもCO2を排出することが多いのだが,正味の排出量を小さくしようという 考えである. 京都メカニズムの意義 • 世界にとって, – 地球の人々が一団となって,温暖化問題を取り組む体制ができた. – 環境への努力は経済効果として報われる仕組みができた. – 市場経済の原理をうまく使うと,経済発展と環境保全を両立させる可能性が示さ れた. • 先進国にとって, – 数値目標を達成するために,柔軟な方法がある. – 技術をいっそう改善するためのインセンティブとなる. – 短期的には,コスト増になることもあろうが,長期的には,国際競争力の向上につ ながる. • 途上国にとって, – 環境改善に必要な技術・資金を先進国から導入されるみちができた. – 自然そのものは,エコシステムが存在するだけでも,改善したことでも,経済効果 を生み出せるものである. 参考文献 1) 宿谷昌則,自然共生建築を求めて,鹿島出版会,1995. 2) 富士総合研究所みずほ証券,図解よくわかる排出権取引,日刊工業新 聞社,2004.3.197p. 3) 大来佐武郎監修,地球規模の環境問題I,中央法規出版社,1994. 390p. ほかに,地球温暖化問題に関連するたくさんのホームページを参照してくだ さい. 最終課題 • 課題: – 地球環境問題の解決と持続可能な発展への提言 • 要領: – 授業で習った概念、提示された考えや方法をもとに、自分の調査地域 の環境問題(代表的なもの1つだけ)に関して、①対象問題の実態とメ カニズム、②その問題に取り組んできた政策や動き,③そこから生まれ た効果や経験を整理したうえで,④持続可能な社会を実現するための あなたの提言をまとめてください。⑤最後に授業,フィールドワーク,課 題全般を通して学んだことを付記して下さい. – ワードフォーム:ftp://ecogis.sfc.keio.ac.jp/GE/ge2005/Gekadai3-form.word • 提出: – A4用紙に印刷し, – 7月22日17:00までに – 研究室E502またはE509に提出してください.
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