21世紀の科学技術 と 地域産業

医 療 と I T
2005年7月1日
日本経済新聞社
中村 雅美
医療とIT
1
内
容
 社会の変化と日本の医療
の姿
 IT医療
 電子カルテ
医療とIT
2
 社会の変化と日本の医
療の姿
 IT医療
 電子カルテ
医療とIT
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社会は転換期にある
成長社会
量の重視
供給者重視
集団主義
閉鎖型社会
協調社会
成熟社会
質の重視
需要者重視
個中心
開放型社会
競争社会
医療とIT
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これからの医学・医療を語るキーワード
「病気」ではなく「病人」を診る
ゲノム医療
患者にあった医
師(医師のさじ加
減)
テ
|
ラ
|
メ
|
ド
医
療
統 合
先端医療技術
リハビリテーショ
ン医学
介護の充実
再 生
個
医療とIT
EBMの定着
チーム医療
予防医学、生活習
慣の改善」
失
わ
れ
た
機
能
の
回
復
5
医療(学)に求められるもの





全人的医療
QOL(生活の質)の向上
EBM(科学的根拠に基づいた)医療
病気の治療と予防医学
医学と工学の融合
診断・治療機器、医療情報システム、遺伝子検査チップ


トランスレーショナルリサーチ
代替医療
漢方、カイロプラクティス、リフレクソロジー
医療とIT
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日本の医療の課題
①国民医療費増大への対応
経済成長を上回る伸び(高齢社会、
疾病構造の変化 --慢性病の増加)
②医療スタッフの質・量面の充実
医師偏重のシステムの改善
コメディカルスタッフの充実(患者に比べて少ない医療スタッフ)
③医療体制の整備・向上
救急医療・在宅医療・介護・リハビリ・老人医療の充実
④情報開示の徹底
カルテ/レセプトの開示、告知
医薬品情報の周知・伝達
⑤先進医療技術への取り組み
「レディメード」医療から「テイラーメード」の医療へ
医療とIT
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これからの医療に必要なこと
①高齢化と疾病構造の変化への対応
*生活習慣病の増加
*治療・予防とともにリハビリを含めた
総合医療の推進
*施設医療から「在宅医療」重視へ
②患者(医療消費者)の重視
*情報公開--I・C(十分な告知と理解・納
得)やカルテの開示
*人権尊重--自己決定への対応
*医療消費者主権の確立
③競争(市場)原理の一部導入と経営意識の向上
*医療資源の効率のよい活用
混合診療の容認、私的医療保険との
組み合わせも考慮(?)
*セーフティネットとしての
公的医療施設の質・量両面の充実
*医療は「サービス業」との意識をもつ
医療とIT
④質の高い医療の供給
*医療内容の標準化
*科学的根拠に基づいた医療
--EBMの定着
*チーム医療の推進
*医療スタッフの教育・研修の充実
*医療技術の研究開発の推進
--ゲノム医療、先端医療技術
⑤医療スタッフのモラルの向上
*医療倫理の向上
*医療過誤の防止
⑥情報技術の利用
*医療情報(カルテなど)の標準化と公開
*医療マネジメントの効率化
*患者情報の整理・管理
--患者データベースの整備、ICカード
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医療技術の革新
時
期
主な進歩
基盤になる
科学技術
対象疾患
医療費への影響
第1次革新
第2次革新
第3次革新
戦後~60年代
70年代~現在
現在~
抗生物質などによる
感染症の治療
外科手術の進歩
(手術法、人工心肺
など)
MEなどの診断・検査技
術の進歩(CTなど)
治療機器(内視鏡、
レーザー、放射線応
用などの発展)
人工臓器、移植医療
遺伝子医療
(診断・治療)
再生医療
ナノテク医療
遠隔医療
情報技術の応用
生物学、細菌学
化学
物理科学、コンピュー
ター科学、電子技術
生命科学、ゲノム科学、
組織工学、情報技術
急性疾患
(感染症など)
慢性疾患
(生活習慣病)
慢性疾患(生活習慣病、
加齢に伴う疾患)
医療費削減型
医療費誘発
・増大型
医療費削減型?
(千葉大学・広井良典氏作成のものより)
医療とIT
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社会を語るキーワード
 「自己決定」「自己責任」が求められる
情報公開が大切になる
「十分な説明と納得の上で同意・選択をする」
インフォームド・コンセント(インフォームド・チョイス、シェアード・コンセント)
 これからは倫理を通じた社会との調和の重要性が高まる
「生命倫理」「環境倫理」「技術者倫理」「メディアの倫理」
ELSIに配慮しよう
 個人情報の保護が重要になる
医療とIT
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医療におけるELSI
医 療
<ELSI>
社
会
と
の
関
わ
り
法
・
制
度
・
慣
習
Ethical(倫理)
倫
理
医療とIT
Legal(法制度)
Social Implication
(社会的課題)
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これからの社会
情報システム、コミュニケーション
創
る
使
う
医療とIT
伝
え
る
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世界の医療制度(1)
世界の医療保険制度は3つの型に分類できる
(1)社会保険型
(ドイツ、フランス、日本など)
拠出金で運営、職域単位がベース
(2)税中心型
(英国、北欧諸国など)
税で運営、全住民が対象、平等志向
(3)市場原理型(米国)
民間保険主体、国家の介入は最低限に
自立・自助の精神
→ 医療費、医療コストの負担を議論する時、それぞれの特性を考え
なければならない
医療とIT
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世界の医療制度(2)
日本の医療は「混合型」(仕組みはドイツ型、精神は英国型)
国
供
給
(公的・公益病院の割合)
英
独
公(ほぼ100%)
公(約90%)
仏
公(約70%)
日
私(約20%)
米
私(約25%)
財
政
公(税=国・NHS)
公
(保険料=疾病金庫)
公
(保険料=疾病金庫)
公
(保険料+税=国、組合健保・国保)
私
(民間保険、一部公的保険)
医療とIT
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 社会の変化と日本の医
療の姿
 IT医療
 電子カルテ
医療とIT
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IT(情報技術)
 情報産業のパラダイムシフト
ハードウエア → OS → コンテンツが重視される
ネットワークを介して誰もが同じ情報環境が得られる
 技術課題
コンピューターのパーソナル化(ウエアブル化、携帯化)
光技術、高速・高機能素子の開発
ネットワークの高速・高機能化、使いやすさの向上
 医療への応用(e-ヘルス)による変革
医療関係者と医療消費者が情報の共有
医療の質の向上、規制緩和
医療とIT
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医療にITを入れる目的
「人は誰でも間違える(TO ERR
MAN)」(2000、米国医学研究所)
IS HU
ミスを犯した個人を責めるより、ミスを犯さないシス
テム作りが重要
「医療の質(A New Health System for
21st Century)」(2002、米国医学研究所)
the
よりよい医療確立のための提言
医療とIT
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医療に課せられた目標(「医療の質」より)
 安全性
 有効性・・・的確な医療の提供。恩恵とならないと思われる人に
は医療を提供しない(過少・過剰なサービスの回避)
 患者中心志向・・・患者のニーズ・意思の尊重
 適時性・・・待ち時間の短縮、診療の遅れの回避
 効率性・・・無駄な医療の排除
 公正性・・・社会経済的差による医療サービスの違いの排除
→ これらにIT(情報技術)は有効
医療とIT
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ITが医療にもたらしうる恩恵(1)
(「医療の質」より)
 医療消費者
健康情報の検索、医師・医療プランの検索、
診療記録へのアクセス
 医療サービス
日常的ケアの支援・管理、遠隔診療、医師相互の相談、
診療記録・画像の伝送
 医療経営
患者の登録・予約の管理、消費者の医療プランの管理、
医療費の請求と支払い、経営の効率化
医療とIT
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ITが医療にもたらしうる恩恵(2)
(「医療の質」より)
 公共保健
医療事故報告システム、疾患の発生状況の把握、
医療提供者への情報の発信
 医療教育
遠隔講義、手術のシミュレーション、バーチャル講義
 医学研究
医療DBを用いた研究、遠隔地からのデータ伝送、
コンピューターによる高速演算
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IT医療(1)
医療のIT化は急速に進んでいる
 関連技術の高度化
 コンピューター科学、高速ネットワークなど情報インフラ
の整備
 EBMの広まり:「医療の質」の評価、患者本位の医療、
医療過誤の低減
 医療・医学の効率化の要求
 医療費の縮減、電子カルテ、遠隔医療、画像など診療情
報の流通・共有化
医療とIT
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IT医療(2)
インターネットによって世界中の医療情報が入手でき、
比較が可能になってきている
→
医療消費者が医師と同じような知識発言力をもつ
 e-ヘルス:インターネットを基盤とした
医療・健康・福祉情報サービス
 e-ホスピタル:インターネットによる
医療情報サービス(病院の質と良質の患者確保)
 e-ペイシェント:医療情報サービスの利用者
患者中心の医療の希望者
米国では1710万人の e-ペイシェント
インターネット利用の40%が医療情報収集が目的
<e-ヘルスの特徴>
1. Content
: 最新の情報
2. Community : 利害・興味が同じ仲間がグループを作る
3. Commerce : 商取引の媒介機能
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医療の情報化の意味
 情報の蓄積と流通によって
医療体制が変わる
 医療は規制や制度に守られている
→ITがそれを破る?
 医療費削減とともに
「医療の質」の向上にある
医療情報の共有による
医療提供者と医療消費者の情報格差の縮小
医療とIT
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IT医療の関門
 規制緩和:評価結果・病院情報の開示範囲の拡大など
 安全化:個人情報の保護、情報のセキュリティ向上など
 法的環境整備:診療記録の電子保存・通信運用方法



データの電子保存など
標準化:記録内容の共通化(項目、分類など)
通信方法の規格化など
公共性:データの広範な利用
経済性:システム整備、利用の負担軽減
IT化促進のインセンティブなど
 使いやすいシステムの開発:
ユーザーインターフェイスの改良
現場の業務状況にあったシステムなど
 社会へのアカウンタビリティー
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 社会の変化と日本の医
療の姿
 IT医療
 電子カルテ
医療とIT
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電子カルテ
 ペーパレス化
院内なら可能だが医療施設間では難しい?
 診療情報の広範な利用
病診連携による地域医療・介護システムの確立
同一地域での1患者1カルテ
「Dolphin Project」(熊本、宮崎)
 病院業務の効率化
診療支援とオーダー・在庫管理システムとの連携
POAS(Point of Act system:
医療行為発生時点情報管理システム)
国立国際医療センターなど
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電子カルテ
 「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」
(厚労省:2001年12月)
→ 目標 : 2006年度までに400床以上の病院の6割、
診療所の6割に電子カルテを導入
一般病院(8116):導入済み 1.3%、導入予定 11.0%、
導入予定無し 86.6%
・・・・・
500床以上(445):導入済み 3.6%、導入予定 34/6%、
導入予定無し 58.9%
一般診療所(94819):導入済み 2.6%、導入予定 2.8%、
導入予定無し 94.3%
厚労省「医療施設調査」(2002年10月)
医療とIT
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電子カルテのコスト低減
導入コストの58.5%はエンジニ
アの作業費
15%
低減
・仕様をきちんと作成
・標準化の推進
・無駄な期間をかけない
15%
30%
40%
仕様確認・プ
ロジェクト準
備など
システム設
計・院内調整
パッケージカ
スタマイズな
ど
操作訓練
(厚労省「標準的電子カルテ推進委員会」資料)
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電子カルテ導入の結果(病院事務長アンケート)
経費削減ができた
診療がスムーズ になった
時間が節約できた
カルテ 開示業務が楽
医療ミス防止につながる
情報がわかりやすく なった
カルテ の保管に困らなく なった
データを蓄積できた
医療の質が向上した
(%)
業務を把握しやすく なった
0
20
40
60
80
100
(名古屋大・山内一信教授 : n=36)
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なぜか?ーー電子カルテのメリット
 施設内の情報の共有ができた
 経営情報が把握できた
 診察待ち時間が減少した
 患者アメニティ(情報の入手、患者ケアなど)
が向上した
 患者との良好なコミュニケーションが図れた
 消費者へのアカウンタビリティができた
 医療費・コストの見えない部分がはっきりした
 医学研究が進展した
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なぜか?--電子カルテのデメリット
 導入したらかえって苦労した
 高価である
 維持費用 がかかる
 関係者の意識改革が大変
 利用者(療関係者、医療消費者)への
インセンティブがわかりにくい
初期投資と維持費用、誰が経済的負担をするのか
メリットがわからない
→まず電子カルテありきではなく目的が重要
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終わりにまとめ
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IT医療の目標
 地域医療の充実
医療情報ネットワーク・遠隔医療などによる
高度な医療の確保
 統合医療の確立
診療、保健、介護・生活支援・在宅医療の連携
医療機関内の自己完結型医療サービス
→ 地域完結型医療サービス
 医療機関業務の効率化
 医療消費者の情報環境の向上
One for All,All for One
(個々の医療をすべての人のために、
すべての医療を個人のために)
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医 療 と I T
終
ご静聴ありがとうございました
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