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法と経済学(file 1)
Introduction
今日の講義の目的
(1)法と経済学とは何かを理解する
(2)ミクロ経済学の体系を概観する
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お知らせ
(1)私の担当回で使うファイルは私のHP(http:// dbs.iss.utokyo.ac.jp/~matsumur/LSLE2009.html)で公開します(アド
レスを忘れても社会科学研究所のHPからたどれます) 。
(2)経済学の知識を前提としないで講義します。
(3)講義中不明なことがあればいつでも質問してください。
(4)5回の講義で7つのファイルを使用する予定です。質
問等で6つあるいは5つしか終わらないこともあります。
→活発な議論の結果全部終わらないのはむしろ望ましい
但しfile7は必ずやります。
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お知らせ
(5)講義中の発言があまりに少ない場合には、私の方か
ら当てることがあります。
(6)出席をとります。
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目標
(1)聞いているだけで全て理解できる講義を目指します。
→講義時間中は集中して聞いてください。
(2)気楽に質問できる雰囲気を目指します。
(3)すぐには役に立たなくても、長く役に立つ講義を目指
します。
→簡単には陳腐化しない分析道具の解説をします。
→この後の講義(藤田先生、森田先生の担当講義)で直
接使わなくても重要な点は解説します。
(4)経済学・法と経済学に関する細かな知識ではなく、分
析の背後にある基本的な発想法を重視します。
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法と経済学
法と経済学 Law and Economics
→法学と経済学の境界領域
~これでは抽象的すぎて何のことだかわからない。
Law and Economics =Economic Analysis of Law (法
の経済分析)
→法を経済学の道具を使って分析する
~法学者と経済学者の協力が不可欠な分野
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法と経済学を学ぶ意味
(経済学の知識ではなく)経済学的発想を学ぶ意味
(1) 会社法・証取法分野の研究者となるための不可欠な
素養(将来は知財・経済法・行政法・労働法・民
法・民事訴訟法・英米法・EU法でも)
(2) 米国の(一部EUの)影響を強く受けるBusiness
Lawの重要な基本原理を学ぶ上での重要性
(3) 米国の(一流の)Law Schoolの上位者と互していく
ための素養
(4) 学生の間に触れるadvantage(on the job trainingは期
待できず、仕事の合間にゼロから学ぶのは難しい)
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法と経済学で主に使う経済学
ミクロ経済学
ゲーム理論
・厳密には2つは異なる分野で、ゲーム理論はあ
らゆる社会科学の分析に不可欠な道具。
・ゲーム理論は現代の経済学には必要不可欠な分
析道具になっている。
→情報の経済学、契約理論、New Industrial
Organization等の新しい経済学の道具を使うと必
然的にゲームの話がでてくる。
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法と経済学で主に使う経済学
公共経済学・産業組織・貿易・契約理論・組織の経済学・
企業金融・社会選択等の経済学も使うのではないか?
ミクロ経済学・ゲーム理論が基礎となる理論
→これを特定の問題を取り上げるのに特化した道具にし
たものが上記の理論
→基礎的なミクロ経済学・ゲーム理論の発想と道具がわ
かると、より専門化した分野の議論もかなりわかる。
~道具・基本的な発想は共通だから
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ミクロ経済学の特徴
個々の経済主体の意思決定(選択)
→社会全体の構造
大げさに言うと方法論的個人主義
一方で個々の経済主体の選択は社会全体の構造に
依存する
個々の経済主体の意思決定は社会全体の構造が決
まらないと決められないが、個々の経済主体の
意思決定なしには社会全体の構造も決まらない
⇒同時決定の体系
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ミクロ経済学の体系
原理的にはあらゆる意思決定を分析できる
まず何をどれぐらい生産して消費するかという選択か
ら出発
・消費者の理論・生産者の理論(個人の意思決定)
・市場均衡の理論(同時決定の体系を閉じる)
→厚生経済学の第一定理=市場均衡は以下の3条件
が満たされていればパレート効率的である
(a)完備市場(b)完全競争(c)完備情報
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市場の失敗(1) 不完全競争
完全競争:全ての経済主体が価格受容者
価格受容者:自分の行動が価格に影響を与えないと思っ
ている経済主体
(例)買い手が価格受容者→自分の購入量が市場価格
に影響を与えると思わない消費者
売手が価格受容者→自分の生産量が市場価格に影響
を与えると思わない生産者
不完全競争:少なくとも1人価格受容者ではない者(価格
支配者)が存在する
市場の失敗の是正←独占禁止法・事業法(残念ながらこ
の講義では取り扱わない)
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市場の失敗(2)外部性
(a)の条件が満たされないために起こる市場の失敗の
典型例
外部性(公害など)、公共財 (外部性~第3者効
果)
⇒政府か直接規制したり、税などで間接的に民間経
済主体個をコントロールする必要性
損害賠償制度で内部化できる可能性も(藤田先生の
回で詳しく解説)
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外部不経済によって本当に市場
は失敗するか?
・第3者が潜在的な売手、買手と交渉すれば効率的な
資源配分が達成される。
⇒コースの定理~法と経済学の出発点の一つ
コースの定理
(a)権利の帰属が明確(b)交渉費用がゼロ(c)情報が完
備
⇒効率的な資源配分
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コースの定理の世界の交渉過程
(例:公害)
被害者が加害者に金を払って排出を抑制してもらう
⇒被害者が加害者に金を払うのは不公正では?
⇒デフォルトルールを変更すればよい
・第3者の承認がなければ排出できないというルールに
変更する。
⇒加害者が被害者に金を払って排出を認めてもらう
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コースの定理の重要性
・市場観の革新
~分権的な相対取引の集積⇔集権的な(整備され
た)市場
・相対交渉・契約の重要性の見直し
⇒法と経済学、契約の理論の出発点の一つ
・市場メカニズムへの信頼
⇔規制、強行法規への不信
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不完備情報による市場の失敗
完備情報:全ての人が同じ情報を持つ
完全情報:全ての人が全ての情報を持つ
情報が不完備~情報が非対称的~情報が偏在
・情報が偏在することによる市場の失敗の典型例
(a)モラルハザード (b)逆淘汰
・情報の偏在への対応
⇒シグナリング⇒これが新たな市場の失敗を生む
法と経済学の分野でも中心的な役割を果たす(file
4で詳しく取り上げる)
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不完備情報と情報の経済学
不完備情報の重要性の発見
古典的な経済学ではうまく説明できなかった現象
をうまく説明できる事に気が付く
→情報の経済学~現代の経済学の母体
ゲーム理論の発展と相まって経済学に一大革新を
もたらし、契約理論、組織の経済学の形成と産
業組織、企業金融などの理論の刷新につながる
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最近の経済学の傾向(1)行動経済学・神
経経済学
経済学の基本的発想:人間は合理的である。
→実際には人間の行動は必ずしも合理的ではない。
実際の人間の行動を観察して行動原理を発見し、これ
を組み込んで経済理論を構築(行動経済学)。
アンケートや実験を通じて行動原理を知る~実験経済
学、神経経済学と好相性
行動パターンを脳科学の観点から実験・解析~神経経
済学
第2講で少し議論
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最近の経済学の傾向(2)実験経済学
古典的な発想:経済現象は実験できない。そこが
自然科学とは違う。
→現実の人々の選択行動から実証。計量経済学の
発展。
実験経済学:工夫して実験してみる。知りたい情
報を、環境を制御して直接見る
~行動経済学と好相性
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ゲーム理論
相互依存関係にある合理的な主体の意思決定を科
学的に分析する
→ミクロ経済学の発想と似た面を持つ
・ゲーム理論の発展とともに経済学も発展
・逆に経済学の発展がゲーム理論の発展にも貢献
~現在ではミクロ経済学の不可欠な分析道具に
(file 5-6で取り上げる)
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ミクロ経済学の構成
・消費者の理論+生産者の理論
・市場均衡の理論~厚生経済学の第一定理
・古典的な市場の失敗(外部性、不完全競争など)
(以上が価格理論の世界)
・情報の経済学
・ゲーム理論
・行動経済学・実験経済学
(現代の経済学の主流?)
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経済学の体系
組織の
ファイ
経済学
ナンス
企業金融
契約理論
産業組織
貿易・
都市経済
環境経済
国際経済
情報の経済学
公共経済学
ミクロ経済学・ゲーム理論
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ミクロ経済学の教科書
・ミクロ経済学あるいは価格理論とタイトルに出て
いる教科書であれば、概ねどの教科書でも使える。
店頭でみて自分に合いそうなものを選べばよい。
・一応ヴァリアン著「入門ミクロ経済学」(勁草書
房)をあげておく。章が細かく分かれていて、しか
も各章が概ね独立して読めるので使いやすい。これ
以外のものについてはHPをご覧下さい。
・法と経済学の教科書・文献についてはこの後の講
義で指示されますが、私の方に問い合わせて下さい。
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