宣教学通論 -宣教とは-

宣教学通論
-宣教とは-
中央聖書神学校
2008年度前期
「宣教とは」で問われていること
1.キリスト教以外の宗教で宣教に積極的な世
界的宗教はどれか。
2.「宣教」と「伝道」の相似点・相違点を述べよ。
3.「宣教」における福音主義派と自由主義派と
の違いは何か。
2
「宣教とは」で問われていること
4.「宣教」とは何か、自分の表現で述べよ。
5.ミッシオ・デイとしての宣教とは何か。
6.宣教学が「学」として成り立つために必要な
ものは何か
3
聖書信仰とキリスト者と教会
(ボッシュ、p.29ff)
 キリスト教信仰は本質的に宣教的
 キリスト者はその全存在において宣教的
 地上の教会はその性質それ自体におい
て宣教的
4
聖書信仰とキリスト者と教会
(ボッシュ、p.29ff)
 キリスト教信仰は本質的に宣教的
宣教的宗教の顕著な要素
「宇宙的な重要性を持っていると信じ
られている究極的な真理について、何
らかの偉大な『啓示』を保持しているこ
と」
5
他宗教と宣教性

イスラム教
人類の救いに消極的

ユダヤ教
人類の救いに無関心

ヒンドゥー教 民族宗教で自己閉鎖的

神道
宣教体制皆無、他民族への無関心

道教
改革・革新を拒否

仏教
非宣教的態度

儒教
人間関係に重点
6
聖書信仰とキリスト者と教会
(ボッシュ、p.29ff)
 キリスト者はその全存在において宣教的
わたしが福音を宣べ伝えても、そ
れは誇にはならない。なぜなら、
わたしは、そうせずにはおれない
からである。もし福音を宣べ伝え
ないなら、わたしはわざわいであ
る。(1コリ9:16)
7
聖書信仰とキリスト者と教会
(ボッシュ、p.29ff)
 地上の教会はその性質それ自体におい
て宣教的
教会は福音を全世界にあまねく宣べ
伝えることによって始めて宣教的にな
るのではなく、宣べ伝える福音が普
遍的なので宣教的なのである。(William
Frazier, 1987)
8
宣教と伝道
宣
教
(共立基督教研究所、p.20ff)
伝
と 道
はどう違うのか?
9
伝道とは
人々がキリスト・イエスによって神に信頼をお
くように
 救い主として主イエスを受け入れるように
 教会の交わりにおいて王として主イエスに仕
えるように
 聖霊の力によってキリスト・イエスを提示する
こと
(英国教会、1918)

10
宣教とは
 神の国の実現のために:
神が教会をあらゆる国の人々に派遣し
ことばによってキリスト信仰に導き
愛の行為によって社会的責任を果たすこと
(倉沢正則、『宣教学リーディングス』,p.18)
11
宣教とは

「宣教・ミッション」=「派遣された使命」・「派遣
された目的」

「宣教」:ミッション(Mission)の日本語訳
 「ミッション」:ラテン語のミッシオ(missio)から派生
 「ミッシオ」:ギリシヤ語のアポステローの翻訳
 「アポステロー」:使命を与えて派遣すると言う意味
(佐々木正明、「宣教の定義」)
12
宣教と伝道
宣
教
(共立基督教研究所、p.20ff)
伝
道
人々を救いに導くこと
福音主義派
13
宣教と伝道
宣
教
(共立基督教研究所、p.20ff)
伝
道
人間性の回復
抑圧された社会からの解放
自由主義派
14
宣教と伝道
異
教
社
会
宣
教
(共立基督教研究所、p.20ff)
伝
道
地域による区別
キ
リ
ス
ト
教
社
会
15
宣教と伝道
自
由
主
義
派
(共立基督教研究所、p.20ff)
宣教
社会的責任
伝
道
福
音
主
義
派
人々を救いに導く
社会的責任
ローザンヌ世界伝道会議(1974)
16
宣教理解と教会内の亀裂

プロテスタント主流派教会分裂(1960年代)
伝道と社会的働きを巡る神学的不一致
福音主義協議会と世界教会協議会(WC
C)間の対立
聖書的宣教vs社会的責任
17
宣教理解と教会内の亀裂
 福音主義教会の宣教理解
キリストによって与えられる個人的な救い
に関する福音を伝えること
人々をキリストの弟子にすること
 人々をキリストの教会につながらせ、責任ある
メンバーになるよう説得すること
18
宣教理解と教会内の亀裂
 世界教会協議会(WCC)の宣教理解
ヒューマニズムに立脚した宣教
教会が世界に対して社会的、政治的、経済
的に関与すること
19
宣教姿勢と文化脈化

「解放の神学」:福音を経済的、政治的、社
会的、精神的抑圧からの解放と考える立
場(南アメリカのカトリック教会)

「第三の目の神学」:アジア・アフリ
カ、南アメリカの人々の目を通して福
音を見流自己訓練を主張(宗泉盛 )
ソン・チュアンシェン
20
宣教姿勢と文化脈化

「水牛の神学」:水牛に代表される地域の
文化に即して福音を理解されるように伝達
すべきと主張(小山晃佑
こうすけ

)
「民衆神学」:韓国のプロテスタント神学者によ
る民衆の立場から解釈した神学
21
宣教姿勢と文化脈化

聖書の中に示された神の啓示の真理を失
う可能性を過小評価すること
 福音伝達過程で妥協する危険

人間文化・宗教の中に見出される真理を過
大評価すること
 聖書真理が相対化される危険
22
世界教会協議会ナイロビ会議宣言
「私たちの大祭司として、キリストは救
いと奉仕の両方を通して神の新しい契
約を仲介される。従って、忠実な祭司と
して、クリスチャンは伝道と社会的働き
の両方に関与するように召されてい
る。」(1975)
23
福音主義教会ローザンヌ誓約
宣教に関するエキュメニズムへの対応
 キリスト者が社会的責任を怠り、伝道と社会的
関心が両立しないと考えてきたことに対する悔
い改めを明言
他宗教との関係における相対主義への対応
「世界の福音化は全世界に全福音
(社会的責任包括した)を全教会が
もたらすことを求める。」(1974)
24
共生的宣教(山森,p.379)
 全人的(Holistic)働きとしての宣教
伝道と社会的働きが機能的であること
両者は不可分な関係にあること
両者とも教会の総括的な働きにとって
不可欠な本質的次元であること(1977)
 聖書は教会が人間の全体に関与すること
を命じている
25
宣教と伝道・牧会
宣教
伝
道
牧
会
トゥルナイゼン、『牧会学II』、p.48
26
宣教・牧会
(E.トゥルナイゼン、牧会学II, p.30ff)
「教会という場所の内部にある人間に
対しても、教会の外部の、この世の中
にある人間に対しても成される教会の
一つの行動」
「『神のものである』、すなわち、キリ
ストにあがない取られた者としての事
実に立って教会に委託された宣教の
業」
27
宣教の概念
(ボッシュ,p.232ff)
 転換しつつある「宣教」の概念
救済論的に捉える「宣教」
 永遠の刑罰からの救い
教会論的に捉える「宣教」
 教会成長、教派拡張
終末論的に捉える「宣教」
 世の終わり終末論的危機感
28
宣教の概念
 転換しつつある「宣教」の概念
文化的に捉える「宣教」
 西欧キリスト教文明・倫理の紹介としての
「宣教」
三位一体論的に捉える「宣教」
 啓蒙主義的な神学に決別を告げたバルト
の影響多大
 IMCウイリンゲン大会(1952)に表出
29
「宣教」の日本語訳
 福音を宣べ伝えること(伝道・説教)
Khvrugmav(1コリ2:4)の訳語
曖昧な伝道と説教と宣教の区別
 海外宣教団体の活動
Missions(宣教団体)
Missionary(宣教師)
30
宣教(Mission/Missions)とは

ミッション-Mission(単数)
 重要な任務を委ねられた使節として、具体的な使
命を委託され、派遣されること(一般的な意味)
 ミッシオ・デイ-神の宣教(ボッシュの定義参照)

ミッションズ-Missions(複数)
 教会の宣教の業
 ミッシオ・デイを実現するための具体的な形態
31
宣教とは
 神の国の実現のために:
神が教会をあらゆる国の人々に派遣し
言葉によってキリスト信仰に導き
愛の行為によって社会的責任を果たすこと
(倉沢正則、『宣教学リーディングス』,p.18)
32
ミッシオ・デイ(Missio Dei)としての宣教
 三位一体の文脈に置かれる「宣教」
古典的ミッシオ・デイ
 父なる神が御子を遣わし、父及び御
子なる神が御霊を送られる神の派遣
の「宣教」
今日のミッシオ・デイ
 父と子と聖霊が、教会をこの世に遣わ
す宣教体制
33
ミッシオ・デイとしての宣教
 「宣教」は神のものであるという確認
教会に自己実現意識の完全な破棄
本質的に教会の活動ではない宣教
 教会は宣教使命のための道具
 神の属性である宣教(神は宣教の神)
神から世への動きである宣教
宣教があるから教会がある、その逆は
ない。
34
ミッシオ・デイとしての宣教
この世で達成されるべき救いの使
命(ミッション)を持っているのは教会で
はない。それは御父を通しての御
子と御霊との派遣(ミッション)によるの
であり、そのことに教会が含まれて
いるのである。
35
ミッシオ・デイとしての宣教
宣教とは、徹頭徹尾神のみ業です。た
とえ人間の果たす役割があったとしても、
それは神に用いられているにすぎませ
ん。失われた人間を、訪ね出して救おう
となさったのは神です。人間が神を捜し
求めたのではありません。宣教の起源
は、人間を愛してやまない神の心にあり
ます。
(佐々木正明)
36
ミッシオ・デイとしての宣教
宣教の行為は、神のご計画の
表現以外の何ものでもなく、そ
れ以下の何ものでもない。それ
はまさに世界と歴史における
その顕現と実現である。(教会の宣
教活動に関する教 令-第二バチカン公会議、
1962-65)
37
ミッシオ・デイとしての宣教
ミッションズの時代は終わり
を告げた。今やミッションの
時代が始まった。(S.C.ニール、
p.391)
38
ミッシオ・デイとしての宣教
 Mission(単数)-神の宣教
神がこの世を愛して自己を啓示なさった
こと
神がこの世とかかわりを持たれること
神の本質と活動が教会とこの世を包含
すること
教会はそれに与る特権を持っていること
39
ミッシオ・デイとしての宣教
 Missions(複数)-教会の宣教
ミッシオ・デイを実現するための特定の
時や場所や必要事と関連した、具体的
な形態
神がこの世を愛して自己を啓示なさった
こと
神がこの世とかかわりを持たれること
神の本質と活動が教会とこの世を包含
すること
教会はそれに与る特権を持っていること
40
ミッシオ・デイとしての宣教
 キリスト論的宣教理解が聖霊論的
に移行しつつある現在
 聖霊の働きなしにミッシオ・デイ
は実現しない現今
41
宣教学

プロテスタントの学問分野に宣教学が紹介さ
れた重要な年-1867年
 アレクサンダー・ダフがエジンバラのニュー・カ
レッジに宣教学者として就任した年
「宣教学がキリスト教神学事典に
載っていない時代があった。立ち見
席さえ与えられていなかった。」
(ヨハネス・フェルカイル-1978)
42
宣教学
キリスト教世界宣教に関する知識の体系化さ
れた総体 (ジョージ・ピーターズ)
 人類学、異文化コミュニケ-ション理論、世界
教会論、歴史、文化館研究、方法論、他宗教
研究などの学問を結合しつつ、キリスト教宣
教に関する理論と実践を組織的に研究する
科学。(アメリカ宣教学会の公式定義)

43
宣教学を形成する素材
宣教学
調査
啓示
社会科学の応用
旧新約聖書
省察
これまでの宣教経験
44
宣教学(共立基督教研究所、p.22ff)
宣教学において最優先されるべき特別啓示、
旧新約聖書
 宣教学の方法論に必須の社会科学

 文化人類学、言語学、異文化コミュニケーション、心
理学、社会学、政治学、経済学、歴史

宣教学の軌道修正をするこれまでの経験か
らの省察
 西欧文化と同一化された福音宣教からの解放
45
宣教学(共立基督教研究所、p.22ff)
 ドナルド・マックギャバラン
「キリスト教信仰の異文化コミュニ
ケーション」
 J.フェルカイル
「神の国を全世界にもたらす神の救
いの業の研究」
46
宣教学-『宣教学リーディングス』p.151
 福音の提示のための必要な要件を
分析し、また福音の伝達(コミュニ
ケーション)の形成について総合的
に取り扱う学問 (後藤牧人)
47
宣教学
 参与なき学問ではない
 検証なき参与ではない
 両者の創造的緊張関係に成立する学問
(倉沢正則)
(『宣教学リーディングス』p.8)
48
宣教学の課題
神の永遠の言葉を人間の移り行く言葉で
置き換える危険
 聖書正典を社会科学の形骸と取り替える
誘惑
 使徒的なものを功利的なものに優先させ
る傾向
 神の計画を人の計画と混同する誤り

(D.ヘッセルグレーブ『今日の選択、明日の宣教』p.147)
49
宣教学の課題

「学」として成立するためには概念化や省
察が必要であるが、具体的な活動や参与
なくては宣教学は成り立たない。

使命感のない宣教学は、多様なミッション
理解に翻弄されて、宗教社会学や文化人
類学など、世俗的諸科学に間に埋没する
恐れがある。
(倉沢正則、pp.27-28)
50
宣教学の分野
 実践神学
人々の回心を扱う学問
 教義学
宣教地における宗教・思想との対決
 教会史
宣教の歴史
(共立基督教研究所、p.20ff)
51
宣教学の分野

西欧キリスト教神学の基点である宣教学
 歴史的に異教社会と対決した結果として生ま
れた西欧キリスト教神学学問体系
 宣教学的視点に基づいて形成されてきた西欧
キリスト教神学
 聖書学、組織神学、実践神学、教会史の基盤
となる宣教学
 文化人類学、宗教社会学、経済学、政治学と
も関係を持つ宣教学
(共立基督教研究所、p.20ff)
52
宣教学の任務
 社会に教会が形成される過程において
必要な社会学的分析
 宣教の対象である社会において、礼拝
者の共同体である教会がいかにして発
生し、継続し、成長していく要因の総合
的分析と研究
(後藤牧人、p.152)
53
宣教学の任務
「宣教学が本当に伝道の現場を助
けるような地に足のついた学問であ
るためには、日本の文化環境にお
ける教会形成とはどういうことである
のかを把握せねばならない。」
(後藤牧人、p.152)
54
宣教と神学
「長くつらい道をたどって初めて、神学者
は適切な社会=神学相関関係を提供すること
が出きる。神学者は、たとえ神学者として
でさえも、彼の置かれた社会についてのあ
る種の仮説を立てることを強いられるので
ある。もしそれを行わないならば、彼はそ
の社会と意志疎通を行わなくなるだろ
う。」ロビン・ギル『神学と社会学の対話』ヨルダン社
55
宣教と神学
「教会の教理(教会論)を持つだ
けでは十分でない。経験的に存在
している諸教会の社会学も持たな
ければならない。したがって、神
学的教理と社会学的診断の間の緊
張から、状況に対するキリスト教
的視点は出来上がって來るのであ
る。
56
宣教と神学
教理(神学)なき診断(社会学・宣
教学)は諦観(Resignation)に至る
であろう。これは悪い。しかし、診断
(社会学・宣教学)なき教理(神学)
は、ほとんど必ず幻想(Illusion)に至
る。これはもっと悪い。」
Peter Burger 、The Noise of Solemn Assemblies
57
宣教と神学
論理的試作の「的確な」表現のみに関心
のある人々によって中傷されてきた比喩、
象徴、儀礼、記号、神話(物語)への評価
が、今日回復されつつある。それらは知性
と意志とを総合し、統合する形態を想像す
る。….第三世界の教会における「物語る
神学」、「物語の神学」、その他の非概念
的な営みに対する関心が高まりつつある。
ボッシュ、p.172
58
すぐれた神学者
最もすぐれた神学者は、自らの課
題を完全な論理で説明できる者では
なく、「より多くの真理のイメージ
と映像を組み立てる」ことによって
「純粋な」論理的思索の限界を超え
てゆく者である。真の論理的思索は
経験をも含むものである。」
D.ボッシュ、p.172
59
宣教への共同作業
宣
教
学
者
神
学
者
60
宣教学の任務-社会学的分析

JAG教会バランスセルフチェック
(JAG宣教研究所調査-2003/11/18)
61
「宣教とは」で問われていること
1.キリスト教以外の宗教で宣教に積極的な世
界的宗教はどれか。
2.「宣教」と「伝道」の相似点・相違点を述べよ。
3.「宣教」における福音主義派と自由主義派と
の違いは何か。
62
「宣教とは」で問われていること
4.「宣教」とは何か、自分の表現で述べよ。
5.ミッシオ・デイとしての宣教とは何か。
6.宣教学が「学」として成り立つために必要な
ものは何か
63
64
キリスト教(櫻井、p.12ff)
「選びの民の宗教」から「異邦人への宗教」
 「民族宗教」から「世界の宗教」
 「共同体の宗教」であり、同時に「個人の宗
教」
 「私の神」という極小化され、個別化された
神
 個々人の「信仰」が、共同体意識へと展開
する教会

65
日本の宗教

「集団の宗教」
 集団に帰属し、集団の一体を保ち、構成員を
指導、組織化し、集団の権限を高め、集団の
力を強めるために奉仕する宗教
 個々人の自立的判断を要求しない宗教

「地域の宗教」
 一定の地縁、血縁に密接な関連を持つ宗教

「国家の宗教」
66