第3章 交換とルーチング

第3章 交換とルーチング
3.1
3.2
3.3
3.4
3.5
3.6
交換方式
専用線と交換網
信号方式
IPネットワーク交換技術
高速スイッチング
トラヒック
3.3 信号方式
3.3.1 電話網における信号方式
項目
適用区間による
信号方式
伝達形式による
信号方式
信号の種類
加入者線
中
継
線
局間
信号方式
個別線信号方式(クロスバ交換
機)
共通線信号方式(電子交換機)
選択信号,監視信号(起動,応答切断など),
操作表示信号,課金信号など
加入者線
信号方式
個別線
信号方式
[用語]
加入者線信号方式(subscriber line signaling system)
局間信号方式(inter office signaling system)
個別線信号方式(channel associated signaling system)
共通線信号方式(CCSS : Common Channel Signaling
System)
電話網の加入者線信号方式
操作
発呼(呼び出し)
着呼(応答)
切断(終話)
選択番号
信 号
直流ループ
直流ループ
直流ループ断
DP信号またはPB信号
呼び出し
呼出信号 : 16 Hz (1 秒 ON, 2 秒 OFF)
呼出音 : 400 Hz + 16 Hz( 1 秒 ON, 2 秒 OFF )
着呼拒否(話中) 話中音
[用語]
DP:Dial Pulse
: 400 Hz( 0.5 秒 ON, 0.5 秒 OFF )
PB: Push Button
PB(Push Button)信号:加入者線信号
MF(Multi-Frequency)信号:局間信号
ディジタル信号処理と信号処理装置
ディジタル交換機では,端末機器からのPB信号や交換機間のMF信号は,
ディジタル信号に変換されて送られてくるので,
ディジタル信号のまま演算することで選択信号を求めている。
これをディジタル信号処理と呼ぶ。
ディジタル交換機に使用されるディジタル信号技術は,
送信系と受信系に分けることができる。
① 送信系技術(ディジタル信号発生技術) : PB信号発生器,MF信号発生器
② 受信系技術(ディジタルフィルタ技術) : PB信号受信機,MF信号受信機
3.3.2 選択信号
(1) ダイヤルパルス(DP:Dial Pulse)
■ 0 から 9 のダイヤル数字に合わせてパルス(0 の場合は10個のパルス)
を送る。
■ 10 PPS(Pulse Per Second)と 20 PPSがある
高レベル
低レベル
2
4
3
(2)PB(Push Button)信号
(a) ディジタルフィルタの使用
ディジタルフィルタは,アナログフィルタと同様,
特定周波数の信号だけを選別して出力する。
デ
フィ
ィジ
ル
タタ
ル
100Hz+400Hz
入力ディジタル信号
100Hz
400Hz
PB(Push Button)加入者線信号
MF(Multi-Frequency)局間信号
(b)アナログPB信号の発生
① 端末機器でプッシュボタンの2を押すと,
697 Hz+1,336 Hz のアナログ信号が発生する。
② コーダによって PCM 8 ビット 8 K サンプリングデータに変換され,
ディジタル PB 信号受信機に送られる。
1209 1336 1477(Hz)
697
1
2
3
770
4
5
6
7
8
9
852
941
(Hz)
*
0
#
2
PB信号
PCM8ビット
8Kサンプリング
コーダ
697 Hz + 1336 Hz
通話路
プッシュホン
ディジタルPB受信機へ
PB(Push Button)加入者線信号
MF(Multi-Frequency)局間信号
(c)ディジタルPB受信機の構成例
PB受信機での信号発生の様子
ディジタルフィルタ①
リミッタ
697Hz
高域
カット
(例)
697+1336Hz
PCM
8ビット
8Kサンプリング
LM
(L)
低群
伸長器
高低
分離
697
697
770
770
852
941
1209
1336Hz
低域
カット
バンドパスフィルタ
(ディジタルフィルタ②)
LM
(H)
高群
852
比
941
較
1209
器
1336
1336
1477
1477
1633
1633
出力
PB(Push Button)加入者線信号
MF(Multi-Frequency)局間信号
(c)ディジタル信号発生技術
発信音や話中などの各種音源やMF信号をディジタル信号で発生する方法
アドレス
PCM符号
0
0
1
63
2
3
4
110 127 110
5
63
6
0
7
8
9
10
11
-63 -110 -127 -110 -63
12
0
PB(Push Button)加入者線信号
MF(Multi-Frequency)局間信号
2倍の周波数の信号発生
メモリを2アドレスごとに読み出すと2倍の速度で波形が変化するので
2倍の周波数のディジタル化されたPCM信号が得られることになる。
3.3.3 加入者回路
端末機器と交換機間のインターフェースとして基本的な機能
① 通話電流供給機能
通話用の直流電流を加入者線に供給する。
② 直流ループ信号機能
発呼,応答,切断,ダイヤルパルスなど加入者線のループ状態の断続,
反転などの信号送受信。
③ 高レベル信号機能
呼出し信号などの高いレベルの信号を端末機器に送出。
ディジタル交換機では,通話路スイッチ網が電子化されており,
高レベルの信号や大振幅信号などは通せないので,
制御装置の指令に基づいて加入者回路が
このための信号を発生する機能が必要である。
3.3.4 交換機間の情報伝送
交換機間で,電話番号,料金計算のための情報,ふくそう処理のための
情報交換を行う必要がある。
この方式には,前述したように以下の3種類がある。
① 共通チャネル形信号方式
② 共通線信号方式(CCS:Common Channel Signaling System)
③ 個別線信号方式
A. 共通チャネル形信号方式
通話チャネルと同じ伝送路に多重化された別チャネルで
制御信号を送受信する方式。
① 代表例として,ISDNのDチャネル共通線信号方式がある。
② 一般に,遠隔多重加入者線伝送装置(Remote Subscriber Line Model)や
内線電話交換機と加入者線交換機との間で用いられている。
③ 同じ伝送路を用いるため低コスト化が可能であり,
多数の通話チャネルで制御チャネルを共用できるなどの利点がある。
B. 共通線信号方式
共通線信号方式(CCS:Common Channel Signaling System)
通話路とは物理的に別の伝送路で制御信号を送受信する方式。
ディジタル交換機で一般的な方式である。
① 制御線が多数の通信路で共用できる。
② 個別線信号方式に比べて多数の情報交換が可能となり,
多機能化に有利であること等の利点がある。
③ 反面,通話路と別の伝送路を使用するので管理が複雑である。
④ 通話路の断絶時でも接続操作が行われ,課金上問題が生じる可能性がある。
⑤ 日本ではこの方式が一般的である。
C. 個別線信号方式
通話路と同一の伝送路で制御信号を送受信する方式。
旧来のアナログ式のクロスバ交換機や電子交換機等で用いられていた。
① 物理的に同一伝送路を用いるため管理が単純である。
② 通話路断絶により接続操作も行われなくなる。
③ 単純な情報のやりとりしかできない。
④ 交換機などに対する不正操作が可能である。
⑤ 現在,日本では使われていない。
(f) No.7共通線信号方式
No.7共通線信号方式(Common Channel Signaling System No.7)
共通線信号方式のうち,電話交換機間で電話番号,認証情報,課金情報など
ネットワーク全体に関係するサービス管理情報をやり取りする方式。
SS7,C7等と略称される。
携帯電話と固定電話の間では,ユーザの位置情報などの情報もやり取りされる。
① SS7で使われる第4層プロトコルは,
ISUP(ISDN User Protocol )と呼ばれる。
② ISUPは IP 上でも動作するが,
メッセージ転送プロトコル( MTP:Message Transfer Protocol )でも動作する。
ISUPにおける代表的なメッセージ
① ISUPアドレスメッセージ(IAM:ISUP Address Message)
② アドレス完了メッセージ(ACM:Address Complete Message)
③ 応答メッセージ(ANM:Answer Message)
④ 切断メッセージ(REL:Release Message)
⑤ 復旧完了メッセージ(RLC:Release Complete Message)
⑥ 中断メッセージ(SUS:Suspend Message)
⑦ 再開メッセージ(RES:Resume Message)
⑧ 呼経過メッセージ(CPG:Call Progress Message) :呼が転送されることを示す。
⑨ 課金情報メッセージ(CHG:Charging Information Message)
ISUPにおける接続シーケンスの基本接続例
ここで示す接続例は,あくまで1例であり,
サービス内容によってはCPGやCHGが用いられることもある。
発呼側
着呼側
着呼側切断
SUS:Suspend Message
IAM:ISUP Address Message
ACM:Address Complete Message
ANM:Answer Message
T6タイム
アウト
RES:Resume Message
REL:Release Message
RLC:Release Complete Message
通 話 中
REL:Release Message
RLC:Release Complete Message
(g) 共通線信号網
共通線信号網は,NTT地域会社が共通信号線を一元管理しており,
その他の会社とは信号用相互接続点で接続される。
SZC/GS
SZC/GS
NTT長距離会社
NTT東日本
NTT西日本
共通線信号網
STP
STP
26信号区域
IC/IGS
GC
IC/IGS
GC ・・・ GC
GC
NCC
信号網等
:相互接続点(S-POI)
...
STP
新規第一種電気通信事業者等
GC ・・・ GC
GC(Group Unit Center)
: 加入者交換機
GS(Gateway Switch)
: 関門交換機
IGS(Interconnection Gateway Switch )
: 相互接続用関門交換機
IC(Intra-zone Tandem Center)
: 区域内中継交換機
NCC(New Common Carrier)
: 新規第一種電気通信事業者
STP(Signal Transfer Point)
:共通線中継交換機
SZC(Special Zone Center) : 特定中継局
MTP( Message Transfer Protocol )
(h)
SCCP( Signaling Connection Control Part )
マルチプロトコルSTP( MSTP : Multi-protocol Signaling Transfer Point )
MSTP
信号サービスの高度化に伴い信号量が増大し,共通線信号網の大容量化,
高速化が求められるようになり,MSTPが開発され,運用が開始されている。
① 従来のSS71型信号交換機に比べて,架数は1/10,収容リンク数,
処理信号数はそれぞれ3倍と性能が向上されている。
② 最大3架構成で3,000信号リンク,2,000信号方路を収容可能である。
③ MTPレベル3信号と SCCP 信号に対しては,
合計で毎秒100,000信号処理が可能になっている。
④ 従来の信号リンク 4.8 kbps,48 kbps に加えて ATM 技術を採用して,
1.5 Mbps の信号リンクを収容可能とし,
従来の64 kbps 回線インターフェースに対して
SDHインターフェースを採用して多重化し,
伝送設備コストを削減している。
MSTPの構成
NE-OpS(Network Element Operation System)
NW-OpS( Network Element Operation System)
MSTP用のオペレーションシステムとしては,NE-OpS が開発され,
分散配置されたセンター間の自動切換機能で信頼性を確保している。
MSTP
NE OpS
情報
転送網
システム管理
NW OpS
MSTP
1.5 MLink
1.5M/48k Link
他STP
48k/4.8 Link
SEP
同期
伝送路網
S
D
H
既存信号の
プロトコル処理
S
D
H
ATM信号の
プロトコル処理
A
T
M
接
続
機
能
3.3.5 交換ソフトウェア技術
(1)求められる条件
① 任意に発生する多数の接続要求を即時に処理する必要があるので,
要求された多数の呼に対して効率よく処理する必要がある。さらに,リア
ルタイム処理が可能でなければならない。
② 交換機は24時間運転することが必要条件であるため,ソフトウェアでも高
い信頼性を保つ必要がある。さらに故障発生,ハードウェアの追加・変更
も連続運転できる機能を備える必要がある。
③ プログラムの論理を変更することなく,交換局ごとの異なる設置条件に対
応できなければならない。このため設置条件や加入者ごとのサービス条
件等をデータ変更だけで定義できるようにしておく必要がある。
④ 交換機は高価であり試用年数が長いので,開発後のさまざまな機能追加
や変更に柔軟に対応できなければならない。
(2)実時間(リアルタイム)多重処理
交換機は多数の呼を同時に処理する必要がある。
ある時間においてそれぞれの呼の状態は,ダイヤル中,通話中,呼び出し中など,
さまざまである。
これらの状態に対して,何らかのイベントが生じたとき,
速やかに処理する必要がある。
① 一連の接続動作を短い処理単位に区切り,
多くの呼を時分割的に扱うことで,
見かけ上,並行的に処理する多重処理方式を採用する必要がある。
② したがって,短い呼処理のためのプログラム群と,
これらの起動のスケジュール管理を行う実行管理プログラムで
構成することで,実時間性を持たせている。
(3)レベル化と優先度
呼の流れを想定すると,
ダイヤル中は状態が速く変化し,通話中はまったく変化しない。
① ダイヤル信号の受信のような処理の場合,
遅延は許されず,正確な時間間隔で処理する必要がある。
② 送受話器を取り上げたり(オンフック),戻す(オフフック)の情報検出のように
1秒程度遅延しても支障の少ない処理もある。
優先度の設定
実時間に対する厳しさの違いにより,プログラムの実行レベルをグループ分けし,
優先度を設定している。
① クロックレベル(優先実行)
② ベースレベル(一般実行)
交換機の中央制御(CC:Central Control)装置は,
平常はベースレベルの処理を実行しているが,
一定周期(例:8 ミリ秒)ごとに中断して
クロックレベルの処理を介入させる。
これをクロック割込みと呼ぶ。
クロックレベルの処理が終わるとベースレベルの処理が再開される。
(4) プログラム構成
呼の接続動作を行うための多重処理プログラムは,
一般に以下のプリミティブなプログラム群に分けられ,
さらにそれぞれの各群は個々の処理単位ごとのプログラムに分離される。
① 入力プログラム
発呼,応答,切断,ダイヤルパルスなど,加入者線や回線の状態変化を検出し,
入力情報を得るためのプログラム。
周期的に起動されるクロックレベルのプログラムである。
② 内部処理プログラム
入力情報を翻訳分析して,必要な出力情報を作成するプログラム。
入力プログラムからの起動要求で起動される非周期ベースレベルのプログラム
である。
③ 出力プログラム
出力情報によってスイッチ駆動や信号送出のための指令を出すプログラム。
ほとんどがクロックレベルのプログラムである。
(5) 故障処理
交換機の装置(ハードウェア)やソフトウェアに異常が生じたとき,
交換処理をできるだけ低下させないで持続させるための処理。
[必要な処理]
① 故障原因を識別する。
② 故障装置を切り離す。
③ 故障処理を正常に戻す。
故障が検出された場合,一時的な故障であるか,
それとも固定的な故障であるかを判断して,
固定的な場合は,予備装置に切り替えたり,
初期設定等により呼の接続処理を再開させる必要がある。
(6) 一般化
それぞれの交換機ごとにソフトウェアを開発するのは,
生産性・保守性の面から好ましくない。
そこで,一般に交換機ソフトウェアは,
交換処理本体であるシステムプログラム部分と
実行用の条件を示すデータ部分に分けられる。
① データ部分は,システムデータ,局データ,加入者データに分離される。
② 設置される交換局の設置条件は,局データと加入者データからなる。
(7) モジュール化
交換機の機能追加や変更を容易にするために,ソフトウェアは可能な限り
簡単に取り扱えるようモジュール化を図ることが必要である。
たとえば,
NTTの交換機ソフトウェアにおけるモジュール化は以下のとおりである。
① 監視・翻訳・接続制御など本質的な機能単位にモジュール化し,
モジュール間のつながりをなるべく少ない形にして,
モジュールの独立性を保っている。
② サブシステム,機能ブロック,プログラム単位の順に
階層化を行っている。
サブシステムの例
① 主制御サブシステム
: システム全体を実行制御
② 呼制御サブシステム
: 呼の接続状態を管理
③ 通話路サブシステム
: 分配段通話路装置の通話路管理・制御
④ 加入者線サブシステム : 発呼検出,ダイヤル数字受信,集線段通話路装置の
制御
⑤ 中継線サブシステム
: SR信号方式回線の監視,選択信号の送受信等
⑥ 共通線サブシステム
: 共通線信号方式の回線と共通信号装置の制御
⑦ 保守運用サブシステム : 加入者データ,局データの変更,保守者への故障等の
通報