第10課 豊かさゆえの病がある

第7課 つきあたり (第二冊)
Ⅰ.読む前に
❶ 次の言葉は、これから読む文章の中に出てくる言葉です。
(1) 下の枠の中から、適当な言葉を選び、
に書き入れること。
ど忘れ 根強さ 時おり しばしば あげく
そっけなさ 突きあたり どきどきする 素直に
ちょいちょい いまさら しめくくり なつかしい
しみこんでいる どうにもならない
① 幸い私は父の幼い日の想い出を 素直に うけとめ
ることができて嬉しい。
② 父の しばしば 語る話を通して、子供のときから
上野は私にもなじみ深いのである。
③ 私はこのごろ ちょいちょい 動物園へ行く用がある
ので、不忍を通るのだ。
④ われわれの生活のなかへ何代にもわたっ
て しみこんでいる、飴という菓子の 根強さ を思う
とき、すなわち繁昌の手応えを感じたのだ。あめや
横町とは強い名である。

⑤
いまさら ながら私は毎日歩く人の足の早さを、
十分に知らされた思いだった。

⑥ このごろ私も老いたことを痛感するのである。
時おり ラジオやテレビによばれるが、あそこは
万事時計が王様の仕事である。あと三十秒などとい
う告知が出ると、私は どきどきする 癖がついた。
最後の大事な しめくくり の言葉を ど忘れ して、
かわりにあの犬のときの切迫した、駅の時間観念を
思いだしたりする。困った回想だが、 なつかしい 上
野駅である。
⑦ 「家出人の所持品の特徴といえば、きまって
東京地図を持っていることです。地図を頼りに
歩いてみても どうにもならない し、うらぶれ
果てた あげく はまた駅に戻って来るんです
なあ。駅にはなんにもないんだけど、目に見
えない牽引力があるんですねえ。」―そうだろ
うと思う、あそこはすくなくも つきあたり の手
応えを持っている。マンモス東京都は、家出
人にとって手応えさえ与えない そっけなさ だ。
❷ 使い分け
なんと~だろう(か)・どんなに~だろう(か)
なんと美しい人なのでしょう。
軽装で雪山に登るとは、なんと無謀な若者たちなのだろう。
彼女の気持ちが理解できなかったなんて、俺はなんと馬鹿
だったのだろう。
希望校に合格できたらどんなにいいだろうか。
父が生きていたら、どんなに喜んでくれたことだろう。
息子の戦死を知ったら両親はどんなに悲しむことでしょう。
Ⅱ.読む
まず、次の質問を考えながら、前文を読みなさい。
❶ 筆者は、この文章で何を言いたいのでしょうか。
筆者の体験「=エピソード」が書いてあると思われる
段落を指摘しなさい。 (一つとは限りません。)
❷ この文章の構成上の特徴を述べてみなさい。
作者Profile
幸田 文
随筆家
こうだ あや(1904-1990)東京生れ。
幸田露伴次女。娘に青木玉。1928年
(昭和3年),清酒問屋に嫁ぐも,十年後に
離婚し,娘を連れて晩年の父のもとに帰る。
露伴没後,父を追憶する文章を続けて発表,
たちまち注目されるところとなり,1954年の『黒い裾』に
より読売文学賞を受賞。
1956年の「流れる」は新潮社文学賞・日本芸術院賞の両賞を
得た。
他の作品に「闘」「崩れ」「包む」』など。1990年没。
上野駅
つきあたり
Ⅲ.読んだあと
質問と解説
1.この文章の内容として次のどれに当てはまるか、正し
いものを一つ選びなさい。
[A] ある知識や情報についての具体的で詳しい説明
[B] ある話題、事柄についての筆者の意見・主張
[C] 実際に体験した事実等についての著者の感想や
意見
[D] いろいろな物語
C
2.このような文章の特色として次のどれに当てはまる
か、正しいものを一つ選びなさい。
[A] 構成がわかりにくい。事実と筆者の感想や意見が入り交
じっている。
「話題」は筆者が関心あることや、読者に伝えたいことな
ど広範囲。
名称・数値・具体例が多く使われている。
出だしは様々だが、「まとめ」は文章末にあることが多い。
[B] 時間の流れがある。物語の事柄が時間と共に進行する。
登場人物、人間関係等が様々で、会話文や心情を表す
文が多く出てくる。
段落が多い。文章末に特に「まとめ」はない。
[C] 構成がわかりやすい。意見・主張が順序立てて述べられてい
る。
キーワードがある。重要語句の繰り返しがある。
話題の提示は文章の初めに、筆者の意見は文章末にあるこ
とが多い。
「~だ、~である」体の文が多い。
[D] 構成がわかりやすい。説明が具体例と共に順序立てて述べ
られている。
キーワードがある。重要語句の繰り返しがある。
A
名称・数値・具体例が多く使われている。
話題の提示は文章の初めに、筆者の意見は文章末にあるこ
とが多い。
3.「茂っていた上野の山」をなつかしむ心を持ったので
ある。とあるが、誰がなつかしむ心をったのか一語で
答えなさい。
筆者
4.文中に蓮の花についてのエピソードには、A「~眼を
開けて見れば、朝日がぐっと突きささるのだそうな。」
とB「眼を開いて見ると、はっと紅白の蓮の花が見え
て、かなしさ極まりなかったというのである。」とがあ
るが、どっちが関係者一同の期待した結果なのか。
記号で答えなさい。
B
5.次の文を読んで、本文の内容と合っているものを番号で選び
なさい。
[A] 筆者は父親から、筆者の幼い日の話を聴いたせいで、素
直に心にしみたのだ。
[B] 筆者は読者に「お山のほうへあがって行くと、大きな椎の
木が何本もあってね、……」と語っている。
[C] 筆者は今でも、蓮の花を見るたびに父の少年時代を想う
のである。
[D] 筆者は、40歳前後に見たあめや横町の感銘は忘れられ
ない。
[E] 筆者は時々、ラジオやテレビに呼ばれて、時間観念につ
いての話をする。
[F] 筆者は、家出人について上野駅勤務のお巡りさんにイン
タビューした。
[G] 「駅にはなんにもないんだけど、眼に見えない牽引力があ
るんですねえ。」と筆者は言っている。
C D F
6.ラジオやテレビの仕事と、駅の仕事とで、同じ
性格を持っているのは何だと筆者が言ってい
るのか、それを20字前後にまとめて見なさい。
どちらも万事時計が大様の仕事だということ。
7.「眼に見えない牽引力がある」とあるが、これ
と同じ意味合いで使われている言葉を文中か
ら探し出し、書きなさい。
突き当りの手応え
8.文章の最後に「あそこは東京と東京人が
テストされているところだ。」とあるが、東
京と東京人の何がテストされると思われ
るかを、書いてみなさい。
思いやりや心遣いといった人間性が
テストされる。