考察2ー「不労の利得」とは

第3講 生命保険の特性
生命保険=定額給付!
*例えば傷害保険でも、死亡保障は定額
なぜ?
行き着くところは、「給付の容易性・迅速
性」なのか?
*「四の五の言わずに、払え!」
基本的スタンスとして、
 生命保険を定額給付にした
=損害保険と生命保険を理論上も分離
=生命保険については「被保険利益」概念
を放棄した
【結果】
生命保険には被保険利益が果たす役割を期
待できない。
*「賭博化」の危険を払拭できないのか…?
???
生命保険=
生命保険金の構造の確認
「保険契約者」以外に、「保険金受取人」と「被保険者」が存
在する!
保険契約者
指定・変更
保険金受取人
契約関係
保険会社
被保険者
覚えてる?
保険金請求権の「固有権」性
「保険金受取人の権利取得は、保険契
約者が一旦取得した権利を承継的に取
得するのではなく、受取人に指定されるこ
とにより自己固有の権利として原始的に
これを取得する」(大森)
債権者
保険会社
保険契約
生命保険金支払
相続財産
被相続人(死ぬやつ)
保険契約者・被保険者
×
相続放棄
相続人
保険金受取人
実際には… もう少し解りにくく…
東京高裁平成10年6月29日判決
Aは、相続人である妻X1および実子
X2をそれぞれ受取人として、B生命保険
会社との間で、生命保険契約を5口締結
していた。Aの死亡によりX1は合計774
万円余、X2は合計1350万円余の死亡
保険金を受領した。
【承前】
他方、Aは、平成4年5月8日作成の公
正証書遺言によって、Y1に建物、Y2に
土地・建物、Y3にその他のAの財産す
べてを遺贈した。Aの死亡は平成5年7
月6日であるが、その時点の相続人は
X1とX2の二人であった。遺言執行者は、
平成5年9月までに、遺言に基づくY1な
いしY3への財産権の移転手続きを終え
た。
【承前】
X1およびX2の「遺留分」はそれぞれ1/4
である。両名は、Y1ないしY3に対して遺
留分減殺の意思を表示し、遺留分に基づ
く遺贈財産の引き渡しを請求した。
これに対してY1ないしY3は、X1および
X2が受領している生命保険金を遺留分
算定のための基礎財産に算入すべきとし
て争った。
相続財産?
遺贈財産
生命保険金
解りにくいと、とたんに…
 生命保険金請求権の固有権性を強調すれば
赤枠(小さい方)の1/4
 遺留分制度の趣旨を尊重すれば、青枠(大き
い方)の1/4
1) なぜ生命保険金請求権は
固有権なのか?
 「他人のためにする生命保険契約」の本質=
「第三者のためにする契約」だから…
??一応の解答だけど…
民法的第三者のためにする契約
諾約者(保険者)
要約者(保険契約者)
契約関係
対価関係
でも、第三者のため
にする契約には、こ
の要素もあるはず!
補償関係
これまでは、第三者
のためにする契約と
いう説明は、この関
係に注目する
受益者(保険金受取人)
 だとすると、前述の例でも、「青枠」に合理性
があるかも…
 第三者のためにする契約という理由だけから
固有権性を導き出せるか?
→プラスαの理由付けが必要では?
生命保険契約の「射幸性」の加味!
例えば相続人は、射幸的給付を相
続財産として「あてに」できるか?
生命保険契約の「射倖性」の助長?
 「受益の意思表示」が必要ではない!
*民法537条2項:「前項の場合において第三
者の権利はその第三者が債務者に対して契
約の利益を享受する意思を表示した時に発
生する」
 受取人の指定もさらには「変更」もまったく自
由に行われる。
*保険法43、44条
2) 被保険者の「同意」
◎ 38条:「生命保険契約の当事者以外
の者を被保険者とする死亡保険契約…
は、当該被保険者の同意がなければそ
の効力を生じない」
◎ 45条:「死亡保険契約の保険金受取
人の変更は、被保険者の同意がなけれ
ば、その効力を生じない」
保険契約者
契約関係
保険会社
あんた、
被保険者だよ!
この人
受取人
だよ!
指定・変更
うん、
いいよ
うん、
いいよ
38条の同意
保険金受取人
45条の同意
被保険者
「同意」の意味とは?
一般的説明
「この種の保険契約を無制限に認めると、他
人の生死を賭博の対象にすることを可能にし
たり、人格権侵害にもなりうるし、不労の利得
の手段に悪用されたり、保険金取得目的の
殺人の企図を誘発するなどの危険性が生ず
るからである」(竹濱・アルマ「保険法」)
詳細に考えると…
① 他人の命を「賭博」に使うということに対す
る非難
② その賭博で「八百長」をやることが、他人の
生命を奪う=殺人を誘発することにつながる
という非難(一般にはこれがモラル・ハザード
と呼ばれている)
①’ ちょっと、まって…(その1)
おい、お前
で儲けさせ
てもらうぜ
うん、
いいよ
これで、賭博ではなくなるのか??
②’ ちょっと、まって…(その2)
林ますみさん
同意したら
チャラにしようかし
ら
林けんじさん
マージャンが強い
マージャンで負け
込んでいる方々
保険契約者
保険金受取人
はい…
被保険者
 被保険者が「いやだ」といえば、保険契約そ
のものが成立しない。その限りにおいてモラ
ル・ハザードは防止される。
 しかし反面、「いいよ」といってしまうと、むしろ
モラル・ハザードがおおっぴらに「許されて」し
まう危険がある!
モラル・ハザードの防止策として、ベストウェイと
いえるのか…?
☆ 本気で賭博化とモラル・ハザード
を防止したいのであれば…
とても有力なヒント…
損害保険契約の目的
=損害の填補
損害保険契約では…
*そもそも、なぜ被保険利益か?
a.当事者意思説
??
b.強行法規説(利得禁止原則の存在)
→被保険利益の存在は、損害保険契約を「賭
博化」することを防いでいる。
*モラル・ハザード防止
でも、生命保険では「被保険利益」を
放棄している!
だとしたら、そのデメリットを巻き返すほどの生
命保険契約の「目的」を見いだせば…
このアレンジの中で…
なぜあの人が被保険者で、
あの人が保険金受取人なの?
3) 生命保険契約の「目的」?
 ある特定の生命保険契約の目的を単純に探
ることは可能か?
例えば、妻と子供を受取人とし自分を被保
険者にして一家の大黒柱が締結する契約
→遺族の生活の安定!
*おっ、いけるかな…?!
ところが… 住友軽金属事件
保険会社
住友軽金属
保険契約
保険契約者
保険金受取人
従業員
……
会社を
受取人にするよ
被保険者
従業員は組合
を通じてこの契
約に同意(文
書)を与えてい
る
名古屋地裁平成13年2月5日は…
「商法674条1項が被保険者の同意を要求し
た趣旨は、賭博の目的に利用されたり、犯罪
誘発の危険ないし被保険者の人格権を侵害
する危険があるなど保険契約が公序良俗に
反する目的に悪用されることを回避するため
に被保険者の同意を要求し、これを保険契約
の有効要件とすることで右の危険を政策的に
防止したものと解されるから、右の有効な同
意が存する限り、本件各団体定期保険契約
自体は公序良俗に反していないものと推定す
ることができる。」
c) ところが同判決は…
「…被告住友軽金属と亡太郎との間で、本
件各団体定期保険契約の保険金として被告
住友軽金属が受領することのできる金額のう
ち特別弔慰金等の上限額である3015万円を
超える部分については、業務外死亡の場合
でもその相当部分を亡太郎の遺族に退職金
とは別に弔慰金として支払う旨の黙示の合意
が成立していたものと認められる。」
☆ 裁判所は結局、どうしたいのか?
生命保険契約の効力そのものについては
「被保険者の同意」で押し切っているようにも
読めるのだが…
しかし、保険契約の法的構造の外で「黙示
の合意」を推定して、最終的には生命保険契
約の目的を探ろうとしていないか?
そして、最判平成18年4月11日へ…
別添・重判PDFファイル参照
4) 商法の基本スタンス
仮に出発点を自己のためにする自己の生命の保険契
約に置くと…
契約者 兼
被保険者
兼 受取人
生命保険契約
金(保険料)は俺が出す
俺の命だ。文句あるか!
俺がもらうぞ。文句あるか!
保険会社
 「受取人が契約者」という制約から、結局相続
関係と結局同じになってしまう(例えば被相続
人の債権者には保険金も取られてしまう)。
 「死ぬのが本人」という制約から、本人はせっ
かくもらった保険金の利益を享受できない。
そこで、
禁断の門を…
禁断の展開1:「もっと端的に××に金をやる方法は
ないのか?」
契約者
兼
被保険者
受取人
保険金請求権の
固有権性
金(保険料)は俺が出す
生命保険契約
保険会社
禁断の展開2:「もっと端的に自分が
保険金を楽しめる方法はないのか?」
契約者
兼
被保険者
受取人
38条の「同意」
金(保険料)は俺が出す
俺がもらうぞ…
えっ、俺かよ?
生命保険契約
保険会社
☆ 結局のところ、保険法は他人の生命の保険
契約の「目的」については一言も触れていな
い
【仮説】
本気で目的による「賭博化の防止」、さらには
「モラル・ハザードの防止」にとりくもうとはしてい
ない? *38条だけではねぇ…
∴だから住友軽金属事件のように目的論が燻っ
ている?
商法はパンドラの箱を開けたのか?