08法とコンピュータ 法的知識の構造(5) 原告・被告の証明体系と法律構成メモの書き方 慶應義塾大学法学部 2008/12/16 吉野一 1 事例5_1における係争問題(5_1b) 1. 2. 3. 4. 5. 事例5_1の出来事の後、次のような出来事が起きた。 4月15日にバーナード社(B)は農業法人コンバイン社(C)に アンザイ社(A)のトラクター一台の1万2千ドルでの販売を 電話で申し入れ、Cは承諾し、BC間にトラクター販売契約 が成立した。 BはC社との関係上、A社にA社のトラクターを引き渡すこと を要求した。 A社はトラクターを引き渡すことを拒んだ。 それで、B社はA社を相手取って訴訟を提起しA社のトラク ターの引き渡しを実現したいと思っている。 5月7日に訴訟になった場合を想定して、B社とA社の代理 人して攻撃防御の論争を展開せよ 2 論争の構造 <原告> 原告の目標文(請求の趣旨) 目標文を基礎づける主たる法 的根拠に関する主張・立証 (請求原因) 理由 ルール ・・・ <被告> 被告の目標文(請求の趣旨に対 する答弁) 被告の(原告の主張を否定す る)目標文を基礎づける主たる法 的根拠に関する主張・立証(認 否;抗弁) 理由 事実 ・・・ ルール ・・・ 事実 ・・・ 3 Case5_1における証明過程(証明体系)1 目標(請求趣旨): s1: AはBにトラクターを引き渡さなければならない ならない。 原因(請求原因) AB間のトラクターの売買契約が成立した。 理由 ルール ・・・・・ 事実 ・・・・・ 4 請求原因が「売買契約成立」である理由 何故売買契約の「成立」を主張し証明すればよいのか? 以下に考察していこう。 5 原告の証明目標文 S1“: 「AはBにトラクターを引き渡せ」 S1’: 「AはBにトラクターを引き渡す義務がある」 S1: 「 「AはBにトラクターを引き渡す義務があ る」が効力がある」 6 法文の効力の証明過程1-1 s1は05_07に効力がある mr0: SはTに効力がある← SはT1に効力が発生する & T1はT以前である & not((SはT2に効力が消滅する & T2はT1以降T以前であ る)) s2は04_09に効力が発生する & 04_09は05_07以前である not((s2はT2に効力が消滅する & T2は04_09以降05_07以 前である)) 7 法文の効力の証明過程1-2 s2は04_09に効力が発生する mr1: SはT1に効力が発生する ← Sが複合法文(CS)の要素文である & CSはTに効力が発生する s2は複合法文(AB間トラクター売買契約) の要素文である AB間トラクター売買契約は効力が04_09に発生する 8 法文の効力の証明過程1-3 AB間トラクター売買契約は効力が04_09に発生する mr2: CSはTに効力が発生する← CSがT1に成立する & not(CSがTに無効である) & (効力始期到来(CS,T) or 発効条件成就(CS,T)がない限り、 T=T1) AB間トラクター売買契約が04_09に成立する Bは「not(CSがTに無効であるである)」ことは主張・証明する必要がない Bはnot(効力始期(CS,T) )& not(発効条件(CS,T) )を証明する必要がな い ゆえに、原告は売買契約の成立を証明すればよい。 「 AB間トラクター売買契約が04_09に成立する」を解くルールは何か? 9 契約成立を解くCISGルール? トップルール? 第23条 【契約の成立時期】 契約は、申込に対する承諾がこの条約の規定に従って効力を生じた時 に成立する。 サブルール? 10 事実の主張立証 原告の立場: 原告の立場から主張立証すべきことを主張立証する。 被告の立場: 被告の立場から主張立証すべきことを主張立証する。 11 論争 原告が請求趣旨、請求原因を提出する。 原告がその理由を提出する。 被告が答弁を提出する。 そしてその理由を提出する。その理由では原告 の主張を反駁する主張を展開する。 原告は被告の主張を反駁する。以下同様。 主張立証は主張立証責任の分配の原理に滋 賀って行う。 12 ルールの構造と主張立証責任 分配の基本原則 結論を主張・立証しようとするものは、それを証明するた めのルールの要件部が成り立つことを主張・立証しなけ ればならない。 要件部が否定文の構造を有する場合は、結論を主張・ 立証しようとするものは、否定文が成り立つことを主張・ 立証する必要はない。 その主張を反駁する相手方が、否定される文が示す事 態が成り立つことを主張・立証しなければならない。例 外規定の場合にもこれが当てはまる。 理由:ある事態が成り立たないことを証明することが難 しいからである。 法律効果←要件事実1 & not(要件事実2) ○ × ○ ○ 13 証明できなかったときどう判断されるか 立証責任がある方が証明しなければならない。 立証責任ある方がある事態を証明できなかったときは、事態 が成り立っていなかったものとして判断される。 ルールの構造と主張立証責任1 基本的メタルール0の主張立証責任を考えよ ○○がある⇒○○に何が来るか? ○○がある ← ○○発生 not(○○消滅) 例えば、 法律関係(権利・義務)がある 契約が効力がある、 申込が効力がある 15 ルールの構造と主張立証責任1 基本的メタルール0の主張立証責任を考えよ ? 効力がある ← 効力発生 not(効力消滅) 16 ルールの構造と主張立証責任2 原則と例外 (1)効力発生要件 効力発生(X) ← □□(X). (2)効力障害要件 ¬効力発生(X) ← ▼▼(X). (3) (1)と(2)を統合 効力発生(X) ←□□(X) & not(¬効力発生(X)). ¬効力発生(X) ← ▼▼(X) (3) の短縮表現 効力発生(X) ←□□(X) & not(▼▼(X)). 17 ルールの構造と主張立証責任2 原則と例外⇒責任の分配 (1)効力発生要件 効力発生(X) ← □□(X). (2)効力障害要件 ¬効力発生(X) ← ▼▼(X). (3) (1)と(2)を統合 効力発生(X) ←□□(X) & not(¬効力発生(X)). ¬効力発生(X) ← ▼▼(X) (3) の短縮表現 効力発生(X) ←□□(X) & not(▼▼(X)). 18 ルールの構造と主張立証責任2 原則と例外⇒責任の分配 (1)効力発生要件 効力発生(X) ← □□(X). (2)効力障害要件 ¬効力発生(X) ← ▼▼(X). (3) (1)と(2)を統合 効力発生(X) ←→□□(X) & not(¬効力発生(X)). ¬効力発生(X) ← ▼▼(X) (3) の短縮表現 効力発生(X) ←→□□(X) & not(▼▼(X)). 19 事例問題5_1の論争の論理構造 <原告>バーナード(B) 目標文(請求の趣旨) ルール 契約成立(X) :- 申込効力発生(X1),承 諾効力発生(X). 申込効力発生(X):-申込到達 (X),not(申込撤回効力発生(Y)). 承諾効力発生(X) :- 承諾到達 (X),not(承諾撤回効力発生 (Y)),not(申込効力消滅(X)). 事実 申込到達(060408、資料2より認定) 承諾到達(060410、資料2). 被告の目標文(請求の趣旨に対する答弁) AB間のトラクター売買契約が4月10 日に成立している 理由 AはBにトラクターを引き渡す義務が ある 根拠概要(請求原因:目標文を基礎 づける主たる法的根拠) <被告>アンザイ(A) 被告の目標文を基礎づける主たる法的根 拠に関する主張(認否;抗弁) 原告の請求を棄却する Aの申込の撤回が効力を生じ、(申込の効 力が承諾発信以前に消滅しているので、) 契約が成立しない。 理由 ルール 申込効力消滅(X):-申込取消効力発生(X). 申込取消効力発生(Y):-申込取消到達 (Y),not(承諾発信(X),以前(X,Y)). 事実 申込取消到達(060409、資料3より認定) 20 CASE5_1において 契約の成立を主張する原告は何を主張・立証すればよいか? ルール 契約成立(X) :- 申込効力発生(X1),承諾効力発生(X). 申込効力発生(X):-申込到達(X),not(申込取消効力発生(Y)). 承諾効力発生(X) :- 承諾到達(X),not(承諾取消効力発生(Y)),申込効力 消滅(Y). 事実 申込到達(t060408) 承諾到達(t060410). 推論 ∴ 申込効力発生(t060408) ∴ 承諾効力発生(t060410) ∴ 契約成立(X) CASE5_1 において 契約の成立を否認する被告は何を主張・立証すればよいか?(抗 弁) ルール 契約成立(X) :- 申込効力発生(X1),承諾効力発生(X). ∴ ¬契約成立(X) :- ¬承諾効力発生(X1). 承諾効力発生(X) :- 承諾到達(X),not(承諾取消効力発生(Y)),申込効力消滅(Y). ∴ ¬承諾効力発生(X1):-申込効力消滅(X). 申込効力消滅(X):-申込取消効力発生(X). 申込取消効力発生(Y):-申込取消到達(Y),not(承諾発信(X),以前(X,Y)). 事実 申込取消到達(t060410) 推論 ∴ 申込取消効力発生(t060410) ∴ 申込効力消滅(t060410) ∴ ¬承諾効力発生(X1) ∴ ¬契約成立(X) CASE5_1 において 契約の成立を否認する被告は原告の主張命題自体に反駁す ることもできる(抗弁) 原告の主張 申込到達(t060408) 被告の反駁 ¬申込到達(t060408) ∵ ¬申込(X) ∵ 申込(X):-十分明確(X),承諾拘束の意思が示されている(X). 十分明確(X):-物品を示す(X),(数量・代金を定め(X);決定方法を規定(X)). 事実 「トラクター一台を売る」 事実の解釈 「トラクター」は類概念で、 「トラクター」と言っただけでは物品を示したことにならない。 ∴ ¬物品を示す(X) 推論 ∴ ¬十分明確(X), ∴ ¬申込(X) ∴ ¬申込到達(t060408) 1. CASE5_1において 契約の成立を主張する被告Aは、何を再反論しなけ ればならないか?(再抗弁) ルール 申込取消効力発生(Y):-申込取消到達(Y),not(承諾発信(X),以前(X,Y)). ∴ ¬(申込取消効力発生(Y)):-申込取消到達(Y),承諾発信(X),以前 (X,Y)). 事実 申込取消到達(t060410_b). 承諾発信(t060410_a). 以前(t060410_a, t060410_b)). 推論 ¬(申込取消効力発生(Y)) 事例5_8における係争問題 原告の依頼人としての法律構成文書作成 1. 2. 3. 4. 事例5_8の出来事に関連して、次のような出来事が起きている。 1. 4月15日にバーナード社(B)は農業法人コンバイン社(C)にアンザイ 社(A)のトラクター一台の1万2千ドルでの販売を電話で申し入れ、C は承諾し、BC間にトラクター販売契約が成立した。 2. BはC社との関係上、A社にA社のトラクターを引き渡すことを要求し た。 3. A社はトラクターを引き渡すことを拒んだ。 4. それで、B社はA社を相手取って訴訟を提起しA社のトラクターの引 き渡しを実現したいと思っている。 2008年6月15日にバーナード(B)社の代理人してサイバー模擬法廷 に訴えを提起する場合を想定して、訴状の元となる法律構成文書を作 成せよ。 その際、ルールの論理構造に従って理由の論理構築を行う。 また、主張立証責任の分配を考慮して行う。 25
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