2 日本企業

3 日本企業
2006年度「企業論」
川端 望
1
3-1 日本的経営
2
システムとしての日本的経営
雇用システム:終身雇用(長期雇用)・年功賃
金・企業内組合(本章)
企業間取引:系列関係(4章)
金融取引:メインバンク関係(5章)
コーポレートガバナンス:メインバンク・株式持
ち合い関係と経営者企業(6章)
3
日本的経営「3種の神器」論
終身雇用
年功賃金
企業内組合
→雇用関係が日本の企業システム理解の鍵で
ある
雇用関係の多面性
採用-昇進・異動・昇給-退職
この講義では採用、退職は扱わない(が、大事でな
いという意味ではない)
4
年功賃金とは
年功制の二つの意味DO
元来の意味(氏原1966]):年齢・勤続を基礎とする
経営管理の階層的組織と給与
現在通用している意味:年齢・勤続とともに上昇す
る賃金
では、生産性などの経済的要因と無関係に
年齢や勤続が評価されているのか?
知的熟練論はTCEの論理で経済的合理性ありとし
たが、根拠がなかった。では、どう説明するか?
5
日本の賃金形態:何に支払っているのか
日本の賃金は、何に支払っているのかあいま
いで、一目では分からない場合が多い
産業・企業規模
調査産業計
1,000人以上
100~999人
300~999人
30~ 99人
賃金表が
ある
計
基本給の
すべてに
賃金表が
ある
基本給の
一部に賃
金表があ
る
100.0
64.8
58.5
6.2
35.2
100.0
85.7
72.7
13.0
14.3
100.0
77.7
69.1
8.6
22.3
100.0
84.4
72.9
11.4
15.6
100.0
59.0
53.9
5.1
41.0
合計
賃金表が
ない
6
平成13年度『就労条件総合調査』厚生労働省。
何に対して賃金を払うのか(賃金形態)DO
 遠藤[2005]による分類をベースに範式化
 =何に対して賃金を払うか
 →人と仕事の割り当て関係
 人の属性に対してか(賃金=人→仕事)or(賃金=人←仕
事)
 年功給(その実質について後述)
 職能給
 職務に対してか(賃金=仕事←人)
 職務の価値に対してか
時間単位給
職務給
 職務の成果に対してか(賃金=仕事・その成果←人)
個人歩合給・出来高給
集団能率給
7
生活給規範説(1)
会社は、コアとみなした従業員に生活給と退
職金を支給する
コアとみなす範囲は、戦前は男子ホワイト、戦後は
正規雇用の男子ホワイト・ブルー
女子には適用されない
生活給は男子がはたらいて妻子を養うという前提
で計算される
退職金の起源は老後の生活への配慮であり、その
分だけ若年時の賃金は安くされる
昇進競争、人事査定は存在する
8
生活給規範説(2)
賃金カーブと男子正社員の技能形成(野村
[1994])
技能が形成されるから、あるいはそれを促すから
賃金が勤続とともに上がるのではない
会社は、賃金を勤続とともに上げざるを得ないから、
次第に難しい仕事に配置して技能形成を求める
9
確立過程:電産型賃金における生活給DO
前提:戦後労働運動の成果
ブルーカラー・ホワイトカラーの身分的差別撤廃
電産(日本電機産業労働組合協議会)型賃金の特
徴(大原社会問題研究所DB)
権利としての賃金思想
年齢・勤続等客観的な基準で各人の賃金を決定す
る
労働時間と賃金の関係を明確化して基準労働賃
金と基準外労働賃金を区分
最低生活保障の原則を確立。物価水準とエンゲル
係数という根拠を持って生活保障給を算出。
10
電産型賃金体系
基
準
労
働
賃
金
基
準
外
労
働
賃
金
特
殊
勤
務
手
当
居
住
地
制
限
手
当
特
殊
労
働
賃
金
僻
地
勤
務
手
当
特
別
勤
務
手
当
作
業
手
当
地
域
賃
金
超
過
労
働
賃
金
特
殊
労
働
手
当
当
直
手
当
勤
務
給
時
間
外
手
当
基
本
賃
金
生
活
保
障
給
能
力
給
本
人
給
基本給
家
族
給
11
生活給規範のバイアス・変質・残存DO
 家族給は、夫が妻と子どもを養うという想定で計算された
 いまから見れば、生活給思想にはジェンダー・バイアスがかかってい
た
 会社は男子正社員のみを、右肩上がり賃金の対象とできた
 電産型賃金では、組合は査定を排除しなかった。査定に関
する基準を持てなかった(遠藤[1999])
 能力給は許容して(基準賃金の20%程度)、会社の査定に委
ねた
 性格評定も排除されなかった
 人事査定の本格化=査定つき生活給に
 労働組合は、日教組の勤務評定反対闘争(1957-59年)から批判的に
なる
 生計費の計算が曖昧になっても、査定がついても生活給規
範は残った。今日もまったく否定されてはいない
12
職務給
職務給の定義
職務の価値に対して支払う賃金であり、より具体的
には職務分析制度を持つ賃金
職務分析:職務の構成要素を体系的に調査・分析
原点はテイラーの時間・動作研究
職務記述:職務の作業様式について記述
職務分類:職務記述書を基礎に職務をグレードに
格付け
職務評価:各グレードに対応する賃金率の幅を決
定
13
職務給の性格とバリエーション
 「職務給=賃金制度近代化の王道」説
職務と対応しない年功賃金の克服
作業の標準化、生産管理と結合した労働コストの体系的な
管理
客観性と公平性。同一価値労働同一賃金
 単一レートならば、賃金は、職務の価値によって決
まり、誰が遂行するかは関係ない
アメリカでは、組合が存在する企業のブルーカラーに多い
 範囲レート職務給ならば、同一職務の範囲内で、業
績や年功によってある程度賃金が変動する
アメリカでは、ホワイトカラーに多い
14
アメリカの単一レート職務給における査定排
除
ブルーカラー職場における単一レート職務給
と先任権の結合=査定の排除
組合企業における先任権の利用(1948-54年)
(ジャコービィ[1985=1989]による)
先任権を利用す 先任権が決める
る
レイオフ
99%
再雇用
81%
昇進
73%
73%
38%
恣意的評価排除を求める労働組合の運動が背景
に
15
アメリカの範囲レート職務給における査定
DO
ホワイトカラー職場における範囲レート職務
給は査定を伴う
人事査定を実施する前提として、職務記述書が必
要である(遠藤[1999])
人事制度の差別性が裁判で争われる場合、職務分析が
おこなわれていなければ会社が敗訴する
「査定はしょせん主観」というのは不正確で、職務記述書
という基準の有無によって相当程度左右される
査定結果は通知され、通知した事実が文書で確認
される(遠藤[1999])
通知したことの本人確認サインがなければ、訴訟で会社
が不利となる
16
日本における職務給導入の試みと挫折DO
 1950年代半ばから60年代前半にかけて導入を試
みるもあまり定着せず
 日本における規範・慣行との矛盾
職務の境界が明確でない上にしばしば変動する
勤続に伴う昇給・昇進があるべきとする規範が職務給では
否定される
 単一レート職務給では、職務が高い評価のものに上がらなけ
れば昇給できない
 職務給は級別にポスト数(定員)が定まるので、上に空きがな
ければ昇進できない
• 例:国家公務員と旧国立大学
仕事に人をつけるのか、人に仕事をつけるのか
17
職能給と能力主義管理
1960年代後半以後、盛んに導入。しかし、い
までは「年功制だ」「成果主義にしなければ」
と批判されている。なぜ?
18
職能資格制度による能力主義管理
 職務ではなく、職務遂行能力の相対価値を測定
 職務遂行能力の程度を職能資格の序列に表現し、
社員ひとり一人を格付けする
 職能資格のランクは、職務横断的に決められる
入社時のランク、平均的な到達ランクは、学歴や職種(ブ
ルーとホワイト)によって異なる
 資格によって職能給を決定する
 資格と職位(役職)をリンクさせる
 図表3-1参照
19
職能資格制度における昇進・昇格(1)
 昇給・昇進頭打ち問題
の「解決」
一定の要件を満たせば
昇格・昇給できる(図表32)
資格定員はあることが望
ましいとされたが、職務と
1対1対応していないの
で柔軟に対処できる
職能資格
職位
1級
部長
2級
次長
3級
課長
4級
係長
5級
主任
6級
20
職能資格制度における昇進・昇格(1)
実際に就く仕事と能力がずれる可能性
賃金=能力(を持つ人)→仕事
Aクラス賃金=Aの能力(を持つ人)→仕事A
AAクラス賃金=AAの能力(を持つ人)→仕事A
昇格(それゆえに昇給)しても昇進(長への就任な
ど)はないことも
21
職能資格制度の実際
職務分析がなされていることが前提だが、実
際にはなされないケースが多数
賃金=仕事能力(を持つ人)→仕事 のはずが
賃金=仕事能力(を持つ人)・・・仕事 に
賃金=仕事能力(を持つ人)←…仕事 に
異なる職務に共通な能力の基準が曖昧に
22
能力主義管理が技能形成に有利とされた理
由
 職能給自体には、配置転換を通した訓練を妨げる
要素はない
仕事と賃金が強く結びついていない
労働法制と労使関係
 職務給と先任権システムでは、職務が細分化される
と配置は硬直化する
自分の職務以外の仕事はできない
昇進の候補者は限られ、レイオフの順序は厳しくルー
ル化されている
 職務給と先任権のシステム(アメリカのブルーカラー
の人事管理)の硬直化ゆえに、日本の能力主義管
理が相対的に高く評価された
職務給改革の方向は、大区分化
23
ローテーションは経営管理の下にあるDO
「職場」の範囲は?
「慣行」は経営の必要性と対立しない
もともと職務区分が曖昧であるから配置も曖昧で
あるが、あくまで経営管理の下にある
人事異動による長期のローテーションは経営
管理下にある(当たり前)
職場の慣行が経営管理と矛盾するときに、労
働側を代表する労働組合の交渉力は強くな
い
24
能力主義管理における査定の特徴(1)DO
成績・能力・情意の三大要素
成績・能力の査定:技能は仮に形成されても
あいまいにしか測定できない
職務分析が不活発で、職務があいまい→職務遂行能力
があいまい→査定基準が曖昧
競争促進効果
 「何でも、どこまでも引き受けられる」「決められたこと以外のこと
もする」ことがとくに重視され、能力の証になる
25
能力主義管理における査定の特徴(2)DO
情意考課
性と信条による差別の誘発
近年でも訴訟が起こっている
公平な手続きの欠如
結果の未通知が過半
前任の上司の査定結果を後任者が参照。いったん
低い評価になるとずるずる続く
26
能力評価の実質化の努力と挫折
 企業側による能力評価基準の確立の努力と困難
職務調査の実施
職種別職能基準の作成(図表3-3)
 職務のあいまいさの継続
高度成長期:技術革新への適応→職務評価の困難
石油危機以後:技術革新への適応プラス雇用調整
 あいまいな職務の方が柔軟な配置をしやすい
 明示的な年齢給・勤続給・基準不明の「基本給」な
どを持つ会社も残存
27
年功+能力評価によるホワイトカラーの昇進
競争
昇進の三層構造(今井・平田1995])
学卒一括採用。採用年次別昇進管理
競争相手は主として「同期」に限られる
初期キャリア=一律年功型
入社後数年間、昇進は一律処遇
中期キャリア=昇進スピード競争型
昇進の早い者と遅い者に分かれる
後期キャリア=トーナメント競争型
昇進しない者の出現。ランク差も大きくなる
28
職能資格制度の年功的運用(生活給規範の
残存)
 昇格の年功的運用=「上ずり」現象(図
表3-4)
 40歳程度まで、厳しく差をつけた選抜を控
える傾向(おそい選抜)
 資格と役職の結合関係がルースに。資格
定員解消の傾向。
 役職がないのに昇格(または部下なし管
理職の増設)
 専門職制度の名目化
 何が受容され、何が受け入れられな
かったか
 男子正社員は、「能力による競争」の理念
は一般論として受容(競争拒否ではない)
 右肩上がり賃金カーブの変更は認められ
ない。
職能資
格
職位
1級
部長、部長待遇、
部下なし部長な
ど
2級
次長、次長待遇、
部下なし次長、
専門職など
3級
課長、調査役な
ど専門職
4級
係長
5級
主任
6級
29
「上ずり」現象の意味するもの
能力(という名目での年功的評価)と職務が
一致しない
賃金=仕事能力(を持つ人)→仕事 のはずが
賃金=仕事能力(を持つ人)・・・仕事 に
人に仕事をあわせるように
賃金=仕事能力(を持つ人)←…仕事 に
人件費の調整
個々の労働者・仕事について、もとめられるパ
フォーマンスと対価は一致しない
総人件費で調整
30
年功的運用になった職能資格制度は企業
にとって合理的だったか
 男子正社員の処遇
企業は右肩上がり賃金カーブを前提に人事管理を行う
 長期勤続を想定して、簡単な仕事から難しい仕事へ
と徐々に移して、賃金に見合った貢献を求める。訓
練も行って技能を形成する
 従業員規模を拡大できる状況下では、年功的賃金
カーブでも平均労働コストを抑えられる
昇進するほど処遇が年功的でなくなる
高給を取る高齢者が定年退職する
給与の低い新規採用者が入社する
31
女性の処遇との補完性(1)DO
 男性より低い女性の賃金(第2章図表も参照)
労働者の1時間当たり平均所定内給与格差の推移(
男性一般労働者を100とした場
合)
75
70
65
女性一般労働者の給与水準
60
女性パートタイム労働者の給
与水準
男性パートタイム労働者の給
与水準
55
50
出所:内閣府男女共同参画局
[2006]。
45
年
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
40
32
女性の処遇との補完性(2)DO
 その原因は何か(中田[2002])
パート労働者の比重の高さ。ただしパートにおける男女
格差は小さく、かつ1990年代に改善傾向にある。
正社員における男女格差。大企業ほど大きく、90年代の
改善も限定的。
 正社員賃金の男女格差要因分析(中田[2002])
学歴は平均教育年数では差はないが、学問領域差が職
種に反映→低賃金職種に女性が集中
同一職種・同一年齢でも男女格差が年齢とともに広がる
査定を通した年功的処遇が男性にのみ有利に働いてい
る可能性
(川端補足)コース別管理により、一般職女性の給与が頭
33
打ちになっている可能性
女性の処遇との補完性(3)DO
 女性は長期雇用対象者ではなかった
 男女別定年(日産自動車事件最高裁判決[1981年]で違法とされ、
男女雇用機会均等法[1986年]により明文で禁止)
 結婚退職の慣行化と強要
 均等法以後も、コース別管理による格差の固定化
 長期雇用対象でないことの企業にとっての意味
 右肩上がり賃金を支払わなくてすむ
 難しい仕事につける必要がない
 技能形成を促進する必要がない
 民間企業における男子労働者昇進の三層構造との補完性
 家族賃金との補完性――生計費補助分しか払おうとしない
 夫の高密度労働と専業主婦の家事労働・育児負担の補完性
 「おそい選別」との補完性
34
非正規の処遇との補完性(1)DO
雇用者に占める非正規の比率の上昇(厚生
労働省[2006])
1985年:16.4%→95年:20.9%→2005年:32.3%
非正規化と女性化の重複(次スライド図)
正規・非正規の給与格差の動き(前掲図)
正規男性と非正規男性の格差が大きくなることで、
非正規の男女格差は縮小している
35
非正規の処遇との補完性(2)DO
出所:内閣府男女共同参画局[2006]。
36
男子正社員の処遇と女子・パートの処遇
給与
男子正社員
男子正社員
女子・
パート
人数
37
企業における労働の柔軟性(Flexibility)(テ
キスト図3.5)
 数量的柔軟性と機能的硬直性
 アメリカの職務給・先任権システム
 雇用の数量調整(レイオフ・リコール)は容易
 経営者に意にそった配置転換は困難
 経営者は、配置の柔軟性を強めようとすれば、レイオフをしないこと
にコミットせざるを得ない
 機能的柔軟性と数量的硬直性
 日本のあいまいな職務区分と解雇制限法理
 配置転換は容易
 雇用量の下方調整は困難
 経営者が雇用調整の可能性を広げようとすれば?そのルール化の
ために配置のルールを明確にせざるを得ない?
 企業を超えた柔軟性(=転職)は日本の方がないことに注意
DO
38
能力主義管理の年功的運用における協力
の組織化=組織コミットメントの引き出し(1)
 職務の曖昧化、職務と賃金の分離
終身雇用規範とあいまって、配置転換が賃下げに結びつく
おそれが薄いために男性正社員が許容できた
技術進歩が仕事の喪失・失業のおそれに結びつかないため、
男性正社員の合理化・改善への協力を引き出せた
 職能資格(昇格)と役職(昇進)の分離
役職になれなくても職能資格はアップできる
 企業によっては役職も必要以上につくり出した
長期勤続による昇格の可能性が見えたために、男性正社員
の努力を引き出せた
細かい差を付ける査定で同期入社の男性正社員間の競争
を促進したために、怠慢を防ぐことができた
ある段階まで絶対評価になるため、従業員間協力を引き出
せた
39
能力主義管理の年功的運用における協力
の組織化=組織コミットメントの引き出し(2)
転職の困難
終身雇用と年功賃金規範に支えられ、男性正社員
の組織コミットメントを引き出す
男性正社員の企業アイデンティティの強さ
「会社にお世話になっている」という考え。
企業内労働組合の交渉力の弱さ
技能が労働者個人の資産とみなされない。会社の
資産とさえみなされる(会社あってのサラリーマンで
ある)
40
3-2 日本の雇用システムの課題
41
能力主義管理の年功的運用の成果は何
だったかDO(1)
テキスト図3.6は「技能
形成」となっており、明
らかに企業特殊的技能
を念頭に置いている
?
協力的労使・従業員関係
柔軟な職務編成
(曖昧な基準の査定を通し
た同期入社間競争)
昇格と昇進の分離
賃金と職務の分離
職能資格制度
男性正社員に対する終身雇用規範
42
能力主義管理の年功的運用の成果は何
だったかDO(2)
技術進歩の促進(少なくともこれを妨げない)
柔軟な人員配置による生産性効果
組織コミットメントの引き出しによる効果
長時間高密度労働の許容
愛社精神による努力
技能形成
テクニカルには企業特殊的なものも一般的技能も
あった
いずれも企業特殊的であるかのように評価される
技能の成果の経営側への帰属の許容
43
能力主義管理の年功的運用の行き詰まりの
原因
仕
?
さ年
せ功
ね的
ば運
な用
らゆ
なえ
いの
)コ
ス
ト
が
か
か
る
(
昇
協力的労使・従業員関係
柔軟な職務編成
(曖昧な基準の査定を通し
た同期入社間競争)
昇格と昇進の分離
賃金と職務の分離
事
の
成
果
と
賃
金
の
対
応
関
係
が
ル
ー
ズ
格
職能資格制度
男性正社員に対する終身雇用規範
雇用維持にコストがかかる
44
成長の停止がもたらす悪循環
 年功的運用は、企業成長の停止に対してもろい
 昇格のコストと雇用維持のコストが経営的に許容できなくなる
 定年退職者に対する新規採用者の割合が小さくなるため、平均労働
コストが増大しやすくなる
 あいまいな評価が許容されなくなる
 経営者:個人に、成果にみあわない賃金を支払いたくない
 パフォーマンスの高い労働者:公正な評価で処遇を決めるべきだ
 年功的運用を弱めると制度の全体が崩れていく
 即戦力の中途採用、中高年雇用調整、成果主義賃金
 組織コミットメントの弱まり(この会社で長年がんばってもいいことは
なさそうだ)
 柔軟な職務配置の困難(配置転換で賃金が変わるのはおかしい。雇
用も保障されていないのに会社の言うままに配置換えされたくない)
 ジェンダー・バイアスへの批判
 男女雇用機会均等法の制定。性差別を不当とする判例の蓄積。 45
再度の職務給導入の試みと成果主義
能力主義管理の問題意識は、男子正社員の
右肩上がり賃金カーブ(年功賃金カーブ)の
克服にあった
能力主義管理の行き詰まりは、年功賃金カー
ブ克服の失敗と受け止められた
今度こそ克服する、という問題意識から職務
給と成果主義が台頭
昇格・昇進の「頭打ち」はむしろよいこととみなされ
る
潜在能力でなく成果のみで昇給させるべきとされる
46
企業の環境適応と成果主義賃金
 もともと職務給は、企業の環境適応と個別の賃金管
理を結びつけている
総人件費→個々の職務の相対的価値に応じて割り振る
 職能給が年功的に運用されると結びつかない
個別の賃金と結びつけられないので、総額人件費で管理
年功的運用によるコストアップVS総額人件費抑制
 成果主義賃金は、職務給一般以上に結びつける
(石田[2002])
市場で期待される成果→各部門で期待される業績→個人
の役割とその序列:個人の成果
賃金=職務の成果←人
成果の評価をどうするかが人事制度に問われる
47
職務給と成果主義のそれぞれの問題
 職務給:「職務の価値」に支払う
職務分析をきちんと行う必要
インセンティブはどうするか
 成果主義:「職務の成果」に支払う
職務が限定されていなければ成果がはかれない
査定の効率と公平性をどう確保するか
 「頭打ち」と厳しい査定の副産物
職場の不公平感とディスインセンティブ
48
中高年削減に用いられる例:職階制
職能資格制度を廃止して職階制に
「長」への昇進はあるが、資格の昇格はない
早期退職者優遇制度の導入→「長」でない高位資
格者への利用を促す
49
本格的な成果主義:富士通の例
年度
事項
1992
93年3月期決算で上場以来初の経常赤字に転落。新人事制度の検討を開始。
1993
管理職層に目標管理評価制度導入。
1994
主任層に目標管理評価制度導入。主任層にSPIRIT導入。管理職層に年俸制導入。
1995
幹部社員制度新設。課制の原則廃止。
1996
中堅層に目標管理評価制度導入。
1997
管理職層に等級制度導入。職長層に目標管理評価制度導入。
1998
Function区分/等級による人事制度導入。
1999
年金・退職金制度見直し。業績反映型の賞与導入。
2001
評価制度見直し
50
出所:大石[2001]。
富士通の成果主義賃金の主要な制度(1)
職責に対応した等級に従業員を格付けする
必要条件:基礎的能力とコンピテンシー
十分条件:等級にふさわしい職責を担う
評価:職責に対する達成度
職務給と職能給の中間?
客観的な「職責」に対応している点は職務給に近い
「職責」が「各人の設定する目標」で決まる場合もあるな
ど職務ほど明確でない点は職能給に近い
目標管理制度
定期的な目標設定、達成度チェック。賞与の査定
への利用。
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富士通の成果主義賃金の主要な制度(2)
管理職の年俸制
年俸全体に目標管理の達成度が反映される
業績反映型賞与
月収の4ヶ月分が固定、0-2ヶ月分が会社の業績
に連動
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富士通人事部の勤務経験者による批判(城
[2004])(1)
 出発点における矛盾
人事査定を行う上司は年功的に上がった賃金を得ている
 部門別業績目標設定の恣意性
達成可能な目標と希望的観測の取り違えによる過大設定
 相対評価と絶対評価のブレ
当初、評価ランク(SAからEまで)に分布制限のある相対評
価:目標管理制度の趣旨と乖離→絶対評価への変更
 評価基準の不明瞭さと管理職の評価能力の欠如
裁量労働制適用者の優遇
絶対評価への変更後は評価のインフレ
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富士通人事部の勤務経験者による批判(城
[2004])(2)
 評価者が成果主義的に評価されていない
赤字でも、社長は会長に就任。「従業員が働かないか
らいけない」発言(『週刊東洋経済』2001年10月13日
号)。
管理職が9割近くがA評価
 目標管理制度によるインセンティブの歪み
意味のない目標が乱立する
容易に達成できる目標が乱立する
チームワークができなくなる
 人事部の権限肥大化
人事制度への批判を許さない監視
本社人事部の若手はほぼ全員A評価
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成果主義賃金が落ち着く先は?(野村
[2002]を参考に)
 可能性1:問題を克服した成果主義賃金の徹底?
移行を困難にしている団塊世代の退職後に整合的な制度
に
職務評価、役割評価、人事査定の徹底。厳しいが透明で公
正な制度
 可能性2:職能給と「職務の成果」給の癒着
範囲付き職務給の、やや年功的運用
「役割等級」という名で、職務等級と職能資格の中間的な制
度にする
これまでより少数精鋭の正社員に適用
査定をいくらかクリアーにする
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これまでより男女の取扱いを平等にする
プロフェッショナル化?
職業別労働市場のある程度の拡大
中途採用を妨げる年功的処遇の縮小
即戦力の要求:一般的技能の採用前の要求
外部資格の重視
ライバル企業からの移動は?
その程度や内容は未知数
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日経連「新・日本的経営」論の10年
 従業員の三つのグループ(日経連[1995])
雇用形態
対象
賃金
賞与
退職金・
年金
昇進・昇
格
福祉施策
長期蓄積
能力活用
型グルー
プ
期間の定
のない雇
用契約
管理職・
総合職・
技能部門
の基幹職
月給制か
年俸制・
職能給・
昇給制度
定率+業
績スライ
ド
ポイント
制
役職昇
進・職能
資格昇進
生涯総合
施策
高度専門
能力活用
型グルー
プ
有期雇用
契約
専門部門
(企画、
営業、研
究開発
等)
年俸制・
業績給・
昇給なし
成果配分
なし
業績評価
生活援護
施策
雇用柔軟
型活用グ
ループ
有期雇用
契約
一般職・
技能部
門・販売
部門
時間給
制・職務
給・昇給
なし
定率
なし
上位職務
への転換
生活援護
施策
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「新・日本的経営」論の曲折
当初の企業の動き
非正規の拡大は提言の「雇用柔軟型」のとおり
正規・長期雇用の社員について、「年功賃金の克
服」、よりラディカルな改革が提唱され、成果主義
賃金へ
退職金制度の見直し
調整と揺り戻し
非正規はやはり拡大
正社員については、職能給と「職務の成果」給の中
間に
退職金の大幅改革は後景に
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まとめ
 年功賃金カーブは、「査定がある、ジェンダー・バイアスを
伴った生活給規範」説でもっともうまく説明できる。
 年功賃金カーブは、会社にとってコアとみなされる労働者、
第2次大戦後なら男子正社員に適用され、それ以外の労働
者の処遇との補完関係によって維持される。
 1960年代以後の日本企業による能力主義管理の年功的運
用には、一定の経済合理性があったが、これを企業特殊的
技能の形成にのみ結びつけるのは一面的である。
 能力主義管理の年功的運用の経済合理性は、柔軟な人員
配置による生産性効果、組織コミットメントの引き出し、一般
的技能を含む技能形成、技能の成果の経営側への帰属の
許容を含めて評価されるべきである。
 能力主義管理の年功的運用は、いったん成長が停止すると
経営にとって高コストとなりやすく、実際になってきている。
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展望
 「コア労働者に右肩上がり賃金カーブを適用する」という規範
は日本に強く根付いており、弱まりはするがなくなりそうにな
い
 長期雇用・内部昇進制は、労働者に占める適用割合が小さ
くなるが、なくなりはしないだろう
 転職市場を含む職業別労働市場は広がるが、まだ未知数で
ある
 人事制度の改革は、正規雇用者に対する非正規雇用者の
割合を高めるだろう
 制度の透明性、競争と査定を前提とした上での公平性が必
要であることは、理論的には常識となるだろう
 しかし、実効性を上げるには上からの政策か、改革による受
益者、とくに女性や非正規労働者の社会運動が必要であろ
う
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第3章 主要参考文献(1)
 石田光男[2002]「成果主義的人事管理と労使関係」『季刊家計経済研
究』第54号、家計経済研究所。
 今田幸子・平田周一[1995]『ホワイトカラーの昇進構造』日本労働研究機
構。
 氏原正治郎[1966]『日本労働問題研究』東京大学出版会。
 遠藤公嗣[1995]「労働組合と民主主義」(中村政則・天川晃・尹健次・五
十嵐武士編『戦後民主主義:戦後日本 占領と改革第4巻』岩波書店。
 遠藤公嗣[1999]『日本の人事査定』ミネルヴァ書房。
 遠藤公嗣[2005]『賃金の決め方』ミネルヴァ書房。
 大石修[2001]「近年の日本企業における人事管理の新動向」『研究調査
シリーズ』No.9、東北大学大学院経済学研究科工業経済学研究室、3月。
 大原社会問題研究所編『《日本社会運動史料》索引データベース』。
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/kensaku/fukkoku.html
 木下武男[1999]『日本人の賃金』平凡社。
 楠田丘[1982]『職能資格制度』産業労働調査所。
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第3章 主要参考文献(2)
 厚生労働省[2006]『平成18年版労働経済の分析』厚生労働省ウェブサイ
ト。 http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/06/index.html
 城繁幸[2004]『内側から見た富士通 「成果主義」の崩壊』光文社。
 鈴木良始[1994]『日本的生産システムと企業社会』北海道大学図書刊行
会。
 内閣府男女共同参画局[2006]『平成18年版男女共同参画白書』内閣府
男女共同参画局ウェブサイト。http://www.gender.go.jp/index.html
 中田喜文[2002]「日本の男女賃金格差の実態」『家計経済研究』第54号、
家計経済研究所。
 日本経営者団体連盟[1995]『新時代の「日本的経営」』。
 野村正實[1994]『終身雇用』岩波書店。
 野村正實[2002]「成果主義と年功賃金」『家計経済研究』第54号、家計経
済研究所。
 野村正實(新著に関するディスカッションから教示を得た)
 幸光善[1997]『現代企業労働の研究』法律文化社。
 S・M・ジャコービィ[1985=1989](荒又重雄ほか訳)『雇用官僚制』北海道
大学図書刊行会。
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