女性パート労働者の 職務ストレスの規定因 橋本 和宏 九州大学大学院 人間環境学府 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 1 問題(1)~女性パート労働の拡大 雇用者に占める女性パート労働者の 割合が拡大 女性パート労働者の数:1001万人 (2006年4月現在:総務省統計局) 全雇用者の18%, 女性雇用者の44% 主要な雇用産業 卸売・小売業 268万人 医療・福祉 139万人 製造業 122万人 飲食・宿泊業 108万人 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 2 問題(2)~女性パート労働者の特徴 女性パート労働者は,家事や育児に 大きな家族的責任。 時間や労力のすべてを仕事にささげること は難しい。 女性パート労働者は一般に賃金が低く, 担当業務も周辺的で,やりがいが薄い。 企業側の立場: 離職率を低め,業務に習熟させ, 戦力化したい存在。 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 3 問題(3)~本研究の目的 拡大する女性パート労働の現状を 踏まえ,女性パート労働者の 職場ストレッサー,ストレス反応, ソーシャル・サポートの間の関連性を 検討し,その職務ストレスの規定因を 明らかにすること。 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 4 方法(1)~質問紙調査の概要 研究方法:質問紙調査 調査対象企業:H社 精肉・惣菜の小売と外食業で計21店舗 年商11.5億円 従業員数194名 社長、部長(2名)、店長(21名)、パートの4階層 全社員に質問紙を配布 有効回答数131、有効回収率68.6% 今回の分析対象:女性パート103名,正社員22名 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 5 方法(2)~質問紙の構成 1.フェース項目 (性別、正社員・パートの別) 2.職業性ストレス簡易調査票 (東京医科大学,1998。スライド7,8) 3.会社の職務ストレス対策へのニーズ (複数回答の選択肢。スライド13) 4.職務ストレスについての会社への要望 (自由記述。スライド14) 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 6 方法(3)~職業性ストレス簡易調査票(1) すべての質問は4段階評定(1点~4点) 職場ストレッサーの質問:17項目 (スライド9) 得点が高いほど,ストレッサーの認知が強い。 ストレス反応の質問:29項目 活気,イライラ感,疲労感,不安・緊張, 抑うつ感,身体的ストレス反応の6下位尺度 得点が高いほど,ストレス反応の認知が強い。 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 7 方法(4)~職業性ストレス簡易調査票(2) ソーシャル・サポートの質問:9項目 上司,同僚,家族・友人のサポートの 3つの下位尺度 「どのくらい気軽に話ができますか?」 「困った時,どのくらい頼りになりますか?」 「個人的な問題の相談をどのくらい聞いて くれますか?」 得点が高いほど,サポートの認知が強い。 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 8 結果と考察(1):Table1 ~職場ストレッサー尺度の因子分析 女性パート労働者における職場ストレッサーの因子分析結果 (重みなし最小二乗法,プロマックス回転後の因子パターン) および因子間相関( N =103) 第1 因子 第2 因子 第3 因子 a7 からだを大変よく使う仕事だ .761 -.081 -.079 a6 勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない .716 -.234 .063 業務負荷(α=.82) a1 非常にたくさんの仕事をしなければならない .655 .085 -.034 .652 .141 -.107 a3 一生懸命働かなければならない .596 .141 .061 a5 高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ .595 -.017 .050 a2 時間内に仕事が処理しきれない .475 .229 -.110 a12 私の部署内で意見のくい違いがある .102 .648 .153 a13 私の部署とほかの部署とはうまが合わない .089 .546 .182 a14 私の職場の雰囲気は友好的である .014 -.530 .102 a17 働きがいのある仕事だ .239 -.412 .318 -.109 .071 .647 .036 .174 .579 -.072 -.015 .560 .140 .046 -.332 a4 かなり注意を集中する必要がある 対人関係の険悪さ(α=.60) a8 自分のペースで仕事ができる a9 裁量の小ささ(α=.60) 自分で仕事の順番・やり方を決めることができる a10 職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる 因子間相関 1 2 3 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 9 結果と考察(2):Table2 ~変数の基本統計量,変数間の相関係数 女性パート労働者の分析に使用した変数の基本統計量と変数間の相関係数(N =103) M(SD) α 業務 負荷 対人 関係 の険 悪さ 裁量 の小 ささ イラ イラ 感 上司 身体 抑う のサ 的ストレ つ感 ポー ス反応 ト H社の女性パート労働者は, 活気 疲労 感 不安 感 同僚 のサ ポー ト 業務負荷(M=2.66)が高く, 対人関係の険悪さ(M=1.85)が低く 活気(M=2.53)が高く, ストレス反応(M=1.41~2.06)が .46** 全般に低く, .50** .50** -.06 -.19 -.09 上司,同僚,家族友人からの -.12 -.15 -.03 .42** サポート(M=2.64, 2.87, 3.50) -.09 -.11 -.00 .20* .31** a) p <.05, p <.01 は高い。 b) 得点の範囲は1点から4点。各下位尺度に含まれる項目得点を平均したもの 業務負荷 対人関係の険悪さ 裁量の小ささ 活気 イライラ感 疲労感 不安感 抑うつ感 身体的ストレス反応 上司のサポート 同僚のサポート 家族友人のサポート * 2.66(.64) 1.85(.57) 2.24(.62) 2.53(.80) 1.87(.73) 2.06(.72) 1.67(.62) 1.41(.54) 1.60(.46) 2.64(.81) 2.87(.81) 3.50(.61) .82 .60 .60 .86 .89 .81 .63 .88 .83 .83 .79 .82 .14 .05 .17 .00 -.51** -.38** .23* .49** .18 -.39** .27** .28** .11 -.32** .57** .47** .11 -.00 -.01 .38** .35** .07 .32** .10 -.26** .55** .53** .28** .20* .08 -.24* .46** .61** -.07 -.13 -.17 .21* -.28** -.11 .02 -.21* -.17 .25* -.24* -.09 .07 -.00 .11 -.00 -.03 -.10 ** 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 10 結果と考察(3):Table3 ~正社員と女性パートの職務ストレス比較 正社員(N =22)と女性パート労働者( N =103)における 尺度得点の平均の比較とt 検定結果 職場ストレッサー 業務負荷 対人関係の険悪さ 裁量の小ささ ストレス反応 活気 イライラ感 疲労感 不安感 抑うつ感 身体的ストレス反応 ソーシャル・サポート 上司のサポート 同僚のサポート 家族友人のサポート a) *p <.05, 2006/8/27 ** p <.01 女性パートは正社員と 比べて, 正社員 女性パート 平均(SD) 平均(SD) t 検定 3.09(.50) 2.66(.64) ** 1.92(.45) 1.85(.57) n.s. 1.92(.57) 2.24(.62) * 2.68(.88) 2.53(.80) n.s. 2.32(.93) 2.58(.95) 2.24(.87) 1.87(.73) 2.06(.72) 1.66(.62) * * ** 1.60(.65) 1.41(.54) n.s. 1.94(.70) 1.61(.46) * 2.58(.81) 2.79(.66) 3.50(.65) 2.64(.83) 2.87(.73) 3.50(.61) n.s. n.s. n.s. ・業務負荷が低く ・裁量が小さく ・精神的・身体的 ストレス反応は 全般的に低い。 •対人関係の険悪さ, ソーシャル・サポートの 水準はほぼ同じ 日本産業カウンセリング学会個人発表 11 結果と考察(4):Table4 ~職場ストレッサーとソーシャルサポートが ストレス反応に与える効果の重回帰分析 女性パート労働者は, ストレス反応6因子を基準変数とする重回帰分析結果( N =103) 精神的ストレス反応 ・業務負荷を高いと感じると,疲労感,不安・緊張, 活気 イライラ感 疲労感 不安・緊張 抑うつ感 説明変数 職場ストレッサー 身体的ストレス反応を感じる。 業務負荷 .09 .16 .24* .48** .03 .03 -.45** .42** .23* .30** ・職場で対人関係が険悪だと感じると,活気を失い, .06 .07 -.04 .03 裁量の小ささ -.28** イライラ感,疲労感,抑うつ感を感じる。 ソーシャル・サポート 対人関係の険悪さ 上司のサポート .08 .04 -.06 .00 .03 家族友人のサポート -.10 -.03 -.13 .04 .16 -.13 .01 -.03 .26* ・裁量が小さいと感じると,活気を失う。 .08 -.08 .02 -.12 同僚のサポート -.02 -.17 身体的 ストレス 反応 -.09 ・今回測定したソーシャル・サポートは,ストレス反応を .33** .28** .10* .21** .08* 調整済みR 緩和する効果をもたなかった。 a) 表中の数値は標準偏回帰係数βである。 2 b) *p <.05, ** .05* p <.01 •ストレス反応に影響が大きい変数は,業務負荷と, 対人関係の険悪さである。 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 12 結果と考察(5):Table5 ~会社の職務ストレス対策へのニーズ(複数回答) 正社員 女性パート 68% 36% 休暇の保障 41% 6% 労働時間の短縮 55% 47% 人員の増加 36% 16% 社員教育の充実 女性パート労働者には,多めに人員を確保し, 23% 16% 直属上司とのコミュニケーションの改善 余裕のあるシフトを組んで,一定日数の休暇を 7% 経営トップとのコミュニケーションの改善 保障してほしいというニーズがある。9% 18% 13% 仕事上の悩みの社内相談窓口 家事や育児に使う時間を確保したいという願いの 表れと考えられる。このニーズが満たされないと, 5% 1% 社外のカウンセラーによる相談窓口 彼女らは業務負荷が重いと感じるのではないか。 14% 6% 会社による医療機関の紹介 13 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 結果と考察(6) ~職務ストレスについての会社への要望 (自由記述欄)のKJ法分析 人員不足(9) 休暇・休憩が少ない(5) サービス残業が多い(5) 給与が低い(12) 契約労働時間 が短い(2) 人員の増加を(6) 商品の味への疑問(5) もっとミーティングを(4) 上司・本社への不満(6) 2006/8/27 同僚との不和(5) 日本産業カウンセリング学会個人発表 もっと社員教育を(3) 14 要約と結論 女性パート労働者のストレス反応は,全般的に 正社員より低い。 女性パート労働者の主要な職場ストレッサーは, 「業務負荷」と「対人関係の険悪さ」である。 女性パート労働者は,十分な人員によるシフトが 組まれ,休日が確保されている職場を望む。 女性パート労働者は,人員不足の解消, ミーティングや社員教育による社内の対人関係 の改善を会社に望んでいる。 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 15 今後の課題(1) 金井・若林(1998)は, 本人の家族構成(独身か既婚か,親と同居か) 本人のキャリア志向性(キャリアか家庭か)で, 女性パートタイマーのワーク・ファミリー・ コンフリクトの度合いは異なることを示唆。 →今後,これらの変数を考慮した検討も。 Higgins, Duxbury & Johnson (2000)は, パートタイマーの職種間差異の生活満足度への 影響を指摘。しかし本研究のデータは1社のみ。 →今後,他業種・他職種からのサンプルも。 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 16 今後の課題(2) 女性パート社員のストレスは,正社員より低い。 ストレス対策の必要は?離職防止に効果は? →本研究の成果を踏まえ,H社は対策開始。 今後に注目してアクションリサーチを行い, 続報したい。 ソーシャル・サポートの尺度が簡略で, そのストレス緩和効果を捉えきれなかった。 →道具的サポート,情緒的サポートなどの 分類を行った上での検討を,今後行いたい。 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 17 謝辞 本研究発表をまとめるにあたり,以下の方々から有益な コメントをいただきました。 ここに記して感謝します。 古川久敬教授 (九州大学大学院人間環境学研究院) 池田浩氏 (日本学術振興会特別研究員・ 九州大学大学院人間環境学研究院) 三沢良氏 (日本学術振興会特別研究員・ 九州大学大学院人間環境学府博士後期課程) 田原直美氏,吉原克枝氏 (九州大学大学院人間環境学府博士後期課程) 2006/8/27 日本産業カウンセリング学会個人発表 18
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