「リサイクル・アンド・イコー ル社」工場周辺住民の健康影響 について -調査地域全域を対象とした再解析の結果 ― 平成21年9月26日 岡山大学大学院環境学研究科 1 津田敏秀 背景 • 寝屋川市に廃プラスチック処理工場が建設され、 その後稼動に一致し、周辺住民が悪臭、眼や喉 の痛みなどの健康被害を訴えている。 • 前回、住民の協力を得て健康調査を行い、工場 周辺住民に咽頭痛・眼脂などの粘膜症状が多発 していることを報告した。 • 今回は、解析対象者を調査が行われた全住民と 拡大し、距離区分もより細かくし、工場から居 住地域までの距離と症状の関連を検討した。 2 前回対象地域と今回対象地域 3 目的 • 平成18年夏の調査に参加した工場周辺に 居住する対象者全員を解析対象とし、 「リサイクル・アンド・イコール社」の 操業と住民の健康影響の関連を定量的に 評価する。 4 対象者 • 対象者は、大阪府寝屋川市の住民計6294名 • 廃プラスチック処理工場から500m以内、500600m、600-700m、700-800m、800-900m、 900-1000m、1000-1100m、1100-1200m、 2800mに居住するそれぞれ、281、436、530、 821、1322、1329、884、614、77名とした。 • 解析は、回答者の中で10歳以上に絞って行った。 5 調査内容 • 調査期間は、平成18年7月下旬から8月中旬まで の約2週間であり、質問票を用い調査を行った。 • 質問票の内容は、年齢・性・喫煙などの人口統 計学的内容、在宅状況、既往歴、また平成17年 7月と平成18年7月それぞれの咽頭・呼吸器・ 眼・皮膚・その他の症状を質問するものでる。 • 回答割合は、工場に近い区域より97.5、82.6、 84.5、81.2、69.8、63.1、63.0、50.3、92.2%で あった。 6 解析 • 平成18年7月の各症状の有病者数を算出 • ロジスチック解析を用い、性・年齢・喫煙・花 粉症の有無を調整した有病オッズ比を求めた。 有病オッズ比を求める際は、工場近辺に居住す る住民の症状と距離2800mの地域に居住する住 民の症状とを比較した。 • 解析は、SPSSを用いて行い、オッズ比を推定す る際には95%信頼区間の推定も行った。 7 結果1 • 解析対象者である10歳以上対象者の数は、 工場に近い地域より229、338、395、611、 818、727、500、267、65名となった。 • 工場に近い地域に比べ、2800m離れた地 域では平均年齢がやや高くなっていた。 • また、工場に近い地区では様々な症状で 有症者数が多かった。 8 結果2 • 2800mの地域を基準とし工場から500m 以 内、500-600m、600-700m、700-800m、 800-900m、900-1000m、1000-1100m、 1100-1200mの地域に居住する住民の症状 のオッズ比を求めた所、工場に近い地域 では咽頭痛・喉のいがらっぽさ・咳・ 痰・眼の掻痒感・眼の充血・眼の痛み・ 眼脂・湿疹のオッズ比が有意に上昇して いた。 • また工場に近づくにつれ、オッズ比も高 くなっていた。 9 研究対象地域10歳以上回答者における、工場からの距離による有病オッズ比*の比較 600-700m 500-600m 500m 以内 オッズ比 オッズ比 オッズ比 咽頭症状 1.1 (0.5 - 2.5) 2 (0.9 - 4.5) 1.2 (0.5 - 2.9) 風邪ひきやすい 2.5 (1 - 6.1) 3.3 (1.3 - 7.9) 3.2 (1.3 - 8) 咽頭痛 2 (1 - 3.8) 2.7 (1.4 - 5.2) 2.6 (1.3 - 5.2) いがらっぽい 0.9 (0.4 - 1.7) 1.1 (0.5 - 2.1) 1.1 (0.5 - 2.3) 声のかすれ 1.5 (0.7 - 3.4) 2.4 (1 - 5.7) 1.7 (0.9 - 3.2) 0.7 (0.4 - 1.4) 呼吸器症状 喘息発作 咳 痰 鼻水 700-800m オッズ比 0.8 (0.1 - 4) 2.2 (1.1 - 4.6) 2.4 (1.1 - 5.1) 1.1 (0.6 - 2.1) 1.2 (0.3 - 5.6) 2.7 (1.3 - 5.4) 2.5 (1.2 - 5.2) 2 (1.1 - 3.6) 0.8 2.1 1.9 1.3 3.7) 4.3) 3.9) 2.3) 1.1 (0.3 - 5) 1.7 (0.8 - 3.3) 1.6 (0.8 - 3.2) 1.2 (0.6 - 2.1) 3 (1.5 - 6) 2.7 (1.1 - 6.3) 5.2 (1.5 - 17.8) 6 (2.3 - 15.9) 3.4 (1.8 - 6.6) 2.4 (1 - 5.5) 5.4 (1.6 - 18) 4.4 (1.7 - 11.5) 3.1 (1.6 - 5.9) 1.3 (0.6 - 3.1) 3.9 (1.2 - 13.2) 3.2 (1.2 - 8.4) 2.4 (1.2 - 4.6) 1.4 (0.6 - 3.2) 3.3 (1 - 10.9) 2.5 (1 - 6.4) (0.2 (1.1 (0.9 (0.7 - 眼症状 眼掻痒感 眼の充血 眼の痛み 眼脂 皮膚症状 2.2 (0.8 - 5.7) 3.6 (1.4 - 9.4) 3 (1.1 - 7.9) 湿疹 *2800m を対照とし多変量解析を試行しオッズ比を算出 性・年齢・喫煙・花粉症の有無を調整 赤い数字は95%信頼区間が1を含んでいない結果、又はトレンドの検定で有意 2.1 (0.8 - 5.4) 10 結果3 • 更に2800mの地域を対照とし700m以内、 700-1200m以内の地域に居住する住民の 症状に関する有病オッズ比を比較した際 も、眼の掻痒感・眼脂のオッズ比が両地 域とも有意に1より上昇していた。 11 研究対象地域10歳以上回答者における工場からの距離による有病オッズ比*の比較(距離は3区分) p-value 700m 以内 700-1200m 2800m オッズ比 オッズ比 R eference for trend† 咽頭症状 風邪ひきやすい 1.5 (0.7 - 3.2) 1.4 (0.7 - 3) 1 0.50 咽頭痛 2.9 (1.2 - 6.9) 2.2 (1 - 5.3) 1 0.00 いがらっぽい 2.3 (1.2 - 4.5) 1.7 (0.9 - 3.1) 1 0.00 声のかすれ 1 (0.5 - 1.9) 0.8 (0.4 - 1.5) 1 0.08 1 呼吸器症状 喘息発作 0.9 (0.2 - 4.1) 1.2 (0.3 - 5.2) 1 0.23 咳 2.3 (1.2 - 4.6) 1.7 (0.9 - 3.3) 1 0.00 痰 2.2 (1.1 - 4.5) 1.7 (0.8 - 3.3) 1 0.00 鼻水 1.5 (0.8 - 2.6) 1.2 (0.7 - 2.1) 1 0.01 1 眼症状 眼掻痒感 3.2 (1.7 - 6) 2.2 (1.2 - 4.2) 1 0.00 眼の充血 2 (0.9 - 4.4) 1.3 (0.6 - 2.9) 1 0.00 眼の痛み 4.8 (1.5 - 15.5) 3.2 (1 - 10.3) 1 0.00 眼脂 4.2 (1.6 - 10.6) 3 (1.2 - 7.6) 1 0.00 1 皮膚症状 湿疹 2.9 (1.1 - 7.3) 2.2 (0.8 - 5.5) 1 0.00 皮膚掻痒感 1.6 (0.8 - 3.1) 1.4 (0.8 - 2.8) 1 0.09 * 2006年7月の症状に関し、2800m を対照とし多変量解析を試行しオッズ比を算出 性・年齢・喫煙・花 粉症の有無を調整 † トレンドの検定のp値 赤い数字は95%信頼区間が1を含んでいない結果、又はトレンドの検定で有意 12 結論1 • 前回の報告書と同様に、今回の解析結果 は、工場に近く居住している対象者ほど 症状を保有しているということを示して いる。 • より細かく距離を区分しても、また前回 報告書と同様に区分してみても、同様の 結果であった。 13 結論2 • 関連がある症状は、咽頭症状(咽頭痛・いが らっぽい)・呼吸器症状(咳・痰)眼症状(眼 掻痒感、眼の充血、眼の痛み、眼脂)・皮膚症 状(湿疹)である。 • その中でも、工場より500m以内に居住する対象 者は、眼の痛み・眼脂を、約5倍以上も2800mの 地域と比較し多発していることになる。 • これらの症状は工場でのプラスチック処理工程 における大気汚染による影響と考えることがで 14 きる。
© Copyright 2024 ExpyDoc