エビデンスとしての医療事故防止 ー文献レビュー 東京医科歯科大学 阿部俊子・北沢直美 東京医科歯科大学 阿部・北沢 1 2001/10/20 転倒の文献 2001年1月 1990年から2001年までの文献 医学中央雑誌(web版)「転倒」をキーワードに904件の文献が検索 「予防」+「事故」をキーワード絞り込み検索し、29件の文献が検索 「転倒+リスクマネジメント」で4件 「転倒+リスク管理」で5件 「転倒+墜落事故+事故防止」で22件の 文献が検索 海外文献Pubmed(インターネット)で、「fall」 「risk‐management」「nursing」をキーワードに38件 の文献が検索 東京医科歯科大学 阿部・北沢 2 2001/10/20 転倒のリスク因子 *高齢である *これまでに転倒したことがある *鎮痛剤を使用している *認知能力の低下 *視力、聴力の低下 *下肢の障害 *バランス、歩行の障害 東京医科歯科大学 阿部・北沢 3 2001/10/20 転倒把握の手法 入所者のインタビューで把握した -転倒数は232回 インシデントレポートとの一致 -124回(53%) チャートレビューとの一致 -140回(60%) 転倒把握には、インシデントレポートよりも チャートレビューが効果的(kanten DN ’93) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 4 2001/10/20 転倒の頻度 自宅で暮らす65歳以上の高齢者の1/3が転 倒、そのうち転倒を毎年繰り返すものが約 半数 NIAによると、転倒を起こした40%の人は股 関節(大腿骨)を傷害し、毎年ナーシングホー ムへ入所 「国立老化研究所(NIA: the National Institute on Aging)(1990) 病院に入院している患者の20%、長期 療養施設にいる高齢者の45%までも が転倒する(Toward healthy aging p.409) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 5 2001/10/20 転倒しやすい患者 転倒のハイリスク患者(高齢者、転倒 歴がある、など)は翌週にはその93% が転倒 転倒しやすいのは、譫妄のある患者、 排尿回数が多い、不安定な歩行、視 覚障害などのある患者 移動能力は、歩行や起立は一部援助 でできる場合が、一番転倒しやすい (p<0.0001)(Olverら、1997) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 6 2001/10/20 転倒しやすい場所 転倒が起きた場所では、患者の部屋 が76%、トイレが16%(Puetz ’88) 部屋の転倒の多くは、ベッドから車椅 子やポータブルトイレに移る際 「今日はつかまらずにやってみようと 思った」といった障害の現状確認や、 可能性の挑戦などの“確かめ体験”を 意図的にしている (河内 ’98) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 7 2001/10/20 転倒と排泄 転倒の67%は歩行中の転倒 そのうちの55%がトイレもしくはトイレ周辺 (Cail ‘95) 日常生活動作レベルに関わらず、 ・ 排泄行動は自立したいという欲求から無理をする、 助けを呼ばない ・ 尿意などによる焦り ・ 立位保持状態での複雑な動きを必要とする ・ 損傷を誘発しやすい環境で、転倒が明らか 状況が関連し、数が多いとともに障害を伴いやすい 東京医科歯科大学 阿部・北沢 8 2001/10/20 転倒予防 転倒しやすい患者のカーデックス やベトサイドにマークをつけること で転倒は減少した (Kilpack,1991) 転倒予防マット:ナースコールと連 動(コールの反応時間) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 9 2001/10/20 転倒するという不安 二次的な影響として、転倒した20%がまた転倒する ことを恐れて活動を控える(Tinetti&Gintner’98) 転倒に対する不安に固執し、行動が制限され、だん だんベッドにひきこもり 転 倒 の 不 安 は 全 身 の 機 能 の 低 下 と な る ( Graymiceli‘95) 歩行可能な高齢者(N=100)の、転倒の不安と実際 の転倒の間の相互関連の研究で、転倒の恐れのあ る人は姿勢が固くなり、さらに転倒しやすくなる。 転倒の不安と姿勢の変化を同時にアセスメントする 必要性( Maki ら‘91) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 10 2001/10/20 看護の夜勤 MEDLINE「shift work performance sleep research」 をkey wordとして検索 1977~1999年で28件検出。 国内文献については、医学中央雑誌で、「疲労+睡 眠」をkey wordとして検索 1993~2000年で、23件検出。 これらのうち、shiftworkにおける疲労、睡眠と作業 能力との関係について扱った海外文献7件(うち4 件は総説)と、国内文献3件 東京医科歯科大学 阿部・北沢 11 2001/10/20 サーカディアンリズムと過誤リスク サーカディアンリズムの生理学的機能 最も活動性が高まるのは午後 最も低下するのは、早朝とりわけ2時から6 時(Harma,99) 伴い生産操作、鉄道、船舶、航空、電気移 送などにおける事故や過誤のリスクが増 加する(Dings,95) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 12 2001/10/20 勤務時間 勤務時間は、8時間、12時間、24時間というシフトで の検討 勤務時間の長さの違いによる勤務意欲、病欠、離 職、時間外労働、夜勤状況などについて調査。8時 間勤務者と12時間勤務者では、12時間勤務者のほ うがストレスは少なく、身体的にも心理的にも満足 度が高い(Smithら) 長時間勤務が心身に及ぼす影響について調査 ー保健所医師らの通常勤務終了時と当直勤務終 了時の気分、覚醒状態などを測定・比較、 ー長時間勤務後は通常勤務後より、ほとんどの気 分尺度で有意な悪化がみられ、覚醒状態、集中力 も低下(Leonard ’98 n=12) 13 2001/10/20 東京医科歯科大学 阿部・北沢 勤務形態に関する研究 12時間と24時間勤務のフライトナースを比較(n=15)ー記 憶、注意、推論、運動、スピードといったパフォーマンスの 違いはなし 勤務中にまとまった仮眠ができる、フライトの回数といっ た仕事量を示す事柄のほうがパフォーマンスへの影響が 高い (Manacci ’99) 固定12時間シフトの勤務者の睡眠研究(n=26) 1週間の総睡眠時間は両群間に差はないが、一日の睡眠 時間のパターンは異なる。日勤者で勤務中の眠気が有意 に高く、睡眠の質には有意差はないが、日勤者では勤務 前の目覚めの悪さと夜勤者では睡眠の質の低下をわず かに認めた (Gilberg’98) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 14 2001/10/20 勤務時間開始 勤務開始時間を6時から7時に1時間遅らせた場合 の影響(準夜、深夜共に1時間遅くずらす)を見た製 造業者に対する研究 4ヶ月後、睡眠、注意力、疲労感を調査 新スケジュールで日勤者の睡眠増加、注意力も上 昇 終了時間が遅くなった準夜勤と夜勤での睡眠や疲 労に関する因子も変化なし 測定値に反し、ほとんどの労働者は新スケジュール に満足を示さず、年齢でも比較でも差が無かった (Rosa ’96 n=208) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 15 2001/10/20 仮眠の必要性 10時間の夜間フライトを、2日連続で行ったパ イロットの眠気の研究(n=22) 注意レベルを維持できるだけの睡眠がフライト 中は取れないー仮眠をうまく取ることが効果的 で、自然に生じる眠気を仮眠につなげられるよ うな環境を整えることが望ましい( Gundel ’95)。 24時間勤務の消防署員のサーカディアンリズム を1週間調査した研究(n=24) 勤務中のリズム(口腔内温度、握力、心拍数、 主観的な眠気、疲労感、注意力)で普段との変 化を観察。100分以上夜間救急業務に携わった 場合に変化大きく、4時間以上の連続した仮眠 がリズムの安定化となる(Motohashi ’93)。 16 2001/10/20 東京医科歯科大学 阿部・北沢 2交替と3交替 二交替制夜勤勤務前の疲労度は、三交替勤務の 夜勤(準夜および深夜)前より低く、また夜勤勤務後 の疲労度は、看護度が高い病棟では三交替勤務の 深夜勤後より高かった しかし、次の勤務まで疲労を残していなかった 「内田クレペリンテスト」では、二交替者と三交替者 で作業能率に差がなく、自覚的精神健康度調査で は、三交替者で不眠や不安の平均得点が高く、ま た社会的活動障害が大きく、総合では精神的健康 度が低かった(市川’98 n=404) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 17 2001/10/20 2交替と3交替 国立病院に勤務する看護婦を対象に行った調査で は、二交替制勤務のほうが疲労が高く、二交替制 導入後、看護婦の腰痛、頸肩症障害、胃炎・十二指 腸潰瘍、生理不順、生理痛などの訴えの増加がみ られた(田中’97 n=95) S私立大学病院は、3人夜勤であり勤務中の休憩 時間150分(仮眠時間120分を含む)が保証されてい た(市川) 国立病院・療養所は、配置人員数が少なく(1994年 の100床あたりの看護婦数;国立病院:38.19人、一 般病院:43.23人)、2人夜勤が多く、仮眠がほとんど とれていなかった 東京医科歯科大学 阿部・北沢 18 2001/10/20 サーカディアンリズム サーカディアンリズムの眠気 ー昼間15時前後に小さなピーク ーその後夜中24時前後に大きなピーク ー体温もそれに相関して変動。 但し、人間には「朝型」と「宵型」の大きく2つ のタイプがあり、人によってそれぞれ眠気や 体温の変化のピークが現れる時間が3時間 前後ずれている(井上’89) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 19 2001/10/20 2交替と3交替の眠気と疲労 「眠気と疲労度」の自覚症状では、日勤始業前、日 勤終了後、夜勤終了後で、それぞれ三交替勤務者 のほうが有意に疲労度が強い 「スタンフォード眠さ尺度」による夜勤中の眠気の評 価で、深夜1時~4時にかけて二交替勤務者で有 意に強かった その前後の時間帯では三交替勤務者のほうが強く、 特に深夜3時~6時に最も眠気が強かった 休息・活動リズムを測定したところ、三交替勤務者 は、二交替勤務者に比べ、24時間より短い周期をと る「ウルトラディアンリズム」になっている者が有意 に多く、生体リズムへの影響が大きいことが示唆さ れた(赤星’99 n=47) 20 2001/10/20 東京医科歯科大学 阿部・北沢 2交替勤務と3交替勤務 私立G大学病院の看護婦調査 二交替制夜勤の開始後8時間の眠気出現率30% は、三交替制の深夜勤務開始直後の値10%より高 かったが、この時間帯以外での差はなかった 疲労感:二交替制夜勤の開始後12時間後に疲労感 出現率が40%と増加。しかし準夜勤または深夜勤 後半の値60%より低い 忙しさの訴え:二交替制夜勤中の割合は準夜勤中 あるいは深夜勤終了2時間前に比べ半分以下。だ るさについての訴えは、二交替制夜勤中のほうが 一貫して高かった(Takahashi’99 n=40) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 21 2001/10/20 仮眠時間と見逃し反応 夜勤勤務者の仮眠時間の違いによる視覚 的看視作業における応答反応および見逃し 反応 仮眠条件を「仮眠なし」「1時間仮眠」「2時間 仮眠」の3群に分けて実験 応答反応時間:2時間仮眠条件では、仮眠 なし条件に対して有意に短い反応時間 見逃し反応数:2時間仮眠条件および1時間 仮眠条件は、仮眠なし条件と比較して有意 に少ない (斎藤’00 n=8) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 22 2001/10/20 勤務後の睡眠の研究 中堅の救急医6人対象 前向き二重盲検コントロール研究 睡眠生理学やサーカディアンリズム、スケジューリング における時間生物学の原理、効果的な睡眠を得るた めの戦略などに関する2時間の教育、時間生物学に 基づいた勤務(準夜→深夜の右回りの進行、持続夜勤 は2回までに制限、夜勤の後は48時間の勤務解除な ど)を設定し、勤務中に覚醒と作業能力を維持する31 項目の方策(NASA)をとれるよう設定 勤務後の睡眠(休養)時間の長短だけが疲労状態や 勤務意欲に関係しているのではない (Smith-Coggins ’97) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 23 2001/10/20 夜勤に関しての結論 *交替制度の変化によって作業能率に差は出 ない *3交替勤務のほうが精神健康度は低い *眠気が発生しやすい時刻、勤務開始時刻と 覚醒状態・作業能力との関係、仮眠の効果 などは明確 *業務の多忙度と眠気・疲労との関係、眠気・ 疲労状況と事故発生率などを数式的に明示 した研究は見あたらなかった(医学) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 24 2001/10/20 シフトのあり方 適切な休息方法についても、睡眠は個々人の生活 リズムに関連する因子が大きいことによるため、特 定調査結果を個人に適応するのは困難 シフト勤務をこなすためのよりよい睡眠健康法をア ドバイスし、催眠の知識を増やしても、生活に取り 入れられる人又は取り入れたいと思う人はまれであ る(Holbrook MI ’94 n=38) 組織のために最も望ましいシフトの開始と終了時間 を大規模で制定するのは難しく、同じ組織の中でも ある程度個人の希望にあわせた勤務体制が必要 東京医科歯科大学 阿部・北沢 25 2001/10/20 誤薬:用語の理解 1.ADEs (Adverse Drug Events):薬剤事故 1)防止可能な薬剤事故 (Preventable ADEs) :エラーにより引き起こされ、対象に何らかの傷害を与えた事故 2)防止不可能な薬剤事故 (Non-Preventable ADEs) :エラーは存在しないが、対象に何らかの傷害 を与えた事故 2.ADRs (Adverse Drug Reactions):薬剤副作用 (反応)=防止不可能な薬剤事故(前述) WHOの定義「予防、診断、治療などの目的で、薬剤を常 用量、適切に使用したにもかかわらず、発現した有害 な反応」 3.Medication Errors:薬剤エラー 患者への傷害の有無に関わらず、薬剤の処方、転記、 調剤、投薬、モニタリングの過程で生じるエラー 東京医科歯科大学 阿部・北沢 26 2001/10/20 例 「ペニシリンアレルギーがあると知っていたに もかかわらず、患者にアンピシリンを投与し たら、患者がショック状態に陥った」= 「ADE:薬剤事故」 「ペニシリンアレルギーの既往があると知らず にアンピシリンを投与したら、患者がショック 状態に陥った」=「ADR:薬剤副作用反応」 東京医科歯科大学 阿部・北沢 27 2001/10/20 誤薬の背景 (米国) ・病院での医療事故(注1)のうち19.4%は薬剤に関連し ており、このうち医療者側に過失のあるもの(=防 止可能なもの)は17.7% (Leape,1991) (注1)ここでの「医療事故」は「死亡事故、入院を延長させた事 故、退院時まで障害が残った事故」と定義されている ・薬剤事故発生率 入院100件あたり 6.5件 (このうち防止可能な薬剤事故は1.8件) ・潜在的薬剤事故(=薬剤事故を起こす可能性のあっ た事故=ニアミス)発生率 入院100件あたり 5.5件 (Bates,1995) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 28 2001/10/20 (米国) ・投薬プロセスにおける薬剤エラーの発生段階 事前にエラーが発見され 訂正された割合 ①医師による処方 39% → 48% ②事務職による転記 12% → 33% ③薬局での調剤 11% → 34% ④看護婦の投薬 38% → 2% ・薬剤事故と潜在的薬剤事故事例のうち約 20%は2つ以上の薬剤エラーが存在している (Leape,1995) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 29 2001/10/20 (米国) ・薬剤エラーの種類 ①量間違い :28% ②患者の状態に不適切な薬剤の選択:9% ③薬剤間違い :9% ④アレルギー薬剤投与 :8% ⑤投与忘れ :7% (Leape,1995) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 30 2001/10/20 (米国) ・薬剤エラーの直接原因 ①薬剤知識の不足:22% ②患者に関する情報不足:14% ③規則違反:10% ④うっかりミス、忘れ:9% ⑤転記エラー:9% (Leape,1995) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 31 2001/10/20 日本における調査 ・看護のヒヤリ・ハット事例 約1万件 与薬関連業務:46.7% (川村、1999) ・看護上の事故調査 約5千件(1994) 注射(17.7%)+与薬(12.5%):30.2% (杉谷、1997) 日本では大規模な調査は行われていない現状で、薬 剤事故発生率等のデータはない ・各病院におけるインシデントレポート(医療事故報告 書、ヒヤリハット報告書等)の内わけでは、薬剤に関 連したものが多いとされている (田中、1999.田浦、1999.など) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 32 2001/10/20 1.ADEs:Adverse Drug Events:薬剤事故) 1)臨床判断支援システム付き オーダーエントリーシステム 2)薬剤事故防止における臨床薬剤師の役割 3)ユニットドーズ配布システム AHRQ(連邦医療調査・品質庁) 「安全な医療の構築ー患者安全実践の批判的分析ー」 エビデンスレポート(2001、1)より 東京医科歯科大学 阿部・北沢 33 2001/10/20 1)臨床判断支援システム付き オーダーエントリーシステム 内容):臨床判断支援システムには薬剤量、投与法、 投与回数についてアドバイスとなる値を提示する 血液検査値のチェック、薬剤相互作用のチェックな どを含む ・668病院のうち15%はオーダーエントリーを使用 ・1050病院の薬局長への調査(回収率51%)では、 13%がオーダーエントリーを使用しており、27%が導 入を検討 文献):4文献をレビュー ・臨床判断支援システムのみについて4文献をレ ビュー(うち2件はシステマティックレビュー) 34 2001/10/20 東京医科歯科大学 阿部・北沢 オーダーエントリーシステム導入結果 ①臨床判断支援システム付きのオーダーエント リーシステム ・重篤な薬剤エラーが55%減少 ・防止可能な薬剤事故が17%減少(有意差なし) ・与薬忘れ以外の薬剤エラーは81%減少 ⇒しかし、実際に薬剤事故を有意に減少させたという結果を示すもの はない。また、各施設で開発、運用されており一般性は低い 東京医科歯科大学 阿部・北沢 35 2001/10/20 オーダーエントリーシステム導入結果 ②臨床判断支援システムのみ ・14研究のうち6件は患者アウトカムの改善あり ・65研究のうち43件は医師の実践の改善あり ⇒薬剤量、予防的ケアなどの臨床実践を高めることができるが、臨床判 断支援システムが患者アウトカムに与える影響は明確ではない ・薬剤副作用が6%減少 ⇒与薬システムの一部分の側面を伝えているにすぎない。また、臨床判 断支援システムの相違について情報がほとんどない 東京医科歯科大学 阿部・北沢 36 2001/10/20 オーダーエントリーシステムのコメント ・薬剤エラーの頻度を減らすという利点を示しているが、 薬剤事故への影響や臨床アウトカムの改善に関し て利用できるデータはほとんどない ・研究でのシステムは各施設で開発、運用されている ものであり、一般に開発されたシステムとの比較が 必要となる。 ⇒更なる質の高い研究が必要 東京医科歯科大学 阿部・北沢 37 2001/10/20 2)薬剤事故防止における 臨床薬剤師の役割 臨床薬剤師の役割は様々 例:患者の回診に参加、退院時の患者教育など 背景) ・薬剤エラーや薬剤事故のシステムに基づいた分析で、 臨床薬剤師が薬剤使用の質と安全の点でその能力を 発揮できるという影響について注目されている 文献) ・6件(うち3件はシステマティックレビュー) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 38 2001/10/20 薬剤事故防止における 臨床薬剤師の役割:結果 ・防止可能な薬剤事故率が66%減少 ・処方に関する問題が減少傾向(有意差なし) ・すべての薬剤エラーが40から50%減少(有意 差ありは全8種類のうち5種類のみ) ・高血圧・高脂血症・うっ血性心不全・糖尿病患 者のアウトカムが改善(外来) ・死亡数が減少(外来) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 39 2001/10/20 薬剤事故防止における 臨床薬剤師の役割(コメント) ・1つの研究のみが集中治療室における入院 患者の薬剤事故を減少させるという臨床薬 剤師の効果への強力な証拠を提供している さらに別の研究が入院患者の薬剤使用の 安全性と質における病棟臨床薬剤師の影 響への適度の支持を提供 ・外来患者対象でのエビデンスとしての実質的 なものはほとんどない ⇒薬剤エラーと薬剤事故における臨床薬剤師 の影響に焦点を当てた研究が必要 東京医科歯科大学 阿部・北沢 40 2001/10/20 3)ユニットドーズ配布システム ・ユニットドーズ調剤では、薬剤は患者にすぐ与薬でき るようなパッケージにはいって配布される(いろいろ なタイプがある) 薬剤のユニットドーズ調剤は1960年代に開発され、調 査査のほとんどは1970年から1976年に行われた ・1999年の大規模な調査では、回答した病院の4分の 3は中央薬局があり、その77%は自動化されていな かった ・調査病院の約半数は薬局を回避した薬剤配布シス テムがあり、それには病棟ストックの使用、他患者 の薬剤の借用、隠された薬剤供給について報告し た病院を含んでいる 東京医科歯科大学 阿部・北沢 41 2001/10/20 3)ユニットドーズ配布システム ・現在ではユニットドーズ調剤はJCAHOの認 定基準 ・1994年に行われた薬局長の調査では、急性 期ケア病院の92%がユニットドーズ調剤を 使用していると報告 ・ユニットドーズ調剤の使用は一般内科、外科 病棟で共通しているが、集中治療室や手術 室や救急部のような他の部署ではほとんど ない 東京医科歯科大学 阿部・北沢 42 2001/10/20 3)ユニットドーズ配布システム ・1999年の薬局長の調査では、回答者の80% がユニットドーズ調剤は「経口薬の75%以 上」、「調剤された静脈注射用の薬剤の 52%」に使用されていることを報告 ・文献:5件 ・ほとんどの研究は病棟ストックシステムのよ うな別の調剤システムと比較して、ユニット ドーズ調剤の与薬忘れと任務の薬剤エラー が減少したことを報告 (エラーの直接観察法による評価) 東京医科歯科大学 阿部・北沢 43 2001/10/20 3)ユニットドーズ配布システム ・ユニットドーズ調剤の実践を評価している研究 には重要な方法論的な問題を含んでいるが、 相対的にエラーを削減することを示している ・実際の薬剤事故を評価した研究はほとんどな いが、ユニットドーズ調剤や自動ユニットドー ズ調剤の方法は米国の多くの病院で認めら れ、薬剤サービス提供におけるケアの標準と なっている ・より厳格な研究を行うことは難しい 東京医科歯科大学 阿部・北沢 44 2001/10/20 薬剤事故防止 ・米国でもすべてのエビデンスが提示されてい るわけではない ・日本での研究の必要性あり -病院施設と研究者との協力 -国レベルのバックアップ -データの保護と機密性 東京医科歯科大学 阿部・北沢 45 2001/10/20 2.薬剤エラーと看護に関する レビュー MEDLINEとCINALで検索(1982年~1998年) =189文献 会議録などを除き、97文献をレビュー キーワードはmedication, errors, nursing O’shea E. Factors contributing to medication errors: a literature review:Journal of Clinical Nursing,8,469‐504,1999. 東京医科歯科大学 阿部・北沢 46 2001/10/20 薬剤エラーと看護: 薬剤エラーの要因と対策 ・看護婦の計算能力の低さ(計算間違い) ⇒試験を行うことの効果は十分に評価されていない ・看護婦の薬剤知識の不足 ⇒薬剤知識に関する継続教育 最新の薬剤情報に容易にアクセスできること 東京医科歯科大学 阿部・北沢 47 2001/10/20 薬剤エラーと看護に関する: 薬剤エラーの要因と対策 ・勤務時間が長いこと、 不適切な業務量・人員配置 ⇒看護業務量に見合った人員配置 ・与薬業務の中断 ⇒静かな環境で集中して与薬業務を行う 東京医科歯科大学 阿部・北沢 48 2001/10/20 3.一般的な薬剤エラー削減戦略 (NCCMERP:薬剤エラー報告と予防のための会議) ①すべての処方箋は読みやすいものであること ②医師はオーダーエントリーシステムを使用し始 めること ③薬剤名を含めて、略語の使用を避けること ④処方箋には使用目的について簡潔なコメントを 記入すること ⑤「U」ではなく「単位」と書くこと 東京医科歯科大学 阿部・北沢 49 2001/10/20 ⑥インシュリンやビタミン剤を除いては、メートル法 を使用すること ⑦あいまいな指示を出さない 例:「必要時に1~2錠」 ⑧処方箋には薬剤名、正確なメートル法による薬 剤量と濃度、形状を記入すること ⑨小数点の後にゼロを付けないこと 例:「15.0→15」 ⑩処方箋には患者の年齢と体重を記入すること 東京医科歯科大学 阿部・北沢 50 2001/10/20 3.一般的な薬剤エラー削減戦略 (JCAHO) ①ユニットドーズの使用 ②薬の準備の方法とダブルチェックの方法を 確立させること ③KCL、0.9%以上のNaClは病棟ストックにし ない ④インシュリンとヘパリンを隣に保管しない ⑤アルファベット順に保管しない ⑥病棟ストック薬を制限する 東京医科歯科大学 阿部・北沢 51 2001/10/20 一般的な薬剤エラー削減戦略 ⑦市販された注射薬を使用する(シリンジに準備 済みのもの) ⑧薬剤の調剤を標準化し、病棟ではすでに調剤 されたヘパリン溶液を使用する ⑨医療従事者への継続的な教育 ⑩薬剤師の役割を変える(医療ラウンドに参加、 医師に直接確認) ⑪医師がコンピューターに直接入力する ⑫プロセスやものを標準化する ⑬バーコードを使用する 東京医科歯科大学 阿部・北沢 52 2001/10/20 一般的な薬剤エラー削減戦略 ⑭薬剤の一般名と商品名の両方を提示する もしくは処方すること ⑮処方せんに薬剤の使用目的を記載すること ⑯口頭指示や電話による指示の規則を作成 すること ⑰すべての薬剤ラベルには一般名と商品名を 提示すること ⑱患者に処方する薬剤の一般名と商品名に ついて書いてある情報を患者に提供するこ と 東京医科歯科大学 阿部・北沢 53 2001/10/20 ご静聴ありがとうございました 次は質疑応答の時間 東京医科歯科大学 阿部・北沢 54 2001/10/20
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