米国の農業における バイオテクノロジー利用の現状と展望 在京米国大使館 米国農務省 海外農務局 佐藤 卓 2 www.isaaa.org 3 www.isaaa.org 発表内容 • 米国における規制の枠組み – 日本の規制との関係 • 作物と形質 – 現在、そして将来 • なぜ生産者はバイテク作物(*)を利用するのか • 米国における消費者の反応 • 日本との関係 *ここで表記する「バイテク」「バイオテクノロジー」は、いわゆる「遺伝子組み換 え」と言われているものとする 4 米国における規制の枠組みと原則 • 1983年 -最初の「遺伝子組換え」 (GE)植物 • 1986 年 -バイオテクノロジー規制の調和的枠組み 「Coordinated Framework for the Regulation of Biotechnology」 • 既存の省庁と法律がどのようにバイオテクノロジーにより開発された製品 を規制するかを記述 • 遺伝子組換え体の持つリスクは、同じような形質の非組換え体の持つリス クと根本的に違うものではない • 規制は科学に基づき、「ケースバイケース」の検討 5 米国における規制の枠組み 農務省 (USDA) 農業、環境への安全性 食品医薬品局 (FDA) 食品、飼料の 安全性 環境保護庁 (EPA) 農薬としての 安全性 6 米国における規制の枠組み 形質・作物 関連機関 審査項目 食用作物における害虫抵抗性 (Bt コーン) USDA EPA FDA 農業・環境への安全性 農薬について環境、食品・飼料の安全性 食品・飼料の安全性 食用作物における除草剤耐性 (ラウンドアップ・レディ大豆) USDA EPA FDA 農業・環境への安全性 新規除草剤の使用 食品・飼料の安全性 観葉植物における除草剤耐性 USDA EPA 農業・環境への安全性 新規除草剤の使用 油脂組成を改変した食用作物 (高オレイン酸大豆) USDA FDA 農業・環境への安全性 食品・飼料の安全性 色を改変した観葉植物 (青いバラ) USDA 農業・環境への安全性 7 米国農業における バイオテクノロジーの利用 100 92% 86% パー セント 80 80% 60 トウモロコシ 大豆 40 綿花 20 0 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 8 作物と形質 • 現在利用されている作物 – – – – 大豆 トウモロコシ 綿花 園芸作物などではコストの面から普及が遅れ気味 • 現在利用されている形質 – 害虫抵抗性 (“Bt”) – 除草剤耐性 (グリホサート, グルホシネート) – ウィルス抵抗性 (パパイヤ) • 今後の市場に出てくる形質・作物 (近い将来) – 環境ストレス耐性(乾燥ストレス、塩類ストレス等) – 栄養成分・油脂成分を改変したもの – 開発途上国で利用されている作物(キャッサバ、ソルガム、バナナ等) 9 今後上市が予定されているバイテク大豆* 栽培に関連した形質 A Steady Pipeline of New Biotech Events Nearly Every Year Omega-3 連した形質 (Monsanto; Steandonic Acid) RR2Y 食品としての品質に関 Omega-3 Bt/RR2Y (EPA/DHA) (Monsanto) DuPont Low Sat (Monsanto) Rust (Monsanto) High Stearate (Monsanto; DuPont) High BetaConglycinin (Monsanto; DuPont) (Monsanto; Pioneer Dicamba Tolerant (Monsanto) LowPhytate Feed: High Protein Soybean (Monsanto; DuPont) Yield Antibody containing (Monsanto; Pioneer) (against E. coli 0157:H) (DuPont) 201X 2009 Low Lin Modified 7S Protein FF (Syngenta) (Dupont) High Oleic (DuPont) Glyphosate & isoxazole tol. (Bayer)* High Oleic, Stearate (DuPont) GAT/Glyphosate-ALS (Pioneer) Liberty Link (Bayer) Disease (Monsanto; Pioneer) Soybean Cyst Nematode Monsanto; Pioneer Processing: High Oil Soy (Monsanto) Herbicide tol.: 2,4-D (Dow) and aryloxyphenoxy propionate herbicides *Estimated pipeline of soybean biotech events prepared by the American Soybean Association, November 2007. 10 米国 日本 農林水産省 (食品安全委員会) 農務省 (USDA) 農業、環境への安全性 飼料としての安全性 食品医薬品局 (FDA) 食品、飼料の 安全性 環境保護庁 (EPA) 農薬としての 安全性 厚生労働省 食品安全委員会 農林水産省 環境省 食品としての 安全性 環境面での 安全性 11 BIO (Biotechnology Industry Organization) Product Launch Stewardship Policy 承認時期の‘ずれ’は輸入国における‘未承認’遺伝子組 換え作物に対するゼロトレランスとあいまって、貿易に大き な混乱をもたらす可能性を有している。 Asynchronous authorizations combined with importing countries maintaining "zero tolerance" for recombinantDNA products not yet authorized results in the potential for major trade disruptions. 12 http://www.bio.org/foodag/stewardship/20070521.asp#foot BIO Product Launch Stewardship Policy 新たなバイテク製品が上市される前に、 (少なくとも米国、 カナダ、日本を含む)主たる市場において、必要な法規制 に対応する… Meet applicable regulatory requirements in key markets (which at a minimum shall include the United States, Canada, and Japan) prior to commercialization of a new biotechnology product … 13 http://www.bio.org/foodag/stewardship/20070521.asp#foot 日本で承認済みのバイテク作物 • 食品:88 イベント – トウモロコシ:36イベント – 大豆:6イベント • 飼料:75イベント • 環境:75イベント • USDA-FASによるバイテク企業へのアンケート調 査(2008年4月) – 2008、2009年度に日本での申請予定:51イベント 14 なぜ生産者はバイテク作物を 栽培するのか? • 生産量、生産性の増加 • 労働時間の減少 • 生産コストの減少 – 燃料、農薬使用量、農業機械 • 環境保全上の利点 – 低農薬 – CO2排出量・農薬使用量の低減, 不耕起栽培の推進 • 病害虫対策 – パパイヤについてはバイテク作物がPMVに対する唯一 の防除方法 低価格・ 安定供給 • 新たな形質の利用(今後) – 栄養成分改変(脂肪酸等) – 環境ストレス耐性(耐乾性、耐塩性) – 吸肥効率向上(NUE等) 15 米国における農家の年齢構成 年 生産者数 25歳以下 (数) 65歳以上 25-34 パーセント 平均年齢 (才) 1997 1,911,859 1.1 6.7 26 54.3 1987 2,087,759 1.7 11.6 21.4 52 1978 2,257,775 2.9 12.6 16.4 50.3 1969 2,730,250 1.9 10 16.6 51.2 1959 3,710,503 1.7 11 16.8 50.5 1950 5,385,525 3.2 15.7 14.8 48.3 1940 6,102,417 4 16.3 14.2 48 16 http://www.ers.usda.gov/briefing/FarmStructure/Data/farmsopsbyage.htm バイテク作物を利用することによる経費抑制効果 燃料使用量の低減 Brooks and Barfoot. 2006. GM Crops: The First Ten Years - Global17 Socio-Economic and Environmental Impacts. バイテク作物の利用による環境負荷低減効果 CO2放出量の低減(乗用車換算) 18 Brooks and Barfoot. 2006. GM Crops: The First Ten Years - Global Socio-Economic and Environmental Impacts. Papaya Ringspot virus 19 http://apec.biotec.or.th/ Papaya Ringspot virus • RNAウィルス、長さ800900nm、直径12nm • アブラムシにより媒介 • タイ、台湾、フィリピン、ハワ イ等で被害 • 薬剤等による対処法なし • 被害の拡大を防ぐために伐 採 20 http://apec.biotec.or.th/ バイオテクノロジーによ る病害虫対策 PRSV抵抗性パパイヤ ‘Rainbow Papaya’ RESEARCH AND DEVELOPMENT: University of Hawaii - Manoa Cornell University USDA – ARS PATENT RIGHTS LICENSED FROM: Monsanto Asgrow Massachusetts Institute of Technology Cambria 21 オーストラリア 乾燥耐性小麦 •2000万haの農地 が乾燥の影響 •2006/2007の旱魃 で3億ドルの被害 22 米国消費者のバイオテクノロジー受容状況調査 • International Food Information Council – http://www.ific.org/ • Washington, DC • 食品安全等に関するリスクコミュニケーション – 米国、EU、オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド、南ア フリカ • 米国消費者の消費トレンド調査 – – – – 18歳以上 インターネットによる調査 2007年7月11日から27日 1000人 23 食品に利用される植物にバイオテクノロジー を利用することについてどう思うか? 20 きわめて好ましい 9 22 5 どちらかと言えば好ま しい どちらともいえない どちらかと言えば好ま しくない きわめて好ましくない 11 33 意見を述べる十分な知 識を持っていない 24 International Food Information Council http://www.ific.org/research/biotechres.cfm 現在、バイオテクノロジーを利用した食物が スーパーで売っていると思うか? 23 10 思う 思わない 知らない 66 25 http://www.ific.org/research/biotechres.cfm 現在、バイオテクノロジーを利用した食物が市販さ れているとしたら、どんなものに利用されているかと 思うか?(自由に記述) 6 野菜 5 3 21 果物 40 9 11 トウモロコシとそれを利用 した製品 肉、卵、魚 トマト 穀物、シリアル 牛乳、乳製品 20 大豆 23 22 加工品 ジャガイモ その他 26 http://www.ific.org/research/biotechres.cfm バイオテクノロジーを利用した食物は近い将 来(5年以内)に消費者(例えば自分自身や家 族)に利益をもたらすと思うか? 30 思う 思わない 解らない 53 17 27 http://www.ific.org/research/biotechres.cfm バイオテクノロジーを利用した食物が近い将来(5年以内) に消費者(例えば自分自身や家族)に利益をもたらすとす れば、どのような利益だと思うか? 4 1 4 栄 養 ・健 康 5 34 4 質 の 向 上 ・味 ・ 品 種 価格等の経済面 15 農業生産性向上 安全性 農薬使用の減少 16 医学的効用 27 22 その他 解らない 無し 28 http://www.ific.org/research/biotechres.cfm バイオテクノロジーを利用して開発された品種、例えば害虫抵抗性が あり、農薬の使用が少なくて済むトマトやジャガイモが市販されたら購 入するか?(その他の形質は既存の品種と変わらないものと仮定す る) 7 27 15 たぶん購入する 購入するかもしれない 購入しそうにない たぶん購入しない 51 29 http://www.ific.org/research/biotechres.cfm バイオテクノロジー利用して、オメガ3脂肪酸などの健康に良 い脂肪を含む食品が開発され、市販されたら購入するか? (その他の形質は既存の品種と変わらないものと仮定する) 7 15 29 たぶん購入する 購入するかもしれない 購入しそうにない たぶん購入しない 49 30 http://www.ific.org/research/biotechres.cfm 現在、米国食品医薬品局(FDA)は特定の条件でのみ食品表示を義 務化している。例えばバイオテクノロジーを利用によるアレルゲンの生 成、当該食品の栄養成分が根本的に改変された場合等である。それ 以外では特に表示は義務化されていない。現行の規制についてどう思 うか? 5 8 33 27 27 強く支持 ある程度支持 どちらでもない ある程度反対 強く反対 31 http://www.ific.org/research/biotechres.cfm バイオテクノロジーを利用し、トウモロコシやイネで医薬品成 分を生産する技術について、聞いたことがあるか? 4 15 たくさん 数回 少し 54 27 まったく聞いたことが ない 32 http://www.ific.org/research/biotechres.cfm バイオテクノロジーを利用して、食用作物に医薬品成分を作 らせることに対してどう思うか? とても好ましい 14 25 ある程度好ましい どちらでもない 3 27 6 あまり好ましいことで はない 好ましいことではない 判断をするに十分な知 識を有しない 25 33 http://www.ific.org/research/biotechres.cfm 米国における食品大豆製品のシェアー 40億ドル トップ製品 Functional food 機能改善飲料 2% Condiment 調味料 Herb products 1% ハーブ製品 Yogurt 1% Dessert ヨーグルト&ケフィ-ル Health drinsk 冷たいデザート類 2% 健康飲料 2% 1% その他 Cheese replacement 5% チーズ&チーズ代替製 品 Soy milk 2% 豆乳 Frozen food 21% 冷凍食品(ピザ、他) Chips2% チップス&スナック 2% Cookies・snack bars クッキー&スナックバー 3% Cereals コールド シリアル 4% Top 5 items takes 73% 1.Soy milk (豆乳飲料) (21%) 2.Energy bars (エナジー バー) (18%) 3.Meat replacement (肉 代替製品) (14%) 4.Supplement (サプリメ ント) (13%) 5.Tobu (豆腐) (7%) Tofu 豆腐 7% Energy bars エナジーバー 18% Meat replacement Suppliment 肉代替製品 サプリメント、パウダー 14% 13% 34 Soyatech 2006 日本経済新聞 2008年5月23日 35 日米関係における農産物貿易と バイオテクノロジー • 日本の米国からの農産物・食品輸入額 – 2007年:115億ドル • 日本の穀類輸入量 – トウモロコシ(穀物):1500万トン、 26億ドル – カロリー計算で家畜飼料の半分は米国由来 – 大豆:33万トン、 7億ドル • 日本は世界一のバイテク作物輸入国(国民一人当 たり) 36 日米関係における農産物貿易と バイオテクノロジー • 食糧安全保障 – 日本の食料自給率:40% – 既にバイオテクノロジーに大きく依 存している – 国産か輸入か、ではなく、いかに安 全な食料を安定的に供給できるか • バイオテクノロジーは米国を含め た世界の農業とって、極めて重 要なツールのひとつ • 科学的知見と判断基準にもとづ いた意思決定 37 参考ウェブサイト 米国大使館農務部ウェブサイト (日本語) http://www.usdajapan.org/jp/index.html U.S. regulatory agencies http://usbiotechreg.nbii.gov U.S. Embassy Report on Agricultural Biotechnology In Japan http://www.fas.usda.gov/gainfiles/200807/146295225.pdf 「myfood」 アメリカ食品の情報サイト(日本語) http://www.myfood.jp 38
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