神道と生命倫理 1 「神道」Shintoの由来 「神」:日本古来の神概念「神」(shen)の音読み 本来は「上」の意味(高い位置、場所、地位) 川上、髪、肥後守など、 「道」:漢字のTaoの音読み 物理的な道、探求心、求道心の意味 剣道、柔道、茶道、華道 「神道」:高き方の道、高き方を尋ねる道、高き方を 求める道 仏教や儒教に対立する用語( 6世紀) 2 神道の特色 古代からの原始(土着)宗教 日本から流出しなかった宗教 日本の風土にむすびついた神々を主要な崇 拝対象とした日本人の民俗宗教 宗教として意識皆無 創唱宗教のように教祖を擁し、教団・教義の確 立した体系欠如 日本人の習俗や伝統と同一視 3 出雲大社本殿 日本最古の神社のひとつ。社格は伊勢神宮についで高い。切妻4 造、妻入りの代表的な大社造。本殿は1744年の遷宮の時建設。 神道の特色 教理のない宗教 本来の神道-教えることを拒否 教団の成立皆無 自然の恩恵への感謝 豊作への感謝 自然の猛威に対する畏怖の念 干ばつに対する懇願の祈り 汚れからの潔めの思い 5 神道の特色 極度に曖昧な神概念 信仰の対象になる体系的な神概念の欠如 何か貴い、高い、大きいものの存在に対する 素朴な宗教的感覚の対象としての神々 伝統的生活様式と一体になった信仰習俗 審美感と宗教観が混合した神道 6 神道の特色 道徳規範のない神道 確立した倫理体系不在 中国文化が導入されるまで道徳律欠如 儒教が倫理を輸出 禅宗が自己鍛錬を紹介 神道が愛国心と忠誠心を培養 7 伊勢皇大神宮正殿 伊勢皇大神宮正殿、その本殿形式は唯一神明造。 8 神道の特色 居住共同体の神道 集落社会に始まる宗教 それぞれの集落にまつられる氏神 氏神を中心にした集落行事(お祭り)、行事 参加が生む連帯感 「内」と「外」を区別する社会的領域の線引き We-group(in-group)対They-group(outgroup) 異人嫌い、戦争で進展した残虐行為 9 神道の特色 居住共同体の神道 民俗宗教としての神祇信仰 稲作農耕の中で形づくられた氏神など共同体 祭祀(さいし) 祭りごとに神をよぶという伝統 勧請(かんじょう):同じ神の分霊をどこにで も迎えて祀る習慣 外来の宗教からの刺激による国家意識の高揚 10 日本人の道徳律 土着の倫理観欠如 日本人は神々の子孫であるゆえ倫理不要 道徳律があるとすれば「忠信」 天皇、目上、上司の恩に対する義理観 輸入宗教と倫理観 儒教による社会倫理の発芽 仏教(禅)」による道徳的自己鍛錬の導入 11 日本人の三つの思い 自然を愛する思い-神道から 芸術を愛する思い-仏教から 学問を愛する思い-儒教から 12 神道と生命倫理 教義的に「軽装備」である神道 生命倫理と先端医療技術に対する神社本庁の公 式声明皆無 医師を兼ねる神職者による散発的な応答 神道の名の下に「日本文化」的観点からの私的 な意見 先端医療技術に対する直接対決的ではなく「受 け身」の対応 13 神道と生命倫理 理論的・教学的・神学的体系の不在 生命倫理に対しては低いするプライオリティー 仏教移入による通過儀礼の歴史的疎遠傾向 神道の「国家祭祀 (さいし) 」による神職者の宗教 的制限 教派神道(新興宗教)の生命倫理議論への参入 14 神道と脳死 民間伝承、現世的感覚から「脳死」に否定的 霊魂が人の身体から離れ(死)、再び戻る「臨死」 の可能性から「脳死」に反対 「心臓死」を死の基準とする神道 医学的、技術的問題に消極的に対応 「後味の悪さ」のある医療判定は認めない立場 15 神道と臓器移植 日本人にとって感性的に移植は不自然 「肉体に宿る霊魂のとの繋がりを人工的に中断 する行為」として臓器移植に批判的であるもの 「生」に執着する方向に流れやすい医療現場の 議論に疑問 「公共に身を尽くす」という「徳」の倫理観から 臓器移植を「緊急奉仕」として是認する少数 の立場 統一見解公式声明のない神道 16 神道学者の意見 -ドナーの視点から- 神道には、共同体のために奉仕する、 人類進歩のために奉仕するという精神 がある。だから、神道からドナーがでるこ とが、神道精神から言っても正しい。(安 蘇谷正彦) 17 神道学者の意見 -ドナーの視点から- 「次のいのちのための献体という自己 検診は重視すべきであり、神道精神に 叶う 。」 (戸田義 雄) 「脳死者の霊魂は自分の内臓の切除さ れるのを見ている…数は多くないが、臨 死の状態から立ち戻った人の語る所を 尊重しなければならない」 (森 18 神道学者の意見 -レシピエントの視点から- 「臓器提供者が現れることを心 から願っている。...脳死という 不幸が人の上に現れることを祈 る気持ち...このような神の心 に最も遠い心を持ちたくはな い。」(森田康之助) 19 教派神道と生命倫理 基軸になる教義不在の神道 主義主張に鷹揚 異端に近い民間信仰・教派神道の乱立 教派神道-大本教(1892年) 大本、出口なおに降りた神示を立教の原点とす る教派神道系の教団(成長の家・世界メシヤ教) 一般に「大本教」、正しくは「大本」 教典: ①出口なお『大本神諭』 ②出口王仁三郎『霊界物語』 20 大本教と脳死・臓器移植 「脳死」を個体の死とは見なさない。 「死の瞬間」という理解から臓器移植に反対 心臓の鼓動が全く休止するまで、霊魂がその 肉体より分離しないで、臓器と相応に連結し ていると主張 脳死の心臓移植は、ドナーの霊魂まで移植 21 大本の聖地「梅松苑」 22 大本教と臓器移植 人間を生かす医療技術の恩恵は認めるが、 人間を死に至らせる臓器移植は容認不可 個々の臓器はその人の固有のものだから 臓器移植に関わる拒絶反応の実例から 自然の法則に逆らう技術 23 儒教と生命倫理 24 儒教の基本的教義 孔子教(Confucianism)とも称せられる人倫秩 序を基本とした社会理念 家族組織から政治体制にいたる具体的規範 日本文化・道徳律の確立に少なからぬ影響 近代日本人の心性の骨格を形成 仏教・道教と密接な関わり 禅儒僧の出現(形は仏僧で思想は儒者) 武士道への影響 25 儒教の基本的教義 五倫 君臣、父子、夫婦、兄弟、朋友間の秩序 身分血縁関係のあるべき人倫規範 五常 仁、義、礼、智、信 修己治人 修己:五常の修養 治人:五倫秩序の実現 26 儒教と生命倫理 社会倫理性の強い儒教 祖先崇拝にある宗教性 宗教性の中心-「宗教的孝」 生きている親に対する孝行 祖先崇拝と 子孫を生み育てること 27 孔子像 28 儒教と生命倫理(韓国) 「身なる者は、父母の遺体であ る」 『礼記』 過去から現在、現在から未来へと継承される生命 父系血統を重んじる韓国儒教の倫理観 「ジパジ」と呼ばれる「代理母」の習慣 旧約にも存在する習慣 29 儒教と生命倫理(韓国) 儒教精神の強い韓国における臓器移植 儒教的な感覚では臓器移植は否であるはず 日本よりリベラルな韓国では生殖医療が普及 肉体は親の遺したものとする日本文化 出来る限り傷つけないように大切にする努力 肉体から臓器を取り出すこと、献体を拒否 30 儒教と生命倫理(韓国) 先端医療技術の補完的役割を果たしている 儒教 肉体を毀損する儒教の「遺体観」を根底にし た生命倫理 儒教の中心的教理である「孝」を優先させる 韓国の生命倫理 「孝」という道徳の故に「遺体」の毀損も受容 31
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