STASーJの評価を ケアに生かす

STASーJの評価をケアに活かす
独立行政法人国立病院機構
山口宇部医療センター
(旧 山陽病院)
緩和ケア病棟
片山玲子
はじめに
当病棟では2005年からSTASーJの導入を
試みているが、4年を経過した現在でも全て
の入院患者の評価ができているとは言えない。
4年間の試みを振り返り、問題を明確にするこ
とで今後の活用方法の改善に役立てたい。
病棟の概要
• ベット数 25床(2床室2部屋・個室21室)
• 看護体制 固定チーム・受け持ち制
• 勤務体制 専任医師1名・心理療法士・
日勤看護師6名が基本
• 主治医制
• 看護師の当病棟の経験年数 平均3年8ヶ月
(2008年9月現在)
• 入院患者数 245名(2007年)
• 退院患者数 279名(2007年)
• 平均在院日数 26,4日(2007年)
今までの経過
2005年の活動
•STAS-Jの導入期のため、仮想症例にて学習
•看護師が受け持ち患者に対し、それぞれ評価を行った
結果
問題点
対策
•ケアの見落としや情報収集における偏りに気付く事がで
き、ケアの修正に役立った
•個人では実施する時間の確保が難しい
•個人で実施するため、評価結果に自信が無い
•個人ではなくカンファレンスの時間に評価する
(提起は受け持ち看護師が行う)
•A4サイズの評価表を見ながら実施する
1事例にかかる時間を5~10分に短縮することができた。
2006年の活動
STAS-J活用の利点についての意識が乏しかったのか、
カンファレンスでの提案が少なくなっていった。
•2ヶ月間毎日STAS-Jを活用。
•その前後にアンケートを実施した。
•活用前後の意識の変化について調査した。
アンケート1回目
日々のカンファレンスに
STAS-Jを活用
アンケート2回目
緩和ケアに対する意識調査
2006年
緩和ケア病棟に勤務されて何年ですか?
A.1年未満
B.1年から2年未満
C.2年から5年未満
D.5年以上
1.患者様の痛みについて気づくことができますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
できない
全くできない
できない
全くできない
できない
全くできない
できない
全くできない
できない
全くできない
できない
全くできない
できない
全くできない
できない
全くできない
2.患者様の痛みに対処できますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
3.その他の症状に気づくことができますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
4.その他の症状に対処できますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
5.患者様の不安に気づくことができますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
6.患者様の不安に対処できますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
7.家族の不安に気づくことができますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
8.家族の不安に対処できますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
9.患者様の病状認識(予後に対する理解)について気づくことができますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
できない
全くできない
10.患者様の病状認識について問題があれば対処できますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
できない
全くできない
11.家族の病状認識(予後に対する理解)について気づくことができますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
できない
全くできない
12.家族の病状認識について問題があれば対処できますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
できない
全くできない
13.患者と家族とのコミュニケーションの状況がよく理解できますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
できない
全くできない
14.患者と家族とのコミュニケーションに問題があれば対処できますか?
よくできる
*アンケート用紙は
STASーJを基に独自に
作成した
できる
どちらともいえない
できない
全くできない
できない
全くできない
15.職種間のコミュニケーションが十分できますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
16.患者・家族に対する医療スタッフのコミュニケーションは十分できますか?
よくできる
できる
どちらともいえない
以上です。ご協力ありがとうございました。
できない
全くできない
2006年
アンケートの結果
Q16
Q15
Q14
Q13
Q1
5
4
3
2
1
0
Q2
Q3
Q4
Q5
Q12
Q6
Q11
1回目
2回目
Q7
Q10
Q8
Q9
よくできる・・・5点
できない・・・2点
できる・・・4点 どちらでもない・・・3点
全くできない・・・1点
で集計した
2006年の活動後
結果
•2回目のアンケートでは、全ての項目で改善がみられた。
•特にカンファレンスで評価したことでチーム間のコミュニケー
ションに大きな効果があった。
•情報の共有にも効果があった。
以上の結果から活用の利点についての意識付けはできた
•業務が多忙でSTAS-Jが定着しない
その後の •配置換えでSTAS-Jを知らない看護師が多くなった
問題点 •配置換え看護師へのSTAS-J教育システムがなかった
対策
•STAS-J活用マニュアルの作成
(活用目的・新人・配置換え看護師への指導手順・活用方法の
実際を明記した)
2007年の活動
•STASーJを、配置換え看護師に教育的ツールとして
活用。
•受け持ち患者を対象に、 2ヶ月間活用した。
•その前と後に、2006年に使用した意識調査表を用
いて意識調査を実施した。
2007年の活動後
結果
•緩和ケア経験の少ない配置換え看護師でも、見落としが少なく
なり、多面的に患者・家族の問題に気づくことができた。
•カンファレンス等で、発言の少ない配置換え看護師に対し、チー
ム間のコミュニケーションの面で、高い改善効果があった。
問題点
•入院当日からSTASーJを活用したが、カンファレンスに参加した
他のスタッフと患者様とのコミュニケーションが少ないため、評価
が難しい。
•適切な助言ができないので実際のケアに結びつかない。
対策
•業務に合う活用方法として、現在ルーチンで実施している入院時
の新患カンファレンスに結びつける。
•評価がケアの修正に役立つように、評価記録の方法を検討する。
2008年の活動
•入院・転棟患者様に対し、入院時または転棟時の
新患カンファレンスを行った約1週間後に、STASーJ
を用いて評価する。
•スコア2以上はアセスメントしケアの修正をおこなう。
•上記を年間チーム目標とする。
•STASーJの学習会を実施する。
•症状版の導入について評価記録用紙の検討する
STAS日本語版
患者氏名:
5.患者の病状認識:患者自身の予後に対する理解
在院日数
カンファレンス日
★当てはまる番号に○をつけてください。
1.痛みのコントロ-ル:痛みが患者に及ぼす影響
3.患者の不安:不安が患者に及ぼす影響
0=なし
1=時折の、または断続的な単一の痛みで、患者が今以上
の治療を必要としない痛みである。
2=中程度の痛み。時に調子の悪い日もある。痛みのため、
病状からみると可能なはずの日常生活動作に支障をき
たす。
3=しばしばひどい痛みがある。痛みによって日常生活動
作や物事への集中力に著しく支障をきたす。
4=持続的な耐えられない激しい痛み。他のことを考えるこ
とができない。
0=なし
1=変化を気にしている。身体面や行動画に不安の兆候は
見られない。集中力に影響はない。
2=今後の変化や問題に対して張り詰めた気持ちで過ごし
ている。時々、身体面や行動面に不安の徴候が見られ
る。
3=しばしば不安に襲われる。身体面や行動面にその徴候
が見られる。物事への集中力に著しく支障をきたす。
4=持続的に不安や心配に強くとらわれている。他のことを
考えることができない。
2.症状が患者に及ぼす影響:痛み以外の症状が患者に及
ぼす影響
症状名
(
4.家族の不安:不安が家族に及ぼす影響
)
0=なし
1=時折の、また断続的な単一または複数の症状がある
が、日常生活を普通に送っており、患者が今以上の治
療を必要としない症状である。
2=中等度の症状。時に調子の悪い日もある。病状からみ
ると可能なはずの日常生活 動作に支障をきたすことが
ある。
3=たびたび強い症状がある。症状によって日常生活動作
や物事への集中力に著しく支障をきたす。
4=持続的な耐えられない激しい症状。他のことを考えるこ
とができない。
①
②
③
④
家族は患者に最も近い介護者とします。その方々は、両
親であるのか、親戚、配偶者、友人であるのかコメント欄に
明記して下さい。
注:家族は時間の経過により変化する可能性があります。
変化があった場合、コメント欄に記入して下さい。
コメント
(
8.職種間のコミュニケーション:患者と家族の困難な問題
についての、スタッフ間での情報交換の早さ、正確さ、
0=予後について十分に認識している。
充実度
1=予後を2倍まで長く、または短く見積もっている。例えば、 関わっている人(職種)を明記してください
2一3ヶ月であろう予後を6ヶ月と考えている。
(
)
2=回復すること、または長生きすることに自信が持てない。
例えば「この病気で死ぬ人もいるので、私も近々そう
0=詳細かつ正確な情報が関係スタッフ全員にその日のう
なるかもしれない」と思っている。
ちに伝えられる。
3=非現実的に思っている。例えば、予後が3ヶ月しかない
1=主要スタッフ間では正確な情報伝達が行われる。その
時に、1年後には普通の生活や仕事に復帰できると期
他のスタッフ間では、不正確な情報伝達や遅れが生じ
待している。
ることがある。
4=完全に回復すると期待している。
2=管理上の小さな変更は、伝達されない。重要な変更は、
主要スタッフ間でも1日は以上遅れて伝達される。
3=重要な変更が数日から1週間遅れで伝達される。
例)退院時の病棟から在宅担当医への申し送りなど。
4=情報伝達がさらに遅れるか、全くない。他のどのような
スタッフがいつ訪ねているのかわからない。
6.家族の病状認識:家族の予後に対する理解
0=予後について十分に理解している。
1=予後を2倍まで長く、または短く見積もっている。例えば、
2-3ヶ月であろう予後を6ヶ月と考えている。
2=回復すること、または長生きすることに自信が持てない。 9.患者・家族に対する医療スタッフのコミュニケーション:
患者や家族が求めた時に医療スタッフが提供する情報
例えば「この病気で死ぬ人もいるので、本人も近々そう
の充実度
なるかも知れない」と思っている。
3=非現実的に思っている。例えば、予後が3ヶ月しかない
0=すべての情報が提供されている。患者や家族は気兼ね
時に、1年後には普通の生活や仕事に復帰できると期待
なく尋ねることができる。
している。
1=情報は提供されているが、充分理解されてはいない。
4=患者が完全に回復することを期待している。
2=要求に応じて事実は伝えられるが、患者や家族はそれ
より多くの情報を望んでいる可能性がある。
3=言い逃れをしたり、実際の状況や質問を避けたりする。
4=質問への回答を避けたり、訪問を断る。正確な情報が
与えられず、患者や家族を悩ませる。
)
0=なし
1=変化を気にしている。身体面や行動面に不安の徴候は
見られない。集中力に影響はない。
2=今後の変化や問題に対して張り詰めた気持ちで過ごし
ている。時々、身体面や行動面に不安の徴候が見られ
る。
3=しばしば不安に襲われる。身体面や行動面にその徴候
が見られる。物事への集中力に著しく支障をきたす。
4=持続的に不安や心配に強くとらわれている。他のことを
考えることができない。
7.患者と家族とのコミュニケーション:患者と家族との
コミュニケ一ションの深さと率直さ
0=率直かつ誠実なコミュニケ-ションが、言語的・非言語
的になされている。
1=時々、または家族の誰かと率直なコミュニケーションが
なされている。
2=状況を認識してはいるが、その事について話し合いが
なされていない。患者も家族も現状に満足していない。
あるいは、パートナーとは話し合っても、他の家族とは
話し合っていない。
3=状況認識が一致せずコミュニケーションがうまくいかな
いため、気を使いながら会話が行われている。
4=うわべだけのコミュニケーションがなされている。
【特記事項】
☆評価できない項目は、理由に応じて以下の番号を書いてく
ださい。
7:入院直後や家族はいるが面会に来ないなど、情報が少
ないため評価できない場合
8:家族がいないため、家族に関する項目を評価できない
場合
9:認知機能の低下や深い鎮静により評価できない場合
2005年4月改訂
事例1
50歳代 男性 肺癌 肝転移 ステージⅣ 心嚢ドレナージ中
主訴
PS 2
胸痛・左胸部圧迫感(突発的な胸部圧迫感があり)・呼吸困難感・血痰
社会的背景 経済的事情で離婚 独居
キーパーソン 元妻 (うつ病で治療中)
• 入院63日目に一般病棟より緩和ケア病棟へ転棟された。
• 「緩和ケア病棟に来るつもりはなかった。だまされた。」 「モルヒネは効かない、
沢山飲みたくない、デパスのほうが良く効く。」 「食事の臭いが鼻につく。食器
全部にラップをかけて。」 「湿布は臭いがするから部屋の中では貼りたくない。
デイルームへ連れて行って。」etc.訴え多くあり。
• 毎日、前病棟や外来に行かれ、他患者と交流されていた。
• 病棟設備の違い、スタッフの対応の違いにも不満を訴えていた。
• 細かいことにかなりこだわりがあり、トラブルが頻回にあった。
• 頻回に検査を希望し、その度に主治医へ病状の説明を望まれるが、結果的に
病状を受け入れらない状態が続いた。
• 苦情への対応におわれ、本質的な問題が見えてこないという状態。
事例1(STASーJを活用して)
Q1 2
Q2 2
Q3 3
Q4 3
Q5 1
Q6 1
Q7 2
Q8 1
Q9 1
1回(5日目)
2回(12日目)
3回(19日目)
スコア・アセスメント
スコア・アセスメント
スコア・アセスメント
胸部痛・胸部圧迫感
の緩和が不充分
モルヒネ水のドーズ
アップ
転棟に対する不安・
不満がある
心理療法士の介入
訴えの傾聴
妻も転棟・病状に対し
不安あり
妻の訴えを傾聴する
妻のキーパーソンをさ
がす
面会が少ない
家族関係を把握
する
3
2
2
2
突発的な左胸部痛・圧
迫感が増強
鎮痛補助薬(リンデロン)
開始
早めのレスキュー対応
デパスの併用
人間関係は改善したため
環境に対する不安は解消
病状に対する不安は持続
1
2
2
2
1
0
0
0
2
1
2
病状の査定と
十分な説明を
する
1
1
0
激しい疼痛は緩和
突発的な胸部圧迫感は持続
モルヒネ水とデパスを定期的
に与薬
病状説明後に予後に対
する不安があった
妻の付き添い、友人
の面会も多くなり、
生き甲斐を模索す
る。(俳句の会を計
画)
患者の希望を支援
する
これまでの経過から
STAS-Jをカンファレンスで活用することにより・・・
①受け持ち看護師が情報不足であっても、他のスタッフ
からの情報をまとめることで、患者・家族の問題を明
確にできる。
②情報を共有し、患者・家族の解決困難な問題をチー
ムで対処できる。
今後の課題
• STASーJの評価スコアだけでは、患者・家族の個別性が見え
てこない。
• スコア2以上はアセスメントを記載し、問題点・解決策を明確に
しなければ、ケアの修正や次に評価に結びつかない。
• シンプルで負担にならない評価記録用紙の検討が必要。
• スコア付けという単純作業になると、活用効果が見えず、継続
が困難になってしまう。
困難な事例から取り組んで、活用効果を体験することが
活用の継続につながるのではないか。