準地衡流渦位方程式

準地衡流渦位方程式
• 地衡流の式は、圧力勾配とコリオリ力のバランス
を示すものであり、時間変化を追うことはできな
い。
• 準地衡流渦位方程式は、ほぼ地衡流バランスし
ている流れ(準地衡流の由縁)の時間変化を記
述する方程式である。
• コンピュータが開発された当時、準地衡流渦位
方程式を数値的に解き、天気予報が行われた。
• 天気予報のために、コンピュータ開発されたとも
いえる。
発散性がない場合の準地衡流渦位方程式の導出:
渦位の保存と非発散条件を組み合わせて導出する方法
①発散性がない場合:η=0
f 
:渦位, f : 惑星渦度=コリオリパラメータ, h
v u
   :相対渦度, h  H  d : 流体層の厚さ
x y
dq
 0 : 渦位の保存
dt
q
h=H-d
d
H

非発散であるから、
u v

0
x y
u


, v 
y
x
v u  2  2
 
 2  2   2
x y x
y
となる。
f   , H  dとして、
渦位の式を展開し、
を含む項をにて表現してゆくと、

f 1 
f 
q
 
h

H 1 

f
H



微小量の2乗なので無視
fd 

2
 f   

H 

平面近似すると

と置ける。相対渦度は、
  
d 
1  1  
f  H 

 
d  d
1   
f H f H

1
fd 
~  f  

H
H 

これから、流線関数が導入でき、
f
H
1
H
1
fd 
2
 f 0     y 

H
H 
1 / Hやf 0は定数なので、保存量として、
q
q '   2  y 
fd
としてもよい。
H
q'は保存量であるから、ラグランジュ的に


f 
d 

H
保存される。よって、
dq  

 
   u  v q'  0
dt  t
x
y 
1
※   1のとき、 (1   ) ~ (1   )
       2
fd 
 
    y 

0

t

y

x

x

y
H



           非発散準地衡流渦位方程式
発散が無い場合の準地衡流渦位方程式の解
(1)非発散ロスビー波
海底地形が平坦であるとする。つまり、d  0の場合を考えると、


       2
    y  0  

y

x

x

y

t



また、は小さいものとし、の2乗を含む項を無視する。(  線形化)

 2
0
 
x
t
波動解、  A expi (kx  ly  t )を考える。これを、上の式に代入すると、


分散関係式(振動数の式)、位相速度が得られる。
 
k
, c x 
2



(常に西に伝播する) k
k2  l2
k2  l
この波動が、ロスビー波である。 (2)非発散停滞ロスビー波
帯状風(帯上流)Uを考える。Uは一様であるものとする。
波動擾乱に伴う流れをu ' , v' , 'とし、
U  u ' , v' であるとする。
すると、流線関数は、
  Uy   ' , u  U  u '  
  '
 '

, v  v' 
y
y
x
これらを非発散準地衡流渦位方程式に代入すると、



 '   '   2
  (U 
   '  y  0 ) 

t

y

x

x

y


となる。 'は小さいものとし、 'の2乗を含む項を無視すると。(  線形化)


  2
 '

0
 U    '  

t

x

x


波動解、 '  A expi (kx  ly  t )を考える。これを、上の式に代入すると、
(i  U (ik ))(  k 2  l 2 )   (ik )  0
  Uk 
k
k2  l
が得られる。
cx 

U 
, c x 
2


k
U 

k2  l2
0
k
k2  l2
のとき、波動は動かず停滞する。停滞性ロスビー波。
右上の図は、半旬平均した500hPa面
の高度を示している。地球規模のスケールで
偏西風が蛇行していることが分かる。
(半旬平均すると、いわゆる総観規模の高低気圧が
除去される。総観規模の高低気圧とは、日本に襲来する
高低気圧のことを言う。半旬平均して地球規模の変動場
だけを抽出しているのである。)
蛇行パターンが停滞するための条件を求めてみよう。
東西方向に波が存在し(k : は値がある)、
南北方向には波は存在しない(l  0)ものとする。
U



k
U
, k 
2
: 臨界波数 , 冬半球:
約40m/s
2
U
UR
 2
 2
:臨界波長
k

2 cos 
U : 40m / s,   45とすると、  9887km
45度で経度方向に地球を一周すると、
L  28284kmなので、
L
L 28284km
  *  k*  
 2.86 ~ 3
 9887km
k
波が3つぐらいのとき停滞する。
夏半球:
約23m/s
(3)非発散地形性ロスビー波
• ロスビー波は背景の渦位の不均一性を復元力としている。
渦位の式を見て分かるように、もし、海底地形が平坦で
ない場合は、流体の厚みに空間変化が存在することにな
る。つまり、渦位に空間変化が存在する。
は無いとし、北に向かうにつれて、一様に水深が浅くなる海底地形を考える。
つまり、d 
H
yの場合を考えると、
f


       2
 
    y  0 
 t y x x y 
これは、をに置き換えただけであることが分かる。
つまり、解は同じで、
k


   2 2 , c x    2 (常に浅いほうを右手
に見て伝播する) 2
k
k l
k l
この波動が、非発散の場合の”地形性ロスビー波”である。 発散性がある場合の準地衡流渦位方程式の導出:
渦位の保存と地衡流の式を組み合わせて導出する方法
②発散性がある場合:η≠0
f 
:渦位 , f : 惑星渦度=コリオリパ ラメータ, h
v u
   :相対渦度 , h  H    d : 流体層の厚さ
x y
dq
 0 : 渦位の保存
dt
q
η
h=H+η-d
d
H
地衡流の式(浅水系)
1 p

 fv  
 g
,  x
x
1 p

fu  
 g
 y
y
g
f
   ,   
f
g
とおくと、


u
, v 
y
x
v u  2  2
 
 2  2   2
x y x
y
f   , H   , H  dとして、
渦位の式を展開し、
を含む項をにて表現してゆくと、
  
f 1  
f 
f 

q

 d
h

H 1   
 H H
※   1のとき、 (1   ) 1 ~ (1   )

f
H
   
d 
1  1   
f  H H 

微小量の2乗なので無視
  
d   
d 
1         
f H H f  H H 

1
f fd 
~  f  


H
H
H 
1
f 2 fd 
2

  f    

H
gH
H 
平面近似すると

f
H


 f 0   2  1   y  fd 
2

H 
L
R

ここで、
q
1
H
f2
F
 1/
gH

gH / f

2
 1 / LR ( LR : 変形半径)
2
Fのことを回転フルード数と呼ぶ。
1 / Hやf 0は定数なので、保存量として、
q'   2 
1
LR
  y 
2
としてもよい。
fd
H
q 'は保存量であるから、ラグランジュ的に保存される。
dq  

 
   u  v q '  0
dt  t
x
y 
       2
1
fd 
 
    2   y 

 0      発散性がある場合の準地衡流渦位方程式



t

y

x

x

y
H
L


R

発散性がある場合の準地衡流渦位方程式の解
(1)発散性ロスビー波:その1
海底地形が平坦であるとする。つまり、d  0の場合を考えると、

       2
1
 
    2   y   0 


LR
 t y x x y 

また、は小さいものとし、の2乗を含む項を無視する。(  線形化)

  2
1

   2  
0

t 

x
LR

波動解、  A expi (kx  ly  t )を考える。これを、上の式に代入すると、
分散関係式(振動数の式)、位相速度が得られる。
 
k
1
k l  2
LR
2
2
, c x 

k


(常に西に伝播する) 1
k l  2
LR
2
この波動が、ロスビー波である。 2
(2)発散性がある場合の停滞ロスビー波
帯状風(帯上流)Uを考える。Uは一様であるものとする。
波動擾乱に伴う流れをu ' , v' , 'とし、
U  u ' , v' であるとする。
すると、流線関数は、
  Uy   ' , u  U  u '  
  '
 '

, v  v' 
y
y
x
これらを発散性のある場合の準地衡流渦位方程式に代入すると、


 '   '   2
1
  (U 
   ' 2 (Uy   ' )  y   0 ) 

y x x y 
LR
 t

となる。 'は小さいものとし、 'の2乗を含む項を無視すると。(  線形化)

 
  2
1
 
1
U   '
  ' 2  '   U   2 ' 2  '      2 
0





t 

x

x
LR
LR
LR 


 
波動解、 '  A expi (kx  ly  t )を考える。これを、上の式に代入すると、


   U (ik )  0
)

2
2 

LR
LR
L
R






   U 2 k
   U2 


LR 
LR 



  Uk 
, c x   U 
1
1
k
2
2
k l  2
k2  l2  2
LR
LR
(i )(  k 2  l 2 
が得られる。
1
)  U (ik )(  k 2  l 2 
2
1


   U2 

LR 


cx   U 
0
1
k
k2  l2  2
LR
の時、波動は停滞する。
非発散の場合には、
cx 

U 

0
k
k2  l2
であった。非発散の場合と発散の場合の相違点は、
k2  l2  k2  l2 
  
U
LR
である。
2
1
LR
2
         渦柱の伸縮効果
         東西方向の基本流の影響
h:小
q:大
北
h:大
q:小
南
東向きの基本流が存在することは、地衡流バランスの式から、
北に向かうにつれて圧力小さくなることを意味する。
密度一様であるとき、圧力が小さいということは流体層の厚さが薄いことを意味する。
つまり、南ほど流体層は厚く、北ほど薄いことを意味する。
北ほど、薄いことは、h  H  yと表記してよい。
すると、渦位の式は、以下のように変形できる。
但し、H  y, f 0  y, f 0  

 y 
1 


f
f
f  y  
f
f 
0
0 
q
 0
 0

y
h
H  y
H 

1 

H


f 
f 
 y  y  f 0 
  y y  1 
1   1 
   f 0    y  0 y 
 0 1 

 

H
f 0 f 0 
H H 
f0 f0 H  H 
H 
fU
fU
g
    Uy,    0 y,   0
f0
g
g
なので、
1
q
H
2

 1

f
U  1 
U  
0
 f 0    y 



Uy 
f    y  2 y 
f     2 y
 H 0


 H 0
gH
L
LR  
R






東西風はと同じ効果を持つことが分かる。
(3)発散がある場合の地形性ロスビー波
• ロスビー波は背景の渦位の不均一性を復元力としている。
渦位の式を見て分かるように、もし、海底地形が平坦で
ない場合は、流体の厚みに空間変化が存在することにな
る。つまり、渦位に空間変化が存在する。
は無いとし、北に向かうにつれて、一様に水深が浅くなる海底地形を考える。
つまり、d 
H
yの場合を考えると、
f

       2
1
 
    2   y   0 


LR
 t y x x y 

これは、をに置き換えただけであることが分かる。
つまり、解は同じで、
 
k
1
k l  2
LR
2
2
, c x 

k


(常に浅いほうを右手に見て伝播する) 1
k l  2
LR
2
2
この波動が、”地形性ロスビー波”である。 エッセンス
• 地形や平均流が無い場合には、ロスビー波は西
に進む。しかしロスビー波は西に進むと覚えては
いけない。
• ロスビー波を含め、渦位勾配を復元力とする波
は、渦位の大きなほうを右手に見て伝播すること
を覚えよう。下の図の理解が最も重要。
渦位大
渦位小
二次流によって、等渦位線(位相)は渦位の
大きなほうを右手に見て伝播してゆく。
これが、渦位勾配を復元力とする波の伝播メ
カニズムである。
波数について:
例えば、9枚目の偏西風の蛇行に伴う波動は3波あることが
人間の感覚で認知でき、1つ、2つと波の数を数えることができる。
人間が認知できる波数をk*と定義することにしよう。
この波数は、基準の長さ(L)中に、いくつの波があるのかを数えたもの
になっている。つまり、波長をλとすると、
L
L
*
  * , k 

k
である。
一方、
ψ=Asin(kx)
のように表記される波数は人間が認知できる波数と異なっている。
k*とkの関係について吟味してみよう。
人間の感覚で認知できる波数(k*)が1のときについて考えよう!
k *  1 (波数1)

2 

 2 
  A sin k * 
x   A sin
x  ①
L 

 L 
xL
x
x  Lのとき、
1周期が完了している。
人間の感覚では、上の式のように考えている。
一方、数学的には、以下の式のように考える。
  Asinkx  ②
①と②を対比させてみると、
2 k *
k  k *

③
L
L
2
の関係があり、数学的なkは感覚的に理解できる
k*がL/2πの何倍であるかを意味している。
まだ分かりにくい。
③を少し、変形してみよう
L 2

  ④
k* k
実態のある1サイクル(L)を
感覚的に分かる波数(k*)で
割ると、
実態のある波長になる。
数学的な1サイクル(2π)を
感覚的に分からない波数(k)
で割っても、
実態のある波長になる。
結局、数学的な取り扱いが楽になるように、④の関係を用い
実態のある(訳の分かる)波数k*を
数学的な(訳の分からない)波数kに翻訳していると思えばよい。
分かりにくい場合には、波動解を②式のように置くのではなく、①式
のように置けば、常に、感覚的に理解可能な波数(k*)を意識して
式を展開したり、解くことができる。
冬休みのレポート問題(1/18の講義時に提出のこと)
※重力加速度は10.0m/s 、コリオリパラメータは“きりの良い値”を使って良し。
答えについては、細かい数値まであっていなくともOKです。電卓で計算し
てOK。ただし、導出の過程(何故A式からB式になったのか、その心)はレ
ポートに残しておいてください。
(0)①講義の感想、②講義への要望、③将来どんな道に進みたいか?
これは、点数にいれないので、遠慮なくバシバシと!
(1)地衡流
(a)ベーリング海峡(北緯65度)は南北に開いた海峡で、北米大陸沿岸の水位
はユーラシア大陸沿岸の水位よりも15cm高い。ベーリング海峡の幅が
100kmであるとき、海峡を流れる流速を求めなさい。但し、重力加速度は
10.0m/s2とする。
(b)海水の密度が一様であるとしたとき、流れの鉛直構造はどうなっている
か?
(c)そのとき、ベーリング海峡を通過する流量を求めなさい。ベーリング海峡の
深さは40mで、1Sv=106m3/sとする。スベルドラップは偉大な海洋物理学者。
(2)温度風
(a)海底での圧力が一定であるとしたとき、海底付近の流れはどうなっている
か?
(b)房総半島沖では、南に温かい(軽い)水、北には(冷たい)重い水がある。
(a)の条件のとき、海面付近の流れはどうなっているか、温度風の知見を
使って答えなさい。スケッチしてもよし。
(c)本州などの中緯度帯では、大気についても南北温度差が大きい。中緯度
帯での風はどのように吹くか? 海面レベルでの気圧が一定であると考え
て、答えなさい。スケッチしてもよし。
(3)慣性振動
突然風が吹き、北極点(北緯90度)に浮かぶ氷が10cm/sで動いた。その後、
風は吹き止んだ。海氷運動もコリオリ力を受ける。しかし流体のように圧力
勾配は無いため、回転運動を始めた。
(a)回転周期を求めなさい。
(b)海氷の回転運動の半径を求めなさい。
(4)外洋での重力波
重力波の発生源は色々ある。
(a)津波は何故、 (gH)1/2で伝播するのか、答えなさい。
(b)潮汐に伴う重力波は、地球回転の影響を受ける。潮汐に伴う重力波
は緯度によって存在の可否が決まる。それは何故か?
(5)沿岸境界流とエルニーニョ(図を使ってOK)
対馬暖流や宗谷暖流など、沿岸付近では岸に沿った流れが見られる。そ
の成因について説明しなさい。
コリオリパラメータfは北半球では正、南半球では負になる。
①赤道上に軽くて暖かい水があるとしよう。貿易風が吹かないとすれば、
この暖かい水はどう振る舞うか?
②赤道上の暖水の振る舞いとエルニーニョの関係について述べなさい。
(6)暖水塊
黒潮続流から一部の黒潮系暖水が切り離され、三陸沖の冷たい海に
放り出された。このような現象も、津波発生や潮汐と同じように、海
面に凹凸を与える外力と考えることが出来る。しかし、切り離される
時間は慣性周期よりも長いため振動数はσ<fとなり 、境界がない外
洋では重力波は存在できない。元の流体方程式から、コリオリ項と
圧力勾配項だけを残せば地衡流になることは自明である。しかし、
切り離された黒潮系水が三陸沖でどれほどの大きさになるかについ
ては述べることが出来ない。さて、考えてみよう!
ケルビン波を考えたとき、y方向(岸と直交する方向)には波は伝播しな
いとして、波数lをiλに置き換えた。黒潮系水の切り離しによる海面の
凹凸は重力波により伝播できないのなら、波数kもiγのように置き換
えて考えればよいことは想像がつく。
そもそも波が存在できないので、振動(数)はゼロ
   0 expi(kx  ly  t )   0 expi (ix  iy )
簡単のため、 x方向だけ考えると、    0 exp  x / R 
波が無いということは 、振動的な時間変化な し。つまり、
もとの方程式の時間微 分項がゼロ。また x方向だけ考えると、
2


f 2   gH 2
x
この方程式の解は、
   0 exp( x / LR ), LR  gH / f
となる。
暖水塊の半径(スケール)は、変形半径になることが分かる。
講義では、成層流体については詳しくやっていないが、成層がある
場合には、重力加速度を
g  g'


g
のように置き換えてやればよい。また、流体の厚さHは、黒潮系水
が占める厚さとすればよい。
そこで問題。暖水塊のサイズ(半径)を求めなさい。
但し、北緯40度、
Δρ=2kg/m3,(上層(黒潮系水)ρ1=1024 kg/m3 、下層(親潮系水)
ρ2=1026 kg/m3 ) ρの平均1025 kg/m3 、H=400mとして考えましょう。