TeVガンマ線未同定天体HESS J1741-302からのX線放射の発見 松本浩典(名古屋大)、内山秀樹、鶴剛、小山勝二(京都大)、 Omar Tibolla (University of Heidelberg) Abstract HESSJ1741-302は、銀河面上のTeVガンマ線未同定天体のうちもっとも暗いものの一つである。空間的に広がっているので、銀河面TeV放射の 明るい部分を見ている可能性がある。従って、未だ起源のわからない銀河面TeV放射の起源を探る上でも興味深い天体である。そこで我々は HESS J1741をすざく衛星XISで観測し、TeVガンマ線放射のピークに一致するX線対応天体を発見した。X線放射とTeVガンマ線放射のエネル ギーフラックス比は、TeVガンマ線の起源が陽子である可能性を示唆する。さらに、HESS J1741のそばに、新しいX線星を発見した。X線スペクト ルと時間変動は、このX線星が激変星であることを示唆する。 1. はじめに 2-2. 領域B HESS J1741-302 (以降HESSJ1741)は、銀河面上に見つかった TeVガンマ線未同定天体のうち、最も暗いものである (Omar et al. 2008; Omar et al. 2009)。ガンマ線放射は空間的にも広がってい る。従って、銀河面TeVガンマ線放射(Aharonian et al. 2006) の明 るい部分、すなわち氷山の一角なのかもしれない。銀河面TeVガン マ線放射の起源を明らかにするためにも、興味深い天体である。そ こで我々は、HESSJ1741領域の2箇所をすざく衛星で観測した (図 1)。本ポスターではXISデータ解析の結果を報告する。 2008年10月4日に図1領域Bの観測を行った。観測時間は54ks。図4に X線イメージを示す。(a)は0.4—2keVバンド、(b)は2—10keVバンドであ る。両エネルギーバンドで明るい新X線天体を発見した。低エネルギー バンドで明るい他の天体は、おそらくフォアグラウンドの星と思われる。 (b) 2-10keV (a) 0.4-2keV Foreground star A B 図1: H.E.S.S.望遠鏡による HESS J1741-302のTeVガンマ 線イメージ。水色(領域A)と緑 (領域B)の四角は、すざく衛星 XISの観測領域を表す。 2. すざく観測結果 2-1. 領域A 2009年2月24日に図1領域Aの観測を行った。観測時間は45ksである。 図2はXISによるX線イメージで、(a)は0.4--2keVバンド、(b)は2--10keV バンドである。高エネルギーX線バンドにX線天体が見える。その位置は、 TeVガンマ線放射のピークと一致している (図2(c))。 (a) 0.4-2keV (b) 2-10keV New object 図4: 図1領域BのX線イメージ: (a)0.4—2keVバンド, (b)2—10keVバンド。 どちらもXIS FIセンサーで取得(XIS0+XIS3)。 図4新X線天体のスペクトルを図5に示す。スペクトルは、吸収を受けた power-lawモデルと3本のGaussian lineでフィットすることができた。ラ インの中心エネルギーは、6.4keV, 6.7keV, 6.9keVの鉄ラインであるこ とを示す。 ベストフィット値 Γ=1.13±0.60 NH=(1.62±0.34)×1022 cm-2 観測値F(2-10keV)=2.2×10-12 erg s-1 cm-2 Gaussian: 1. 中心=6.39±0.03keV, 等価幅=172eV 2. 中心=6.66±0.02keV, 等価幅=186eV 3. 中心=6.95±0.03keV, 等価幅=172eV (c) TeV (gray) 2-10keV (green) 図2: 図1領域AのX線イメージ: (a) 0.4—2keVバンド、(b)2—10keVバ ンド。どちらもXIS FIセンサー(XIS0+XIS3)。 TeVガンマ線イメージ(モノ クロ)に、2—10keVバンドの等高線(緑)を重ねたものが(c)。 図2(b)のX線天体のスペクトルを図3に示す。このスペクトルは、吸収を 受けたpower-law関数でフィットできる。ベストフィットパラメターは、光 子指数Γ=1.13±0.60, 吸収の柱密度NH=(3.95±2.70)×1022 cm-2 で ある。この大きな柱密度値は、この天体が銀河中心領域にいることを 示している。観測されたフラックスはF(2—10keV)=3.2×10-13 erg s-1 cm-2 である。H.E.S.S.望遠鏡データのpreliminaryな解析によると、 HESSJ1741のTeVガンマ線フラックスはF(1—10TeV)~2×10-12 erg s-1 cm-2 である。従ってフラックス比は F(1—10TeV)/F(2—10keV)~6 になる。この大きなフラックス比は、ガンマ線の起源が陽子起源である ことを示唆している。 図3: 図2(b)のX線天体のスペク トル。黒はFI CCD(XIS0+XIS3)、 赤はBI CCD(XIS1)。 図5: 図4新X線天体のX線スペクトル(XIS0+XIS3)。 新X線天体のライトカーブは、周期432.1±0.2 sの周期性を示す (図6 a)。図6(b)に、この周期で折りたたんだライトカーブを示す。スペクトル中 の3本の鉄ラインと周期性は、新X線天体の正体が激変星であることを 示す。 新X線天体の吸収柱密度は、HESSJ1741対応X線天体よりも小さい。 従って、新X線天体はフォアグラウンドの激変星である。HESSJ1741と の物理的関連はないのかもしれない。 (a) XIS0+3: 1-9keV band 2.314x10-3Hz (P=432.1s) (b) ベストフィット値 図6: (a)図4新X線天体のパワースペクトル。(B)432.1秒で折り畳んだ新X NH=(3.95±2.70)1022 cm-2 線天体のライトカーブ。 Γ=1.13±0.60 Reference: -13 観測値 F(2-10keV) = 3.2 10 1. Aharonian et al. 2006, Nature, 439, 695 erg s-1 cm-2 2. Tibolla, O. et al. 2008, AIP Conf. Series, 1085, 249 吸収補正値 F(2-10keV) = 3.910 3. Tibolla, O. et al. 2009, AIP Conf. Series, 1112, 233 13 erg s-1 cm-2
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