最も暗いTeVガンマ線未同定天体 HESSJ1741-302のすざく衛星による観測 松本浩典(名古屋大学KMI) 1 内容 • HESSJ1741-302 – TeVガンマ線でもっとも暗い暗黒加速器 • すざく衛星によるX線観測 – X線対応天体の発見 – 激変星の発見 • 議論 – 正体?、銀河面diffuse TeV放射との関連? • まとめ 2 TeVガンマ線天体 銀河系外(ほとんどAGN) + 銀河系内 (色々) Kappes et al. 2007 3 TeVガンマ線銀河面サーベイ Chaves et al. 2009 arXiv:0907.0768v1 •H.E.S.S.望遠鏡による銀河面サーベイ •多数のガンマ線天体。しかも多くはdiffuse。(角度分解能~2分角) 4 銀河系内TeVガンマ線天体 http://tevcat.uchicago.edu/ より。2010年5月現在 • 天の川銀河系外天体 – スターバースト銀河(2) – AGN(32) • 天の川銀河系内天体 – – – – – – – – X線連星系(6) 激変星 (白色矮星連星系) (1) Wolf Rayet (青色超巨星) (3) シェル型超新星残骸(12) パルサー風星雲 (27) パルサー(4) その他(分子雲など4) 正体不明=暗黒加速器 (33) 5 暗黒加速器: なぜ光る? • TeVガンマ線: 高エネルギー粒子発生の証拠 – 高エネルギー電子? • 電子が、周辺の低エネルギー光子(CMB/星の光)を蹴り上 げて (逆コンプトン散乱)TeVガンマ線。 – 高エネルギー陽子? • 陽子が、星間物質と衝突して、高エネルギーπ0発生。 – P + P P + P + π0, π0 γ + γ TeVガンマ線観測のみでは、2説を切り分けるのは難しい。 6 縮退を解きたい: X線観測 E2f(E) E2f(E) スペクトルの違い。 X-ray Synch TeV IC Electron origin Energy π0 Proton origin もしTeVガンマ線の起源が電子なら、 星間磁場と相互作用してシンクロト ロンX線が出るはず! X-ray: 電子 と 磁場の衝突 TeV: 電子 と 3K放射の衝突 Flux(TeV)/Flux(X) =(σTxU(3K))/(σTxU(B)) ~1 (@数マイクロガウス) σT:トムソン散乱断面積 強度比 F(TeV)/F(X) が鍵 Energy 7 すざく衛星 Hard X-ray Detector (HXD) X-ray Telescope (XRT) X-ray Imaging Spectrometer (XIS) + 8 すざく衛星搭載検出器 • X線望遠鏡(XRT)+X線CCD(XIS) – E=0.3keV – 12keV – 撮像+分光観測 – 高エネルギー分解能 – 低く安定したバックグラウンド 高感度 • 硬X線検出器 (HXD) – E=10—600keV – 非撮像型検出器 角度分解能(~1分角)が関係ないような、 広がった暗い天体の研究が最も得意 9 TeVで暗い暗黒加速器:HESSJ1741-302 • H.E.S.S.望遠鏡で、銀河面上 に発見 • 暗黒加速器で、TeV fluxが最 も小さい部類 – Photon index Γ~2.7 – F(1-10TeV)~2e-12 erg/s/cm^2 (~1% Crab) • 付近のパルサーと関連? – ただし、どのパルサーもLspinは 小さい (~1% Crab以下) • 典型的TeVガンマ線パルサー Lspin~10^37erg/s (10%Crab) (Omar et al. 2008, 2009) 10 興味: 銀河面diffuse TeV放射との関連 カラー: diffuse TeV 放射 (H.E.S.S.) コントア: 電波CS(=分子雲) HESSJ1741 このあたり (Aharonian et al. 2006) •銀河面diffuse TeV放射の起源は不明 •HESSJ1741は、銀河面diffuse TeV放射の氷山一角? 11 銀河面diffuse TeV放射 vs 中性鉄蛍光X線 (6.4keV line) カラー: 6.4keV line (すざく) コントア: 銀河面diffuse TeV HESSJ1741 この辺 •中性鉄蛍光X線分布は、銀河面diffuse TeV放射の分布と似ている。 •HESSJ1741から、中性鉄が見つかる可能性は? 12 すざく衛星による観測 A • 2箇所を観測 – A: 2009年2月24日 45ks • 銀径で東側のピークを狙う – B: 2008年10月4日 54ks B • 西側のピークと、パルサーを 狙う。 四角はX線CCDの視野。 13 A 観測領域A B (a) 0.4-2keV (b) 2-10keV 高エネルギーX線で、新天体発見。 14 X線とTeVガンマ線の比較 2-10keV TeV (gray) 2-10keV (green) HESSJ1741のピークと一致。X線対応天体と考えられる。 15 X線対応天体のスペクトル 吸収を受けたpower-law • 柱密度 – NH=4.00(1.93~7.40)x1022 cm-2 • Photon index – Γ=1.14(0.60~1.81) • かなり小さい • X-ray Flux in 2—10 keV band •赤はBI CCD(XIS1), 黒はFI CCD (XIS0+3) – 観測値 3.2x10-13 erg/s/cm2 – 吸収補正値 3.9x10-13 erg/s/cm2 16 おさらい: 非熱的ベキ型放射 • 電子のエネルギー分布: N(E)∝E^-s のとき、 – S(ν)∝ν^-α (erg/s/Hz/cm^2) α=(s-1)/2: spectral index • 電波業界で使用 – F(ν)∝ν^-Γ (photon/s/Hz/cm^2) Γ=α+1=(s+1)/2: photon index • X・ガンマ線業界で使用 – 強いショックのFermi 1次加速: s=2, α=0.5, Γ=1.5 • Cf: SNRの非熱的シンクロトロン放射の観測 – 電波では α~0.5(Γ~1.5): Fermi加速を示唆 – X線ではΓ~2.5: シンクロトロン冷却が効いている 17 X線対応天体スペクトル特徴 • 吸収が大きい NH=4.00(1.93~7.40)x1022cm-2 – 銀河中心付近の天体 (D~10kpc) • F(1-10TeV)/F(2-10keV) ~ 6 – ガンマ線の方がフラックス大 – ガンマ線起源は陽子か? • 有意な鉄ライン(中性も高階電離も)無し – 等価幅(6.4keV)<167eV, F(6.4keV) < 9.3x10-7 photon/cm2/s – バックグラウンドとして周辺領域をとっている。 • 鉄ライン強度としては、HESSJ1713は周辺領域と同じ性質。 • 銀河面diffuse TeV 放射との関連は不明。 18 X線スペクトル特徴 • 小さなphoton index (Γ=1.1) – 典型的 X線シンクロトロンSNR Γ~2.5 – HESSJ1614-518 (Matsumoto et al. 2008), CTB37B(TeV SNR; Nakamura et al. 2009)に共通 • CTB37B: シンクロトロン放射で折れ曲がりなし (Ecut>15keV) – 効率のよい加速 • non-thermal bremsstrahlung? – 例: γCygni (GeV SNR: Uchiyama et al. 2002) – ターゲットとなる星間雲はどこに? 19 観測領域B A B (b) 2-10keV (a) 0.4-2keV Foreground star New object 20 X線新天体:SuzakuJ1740.5-3014 TeVガンマ線 すざくX線 A 2-10keV B •X線新天体の位置は、PSRB1737から明らかにずれる。(~90arcsec) 21 •PSRB1737, PSRJ1741からの有意なX線は検出無し。 X線スペクトル • 現象論的fit: 吸収+powerlaw – NH=1.62(1.30~1.98)x1022cm-2 – Γ=0.83(0.69~0.97) – F(2-10keV)= 2.2×10-12 erg s-1 cm-2 • クリアに3本の鉄ライン – H状イオン@6.9keV • 等価幅172(123~232)eV – He状イオン@6.7keV • 等価幅186(140~240)eV – 中性@6.4keV • 等価幅172(125~224)eV 22 周期的時間変動 FFT解析 (XIS0+XIS3: 1-9keV band) Folded light curve (432.1s) 2.3x10-3Hz (P=432.1±0.1s) 23 SuzakuJ1740.5-3014 • 磁場を持った激変星(白色矮星連星系) – スペクトルに3本の鉄ライン • 中性(6.4keV), He状イオン(6.7keV), H状イオン(6.9keV) – 432.1sの周期的時間変動 • HESSJ1741より手前にある可能性大 – SuzakuJ1740.5: NH=1.62(1.30~1.98)x1022cm-2 – HESSJ1741 :NH=4.00(1.93~7.40)x1022cm-2 – 銀河中心(D~8.5kpc)までNH=6x1022cm-2として、距離は D~2kpc – 光度L(2-10keV)=1x1033 erg/s • 激変星の中でも、Intermediate polar に典型的な値 (詳しくは Uchiyama, Matsumoto et al. PASJ submitted) 24 まとめ • TeVガンマ線でもっとも暗い暗黒加速器 HESS J1741302に、X線対応天体発見 – F(TeV)/F(X)~6 : TeVは陽子起源? – とても小さなphoton index (Γ=1.1) • 暗黒加速器に共通の性質か? – HESSJ1614-518 (Matsumoto et al. 2008) とかCTB107B (Nakamura et al. 2009) • 効率の良い加速? Non-thermal brems? – 銀河面TeV放射との関連は不明 • 近傍に激変星 Suzaku J1740.5-3014 – たぶんTeV放射のforeground。 – HESSJ1741近傍のパルサーはどれもactiveでない。 25
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