(4)市場価格変動リスクと デリバティブ • 市場価格変動リスク(マーケットリスク): – 市場価格(金利、為替、株価)の変動により手持ちの 資産や負債の価値が変化するリスク • デリバティブ:先物、スワップ、オプション – リスクを専門的に扱う金融商品、 • 現物取引と先物取引: – 現物(直物)取引:売買契約の成立後直ちに商品 の受け渡しが行なわれる取引 – 先物取引: – 先物取引の例:3ヶ月後に1ドル=120円で、1 億ドル受渡しする契約 • 3ヶ月後の直物ドル相場がいくらであれ、それとは 無関係に1ドル=120円で受渡しを行う • ⇒ • e.g.3ヶ月後に原油輸入代金1億ドルを支 払う必要のある日本の石油会社:選択肢 A) 3ヶ月後に直物で購入 or B)現時点で先物で購入 1ドルが何円になるか 不確実で、リスクがある 1ドル=120円で確定 しており、リスクがない ○ドルの買コスト (支払うべき円代金) ケースA ケースB 買コスト 120円 3ヶ月後の 直物ドルレート 1ドル=○○円 3ヶ月後の 直物ドルレート ・3ヶ月後の直物ドルレートの 予想分布と為替変動リスク 確率 分布の広がりが大きい ほど、リスクは大きい 通常は、確率分布の 標準偏差で測る 100 120円 140 3ヶ月先の 直物ドルレート 石油会社はこうした為替変動リスクに直面している ( 3ヶ月後にドルを調達するケース) ・先物ドル購入によるリスク・ヘッジ 確率 確実に(確率100%で)、 120円でドルを調達 可能。 不確実性・リスクは 存在しない。 120円 石油会社は、現在の時点で為替変動リスクに 直面していない。 3ヶ月後の ドル調達レート ○リスクヘッジと投機 • ・ e.g. 日本の石油会社 円の受取り ガソリン・灯油等の 製品販売代金受取り 石 油 会 社 ドル支払い 原油輸入代金の支払い ・製品販売代金の受取りと原料購入代金の支払いの 通貨が異なるので、為替変動リスクに晒されている。 • ⇒直面している為替変動リスクを避ける (リスク・ヘッジ)ために、先物為替(先物ド ル購入)を利用する。 – 石油会社の例: 3ヶ月後の1億ドルの 支払い義務 + =為替変動リスク・ゼロ 先物ドル購入( 3ヶ月後に 1億ドルを受け取る権利) • 注意: • cf. 為替リスクに直面していない企業A社による 先物ドル購入:それはリスク・ヘッジではなく、逆 にリスクを付け加えているだけ • 投機:現物投機と先物投機 少ない元手で大きな投機ができる • リスクヘッジにより将来を確定させるということは、 相場変動による利益獲得の機会も放棄すること を意味する。 – 結果的にはリスクヘッジ(ドル先物買い)をしなかった 方が得をする(120円以下へのドル安のケース)ことも ありえる(結果論)。 – ヘッジを行わずに、リスク・エクスポージャーをそのま まにしている状態=リスクを負担して、相場変動によ る利益を狙っている状態(投機の状態) • 石油会社の選択肢:リスク・ヘッジ or リスクを負担して利益を狙う ○デリバティブ取引の動機 • ① – 直面している価格変動リスク(リスク・エクスポー ジャー)をデリバティブ取引によって除去する • ② – リスクを負担して価格変動により利益を得よう とすること • ③ – 2つ以上のマーケットで、割安資産を買い、割 高資産を売ってリスクなしで利益を得ること – e.g. 現物を買って、先物を売る ○リスクの仲介業務 ドル先物 ( 自 輸 売り 買い 出 動 車業 1ドル 者 会 =118円 社 ) 銀 行 ドル先物 売り 買い 1ドル =120円 ( 石 油 会 社 ) • (cf.金融仲介業務) – 他のデリバティブ取引でも同様の仲介を行なう • 先物ドルの買値・売値の価格差(鞘)が銀行の利益 輸 入 業 者 ・外国為替市場(直物・先物)の概念図 インターバンク市場 インターバンク・レート :1ドル=119円 銀行A 対顧客レート 銀行B 買値:118円 売値:120円 対顧客 市場 顧客: a 石油 会社 b c d e f 自動車 会社 ・銀行Aの対顧客先物取引で買いが売りを上回れば、Aは インターバンク市場で先物売りを行って、リスクを調整する。 ○先物レートの決定メカニズム 先物レート、直物レートは、直接的にはそれぞれ先物市場、 直物市場の需給によって決定される。 しかし、両者には密接な関係がある。 現在の為替レート:直物1ドル=e 円、先物(1年先)1ドル=f 円 日米の金利:日本 rj 、米国ru で表すと (f-e)/e = 直先スプレッド rj - ru : 金利平価式(金利裁定式) 日米金利差 という関係が成立。 ・日本rj =1%、米国ru =5%、直物1ドル=e 円=120円 とすると 先物1ドル=f 円=115.2円 となる。 ・先物レートfは米国の金利が高い(日本の金利が安い) 分だけ、直物レートeに比べてドル安(円高)となる。 参考文献:古川顕『現代の金融』第3章 東洋経済新報社 ○オプションを使ったリスクヘッジ ・オプション: 行使価格 満期日 ・満期日のみに権利行使可能: ヨーロピアン・オプション ・満期日までいつでも権利行使 可能:アメリカン・オプション オプションの 売手 権利 買手 • e.g.ドルのコールオプション – 満期日3ヶ月後、行使価格:1ドル=120円 – オプション料:2円/ドル • ○オプション購入による損益:1ドル当り – 契約時点でのオプション料2円の支払い – オプション自体の損益 ・オプション自体の損益は、 どうなるか? 損益 ・3ヶ月後の直物ドルレート :1ドル=S円 ・S>120円の時 、120円 支払い、1ドル受取り、 ドルを直物市場で売却。 ・S<120円の時 0 -2 120 オプション料 S 損益(オプション 料込み) 0 S • e.g. 前の事例の石油会社が、ドルの コールオプションを1億ドル分購入 – 2億円のオプション料支払い ドルの買コスト 3ヶ月後: ・S>120円の時 権利行使、120億円支 払い、1億ドル受取り ・S<120円の時 権利放棄、直物市場から 1億ドル購入、 S億円支払い S c.f.先物ドル買いのケースB • ドル高のリスクをヘッジ • かつ、 c.f. 先物ドル買い(ケースB)では、この利得は得られない • 但し、 ○オプションを使ったドル買いコストの要因 分解 • オプションを使ったドル買い=オプション買 いとその損益清算+3ヵ月後の直物ドル買 い ドルの買コスト 120 122 買コスト 2 0 -2 120 122 S 120 S ○コールオプションの売手の損益 損益 2 122 120 S ○プットオプションの損益 ・買いポジション ・売りポジション 損益(オプション料込み) 0 P K S 満期日1ドル=S円 K:行使価格、P:オプション料 K
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