証券経済論講義 第1章.金融仲介 第2章.情報生産 第3章.リスクの配分・管理 1.株式会社制度と事業リスクの分担 2.資産運用・投資のリスク分散 3.信用リスクと貸出先の分散 4.市場価格変動リスクとデリバティブ 1 ○リスクヘッジと投機 • リスクエクスポージャー: e.g. 日本の石油会社 円の受取り ガソリン・灯油等の 製品販売代金受取り 石 油 会 社 ドル支払い 原油輸入代金の支払い ・製品販売代金の受取りと原料購入代金の支払いの 通貨が異なるので、為替変動リスクに晒されている。 2 • ⇒直面している為替変動リスクを避ける (リスク・ヘッジ)ために、先物為替(先物ド ル購入)を利用する。 • リスク・ヘッジ: – 石油会社の例: 3ヶ月後の1億ドルの 支払い義務 + 先物ドル購入( 3ヶ月後に 1億ドルを受け取る権利) =為替変動リスク・ゼロ 3 • 注意:ある取引がリスク・ヘッジなのかどうかは、 その取引者の立場(元々リスク・エクスポー ジャーがあるかどうか)によって決まることであり、 その取引自体の固有の性質ではない。 • cf. 為替リスクに直面していない企業A社による 先物ドル購入:それはリスク・ヘッジではなく、逆 にリスクを付け加えているだけ(リスクを負担して、 相場変動による利益を狙った取引)。 ・投機:現物投機と先物投機 少ない元手で大きな投機ができる 4 • リスクヘッジにより将来を確定させるということは、 相場変動による利益獲得の機会も放棄すること を意味する。 – 結果的にはリスクヘッジ(ドル先物買い)をしなかった 方が得をする(110円以下へのドル安のケース)ことも ありえる(結果論)。 – ヘッジを行わずに、リスク・エクスポージャーをそのま まにしている状態=リスクを負担して、相場変動によ る利益を狙っている状態(投機の状態) • 石油会社の選択肢:リスク・ヘッジ or リスクを負担して利益を狙う 5 ○デリバティブ取引の動機 • ①(リスク)ヘッジ • ②投機 • ③裁定(アービトラージ) – e.g. 現物を買って、先物を売る 6 ○リスクの仲介業務 ドル先物 ( 自 輸 売り 買い 出 動 車業 1ドル 者 会 =108円 社 ) 銀 行 ドル先物 売り 買い 1ドル =110円 ( 石 油 会 社 ) 輸 入 業 者 – 金利スワップ取引でも同様の仲介を行なう • 先物ドルの買値・売値の価格差(鞘)が銀行の利益 7 ・外国為替市場(直物・先物)の概念図 インターバンク市場 インターバンク・レート :1ドル=109円 銀行A 対顧客レート 銀行B 買値:108円 売値:110円 対顧客 市場 顧客: a 石油 会社 b c d e f 自動車 会社 ・銀行Aの対顧客先物取引で買いが売りを上回れば、Aは インターバンク市場で先物売りを行って、リスクを調整する。 8 ○先物レートの決定メカニズム 先物レート、直物レートは、直接的にはそれぞれ先物市場、 直物市場の需給によって決定される。 しかし、両者には密接な関係がある。 現在の為替レート:直物1ドル=e 円、先物(1年先)1ドル=f 円 日米の金利:日本 rj 、米国ru で表すと (f-e)/e = 直先スプレッド rj - ru : 金利平価式(金利裁定式) 日米金利差 という関係が成立。 ・日本rj =1%、米国ru =5%、直物1ドル=e 円=110円 とすると 先物1ドル=f 円=105.6円 となる。 ・先物レートfは米国の金利が高い(日本の金利が安い) 分だけ、直物レートeに比べてドル安(円高)となる。 参考文献:古川顕『現代の金融』第3章 東洋経済新報社 9 ○オプションを使ったリスクヘッジ ・オプション: 行使価格 コール オプション プット オプション 満期日 ・満期日のみに権利行使可能: ヨーロピアン・オプション ・満期日までいつでも権利行使 可能:アメリカン・オプション 10 オプションの 売手 買手 • e.g.ドルのコールオプション – 満期日3ヶ月後、行使価格:1ドル=110円 – オプション料:2円/ドル • ○オプション購入による損益:1ドル当り – 契約時点でのオプション料2円の支払い – オプション自体の損益 11 ・オプション自体の損益は、 どうなるか? 損益 ・3ヶ月後の直物ドルレート :1ドル=S円 ・S>110円の時 権利を行使して、110円 支払い、1ドル受取り、 ドルを直物市場で売却。 0 -2 110 S オプション料 ・S<110円の時 12 損益(オプション 料込み) 0 112 S -2 110 13 • e.g.先物での事例の石油会社が、ドル のコールオプションを1億ドル分購入 – 2億円のオプション料支払い ドルの買コスト 3ヶ月後: 112 ・S>110円の時 権利行使、110億円支 払い、1億ドル受取り 2 ・S<110円の時 110 権利放棄、直物市場から 1億ドル購入、 S億円支払い S c.f.先物ドル買いのケースB 14 c.f. 先物ドル買い(ケースB)では、この利得は得られない 15 • 石油会社の3ヶ月後ドルの手当て=オプションの 買い+ 3ヶ月後の直物ドル購入 • ドル買コスト=オプション買いの損益+ 3ヶ月後 の直物ドル購入コスト( S 円) ドルの買コスト 110 112 買コスト 2 0 -2 110 112 S 110 S 16 ○コールオプションの売手の損益 損益 2 112 110 S 17 ・主なデリバティブ取引 鈴木淑夫・岡部光明編『日本の金融』p.120 東洋経済新報社 18 ○デリバティブ取引の様式 取引所取引 ・取引所に売買を集中 ・標準化された商品 (レディメイド型) ・契約不履行リスク なし(証拠金値洗い) ・受渡し期日前の反対 売買による差金決済が ほとんど 店頭取引 ・金融機関と顧客や金融 機関同士が相対で取引 ・顧客ニーズに応じた柔軟な 商品設計が可能(テーラー メイド型) ・契約不履行リスクあり ・受渡し期日での原資産 受渡しによる決済が原則 19 ○第3章4節参考文献 • ボディ=マートン『現代ファイナンス論』第14、15 章 ピアソン • ジョン・ハル『フィナンシャルエンジニアリング』第1 章 金融財政事情研究会 • 野口悠紀夫・藤井真理子『金融工学』第9、10章 ダイヤモンド社2000 • 日本証券アナリスト協会編『証券投資論』第7章 日本経済新聞社1999 • 井手正介・高橋文郎『ビジネスゼミナール:証券 投資入門』第11章 日本経済新聞社2001 • 日本証券経済研究所『現代日本の証券市場 2006年版』第7章 日本証券経済研究所 20
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