意思決定背理 - Simulating Theoretical Models of

意思決定背理
作成者: 犬童健良 関東学園大学経済学部
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作成日: 2002・11 更新日:フッタ参照
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2015/9/30
アレの背理
エルズバーグの背理
フレーミング効果
プロスペクト理論
選好逆転現象
負の時間選好率
ニューカム問題
1
アノマリー研究の意義
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2015/9/30
アノマリー(anomaly)とは「正しい」理論とは異なる実験データが観察さ
れること、つまり変則例である。その意義は、科学的発見[*] の駆動で
ある。すなわち暫定的に「正しい」と信じられていた誤った理論を反駁し、
より優れた理論を研究者が発見・改訂する探求を動機付けることである。
こうしたアノマリーの役割は、自然科学を中心にあらゆる分野での帰納
推論に当てはまる。しかし「判断と意思決定」の心理学(Bazerman,
1997;ベルスキー&ギロヴィッチ,2000 )、意思決定支援(Sage,1997 ) 、
あるいは実験経済学(Thaler, 1990)といった分野では、アノマリーには
上で述べたこととはやや離れた別の意義があると思われる。
これらの分野では、例えば確率論、期待効用理論、サーチ理論、ゲーム
理論などを、合理性のお手本(=規範モデル)として見立てるが、一方、
現実の人間を参加者として実験を行い、 規範モデルからの乖離、とくに
再現性のある系統的な乖離パタンを観察し、現実の行動に合う修正モ
デル(=記述モデル)を開発・検証したり、その要因を認知システムにお
ける情報処理ルール(=ヒューリスティックス)によって説明したり、ある
いは実際の投資家や経営者ら人間の判断を手助けし、規範モデルから
の乖離を除去する手法(=処方モデル)を開発するために役立てようと
する(Kahneman, Slovic and Tversky,1982; Goldstein and Hogarth,
1997; Hammond,Keeney and Raiffa, 1999) 。
以下では期待効用理論の代表的なアノマリーをいくつか紹介する。
2
アレの背理(Allais’ Paradox):
(1)共通結果効果



問題1.くじAは確実に100万ドルもらえます。くじBは89%
の確率で100万ドル、10%で500万ドル、1%で0ドルが当
たります。さてAとBの2つのクジのうち、いずれか一つを選べ
るとしたら、あなたはどちらをとりますか。
問題2.くじCは89%で0ドル、11%で100万ドル当たる。く
じDは90%で0ドル、10%で500万ドルが当たる。さてCとD
の2つのクジのうち、いずれか一つを選べるとしたら、あなた
はどちらをとりますか。
共通結果効果(Common Consequence Effect): 共通の
部分クジを追加したのにもかかわらず選好逆転を起こす現
象。元はAllais(1953)による例題だが、上の例は
Machina(1989, p.1629)に紹介されている。
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3
共通結果効果の解説

+
89%のXドル

+
89%のXドル
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
多くの人がAとDという答えの組
を選ぶ傾向があるとされる。しか
し問題1と問題2の差は、A->C、
B->Dにおいてそれぞれ89%分
が百万ドルから0ドルに変更ただ
けである。
上の観察にもかかわらず、もしA
をBより好んだ人が、Dを選ぶと
すると、期待効用モデルの基本
的な仮定の一つ(独立性公理
[*1])に違反する。
期待効用仮説では共通の確率
であたる賞金額を取り替えても、
くじの選みは変らないと予測する
が、この例はその反例をあざや
4
かに示す。[*2]
アレの背理(Allais’ Paradox):
(2)共通比効果




共通比効果(Common Ratio Effect): クジを構成する、すべ
ての確率をある値(下の例では4)で割っただけなのに選好
逆転する現象。
問題1.くじAは80%の確率で4千イスラエルポンドをもらえ
ます。くじBは確実に3千イスラエルポンドをもらえます。あな
たはどちらをとりますか。
問題2.くじCは20%の確率で4千イスラエルポンドが当りま
す。くじDは25%の確率で3千イスラエルポンド当たります。
あなたはどちらをとりますか。
これも元はAllais(1953)の例題だが、Kahnemann &
Tversky(1979)の実験報告では各ペア比較でいずれも95人
中が回答し、Bを選んだ人たちが80%だが、Cを選んだ人も
65%いた。
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5
エルズバーグの背理

●● ●
●●●

● ・・・・

● ●●
●●●
・・・
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Ellsberg(1961)が指摘した曖昧な
確率を嫌う傾向(Ambiguity
Aversion)。
ツボの中に合計90個の玉が入っている。
玉の色は赤、青、黄のいずれかである。赤
色は30個、青色と黄色は合計60個だが、
比率がまったくわからない。
問題1:次の選択肢AとBのうち、いずれが
好ましいか。あるいはどちらも同じだろう
か?



選択肢A: 赤色に賭ける。
選択肢B: 青色に賭ける。
問題2:次の選択肢AとBのうち、いずれが
好ましいか。あるいはどちらも同じだろう
か?

選択肢A: 赤色または黄色に賭ける。
6
期待効用モデルの修正



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AllaisやEllsbergの例題は、ともにギャンブル比較におい
て確率や賞金の境界値部分で生じた期待効用仮説に対
する反例である。 [ノート*1]
実際、トバスキーとカーネマンらは、その境界効果あるい
は損失回避が、共通の賞金や確率のマスを付加すること
で消えたり、生じたりという認知的効果(フレーミング)を、
計画的な心理学的実験によって確かめたわけである。
期待効用モデルの修正版がその後、乱立したが、彼らの
提案した後述するプロスペクト理論や、ランク依存型効用
を含めて、いずれも決定版にはなりえなかった。というの
は、これらの代表的アノマリーがギャンブルモデルの内
点ではあまり目立たず、統計データから有意に立証でき
ないためである。[*2]
7
アノマリーの認知的解釈(1):統計的推論メカニズム?




例を作ってみました。
上の図では楕円や三
角、下の図では、いくつ
かの三角形と四角形が
見えますでしょうか?
(02/11/23)
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[*] ギャンブル比較の研究では2種類の境界値効果(確実性効果や可能性効果) が
知られる。つまり確率1や0の付近での累積確率における限界貢献の過剰評価 である
が、これらは認知心理学で仮現曲線として知られる、視覚における錯覚現象と類比さ
れよう。仮現曲線は一定の方法で図形の一部を切り取ったり隠した図形を見たとき、
「物理的に存在しないはずの境界線(直線や曲線)」が見えてしまう一連の現象である
(図参照)。
下位認知システムは、私たち自身が意識的に推理したり計算することなしに、物理的
に存在しない、現実世界の表象(=メンタルモデル)として作成することができる。コネ
クショニスト風に、一種の、統計的推論メカニズムと考えることもできよう。すなわち、
「障害物によって視界がさえぎられているが、意味のあるパタンが隠れている」という尤
もらしい仮説を立てる。
この点では下位認知システム(=認知システムの下位システムで心の社会を構成する
エージェントたち )は、「ないものをあるように報告する(見せる・聞かせる)」ことにより、
Principalたるわたしたち自身を騙す・欺くことができる。しかしそもそも、わたしたちが
「事実」と呼ぶものは、すべて下位認知システムの生み出すproductsである。言語理解
や計画立案や意思決定といったより高次の意識的な思考(=主認知システム)はすべ
てそれらを素材にして動いているアプリケーションソフトのようなものである。[*1]
以下は筆者の憶測だが、例えば視覚の例では、境界値付近に向かってエージェントの
列が集積し、共同現象を起こしているのだと考えられる。またクジ比較における境界値
効果の場合は、クジを構成する事象と確率が「揃っている」ときと比べて、不揃いの場
合では、確率1や0に対するエージェントの共同現象がより起きにくいのだろうと考えら
れる。また少ない言葉数から相手の意図を汲み取ったりできるより高次の能力につい
ても、それらしい気がする。
8
決定荷重による説明
曖昧な確率の下での意思決定は、確率の選択という隠れた先行ス
テージがある複合クジとして論じることができる。Segal(1987)はこ
の第2階の確率アプローチの下で Ellsbergの背理に対して矛盾せず
に説明できる、次のような非加法的確率(決定荷重)の例を与えた。
0.1p、
p≦0.001、
f(p) =
1111
1
――――p - ――――、
1110
1110
p≧0.001.
グラフの形状はほとんどリニアー、つまりf(p)=pだが、p
=0.001において僅かに屈折し、極めて小さい確率からの増加
に対して、僅かな凸性を示す。つまりf(αp+(1-α)q)<αf
(p)+(1-α)f(q) になっている。この確率に対する凸荷
重が、曖昧な確率の回避(=確実性の過大評価)を説明する。ただ
し3色問題の場合、例えば第2階の確率をp(Bの平均が20)=
p(Bの平均が60)=1/2などと置く。
• ところが現実の意思決定者のふるまいはそう単純ではない。曖昧性を回
避する傾向は、リスクに対するそれと同じく、同じ人であっても変化すること
が実験的に確かめられる。ある問題で曖昧性を回避する者が、別の問題
では曖昧性を好んで選択することがある。(→逆S次決定荷重)
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逆S字形の決定荷重
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•
曖昧な確率への態度が一定しない場合を含めて、意思決定のアノマリー
を説明するために文献で用いられた非加法的確率は、決定荷重
(decision weight, or probability weighting function)と呼ばれている。
[*1]
•
以下に挙げた代表的な決定荷重の関数形のうち最初の3つまでは、選好
逆転現象の説明のためにKarni and Safra(1987)が用いた決定荷重と似
て、非対称な逆S字カーブを描き、小さい確率で凹、途中で凸に変わる性
質(有界劣加法性)を示す。 [*2] ただし、境界値で不連続にジャンプする
Einhorn and Hogarthのものが現象の記述としては自然だ。
•
Prelec(1998)
•
Tversky and Fox(1995) w(p)= δ*(p^γ)/[δ*p^γ+(1-p)^γ)];
•
Kahneman and Tversky(1992); w(p)= (p^γ)/[p^γ+(1p)^γ)]^(1/γ);
•
Einhorn and Hogarth(1985,1986)-Currim and Sarin(1989).
w(p)=p+(1-p-p^β).
w(p)=Exp(-(-Ln(p)^α));
10
ランク依存期待効用による説明
• ランク依存期待効用(RDEU)[*]は、最悪から最良に向かって賞金金額のラ
ンク付けy 1≦・・・≦y n とし、確率を累積して荷重する。各yiの当選確率q i
(i=1..n)、f(0)=0、f(1)=1とするとき、RDEUは以下の式に
よって表される。
n
Σ u(yk)・[f(qk+・・・+qn)-f(qk+1 +・・・+qn)]
k=1
• Camerer and Weber(1992) はEllsbergの2色問題を説明する、確率の曖昧な壷
に対するRDEUを次のように与えた。ただし色を当てたときの賞金の効用を1と
する。
100
vAU= Σ f(i/100)・[f((101-i)/101)-f((101-i-1)/101)]}.
i=0
このモデルで曖昧な壷が回避されるのは、確率の分かっている壷の効用よりも
vAUが小さい場合、つまりf(1/2)>vAUのときである。
• また、Yaari(1987, p.105)は先述の共通比効果のアノマリー例題を説明する、
以下のような凸決定荷重を示唆している(効用関数は線形)。
f(p)= p / (2 – p).
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11
フレーミング効果


リスクへの態度は問題文の提示の仕方(フレーム)によって
変化する。以下の例はトバスキーとカーネマン(1981)に
よって示された。あなたならいずれの対策を望むか。
ポジティブフレーム条件



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米国で600人が死ぬと予想されるアジアの伝染病が突
発的に発生した。2種類の対策が提案されたが、それぞ
れの実施結果は以下のように予測された。
対策A: もしこの対策を採用すれば200人が助かる。
対策B: もしこの対策を採用すれば600人が助かる確率
は3分の1で、誰も助からない確率は3分の2である。
12
フレーミング効果(続き)

ネガティブフレーム条件
米国で600人が死ぬと予想されるアジアの伝染病が
突発的に発生した。2種類の対策が提案されたが、そ
れぞれの実施結果は以下のように予測された。
 対策C: もしこの対策を採用すれば400人が死亡す
る。
 対策D: もしこの対策を採用すれば誰も死なない確
率は3分の1であり、 600人が死亡する確率は3分
の2である 。
Tverskyらは肯定的な提示(ポジティブフレーム条件)下
ではより慎重なA案を選んだ人々の多くは、否定的な選
択肢の提示法(ネガティブフレーム条件)でよりリスクの高
いDを選んだと報告している。


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A=C、B=Dの解説


客観的には、前問のAとC、BとDはそれぞれ同じ対策であ
る。ただその文を伝える雰囲気が異なるだけである。
「200人助かる」と「400人が死亡する」というのは同じこ
とである。(全体で600人だから。)



「600人助かる」と「誰も死なない」とは同じ。また 「600
人が死亡」と「誰も助からない」ということも同じである。


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対策A: もしこの対策を採用すれば200人が助かる。
対策C: もしこの対策を採用すれば400人が死亡する。
対策B: もしこの対策を採用すれば600人が助かる確率は3分
の1で、誰も助からない確率は3分の2である。
対策D: もしこの対策を採用すれば誰も死なない確率は3分の1
であり、 600人が死亡する確率は3分の2である 。
14
プロスペクト理論

効用

ポジティブフレーム条件
損失
利得
ネガティブフレーム条件
フレーミング効果によってA&D(あるいは
B&C)というペアを選択した被験者は、リ
スクに対する態度が一貫しておらず、期
待効用仮説に反する。
もし確実なA案を選んだ人がリスクのある
D案を選んだとすれば、選択肢の提示法
によってリスクに対する態度が変わったと
考えざるをえない。これをTverskyらはプ
ロスペクト理論[*]として提案した。



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ポジティブフレーム条件=>リスク回避的、
ネガティブフレーム条件=>リスク愛好的
ただし利得と損失で人々のリスクへの態
度が非対称的であることは、Markowitz
やAllaisやSchakleが、期待効用理論が
提案された早い時期に指摘していた。
15
選好逆転現象




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選好逆転現象(preference reversals phenomena) は期待効用理論に
対するよく知られたアノマリーの一つである。 [1]
賞金額と確率値に明確なトレードオフがある2つのクジ($クジと
Pクジと呼ばれる)を比較したとき、同じ被験者で各クジの評価額
の表明値(最低いくらで手放すか)の大小と、実際のクジ選択とが
食い違う現象である。
例えば$クジは$1.5支払う確率25/36、$16当たる確率1
1/36、Pクジは$1支払う確率1/36、$4当たる確率35/3
6とする。E Uモデルへの 違反を示す典 型的パターン は、“π
($クジ)>π(Pクジ)”かつ“$クジ<Pクジ”である。つま
り実際の選択ではリターンは低くても確実性の高い方を選ぶが、評
価させるとリターンとリスクの共に高いクジにより高い値を付ける
傾向が観察された。
Tversky, Slovic and Kahneman (1990)の実験1では、選好逆転パ
ターンのうち$クジの過大評価が620人中の65%を占めている
と報告されている。
16
選好逆転現象の説明



当初リグレット(後悔)、つまりレファレンスポイント(参照点)に依存
した非線形選好モデルを用いた説明が試みられたが、その後の追試によっ
て非推移的な選好を示すデータは実際には少数であることが分かった
(Tversky, Slovic and Kahnemann, 1990)。
Karni and Safra(1987)は選好逆転現象を、ランク依存期待効用(RDEU)
モデルを使って説明しようとした。 RDEUモデルはこの種の違反パター
ンを、クジの確実性等価(CE;Certainty Equivalent)の金額を被験者
から聞き出すためのBecker-DeGroot-Marschk手続き(BGM)の失敗と
して記述できる(公示価格逆転。次のスライド)。BGM手続きは正直に
CEを吐かせる一種の誘因両立メカニズム[2]ないし入札モデルである。ま
た、Segal(1988)は還元公理を緩和したRDEUを使って選好逆転現象
を説明している。
被験者はクジに対する自身の最低放出価格(πとする)を吐いた後、仮想的
な入札相手の付け値がπを超えればこの権利を放棄し、そうでなければ実際
にクジを引く。ただしこの入札価格[3]は1から5までの整数値(sとす
る)を一様乱数で発生させる。
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公示価格逆転

Karni and Safra(1987) の公示価格逆転メカニズムとしての選好逆転現
象の解釈
・≦1
/ >1
π/
・
π>s
A
□
・――○――――――――○――――・-$1
\
・
|
π▽ |
1/36
\ >4 |
―― |
・>5 |
5 |35/36
|(5-π)△
・
π<s|―――――
$4
|
5
s○――――――・$π-1
| 1
|各―
・
| 5
・
|
・
|
・
|
・
注:図中の記号△(▽)整数値へ
の
$1
切り上げ(切り下げ)を表す。
図.公示価格逆転
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決定荷重による説明
• Karni and Safra(1987)は上記の公示価格逆転に対して、次のような
凹状のグラフを持つ非加法的確率と効用関数を提案した。
1.1564p、
0≦p≦0.1833、
0.9p+0.047、
0.1833≦p≦0.7、
0.5p+0.327、
0.7≦p≦0.98、
f(p)=
p10
0.98≦p≦1、
Karni and Safra(1987)の決定荷重
u(x)=
10x+10、
12≦x.
1
荷重
6.75x+49、
-1≦x≦12、
0.6
0.2
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-0.2
-0.2
0.3
0.8
確率
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アノマリーの認知的解釈(2):選好逆転現象における類似性の役割



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選好逆転現象は、より一般的に言って、多次元的な対象を
一次元の尺度に落として評価するときの認知的偏向に関わっ
ている。すなわちどのように人間の認知が、リスクのある代
替案の比較において、信頼できる測定のものさしを作り出す
かに関係する[*]。
両極端のケースでは、金額で評価させると、金額の大きい方
($クジ)をより高く評価するだろうし、また確率で評価さ
せればPクジをより高く評価するだろう。これを一般化する
と、与えられた評価次元と同じ次元で良い成績を持つと考え
られる対象が選抜される(一種のスクリーニング、ないし
フィルタリングである)。
Tversky ら の グ ル ー プ は こ れ を ス ケ ー ル 両 立 性 (scale
compatibility)と呼び、実験を通じて検証した(Tversky et al.,
1990)。またRubinstein(1988)は、Allaisの背理に対して、事
実上SCと同様の観点から理論的説明を試み、類似性に基づく
意思決定論の公理的アプローチを提案した。
20
負の時間割引率
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
より遠い将来確実に入手できると約束された一定報
酬の価値は、より近い将来入手できる同じ報酬の価
値よりも低く見積もられるのがふつうである。

基本的な期待効用モデルでは、報酬の価値が時間と
共に低くなることは(正の)時間割引率(1+r)^(-n)に
よって表される。実際、企業の投資判断では、正味現
在価値(NPV)をこの方法で計算する。

ところが現実の人間や動物で実験した結果、上で述
べた性質に反してより遠い将来の価値の減価に対し
て人は鈍感になる傾向[*]があることが知られている。
つまり数式上は、負の時間選好率になってしまうので
ある。次のスライドで例を示そう。
21
時間選好の例題
 質問1


A: 素敵なフランス料理店で。 (86%)
B: 田舎のギリシャ料理店で。 (14%)
 質問2



Aと答えた人に同じ質問です。
C: 1ヵ月後の金曜日に、素敵なフランス料理店で。 (8
0%)
D: 2ヵ月後の金曜日に、田舎のギリシャ料理店で。 (2
0%)
 質問3

ディナーをとるとしたらどちらがお好き?
同じくAと答えた人に聞きます。
E: まず1ヵ月後の金曜日に、素敵なフランス料理店で、次に
2ヵ月後の金曜日に、田舎のギリシャ料理店で。 (43%)
F: まず1ヵ月後の金曜日に、田舎のギリシャ料理店で、次に
2ヵ月後の金曜日に、素敵なフランス料理店で。 (57%)
 上の例はハーバード大の学部学生を対象に実験され
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たそうです(Lowenstein&Prelec, 1991)。
22
負の時間割引率(解説)





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以下に依田 (1997, pp.38-39)を参考に、この例題における負の割引
率を説明します。
まず質問1でAを選んだ人の効用は次の式を満たします。
U(フランス料理)>U(ギリシャ料理)
また、Nヶ月後の割引因子をf(Nヶ月)とするとき、通常は(指数関数的
割引率を使うので) f(1ヶ月) >f(2ヶ月)が成り立ちます。よって
f(1ヶ月) U(フランス料理)>f(2ヶ月) U(ギリシャ料理).
実際、質問2では8割がCを選び、上式と矛盾しませんでした。
ところが質問3では同じくAと答えた人のうち半数以上が、Fを選びました。
この人たちの効用は、2回の食事の効用が独立に加算できると仮定す
ると、以下のようになるはずです。
f( 1ヶ月) U (フランス料理)+f( 2ヶ月) U(ギリシャ料理)
< f( 1ヶ月) U (ギリシャ料理)+f(2ヶ月) U(フランス料理)
→ U (フランス料理)<U(ギリシャ料理)
また式の括り方を変えると、f(1ヶ月)<f( 2ヶ月)となり、負の時間選好
率になっていることが分かります。
23
時間選好アノマリーとギャンブルのそ
れの一般化
 PrelecとLowensteinは時間割引率にかんするアノマリーを4
タイプに分類している。共通差効果(Common Difference
Effect)
今すぐの10万円か11万円の差は、6ヵ月後の10万円と11万円の
差とは同じ1万円でも選好が異なる。
 利得・損失非対称性(Gain/Loss
Asymmetry)
損失の割引率は同じ金額に対する利得の割引率よりも低目である。
 金額効果(Magnitude
Effect)
小さい金額には高い割引率、大きい金額には低い割引率が適用され
る。
 枠組み効果(Framing
Effect)
実質的に同じ質問でも、支払金額で聞くか、割引額で聞くかによって
答えが変わる。つまり利得損失非対称性が誘導される。
 これらはギャンブル選択のアノマリーと類推的に対応する。
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アノマリーの認知的解釈(3):誤表象とサーチ、多重自己




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Fは「楽しみは先にとっておこう」という選択としては日常的感覚に通じる。ところが
すでに見たとおり経済学的なモデル(異時点間消費ないし貯蓄の理論)にあてはめ
ると選好逆転をきたす[*1]。
サーチ(探索)モデルの文脈では、決定の不可逆性などの考慮により、(通常の時
間割引の下で)なんら経済学的合理性に違反せずに、劣った代替案を先に選ぶこ
とができることが知られている。[*2] 詳しくは省くが、ようは先に試した結果いかん
で後のオプションは捨てられるという意味での「柔軟性」を確保できるからである。
同じ考え方はオプション理論(売買の権利の価格決定)に通じる。
Fの選択に見られるような「遅延選好」をする被験者は、暗黙的かつ主観的に、問
題を再表現している可能性がある。すなわち、時間選好の例題に対して、もしあな
たが 「楽しみは先にとっておこう」と思ってFを選んだとしたら、代替案の集合が小さ
くならないというディナーのオプションを表現する決定木を(誤)表象しているのかも
しれない。[*3] [*4] あるいは、反事実条件文により表象された決定木によって、共
通結果効果を消す逆フレーミングとみなすこともできるだろう。[*5]
なぜ追加的オプションの限界価値がその実行順序に左右されるのだろうかという
疑問を晴らす答えには経済学的手法以外にもいろいろありうる。消費のプランや順
序は、個別の財・サービス自体の消費ではなく、その仕方、つまり消費スタイルを選
択する問題---いわば記号論的水準での消費--であると考えることもできよう。シン
タックスだから順序が正しくないと、とうぜんダメである。 Strotz(1956)以来の多重
自己アプローチは各時点での諸活動間の明示的コーディネーションをゲーム理論
を用いて考える。複雑だが、さまざまなアディクションや自己制御—将来の利益を
考えて計画を立てるが、刹那的な欲求充足をガマンできない「弱い意志」--のモデ
ル分析に応用可能であり、いろいろな意味で興味深い代替的アプローチとなる。
[*6]
25
逆フレーミング






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ディナーの例題における負の割引率を、逆フレーミング[*1]を使って説明して
みよう。
2ヶ月間の消費プランにおける順序は4つの可能性がある。ただし●印は質
問2で実際に質問された。
フランス料理→ギリシャ料理(プラン1 ●);
フランス料理→フランス料理(プラン2) ;
ギリシャ料理→フランス料理(プラン3 ●) ;
ギリシャ料理→ギリシャ料理(プラン4).
質問1でAを選んだ場合: U(フランス料理)>U(ギリシャ料理).
質問2でFを選んだ場合: U (プラン1)< U (プラン3).
ここで実行不可能であるプラン(プラン1とプラン4)を比較相手とした、実際に
は質問されなかった仮想的な2つの問い(プラン1とプラン2、およびプラン3と
プラン4 の間の各選択)を考える。これらはそれぞれ共通結果を持っている。
そこでプラン1とプラン3が選ばれたと仮定する。プラン2は実行不可能だが、
プラン1とプラン3をともに優越することに注意する。
逆フレーミングでは決定木によって共通結果効果が解除され、選好順序が逆
転前に戻ったたと考える。つまりプラン1は順序を無視したときはプラン3と同
じであるが、プラン2との比較においては選ばれないはずの代替案だったろう
と推論し、その評価を割り引くのである。
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ニューカム問題


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ニューカム問題(Nozick, 1969)は
2要因AとBの関係が因果関係ではな
く、第3の要因Cを介しての相関関係で
ある場合に、ベイズルールと確実性推
論が2つの対立する処方を導く。
問題の内容は次のスライド。
ニューカム問題(続き)
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予知能力を持つエイリアン(神様)が2つの箱を用
意し、人間に次のような選択問題を与える。
「見ての通り、箱1には千ドル入っている。箱2は蓋
がしてあり中身は見えないが、もしお前が箱2だけ
選べば私はそれを予測できるから、10万ドル入れ
る。しかしお前が箱1と2の両方を選ぶとしたなら、
箱2には何も入れない。」
人間は両方の箱を取るか、あるいは曖昧な箱2だけ
取るかのいずれかを選ばなければならない。両方の
箱を取るのは、一見すると優越原理にしたがってい
るが。。。
Quattrone&Tverskyはニューカム問題の類似状況で
あるVoter’s Illusionを心理学実験している。
図.ニューカム問題を表す決定木
1 Put 10
2 1 Box
○――――――→・――――→1
|
・|
10
|
・ |2Box
|
・
|
¬Put|
・
↓
|
・
0
| ・
10.1
↓・1Box
2・――――→0
|
0
2Box|
↓
1
0.1
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•ニューカム問題は、
ゲーム理論でいう「囚人
のジレンマ」の変種であ
る。[*1]しかし、ペイオフ
に影響する「隠れた変
数」の影響に注目させる
ための例題になってい
る。つまり、悪定義され
た問題に対して、ナイー
ブに合理的選択の方法
を適用すれば非決定性
[*2]を免れない。
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アノマリーの認知的解釈(4):不動点意味論
•ちなみに意思決定者の批准可能性(ratifiability)の問題、動的矛盾(dynamic inconsistency)
の問題、あるいは展開系ゲームにおける共通知識(common knowledge)と合理性の仮定の
認識論的基礎問題として議論されたことも基本的にこれ(ニューカム問題)と同じ構造である。
[*1] つまり、意思決定者自身が「自分自身(あるいは皆がお互いに)そのようにこの問題を解
くであろうことを知っている」というメタ認知ないし自己言及(self-reference) ---それは前提も結
論も共に偽である反事実的条件文(counterfactual)を表す—を作り出す認識的オペレータの
繰り返し適用としての動学システムにおいて、自分自身の決定すなわち自己意識が不動点
であるか、また仮に不動点だったとして安定性はどうかが問題になる。[*2]
•この種の「自己意識を持つ認知システム」の挙動を記述するのに向いていると思われる不
動点意味論アプローチ(ないし手続き的意味論)は非停止の場合を含めたシステムの挙動を
記述する理論として情報科学ではよく知られており、経済科学分野への応用もすでに行われ
ている。有限ステップでのプログラム停止性を要請される原理的な計算可能性(あるいは証
明システムの完全性)は、嘘つき文の真偽値の非決定性の議論に悩まされるが、そうした不
完全性を逆手に取れば生き続けている限り活動を継続するシステムを表現しているとみなせ
る。システムの動学が非停止であってもかまわないというきまえのよさは、たんにユーザーの
入力を待つWhile文、 論理プログラミングPrologの動作、巨大な銀行オンラインシステムと
いった様々なスケールに渡る情報システム、生命、人間、そして企業にわたる。[*3]
•不動点意味論はたんに数理的な形式美の追求ゆえではない。なぜなら分析者が導出した
解が内的に無矛盾であるかどうかだけでなく、隠れたリスクや報酬、あるいはそれをもたらす
実行不可能な代替案や不在のゲームプレイヤーが、分析者の配慮と形式化の及ばぬ範囲
に存在していれば、あるいは意思決定者がそのような懐疑をひとたび抱いただけで、システ
ムの挙動をドラスティックに変えうるからである。実際、非線形動学システム、カオス理論、あ
るいは進化ゲーム論などが注目された少なくとも一つの理由はそうした領域に挑む魅力を
持っているためだと思われる。
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意思決定の心理学の参考文献(和書)
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印南一路 (1997). 『すぐれた意思決定:判断と選択の心理学』.中央公論社.
上田泰 (1997). 『個人と集団の意思決定:人間の情報処理と判断ヒューリス
ティックス』.文眞堂.
岡本浩一(1992).『リスク心理学入門:ヒューマン・エラーとリスク・イメージ』.サ
イエンス社.
片平秀貴(1986).『マーケティングサイエンス』.東大出版会.
神山進(1997).『消費者の心理と行動:リスク知覚とマ-ケティング対応』.中央
経済社.1997.
小橋泰章(1988).『決定を支援する』.認知科学選書18.東大出版会.
繁枡算男(1995). 『意思決定の認知統計学』. 朝倉書店.
杉本徹雄(編著).(1997).『消費者理解のための心理学』.福村出版.
瀬尾芙巳子(1994).『思考の技術:あいまい環境下の経営意志決定』.有斐閣.
高橋伸夫 (1997). 『日本企業の意思決定原理』.東大出版会.
依田 高典(1997). 『不確実性と意思決定の経済学--限界合理性の理論と現
実』.日本評論社.
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意思決定の心理学の参考文献(洋書・邦訳)
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Bazerman, M. H. (1997). Judgment in Managerial Decision
Making. 4th edition. Wiley. (邦訳有)
Hammond,J. S., R. L. Keeney and H. Raiffa (1999). Smart
Choices: A Practical Guide to Making Better Decisions. Harvard
Business School Press. (邦訳有)
W. M. Goldstein and R. M. Hogarth (eds.). (1997). Research on
Judgment and Decision Making: Currents, Controversies.
Cambridge University Press.
D. Kahneman, P. Slovic nd A. Tversky (eds.). (1982) Judgment
under Uncetainty: Heuristics and Biaases. Cambridge University
Press.
A. P. Sage (1997). 『システムズエンジニアリング』.三森定道・明石吉三(訳).日
刊工業新聞社.(原著出版年は1992)
P.バーンスタイン(2001).『リスク(上・下)』.日経ビジネス人文庫.
G.ベルスキー・T.ギロヴィッチ(2000).『賢いはずのあなたが、なぜお金で失敗
するのか』.日本経済新聞社.
Thaler, R. (1990). Anomalies: saving, fungibility, and mental accounts. Journal of
Economic Perspectives 4:193-205. [篠原勝(訳).『市場と感情の経済学』.ダイ
ヤモンド社.1998.第9章]
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参考文献(筆者がまとめたもの)
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犬童(2002). 意思決定者の果断性:多重自己手法(英文). 関
東学園大学経済学紀要, 29/1, 29-62
犬童(2001). 意思決定者の不確かな知識 : 多重自己アプロー
チ. 関東学園大学経済学紀要, 28/2,41-96
犬童(1999a). 意思決定エージェントの多重自己と処方的知識,
関東学園大学紀要, 26(2), 31-72.
犬童(1999b). 曖昧性下の推論, 関東学園大学紀要, 26(1),
135-54.
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