素粒子物理における計算機科学

素粒子分野における計算機物理
大野木哲也
(京都大学基礎物理学研究所)
(1)素粒子分野の計算物理による
今までの成果は?
1. 量子色力学(QCD)の検証
漸近自由性から閉じ込め、カイラル対称性の破れまで
2. ハドロンの性質の解明
ハドロンの内部構造、ハドロンの相互作用
3. クォークのミクロな相互作用の探求
フレーバー混合、CP対称性の破れ
QCDの検証
格子QCDを用いて、漸近自由性から閉じ込め、カイラル対称性
の破れまで1つの理論で完全に説明できる。
カイラル対称性の
漸近自由性
ハドロン質量の再現
自発的破れの検証
強い相互作用の結合定数
Particle Data Group 2006
ハドロンの質量スペクトル
CP-PACS/JLQCD 2007
Dirac 演算子の固有値分布
Banks-Casher関係式の検証
JLQCD 2007
ハドロンの性質の解明
核子のパートン分布関数
LHPC 2007
散乱の散乱長
S. Aoki’s talk at Lattice 2007
クォークのミクロな性質の解明
標準模型=Standard Model (SM)の小林益川クォーク混合行列にもとづく
フレーバー混合、CP対称性の破れの検証
クォークの素過程とハドロン崩壊現象
とを結びつけるため、格子QCDによる
ハドロン遷移行列の決定が不可欠
新しいフレーバー混合、CPの破れの可能性
•Treeの一般のフレーバー混合
•1-loopの一般的フレーバー混合
•TreeのMinimal フレーバー混合
•1-loopのMinimal フレーバー混合
新しい物理のフレーバー混合やCP
の破れの機構に極めて強い制限
例:超対称性の破れの機構
小林益川行列に対する制限
これらの進歩は計算機とともに
計算手法と理論の進展による部分も大きい
格子QCDにおける大きな進展
• カイラル領域でのfull QCD シミュレーション
画期的なアルゴリズム(Domain-docomposition,
Mass preconditioning, Multi-time scale Molecular Dynamics)
• 厳密なカイラル対称性をもつフェルミオンの発見とそ
の応用
Ginsparg-Wilson Fermion (Overlap, Domain-Wall)
• 非摂動繰り込み
新しいスキームの提案、モンテカルロによる繰りこみ群(Step-scaling)
• 重いクォークの新たな計算手法
無限に重いクォークの有効理論(HQET)とチャームクォーク領域との内挿
ひとつひとつの手法はどれも極めて有望。
しかし、計算能力の限界により、すべてを組み合わせた
究極の計算は存在しない。
新たな発展がまだまだ期待できる。
(2)三分野の連携の可能性は?
「現象の理解」から「現象の予言」へ
新しい時代のスタートポイント
素粒子物理
•新しいダイナミクスの探求(複合ヒッグス模型、超対称性の破れ)
•B中間子遷移行列の精密決定(HQET+チャーム1%-5%)
•核子の内部構造の研究(パートン分布関数、EDM、シグマ項)
•ハドロン崩壊、相互作用(K中間子崩壊、ミューオン異常磁気能率)
ハドロン物理
•バリオン、Λ粒子の散乱位相(実験に代わる数値実験としての役割)
•エキゾチックハドロン
素粒子物理学の現状
標準模型の未解決問題と新しい物理のヒント
• 電弱対称性の破れの機構(ヒッグスの正体)
Elementary scalar? 複合粒子?超対称性?
•
世代の構造と起源
これらはともにTeV領域の物理が鍵を握ると期待される
•
宇宙論からの示唆(暗黒物質の存在)
TeV領域のWeakly Interacting Massive
Particle(WIMP)が有力候補のひとつ
新粒子の発見を目指す実験
LHC実験(陽子-陽子衝突)
XMASS実験(核子-WIMP散乱)
暗黒物質探索
ヒッグス粒子
どのような発見があるか予想できない
• 標準模型を超えるまったく新しいダイナミクスの発見の
可能性(超対称性、ヒッグスの複合模型など)
格子ゲージ理論による新しい模型のダイナミクス
の探求
• 新しい物理の特定のための反応過程の精密な予言
超対称粒子
核子の中のクォーク・パートンの分布が重要
不定性のLHCにおける影響~20%程度
世代構造やCP対称性の破れの起源を探る実験
Super B factory
個のB中間子対
小林益川行列の検証
20%精度
1%精度
新しい物理のフレーバー構造の探求
例:超対称性の破れの機構
格子QCDによるB中間子遷移行列の数%レベルの精密決定が必要
世代構造やCP対称性の破れの起源を探る実験
• K中間子実験
CP対称性の破れ
ハドロン2体崩壊の決定
フレーバー非保存の崩壊
形状因子の超精密決定
• 中性子の電気双極子能率(EDM)
CP対称性の破れ
核子内u,d,sクォークのEDMとChromo-EDM
• ミューオンの異常磁気能率g-2 測定
QED補正(4-loopまで)におけるハドロン効果の決定
真空偏極, light-by-light scattering
今後5年の展望
• LHC時代の実験が示唆する新しいダイナミクスの研究
• B中間子を中心とするフレーバー物理の探求
– 1-5%レベルの精密計算によりMinimal Flavor Violation 模型の実験
的検証
• 核子内部の構造、軽いハドロンのフレーバー物理の探求
• ハドロン崩壊、ハドロン相互作用の研究
•原子核分野の基礎を与える。
•モンテカルロで生成されたゲージ配位は核子の相互作用の研究にも
使える共通の資産となる。
(3)専用計算機は必要か?可能か?
QCDにはbクォークまで含めると大きな階層性がある
カイラル摂動有効理論
HQET
• より軽く、より大きく:
軽いフレーバーの物理の研究
ハドロン散乱、崩壊の研究
• より細かく:
重いフレーバーの物理の研究
どちらの方向にも
倍の高速化が必要
格子QCDは専用計算機に向いている
• 固定された正方格子, 最近接相互作用
• 特にFull QCDはノード内計算が主、ノード間通信は従
• 日本、アメリカ、ヨーロッパにおける専用計算機開発の伝統
筑波大 : QCD-PAXCP-PACS PACS-CS
計算機の現状
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JLQCD
PACS-CS
UKQCD-RBC
ETMC
: BlueGene/ L 57TFlops 現在
: 専用計算機(Intel LV Xeon 2560 node) 14.7TFlops
:
専用計算機(QCDOC)~30TFlops BlueGene/P ~1 PFlops 2008
: APEmille 数TFlops  BlueGene/P ~100TFlops 2008
日本の格子QCDコミュニティーが京速プロジェクト以降
3年後の次期計算機で専用、汎用どちらの方向に進むか議論が必要
専用:コストパーフォーマンス、プロジェクト向き
プログラム・アルゴリズム開発の人材の確保が急務
汎用:状況の変化に対応しやすい。予算をどうするか?
いずれの場合もデータベース・プログラム・アルゴリズムの
人材の育成は重要