カイラル対称性とは - JLQCD Collaboration

格子ゲージ理論における
カイラル凝縮の研究
Niels Bohr Institute
(仁科財団海外派遣研究員)
深谷 英則
for JLQCD collaboration
HF & T.Onogi, Phys.Rev.D70,054503 (2004)
JLQCD collaboration, Phys.Rev.D74,094505 (2006)
JLQCD collaboration, Phys.Rev.Lett.98,172001 (2007)
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JLQCD collaboration
KEK S. Hashimoto,H.Ikeda T. Kaneko, H. Matsufuru,
J. Noaki, M. Okamoto, E. Shintani, K.Takeda, N.Yamada
RIKEN -> Niels Bohr H. Fukaya
Tsukuba S. Aoki, N.Ishizuka, T. Kanaya, Y. Kuramashi,
Y. Taniguchi, A. Ukawa, T. Yoshie
Hiroshima K.-I. Ishikawa, M. Okawa
YITP H. Ohki, T. Onogi
(TWQCD T-W.Chiu, K.Ogawa )
KEK BlueGene (10 racks, 57.3 TFlops)
2
1.Introduction - カイラル対称性とは 
カイラル変換 質量0の極限でクォーク場

フレーバー対称性 さらにNf個クォークの種類を入れ替えるユニタリ変換に対
の作用はカイラル変換:
のもとで不変。
~ クォークの右(左)巻き成分を別々に位相変換。
しても不変。
→ クォークの作用は
(
対称性を持っている。
は場の再定義に吸収できる。)

カイラルアノマリー

カイラル対称性の自発的破れ
でも実は軸性
は量子効果で破れている。
[Nambu 1961]
さらに低エネルギーでは自発的に破れるとすると、
ハドロンの物理をうまく説明できる。
3
1.Introduction - カイラル対称性とは 
カイラル凝縮と質量問題
カイラル対称性はカイラル凝縮により破れる:
→ クォーク場の有効作用は
のように constituent 質量
を持ち、元々は
数MeVしかないクォークからなる核子etc.がなぜ1GeVもあるのかを説明できる。

パイ中間子の低エネルギー定理
(擬)Nambu-Goldstone boson としてふるまうパイ中間子は有効理論(カイラル
摂動論[Weinberg 1979])でよく記述できる → 相互作用の形は対称性によって
強く制限されている。

カイラル対称性は本当に破れるのか?
摂動論ではカイラル凝縮はゼロ。
→ 非摂動計算が不可欠 → 格子ゲージ理論の出番 ! (しかし難しい)
4
1.Introduction - カイラル対称性とは 私の研究目標
1. カイラル対称性を保つ格子Dirac演算子による数値計算を実現し、
2. カイラル対称性の自発的破れを第一原理から非摂動的に検証する。
カイラル対称性は、一見、格子化された時空の構造とは関係ない内部対称性。
しかし、アノマリーを通じて、時空のトポロジーと関係している・・・。
5
Contents
 1.
Introduction - カイラル対称性とは -
2.
3.
4.
なぜ格子QCDのカイラル対称性は難しいのか
5.
まとめ
格子QCDにおけるトポロジカルチャージの保存
JLQCD collaboration によるカイラル凝縮の計算
6
2. なぜ格子QCDのカイラル対称性は難しいのか

格子ゲージ理論(格子QCD)
とは場を格子点で代表させて場の理論を正則化する手法。
○非摂動的扱い、数値シミュレーションが可能。
× 時空の離散化により対称性が損なわれる。

Nielsen-Ninomiya 定理 [1981]
は量子効果で破れている(アノマリー)。
→ 正則化された格子場の作用は陽に破らなければならない。
・作用を
対称に作ると → クォークの自由度が倍増し、
アノマリーがキャンセルしてしまう。 [ naive fermion ]
・作用を
非対称に作ると→
も破ってしまう。[Wilson fermion]

Ginsparg-Wilson 関係式 [1982]
連続理論の持つカイラル対称性を損なわないようにブロックスピン変換していくと、
格子理論のDirac演算子は
の関係式を満たす。 (しかし、ゲージ共変な解は知られていなかった。)
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2. なぜ格子QCDのカイラル対称性は難しいのか
Overlap Dirac 演算子[Neuberger 1998]

1998年になってようやく、ゲージ共変な形でGinsparg-Wilson 関係式を満たし、かつ
正しい連続極限を持つDirac 演算子が発見された。
: Wilson Dirac 演算子
Overlap Dirac 演算子によるカイラル対称性の再定義 [Luescher 1998]

作用
は変換
のもとで不変。
1.
は陽に破れている。
2.
3.
→ アノマリーを正しく再現。
は厳密に保たれる。
指数定理が成り立つ[Hasenfratz 1998]
→ 格子理論でトポロジカルチャージが数えられる!
参考文献: 鈴木博,学会誌(2006年11月号), 深谷、橋本省二、学会誌(2008年4月号)
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2. なぜ格子QCDのカイラル対称性は難しいのか
Overlap Dirac 演算子の計算コスト

1.
overlap 演算子は、Wilson 演算子の関数 → 計算機上では多項式で与えられる。
十分な精度(7-8桁)を保つにはO(100)次の演算が必要。
2.
Topology の境界(
が0となる点。この0点を固有値が横切ると指数
が変わる。)上で、fermion 行列式が不連続。
Q=1
Q=0
→ 作用の勾配だけを計算しながら進む
分子動力学法が機能しない。
(トポロジーが変わるたびにその正確な位置とそ
の点におけるSを計算する必要がある。)
さらにO(10)倍の計算コスト。
これまで大規模シミュレーションでは使われてこなかった。
(※近似的にGW関係式を満たすdomain wall fermionは研究が進められてきた。ただし、カイラル
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対称性の破れの指標となるresidual 質量が数MeV程度ある。)
3. 格子QCDにおけるトポロジカルチャージの保存
HF & T.Onogi, Phys.Rev.D70,054508(2004)
JLQCD, Phys.Rev.D74,094505(2006)
アイデア: 1. 各トポロジカルセクターを個別にシミュレートし、
2. 後から足しあげてθ真空の物理量を求めよう。
1. 分子動力学法においてトポロジカ
ルチャージを保存するには
トポロジーの境界で作用が無限になる
ような項を足せばよい。[そもそも連続
理論ではそうなっている。]
Q=1
Q=0
10
3. 格子QCDにおけるトポロジカルチャージの保存
2. トポロジカルセクタを足し上げてθ真空の結果を得るには
真空エネルギー
がわかれば良い。
Vafa -Witten の定理[1984] より、
体積が充分大きいとき、鞍点法より
は(fixed Q)eta-prime 中間子の2(4)点相関関数より求まる:
S.Aoki, HF, S.Hashimoto, T.Onogi Phys.Rev.D76,054508(2007)
JLQCD&TWQCD, arXiv:0710.1130(2007)
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3. 格子QCDにおけるトポロジカルチャージの保存
2. トポロジカルセクタを足し上げてθ真空の結果を得るには
もっと簡単な方法
HF & T.Onogi, Phys.Rev.D70,054508 (2004)
低エネルギー有効理論(カイラル摂動論)では真空エネルギーが解析的にわかっ
JLQCD
ている:collaboration, Phys.Rev.D74,094505 (2006)の成果
1. トポロジー毎に物理量を求め、あとから足し上げてθ真空の物理量を
→ 計算することが可能であること、
fixed topology の結果からθ=0 真空の結果は解析的にしかも非摂動的に逆
2.算できる(真空エネルギーの計算はone-matrix
トポロジーを保存する作用を用いたシミュレーションが
Modelに帰着)。overlap Dirac
演算子の計算コストを大幅に削減できること、
3.最も低エネルギーの物理量であるカイラル凝縮はパイ中間子の補正だけで充分
加えた作用の有無が低エネルギーの物理にほとんど影響しないこと
なはずなのでこの方法を採用する。
トポロジーも Q=0 一つあれば充分。
を定量的に確かめた。
→ いよいよ overlap fermion の数値計算へ
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4. JLQCD collaboration によるカイラル凝縮の計算
Overlap fermion の数値計算の成功
計算コスト:=O(100)次のDwの演算
* action
- Iwasaki (beta=2.3,2.35) + Q stabilizing
トポロジーの境界における作用の不連続性に伴う計算コストO(10)倍
- Q=0 topological
sector (No topology change.)
=lattice
O(1000)倍
[対a is
Wilson
fermion
比]
- The
spacings
calculated
from
しかし、
quark potential (Sommer scale r0).
1. トポロジーの保存でfermion行列式の不連続性を回避: 10倍 速い
- Eigenvalues are calculated by Lanzcos algorithm.
2. KEKにBlueGene (理論演算性能57TFlops)登場 :
50倍
projected to imaginary axis.)
3. (and
新たな高速アルゴリズムの開発
- 400
+ 4600 HMC
trajectories
(460confs). etc.) :
(multimass
solver,
mass preconditioning
10倍 or more…
L3T=163 32 (L~1.8fm) 2-flavor QCD のシミュレーションで
3MeV のクォーク質量を達成!
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4. JLQCD collaboration によるカイラル凝縮の計算
Banks-Casher 関係式[1980]
low density
Free fermon
Strong coupling
Σ
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4. JLQCD collaboration によるカイラル凝縮の計算
Dirac spectrum の Q,V,m 補正
・トポロジカルチャージ (Q=0) の固定
・有限体積 (V ~1.8fm)
Σ
・有限質量 (m~3MeV)
の効果を
有効理論(カイラルランダム行列理論) [Damgaard & Nishigaki,2001] で
補正すると、
V
Σ
参考文献: 西垣真祐、数理科学、2007年2月号、30
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4. JLQCD collaboration
によるカイラル凝縮の計算
4
m~3MeV, Q=0, V=(1.8fm) の結果
ほぼ Banks-Casher のシナリオどおり
・low mode の堆積。
・固有値密度はΣ~(240MeV)3とconsistent。
・しかし、0からのギャップ=有限体積効果。
1. カイラルランダム行列理論で
m, Q, Vの効果を補正
2. RI/MOMスキームで非摂動的
にくりこみ係数を評価
3. カイラル摂動論で高次補正
のみつもり
第一固有値をフィット→
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4. JLQCD collaboration によるカイラル凝縮の計算
系統誤差について
1. 有限格子間隔による系統誤差
Overlap Dirac 演算子を使うと、自動的に O(a) 誤差はキャンセルする。
O(a2)は(たぶん)小さい。
2. 有限クォーク質量による系統誤差
m~3MeV は充分カイラル極限に近い。 (Σ1/3 ~ΛQCD~250MeVに比べて)
3. 有限体積による系統誤差
LOはカイラルランダム行列理論で取り込んでいる。
NLOはカイラル摂動論によると典型的な補正は10-13% = 最も大きい系統誤差。
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4. JLQCD collaboration によるカイラル凝縮の計算
カイラル摂動論のさらなる検証 - パイ中間子のプロパゲータ-
Pseudo-scalar correlator と、axial vector correlator を、
(partially quenched) カイラル摂動論のイプシロン展開のNLOの結果
[P.H.Damgaard & HF, Nucl.Phys.B793:160-191,2008, F.Bernardoni & P.Hernandez, JHEP0710(2007)033]
と比較。
→ エラーの範囲でconsistentな結果が得られた。[JLQCD, arXiv:0711.4965 to appear in PRD.]
(注 有限体積でカイラル極限に近いと、モジュライ(0-mode)のゆらぎが無視できなくなるので、
モジュライとそれ以外の有限運動量成分を分離して展開するイプシロン展開が必要。)
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4. JLQCD collaboration によるカイラル凝縮の計算
カイラル摂動論のさらなる検証 -トポロジカルサスセプティビリティー-
カイラル摂動論の予言:
と比較する[in p-regime]。
[JLQCD & TWQCD, arXiv:0711,1130]
Q=0
Instanton
のスケール
Pure YMではΛQCD
また、
↓
QCD with light quarks では
パイ中間子質量
を確認した !
Θ真空も可能。
も得られた(preliminary)
→鞍点法の有効性を裏づける。
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5. まとめ
1.
2.
3.
4.
5.
厳密なカイラル対称性を保つ overlap Dirac 演算子を用いた大規模
数値シミュレーションを実現。
L~2 fm の格子上でクォーク質量3MeVを達成。
固有値分布は Banks-Casher のシナリオとほぼ consistent 。
有限体積、有限クォーク質量、トポロジカルチャージの固定の効果を、パイ中間
子のみからなる有効理論で補正し、カイラル凝縮を定量的に求めた。
他の物理量(パイ中間子相関関数、トポロジカルサスセプティビリティー)も無矛盾
なカイラル凝縮の値。
カイラル対称性が自発的に破れ、カイラル摂動論が低エネルギーの
ハドロン物理を記述することを、QCDの第一原理から検証した。
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5. まとめ
Talks by JLQCD collaboration
 Overview (松古 24pZC)
 Meson spectrum (野秋 24pZC)
 Pion form fator (金児 24pZC)
 S-parameter (山田 24pZC)
 Nucleon Sigma term (大野木 24aZC)
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5. まとめ
今後の展望

計算機、アルゴリズムの進歩により、どのフェルミオン作用でも、数MeVのダイナミカル

クォークを扱うことが可能な時代となった。
Overlap fermion は自動的にO(a)エラーはなく、他のフェルミオンも計算コスト
が低いので、格子間隔誤差を小さく抑えることは可能。
残る課題は、有限体積効果。典型的な補正を

に抑えるためには L=4-5fm 以上が必要 (m=3MeVのとき) !
しかし、有限体積効果のほとんどはパイ中間子が担う。∵

( Partially quenched ) カイラル摂動論 in finite volumeが重要。
1.
Pseudo-scalar and scalar correlators
[P.H.Damgaard & HF,Nucl.Phys.B793:160(2008)]
2.
3.
Pion decay constant [P.H.Damgaard, T.DeGrand,HF,JHEP12(2007)060]
Axial and vector currents
[F.Barnerdoni, P.H.Damgaard, HF, P.Hernandez, in preparation.]
4.
Kaon physics [P.H.Damgaard, T.DeGrand, HF, in progress.]
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Appendix
これまでのΣの計算
カイラル凝縮は一般に3次で発散する。
たとえ、発散を取り除けたとしても、
極限をとるのは難しい。
→ これまでは、
1. パイ中間子が質量0になる quark 質量の値をカイラル極限と「定義」し、
2. そのパイ中間子の質量の quark 質量に対する傾きからΣを求めていた。
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