公共経済学

公共経済学
16. 租税入門
16.1 租税原則
<アダム・スミスの4原則>
1)公平性の原則
2)明確性の原則
3)便宜性の原則
4)最小徴税費の原則
政府から受けた便益あるいは負担能力に応じた負担
税率・課税標準などが明確さ(租税法律主義)
納税の時期と方法についての納税者便宜への配慮
「納税費用+税務行政費」の最小化
<課税原則>
明確な課税標準の下での税負担の配分の公平性
1)公平性
2)中立性(効率性) 小さい超過負担(=厚生損失、死荷重)
簡素な税制の仕組、理解し易さ、非恣意的な税務行政
3)簡素(公正性)
<公正性(fairness)に関する法律論的な論点整理>
公正な税額
=明確な認識・測定の基準に基づいて確定された税額
公正な租税制度
=明確なルールに基づき課税される制度
租税法律主義
=租税法に基づき税額を決定するという考え方
① 実体法分野
=課税要件などを規制
② 手続法分野
=適正な賦課徴収手続きと租税争訟における公正な裁判
課税要件法定主義
=課税要件と賦課徴収手続きは法律によって決定
課税要件明確主義
=①課税庁の自由裁量の余地を認めないため
②要件判断の明確性と納税予測の可能性のため
納税過程の公正、簡素
1) 納税過程とタックス・コンプライアンス
2)
適正な執行の確保等
16.2 公平性(Equity)
応能原則、能力説(ability to pay principle)
=負担能力の大きさに応じて租税を負担するべき
応益原則、利益説(benefit principle)
=政府活動から受ける便益に応じて租税を負担すべき
(問題 16-1)
市役所は都市公園を整備する事業だけをおこなっている。
個人 A は都市公園の近くに住んでいて所得水準は低い。
個人 B は都市公園から遠くに住んでいて所得水準は高い。
市民税を個人 A、個人 B どちらが多く負担すべきか。
応能原則 vs. 応益原則
課税標準(tax base)
=課税客体を数量化したもの(指標)
税額=課税標準×税率
(問題 16-2)
個人 A=健康で体力もある個人
個人 B=病弱で体力も無い個人
租税負担能力の大きい個人は?
健康状態や体力を課税標準とする場合の問題点?
所得を租税負担能力の指標として採用することの好ましさ?
(問題 16-3)ビジネスに成功したが質素な生活をしていた人が 100 億円
の遺産を子供に遺して亡くなったとする。そのとき、次の2つ
のケースを考えてみよう。
ケース1:子供は全く働かずに父親の遺してくれた遺産から毎
年 1 億円を使って贅沢な生活をしている。
ケース2:子供は全く働かずに父親の残してくれた遺産から毎
年 200 万円を使って質素な生活をしている。
これらのケースを参考にして、所得税、相続税、消費税の果た
す機能について、応能原則と応益原則の観点から検討しなさい。
水平的公平(horizontal equity)
=課税標準が同一の主体は同額の税を負担
垂直的公平(vertical equity)
=課税標準の大きい経済主体がどれだけ多く税を負担すべきか
16.3 所得と消費
「所得」をサイモンズは以下のように定義している。
W0 =期首の資産額
W0 =期首に保有していた資産のキャピタル・ゲイン
W1 =期末の資産額(含む資産の新規購入額)
YF =その期の要素所得(賃金、利子所得など)
C =その期の消費額(=消費支出額)
⇒
C  W1  YF  W0  W0
(1)
Y =(サイモンズの)所得
= W1 を W0 以上に保ちながら可能な消費額の最大値
(問題 16-4) W1 が W0 以上であるときに、消費 C が
満たすべき不等式を(1)より求めることで、
サイモンズの定義による所得 Y が
Y  YF  W0
と表わせることを示しなさい。
(2)
16.4 消費税と支出税
W  W1  W0 ;その期の資産額の増分
とおけば、(1)、(2)より
Y  C  W
である。
(3)
「消費税(consumption tax)
」
=消費(支出) C を課税ベースとする間接税
「支出税(expenditure tax)
」
=消費(支出) C を課税ベースとする直接税
「間接税」
=納税義務者と税金を実質的に負担する経済主体が異なる税
「直接税」
=納税義務者と税金を実質的に負担する経済主体が同一の税
(問題 16-5)所得税=間接税 or 直接税?
(問題 16-6)一年間の消費(支出)額 C を税務当局が直接補足
することの実務的な困難性について検討しなさい。
また、個人の 1 年間の貯蓄がプラスであるときには、
どのような方法で消費支出額を間接的に捉えること
ができるかを検討しなさい。
16.5 所得税と累進性
T =所得税額
T / Y =平均所得税率
累進所得税制度=所得 Y の増加とともに平均税率が増加する所得税
逆進所得税制度=所得 Y の増加とともに平均税率が減少する所得税
比例所得税制度=所得 Y が増加しても平均税率が変化しない所得税
T  t (Y  Yˆ ) :線形所得税制度( t  0 )
(4)
(問題 16-7)所得税が累進、逆進、比例となるのは Yˆ が
どのような条件を満たすときか。

if Y  Yˆ
0
T 
:非線形所得税制度 (5)
ˆ ) if Y  Yˆ

t
(
Y

Y

T

if Y  Yˆ
0
T 
ˆ
ˆ

t (Y  Y ) if Y  Y
t
Yˆ
控除所得
非線形所得税制
限界税率
Y
Yt B =野球選手のt年目の所得( t =1,2)
Yt S =サラリーマンのt年目の所得( t =1,2)
(問題 16-8)
野球選手の所得 Yt B とサラリーマンの所得 Yt S が次の表で与
えられているとする。このとき、(5)の非線形所得税制度の
もとで t =0.5、 Yˆ =200 であると、各年の野球選手の税額
Tt B とサラリーマンの税額 Tt S はいくらか。また、2年間の
所得総額と課税総額との関係について検討しなさい。
t
Yt B
1
2
合計
2000
0
Tt B
Yt S
1000
1000
Tt S
(問題 16-8)
野球選手の所得 Yt B とサラリーマンの所得 Yt S が次の表で与
えられているとする。このとき、(5)の非線形所得税制度の
もとで t =0.5、 Yˆ =200 であると、各年の野球選手の税額
Tt B とサラリーマンの税額 Tt S はいくらか。また、2年間の
所得総額と課税総額との関係について検討しなさい。
t
Yt B
1
2
合計
2000
0
2000
Tt B
Yt S
1000
1000
2000
Tt S
(問題 16-8)
野球選手の所得 Yt B とサラリーマンの所得 Yt S が次の表で与
えられているとする。このとき、(5)の非線形所得税制度の
もとで t =0.5、 Yˆ =200 であると、各年の野球選手の税額
Tt B とサラリーマンの税額 Tt S はいくらか。また、2年間の
所得総額と課税総額との関係について検討しなさい。
t
Yt B
1
2
合計
2000
0
2000
0.5×(2000-200)
Tt B
Yt S
1000
1000
2000
Tt S
(問題 16-8)
野球選手の所得 Yt B とサラリーマンの所得 Yt S が次の表で与
えられているとする。このとき、(5)の非線形所得税制度の
もとで t =0.5、 Yˆ =200 であると、各年の野球選手の税額
Tt B とサラリーマンの税額 Tt S はいくらか。また、2年間の
所得総額と課税総額との関係について検討しなさい。
t
Yt B
Tt B
Yt S
1
2
合計
2000
0
2000
900
1000
1000
2000
0.5×(2000-200)
Tt S
(問題 16-8)
野球選手の所得 Yt B とサラリーマンの所得 Yt S が次の表で与
えられているとする。このとき、(5)の非線形所得税制度の
もとで t =0.5、 Yˆ =200 であると、各年の野球選手の税額
Tt B とサラリーマンの税額 Tt S はいくらか。また、2年間の
所得総額と課税総額との関係について検討しなさい。
t
Yt B
Tt B
Yt S
Tt S
1
2
合計
2000
0
2000
900
0
1000
1000
2000
400
400
0.5×(2000-200)
0.5×(1000-200)
(問題 16-8)
野球選手の所得 Yt B とサラリーマンの所得 Yt S が次の表で与
えられているとする。このとき、(5)の非線形所得税制度の
もとで t =0.5、 Yˆ =200 であると、各年の野球選手の税額
Tt B とサラリーマンの税額 Tt S はいくらか。また、2年間の
所得総額と課税総額との関係について検討しなさい。
t
Yt B
Tt B
Yt S
Tt S
1
2
合計
2000
0
2000
900
0
900
1000
1000
2000
400
400
800
16.6 平均化所得課税としての支出税
i
i
Y

Y
2
Yi  1
:個人 i の平均所得(恒常所得)[ i  B, S ]
2
なお、議論の単純化のため利子率はゼロとする。
c =限界消費(支出)性向
Cti =個人 i の t 年目の消費支出額(支出税込み)
Cti  c Y i :個人 i の消費支出関数
CTt i =個人 i の支出税額
非線形支出税制度(部分的線形支出税制度)のなかの

if C  Cˆ
0
CT  
ˆ ) if C  Cˆ

t
(
C

C

という特殊ケースについて考えよう。
(6)
(問題 16-9)
個人 i の所得 Yt i は問題 16-8 で与えられているものであるとする。
そのとき、個人 i の平均所得 Y を求めなさい。また、 c =1 のときの
i
個人 i の消費支出額 Cti を求めなさい。さらに、支出税制度が(6)のも
とで t =0.5、 Cˆ =200 のときの個人 i の支出税額 CTt i を求めなさい。
t
1
2
合計
YB
CtB
CTt B
YS
CtS
CTt S
(問題 16-9)
個人 i の所得 Yt i は問題 16-8 で与えられているものであるとする。
そのとき、個人 i の平均所得 Y を求めなさい。また、 c =1 のときの
i
個人 i の消費支出額 Cti を求めなさい。さらに、支出税制度が(6)のも
とで t =0.5、 Cˆ =200 のときの個人 i の支出税額 CTt i を求めなさい。
t
YB
1
2
合計
2000
0
2000
CtB
CTt B
YS
1000
1000
2000
CtS
CTt S
(問題 16-9)
個人 i の所得 Yt i は問題 16-8 で与えられているものであるとする。
そのとき、個人 i の平均所得 Y を求めなさい。また、 c =1 のときの
i
個人 i の消費支出額 Cti を求めなさい。さらに、支出税制度が(6)のも
とで t =0.5、 Cˆ =200 のときの個人 i の支出税額 CTt i を求めなさい。
t
YB
CtB
1
2
合計
2000
0
2000
1000
1000
2000
CTt B
YS
CtS
1000
1000
2000
1000
1000
2000
CTt S
(問題 16-9)
個人 i の所得 Yt i は問題 16-8 で与えられているものであるとする。
そのとき、個人 i の平均所得 Y を求めなさい。また、 c =1 のときの
個人 i の消費支出額 Cti を求めなさい。さらに、支出税制度が(6)のも
i
とで t =0.5、 Cˆ =200 のときの個人 i の支出税額 CTt i を求めなさい。
t
YB
CtB
CTt B
YS
CtS
CTt S
1
2
合計
2000
0
2000
1000
1000
2000
400
400
1000
1000
2000
1000
1000
2000
400
400
(問題 16-9)
個人 i の所得 Yt i は問題 16-8 で与えられているものであるとする。
そのとき、個人 i の平均所得 Y を求めなさい。また、 c =1 のときの
i
個人 i の消費支出額 Cti を求めなさい。さらに、支出税制度が(6)のも
とで t =0.5、 Cˆ =200 のときの個人 i の支出税額 CTt i を求めなさい。
t
YB
CtB
CTt B
YS
CtS
CTt S
1
2
合計
2000
0
2000
1000
1000
2000
400
400
800
1000
1000
2000
1000
1000
2000
400
400
800
(問題 16-10)問題 16-9 の例を参考にして、
平均化所得課税としての支出税と
いう考え方について説明しなさい。
また、問題 16-8 と問題 16-9 を比較
することで平均化所得課税として
の支出税の優れている点について
検討しなさい。