多職種連携は『顔の見える関係』づくりから

Doctor's File
会員インタビュー
高齢化が進展する中、訪問歯科診療を希望
する患者は増加している。自ら訪問歯科診療を
Vol.8
多職種連携は
「顔の見える関係」
づくりから
三木歯科医院 院長 三木 次郎
先生
面的にバックアップしていただき会
を立ち上げることができました。
行う傍ら、結城市地域ケア研究会(Care Team
Infinity:CTI)の代表として在宅医療での多職
̶ 先生は介護支援専門員の資格
種連携の推進にも尽力されている、三木歯科医
も持っていらっしゃいますね。
院院長の三木次郎先生に話を伺った。
医療のことはわかるけれど、福
̶ 先生が代表を務められている結城市地域ケア
研究会
(以下 CTI)
とはどのような団体ですか。
祉のことはあまり知らなかったの
で取得の時には一生懸命勉強しま
した。でも、それがあるから今ケ
2011 年に発足した任意団体で、地域での在宅
医療の多職種連携をめざしています。
アマネさんと話ができるのだと思
います。やはりある程度の知識の
具体的な活動は、結城市内で働く介護・医療・
下地は必要です。CTI などで、皆
福祉等の各職域の方を対象とした勉強会です。
様方と率直な意見交換をするのに
講師は市内で働く各職種の方で、その職種の紹
必要なことは、まず同じテーブル
介や職業に関する内容をお話しして頂いた後、顔
につくことです。皆同じ目線で、話
の見える関係が効果的に構築できるよう、小グ
をしなければ意味のある話はでき
ループに分かれてディスカッションを行っていま
ません。歯科医師が歯科医師だ
す。さらに親睦を深めるための懇親会も行ってい
けで凝り固まって、専門用語を使っ
ます。当初は食に関することに特化した内容での
ていてはだめなのです。そのよう
勉強や討論を行っていましたが、せっかく多職種
なこともあって、CTI ではお互い
で運営する会ですし、もっと地域に根ざした内容
を「○○先生」とは呼ばず「○○
を扱いたいということになり、普段あまり知る機
さん」
と呼び合うことにしています。
昭和 53 年 : 日本大学理工学部電気工学科卒業
昭和 59 年 : 日本大学松戸歯学部卒業
昭和 59 年 : 自治医科大学歯科口腔外科ジュニアレジデント
昭和 62 年 : 三木歯科医院開業
平成 23 年 : 結城市歯科医師会会長
公益社団法人 県西歯科医師会副会長
取手歯科衛生専門学校非常勤講師
たケアはできませんので、家族の方への指導も重
会がない、地域で働く他業種を知る、という今
のやり方に変更しました。 また、市民を対象に地域ケアを理解してもらう
̶ 普段、訪問診療をされる際はどのような工夫
̶「在宅歯科診療への思い」
をお聞かせください。
ための市民フォーラムを年に1回のペースで行って
おり、市民の間にも CTI の存在が広く認識され
つつあります。
要と考えて対応をしています。
をされていますか。
患者さんの家の中をよく見ると、家の中に本人
の趣味など、心を開くヒントがあります。自分自身
歯科医師は義歯を入れさえすれば解決と思い
現在では CTI での出会いをきっかけにした患
オーディオやカメラ、ギターなど多趣味だというこ
がちですが、患者さんの食べたいという意欲や他
者さんの紹介や、患者情報の共有など多職種間の
ともあり、そこから会話の糸口を見つけ診療に役
の機能を診て、できることとできないことを判断
つながりもだいぶ増えてきて、顔の見える関係構築
立てることもよくあります。その他、白衣は隣近
していく必要があります。患者さんのご家族は皆
の手応えも感じられるようになってきています。
所の人の目もあるので基本的には着ませんが、診
さん、治療の効果を期待していますし、義歯を入
療に協力的ではない方などに、白衣を着て接する
れてくれさえすれば治り、ものが食べられると思
と、すごく協力的になったり、白衣の力って不思
い込んでしまっている場合がほとんどです。その
議だなと感じることもよくあります。
中で、食の形態を変えるなどの義歯以外の提案
̶ CTI を立ち上げられたきっかけは。
また、体に負担がかかる治療、特に抜歯の時
をしたり、患者さんの状態を見極めて様々な対応
歯科医師だけでは解決できない口に関する問題
ですが、その際には医科の主治医の先生に必ず
ができないと在宅は難しいのです。しかし、その
がよくあります。義歯を入れただけでは食べられ
全身状態を確認します。実際に治療に立ち会って
分患者さんとご家族から感謝されたり、良かった
ないのです。一生懸命義歯を作っていっても、飲
頂くこともあります。あるいは、何かの時にはすぐ
と言ってもらえる機会も多くあるのでやめられなく
み込めずに、むせてしまって食べられない。食べ
連絡が取れるよう診療所に待機してもらうことも
なってしまいます。
るということは摂食機能、咀嚼機能、嚥下機能、
あります。そして、患者さんや家族に「今日は主
いろいろな機能が組み合わさってできています。
治医の先生が診療所にいて、連絡もすぐとれるよ
口腔機能という体の機能の一部ですから、在宅
特に在宅で治療を受ける高齢者はそれらすべての
うになっているので平気ですよ」と伝えるようにし
医療において大変重要です。歯科がなければ在
機能低下があり咀嚼機能だけ考えてもうまくいか
ています。そうすることにより患者さんも家族も安
宅医療は成り立っていかないというくらいの認識
ないのです。つまり口は、多職種が互いに理解し、
心して、治療に挑めるし、何よりお互いの信頼関
を皆さんに持ってもらえるようになればいいなと
協働しなければならないフィールドだったのです。
係も深くなります。
思っています。
歯科訪問診療を始めて 15 年くらい経ちますが、
「歯科」というのは歯に特化したものではなく、
そこで、多職種協働が必要だと考えるようになり
ましたが、なかなかチャンスにめぐり合えずに、
̶ 患者さんのご家族と関わることも多いのですか。
日は、ありがとうございました。
時間だけが流れていきました。しかし、いつか地
域の中でチーム医療ができるようにしたいという
これからも先生のご活躍を期待しています。本
在宅医療は家族がいないと成り立ちませんの
気持ちだけは持ち続けていました。最終的には、
で、家族の方の理解と協力が大切です。特に口
歯科に理解がある医師と知り合う機会があり、全
腔ケア関係は、家族の助けがなければきちんとし