JITとTOCの比較研究

JITとTOCの比較研究
流通情報工学課程
2003731 張 翀
指導教官 鶴田三郎教授
黒川久幸助教授
1
研究対象および対象の選択



JIT:カンバンを用い、必要なものを、必要
な量だけ、必要なときに生産する。
TOC:生産工程上の各プロセスがCCRとなる
プロセスにあわせて生産する。
MRP:需要の量から派生した資材と部品の量
だけ生産と調達を行う。
JITとTOCは在庫削減、小ロット生産、CCRの認識
などの項目で似ているような主張をしている。し
かし、それを導いた理由は同じではない。
2
論文の構成
①今までの研究を整理、小ロット生
産の有効性を証明。
②CCRのポジションと需要の変動が
生産システムに対する影響を明確。
③JITとTOCの導入時の注意点。
CCR(capacity constrained resource):ボトルネック
3
目的その①
①CCRのポジションから、JITとTOC
の違いを明確にし、意思決定の支
援を行う。
②TOCの導入時の注意点を提案する。
③今までの研究整理とJITとTOCの小
ロット生産の有効性について数理
的な証明を行う。
4
シミュレーションモデルの説明
本研究では、代表的な組立生産工程の
A型構造と受注生産工程のT型構造の2
つの生産構造を対象に、JITとTOCによ
る生産マネジメントをモデル化する。

A型構造
E
P
S
D
T型構造
P
D
S
E
P
S
P
S
D
E
P
S
P
S
P
S
D
P
D
E
入口工程
P
プロセス
S
倉庫
D
出口工程
5
A型構造
6
A型構造
平均通過時間
E
E
E
P
S
P
30時間/個
5時間/個
15時間/個
10時間/個
30時間/個
20時間/個
P
:入口工程
S
P
S
P
30時間/個
P
:プロセス
D
S
需
要
S
:倉庫
D
納品時間
:出口工程
7
T型構造
8
T型構造
D
E
P
S
10時間/個
25時間/個
P
S
15時間/個
P
S
D
25時間/個
需
要
E
:入口工程
P
:プロセス
S
:倉庫
D
D
D
:出口工程
9
ボトルネックのポジションによるシス
テムに対する影響
JITとTOCは連続的な改善のサイクルを主張。
CCRのポジションが移動が発生。
CCRが前、中、後にあるとき、どの
システムのパフォーマンスがよい?
10
検討結果
250
80
JIT
TOC
60
[
40
[
時
間
平
均
通
過
時
間
]
前
後
A型構造、CCRのポジションに
よる納品時間の変化
時
間
]
中
CCRのポジション
平均通過時間 [時間]
納
品
時
間
納品時間 [時間]
100
200
JIT
TOC
150
100
前
中
CCRのポジション
後
A型構造、CCRのポジションに
よる平均通過時間の変化
11
目的その②
①CCRのポジションから、JITとTOC
の違いを明確にし、意思決定の支
援を行う。
②TOCの導入時の注意点を提案する。
③今までの研究整理とJITとTOCの小
ロット生産の有効性について数理
的な証明を行う。
12
時間30でTOCを導入する場
合は、入口工程はCCRの能
力に合わせて、資材を投
入するから、元に溜まっ
てた在庫が消耗できない。
13
ある期間中、入口工
程の能力を落とす
べきだと考えられる。
14
JITは在庫があるとき、
カンバンを出さない
ので、このような問
題が生じない。
15
目的その③
①CCRのポジションから、JITとTOC
の違いを明確にし、意思決定の支
援を行う。
②TOCの導入時の注意点を提案する。
③今までの研究整理と小ロット生産
の有効性について数理的な証明を
行う。
16
理論的な比較項目
項目
全体最適
①全体最適
②目標
③手段
目標
手段
ボトルネックを認めない、した
④在庫 がって、改善すべき工程が特
定されず、個別工程の生産性
⑤CCR(ボトルネック)
在庫
を増やすために、自動化やロ
ボットの技術を導入する。
⑥会計方式
⑦稼働率
⑧平準化
⑨バッチサイズ
明確にボトルネックを認識し
ないが、実際的に、在庫を削
減することで、ボトルネックに
顕在化させる。
、
CCR
会計方式
稼動率
平準化
従来の方式
JIT
各工程最適、各工程の生産能力の和 全体最適、前工程と後工程の間で、
相互に協力して、必要な部品だけ生
=全体の生産能力。
産する。
利益最大。各工程の単位時間当たり 利益最大。原価低減は方法である。
のコスト低減や各工程の単位時間当
たりの生産量最大は方法である。利 利益=収入-支出では、支出の方
益=収入-支出では、両方を重視す
る。
を重視する。
アイドル時間の発生が禁止される。機 ①七つの無駄の削減②期別改善と
TOC
全体最適、システム内の工程の能力はボ
トルネック工程の能力に合わせて生産す
る。
利益最大。ボトルネックをコントロールす
ボトルネックを認識している、ボト
ることは方法である。利益=収入-支出
ルネックの1時間あたりのコスト
では、収入の方を重視する。
は工場の1時間のコストだと定義
①スループット②在庫③業務費用。ス
し、QCはボトルネック工程の前
製品改善の設定によって、原価低減 ループットを増やしながら、在庫と業務費
械や従業員にフル能力で生産させ
に行うべきだと主張し、ボトルネッ
を狙う。③かんばん④改善手段は 用を減らすことで、収入を増やす。④改善
クが一番大事である。
る。
PCDAサイクル。
手段は改善プロセス。
棚卸在庫は価値がついてある部品、 ①在庫は諸悪の根元と考える。在庫 在庫は基本的になし、ボトルネックを守る
ために、一定な在庫をバッファとして持つ
を減らすことで、問題を顕在化させ
べきと考える。しかし、工程のバラツキに
る。②各工程のバラツキを考えて、
ついての考えは不足である。ボトルネック
もしくは商品だと考える。バランスシー
前の工程はバラツキが大きいとき、ボトル
必要なとき、必要な量だけ持つべき
ネックが停止する可能性がある。バラツキ
トでは資産収益だと考える。
と考える。
が大きい工程にも、バッファが必要。
ボトルネックの概念がない。従って、 明確にボトルネックを認識していな ボトルネックを認識している。ボトルネック
改善すべき工程が特定されていな
の1時間あたりのコストは工場の1時間当
い。実際では、在庫を減らすことで、
い。個別の工程の生産性を増やすた
たりのコストだと定義し、QCはボトルネッ
めに、自動化やロボット技術を導入す ボトルネックに顕在化させる。それを クの前に置くべきだと主張している。ボト
る。
ルネックが一番大事。
原価会計方式
改善に要する工程と定義している。
原価会計方式が汎用され、原価会
計の問題を指摘した。
稼動率と可動率を分け、両方100%
各工程の稼動率を最大限する。
を目指すべきである。稼動率より、
可動率の方を重視する。
各工程ごとの生産量の平準化を考え ①生産能力自体の向上による生産
量の平準化。②多能工によって、他
工程の資源の継ぎはぎによる平準
ない。
化。
規模の経済性によって、バッチサイズ 「一個流し」、「小ロット生産」の生産
スールプット会計方式
バッチサイズ
を大きくして、部品の原価を下げる。
ボトルネックの稼動率は100%で、非ボト
ルネックの稼動率はボトルネックによって
決められる。
ボトルネックに合わせることによって、平
準化を図る。
ボトルネックでは、ボトルネックの能力を
方式を用いて、バッチサイズを最小 考えて、バッチサイズを縮小する。非ボト
ルネックでは、できるだけ縮小すべきであ
17
にする。段取り時間の縮小を努力す る。段取りによってボトルネックの移動は
る。
考えていない。
バッチサイズの数理的な証明



従来方式:規模の経済性から、バッチサ
イズを最大。
JIT:「一個流し」、「小ロット生産」、
バッチサイズを最小。
TOC:CCRと非CCRを分けて、バッチサイズ
を考える。
本研究ではJITとTOCの小ロット生産の
有効性について数理的な証明を試みる。
18
例:4つのプロセスA,B,C,Dを持つ生産ライ
ンがあり、それぞれの使用可能時間は全部
500分である。
A:10分
B:20分
C:40分
D:10分
生産リードタイム
EとF、2種類の需要があり、それぞれの数は10個であ
る。従来では、需要が10個であるから、処理バッチサイ
ズと移動バッチサイズはともに10個になる。段取り時間
は1回30分だとすれば、上の図から納品するために、生
産リードタイムの長さは1260分であることが計算できる。
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バッチサイズをn等分する場合、4つのプロセスがあり、それぞれ
の処理時間はT1、T2、T3、T4だと設ける。バッチサイズをn等
分したら、それぞれの処理時間はT1/n、T2/n、T3/n、T4/nになる。
4つのプロセスの段取り時間はD1、D2、D3、D4だと考え、需要
EとFの生産リードタイムを求める。
A
C
B
T4/n
T3/n
D
T2/n
バッチサイズはn
T1/n
生産リードタイム
T  A  B  C;
A  D1  T1 / n  T2 / n  D3 ; B  ( D3  T3 / n)  2  n; C  T4 / n;
Tn  T1 / n  T2 / n  2T3  T4 / n  D1  (2n  1) D3 ;
D1  D2  D3  D4  Dの場合は
Tn  T1 / n  T2 / n  2T3  T4 / n  2n  D ①
Tn
n  (T1  T2  T4 ) / 2D ②
さらに、最短の Tnを求める。
n 
T1  T2  T4
;③
2D
Tn  Tの条件を求める。
式③から、バッチサイズは3のとき(n=2.6)、Tn=1113、元より147分短縮。
20
まとめその①




JITのほうが納品時間が短く、さらに、必要な在庫も
常に持っているから。需要の発生は不連続の場合
は、相応しいと考えられる。
TOCのほうが平均通過時間が短く、仕掛品在庫は
少ないから。迅速的にキャッシュフローに変更でき
るから。需要が十分にある場合は、相応しいと考え
られる。
従来の生産方式からTOCを導入する際、仕掛品在
庫の問題点について注意しないといけない。
JITとTOCの違いを比較し、論理的な違いをまとめ
た。さらに、JITとTOCが主張している小ロット生産
が数理で証明できた。
21
まとめその②


CCRの生産能力が変化するとき、各製
品の通過時間のバラツキに対する影響
は、TOCのほうが小さいという結論が
得られた。
JITにも資材の投入間隔をコントロールす
ることで、仕掛品在庫量をさらに削減でき
る。しかも、最終的な生産量(製品数)も
同じで改善前と変わらない。
22
今後の課題



今回で検討されていないV型構造にも
分析を行う。
将来、さらに優れた生産マネジメント
方式を提案できること。
考える範囲を拡大し、対象は一つの工
場ではなく、資材の供給者から、顧客
までのサプライチェーンを対象として、
JITとTOCの応用を考案する。
23
ご清聴ありがとうございました。
24
T型構造、CCRの生産能力の変
動が通過時間に対する影響
8
6
JIT
TOC
4
2
通過時間のバラツキ
通過時間のバラツキ
8
6
JITの遅い投入ペース
JITの速い投入ペース
4
2
0
0
1
3
5
7
CCRの生産能力の変動 [種類]
9
1
3
5
7
9
CCRの生産能力の変動 [種類]
25
JITの平均通過時間の改善策
平均通過時間 [時間]
250
200
JIT
TOC
150
100
前
中
CCRのポジション
後
26
JITの平均通過時間の改善策
平均通過時間 [時間]
200
180
160
CCR存在しないライン
140
CCR存在するライン
120
100
5
15
25
35
時間間隔,投入ペース [時間]
27