ビルメンテナンス業におけるリスクアセスメント研修会

ビルメンテナンス業における
リスクアセスメント研修会
災害ゼロをめざして!!
主催 都道府県ビルメンテナンス協会
協力 社団法人全国ビルメンテナンス協会
支援 厚生労働省・中央労働災害防止協会
§1 リスクアセスメントの必要性と
実施に向けて
(リスクアセスメントの基本)
<この講義の内容>
1
2
3
4
5
6
7
8
ビルメンテナンス業における労働災害の発生状況
危険性又は有害性から労働災害に至る流れ
労働災害の発生と企業の責任
リスクアセスメントをはじめよう
リスクとは
リスクアセスメントの法的な位置づけ
リスクアセスメントの導入・実施手順
リスクアセスメントの効果
P. 2
1 ビルメンテナンス業における
労働災害の発生状況
ビルメンテ
死亡者数年次推移
ナンス業
(全国)
(人)
40
1,628 1,620
30
20
10
1,514
28
全産業
(人)
1,700
1,600
1,472
1,357
20
16
12
1,500
1,400
18
0
1,300
1,200
平成1 5 年 平成1 6 年 平成1 7 年 平成1 8 年 平成1 9 年
【図1】
P. 2
ビルメンテ
ナンス業
( 人)
休業4日以上の死傷者数
3,500
13.3
13.3
3,000
2,912
13.4
全産業
( 万人)
13.1
13.2
3,000 2,984
2,951
2,847
2,500
14.0
13.5
13.0
12.5
12.0
11.5
11.0
10.5
10.0
9.5
9.0
平成15年 平成16年 平成17年 平成18年 平成19年
【図2】
(労働者死傷病報告より)
P.2
【事故の型別】死傷災害発生状況
(ビルメンテナンス業~ 5年平均/平成15-19年)
2.6%
3.4%
4.8%
7.0%
2.2%
2.2%
4.1%
転倒
墜落、転落
40.7%
動作の反動、無理な動作
はさまれ、巻き込まれ
激突
切れ、こすれ
9.4%
飛来、落下
交通事故(道路)
激突され
その他
23.5%
【図3】
P. 3
【起因物別】死傷災害発生状況
(ビルメンテナンス業~ 5年平均/平成15-19年)
2.4%
2.7%
1.9%
5.0%
3.2%
3.2%
3.4%
3.8%
4.2%
4.2%
14.4%
51.6%
【図4】
仮設物、建築物、構築物等
用具
起因物なし
その他の装置、設備
人力機械工具等
荷
環境等
乗物
材料
その他の起因物
一般動力機械
その他
P.3
【年齢別】死傷災害発生状況
(ビルメンテナンス業~ 5年平均/平成15-19年)
19歳以下
0.9%
20~29歳
6.8%
30~39歳
8.6%
60歳以上
40.3%
40~49歳
10.2%
50~59歳
33.2%
【図5】
P.3
【事業場規模別】死傷災害発生状況
(ビルメンテナンス業~ 5年平均/平成15-19年)
300人
以上
19.4%
1~9人
16.1%
100~299
人
22.3%
10~29人
17.9%
30~49人
11.7%
50~99人
12.6%
【図6】
P.4
2 危険性又は有害性から労働災害
(健康障害を含む)に至る流れ
危険性又は有害性(もの)
労 働 者 (人)
接触
リ ス ク の 発 生
安全衛生対策の不備
労
働
災
【図7】
害
P.4
3 労働災害の発生と企業の責任
刑事上の責任
民事上の責任
労働安全衛生法違反
業務上過失致死傷罪
不法行為責任や安全配慮
義務違反による損害賠償
行政上の責任
作業停止・使用停止等の
行
政
処
分
労働災害
補償上の責任
労働基準法及び労働者災
害補償保険法による補償
社会的な責任
企 業 の 信 用 低 下
存 在 基 盤 の 喪 失
【図8】
P.5
4 リスクアセスメントをはじめよう
労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)
第3条 (事業者等の責務)
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のた
めの最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現
と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と
健康を確保するようにしなければならない。また、事業者
は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力
するようにしなければならない。
・・・
第4条 (労働者の責務)
労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守る
ほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防
止に関する措置に協力するように努めなければならない。
P.5
(1)自主的な安全衛生対策
法遵守型
自主対応型
(2)リスクアセスメント
後追い型
先取り型
危険性又は有害性を
未然に除去、低減する
労働災害の
再発防止対策
目的
職場に潜む危険の源を除去し
災害の無い快適な職場環境へ
P.6
5 リスクとは
「危険性又は有害性」 (ハザード)
建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等
による、又は作業行動その他業務に起因する危
険性又は有害性そのものをいう。
「リスク」
危険性又は有害性によって生ずるおそれのあ
る負傷又は疾病の重篤度及び発生する可能性
の度合の2つの要素を組み合わせたものをいう。
P.6
「危険性又は有害性」と「リスク」の違い
危険性又は有害性
(ハザード)
リスク
ケガや疾病を生じさせる要因
危険性・有害性により引き起
こされるケガ・疾病の重篤度と
発生する可能性
ここには人がいないので、
ライオンに襲われることは
ない。
【図9】
人がいると、ライオンに
襲われる可能性がある。
P.7
6 リスクアセスメントの法的な位置づけ
平成18年、労働安全衛生法改正が施行
<リスクアセスメントの実施が努力義務化>
① 安全・衛生委員会の付議事項に追加
② 総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理
者等の業務に追加
③ 安全管理者、職長教育の教育内容に追加
④ 機械等の設置に伴う計画届の免除要件として
明記
テキスト P.23~
危険性又は有害性等の調査等に関する指針(厚労省)
P.8
7 リスクアセスメントの導入・実施手順
ステップ1
実施体制
ステップ2
実施時期
ステップ3
情報の入手
ステップ4
危険性又は有害性の特定
ステップ5
リスクの見積り
ステップ6
リスク低減措置の検討及び実施
ステップ7
実施状況の記録と見直し
P.9
リスクアセスメントの導入・実施手順
【ステップ1】 実施体制
(1)経営トップの導入宣言
(2)会社での実施体制の確立
(3)リスクアセスメントの実施
手順の作成
(4)リスクアセスメントの試行
による見直し
(5)関係者へのリスクアセス
メント教育の実施
P.9 表1
リスクアセスメントの実施体制(例)
推進体制
手順 危険性又
は有害性
の特定
リスクの
見積り
優先度の リスク低減
設定
措置の検討
社長(事業者)
△
△
△
〇
安全衛生部門の長
△
○
◎
◎
現場の責任者
◎
◎
〇
◎
◎※
◎ ※
△※
◎ ※
作業者
(意見の反映)
◎:必ず関わる。〇:必要に応じて関わる
△:特別な事情がある場合に関わる
※継続中の作業現場でリスクに変化が生じるときには参加する
P.9
【ステップ2】 実施時期
(1)新しい現場で作業を開始するとき
新しく契約を行った作業現場について、
作業を開始する前にリスクアセスメントを実施する。
(2)継続中の作業現場でリスクに変化が生じるとき
継続して請け負っている作業現場でリスクに変化
が生じたり、生じるおそれがある時に実施する。
●
●
●
●
作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更するとき
設備を新規に採用し、又は変更するとき
労働災害が発生したとき
従業員が入れ替わるとき
P.10
【ステップ3】 情報の入手
作業現場や会社全体の危険性又は有害
性に関する資料をできるだけ多く収集し「定
常的な作業」に関係する資料のみならず、
突発的な作業等の非定常作業に関係する
資料等も情報として入手し、整理する。
① 作業手順書、作業標準 (操作説明書、マニュアル)
② 使用する設備等の仕様書、取扱説明書、「機械等
の包括的な安全基準に関する指針」に基づき提供さ
れた「使用上の情報」
③ 元請業者(ビル管理会社等)からの危険性又は有
害性等の調査等の結果など
P.10
【ステップ4】
危険性又は有害性の特定
(1)新しい現場で作業を開始
するとき
事前に調査が必要と考えられる次のようなリスク
の高いものを中心に選定し、作業手順書等をもと
に作業手順のステップごとに危険な設備や作業、
有害な作業などを特定する。
①
②
③
④
過去に労働災害が発生した作業
過去に事故のあった設備等を使用する作業
操作が複雑な機械設備等の操作
ヒヤリ・ハット事例
P.10
(2)継続中の作業現場でリスクに
変化が生じるとき
作業現場でリスクに変化が生じるとき、そこの
作業標準、作業手順書等をもとに危険性又は
有害性を特定する。
作業標準、作業手順書等がない場合は、作業
の手順を書き出した上で、それぞれのステップ
ごとに危険性又は有害性を特定することが必要
である。
P.10
危険性又は有害性の表現
危険性又は有害性を特定するに当
たっては、「ステップ5 リスクの見積
り」におけるバラツキや誤差を小さくす
るために、労働災害に至る流れを想
定しながら具体的に表現する。
① 「~に、~と」
(危険性又は有害性)
② 「~が」
(人)
③ 「~するとき、~するため」 (危険性又は有害性と
人が接触する状態)
④ 「~なので、~がないので」 (安全衛生対策の不備)
⑤ 「(事故の型) + (体の部位)を~になる、~する」
(負傷又は疾病の状況)
例) 作業者が、階段の清掃作業をしている時、同じ階段上に両足
を揃えていたので、足を踏み外して転落し、足を骨折する。
P.11
【ステップ5】
リスクの見積り
リスク = 頻度 + 可能性 + 重篤度
本研修会では「ステップ4」で特定された危険性
又は有害性について、どの程度ケガ(疾病)が発
生しやすいのかを、次の3つの要素による『加算
方式』で見積りを行う。
①リスクが発生する頻度
②リスクが発生したときに負傷又は疾病になる
可能性
③負傷又は疾病の重篤度
P.11
リスクが発生する頻度の区分
頻
度
点数
内 容 の 目 安
頻
繁
4
1日に1回程度
時
々
2
週 に 1 回 程 度
ほとんどない
1
半年に1回程度
P.12
「頻度」の解釈について
<荷を運ぶ作業>
作業回数 と考えてしまうと、 リスクが発生する頻度 と
毎日、数10回も15kgの段 考えると、1週間に1回ぐ
らい、15kgの段ボールが
ボールを運ぶ作業を行っ
崩れて落ちることがあるの
ているので「頻繁」の4点と
で「時々」の2点となる。
なる。
P.11
リスクが発生する【頻度】の区分
頻
度
点数
内 容 の 目 安
頻
繁
4
1日に1回程度
時
々
2
週 に 1 回 程 度
ほとんどない
1
半年に1回程度
P.11
リスクが発生したときに
負傷又は疾病になる【可能性】の区分
内
容
の
目
安
点
数
危険検知の可能性
6
事故が発生するまで危険
を検知する手段がない
危険に気がついた時点で
は、回避できない
4
十分な注意を払っていな
ければ危険がわからない
専門的な訓練を受けていな
ければ回避の可能性が低
い
可能性がある
2
危険性又は有害性に注目
回避手段を知っていれば十
していれば危険が把握で
分に危険が回避できる
きる
ほとんどない
1
容易に危険が検知できる
可能性
確実である
可能性が高い
危険回避の可能性
危険に気がつけば、けがを
せずに危険が回避できる
P.11
負傷又は疾病の【重篤度】の区分
重篤度 点数 災 害 の 程 度 ・ 内 容 の 目 安
致命傷
10
死亡や永久的労働不能につながるケガ
障害が残るケガ
重 傷
6
休業災害(完治可能なケガ)
軽 傷
3
不休災害(医師による措置が必要なケガ)
軽 微
1
手当後直ちに元の作業に戻れる微小なケガ
P.11
加算方式での見積り
頻度
2
可能性
+
2
点数
重篤度
+
6
=
10
リスクポイント
P.11
リスクの優先度
リスク
高
低
点 数
(リスクポイント)
Ⅳ
12~20
Ⅲ
9~11
Ⅱ
6~8
Ⅰ
5以下
優 先 度
取
扱
基
準
直ちに解決すべき問題 直ちに中止または改善
がある
する
重大な問題がある
早急な改善が必要
多少問題がある
改善が必要
必要に応じて低減措置 残っているリスクに応じて
を実施すべきリスク
教育や人材配置をする
P.12
【ステップ 6 】 リスク低減措置の検討及び実施
(1)リスク低減措置の検討
(2)リスク低減措置の優先順位
(3)リスク低減措置の効果予測
(4)リスク低減措置の実施
(5)残留リスクへの対応
P.14
リスク低減措置の優先順位
1 設計や計画の段階に
おける危険性又は有害
性の除去又は低減
3 管理的対策
2 工学的対策
4 保護具の使用
リスク低減措置(対策)案でのリスクの見積り
通路の段差に車輪が落ちたとき、
荷が落下して足を負傷する。
頻度
2
可能性
+
2
重篤度
+
6
点数
= 10
リスク
Ⅲ
リスク低減措置案
箱形の台車
+
スロープ
頻度
1
可能性
+
1
重篤度
+
1
=
点数
リスク
3
Ⅰ
【ステップ 7 】
リスクアセスメント実施状況の記録と見直し
(1)記録
P.13
リスクアセスメントの結果として必要な事項を記録し
整理する。リスクの低減措置の中で、当面暫定的な措
置を行う場合等には、記録を確実に残し、いつでも、誰
でも見ることができるようにしておくことが大切である。
① 洗い出した作業(選定した対象、危険性又は
有害性の分類等)
② 特定した危険性又は有害性
③ 見積もったリスク
④ 設定したリスク低減措置の優先度
⑤ 実施したリスク低減措置の内容
を実
明施
記日
す・
実
る施
者
P.13
(2)リスクアセスメントの見直し
見直しでは、実施したリスクアセスメントが適切で
あったか、さらなる改善が必要かどうかを検討する。
見直しの内容としては、効率的でやりやすい実施
手順への見直し、見積り・優先度の設定の基準の目
安や判定の基準の見直し、措置実施の優先順位の
原則の引き上げなどがある。
ステップ4 へ戻る
P.15
8 リスクアセスメントの効果
(1) 作業現場のリスクが明確になる
(2) リスクに対する認識を共有できる
(3) 安全対策の合理的な優先順位が決定できる
(4) 残留リスクに対して「守るべき決めごと」の理由が
明確になる
(5) 従業員全員が参加することにより「危険」に対す
る感受性が高まる
(6) 費用対効果の観点から有効な対策が実施できる
§1の講義 は
これで終わりです
(5分間程度休憩します)