第31回全国英語教育学会札幌研究大会 発表資料(予稿集, pp. 138-141) 2005年8月6日 概念地図の作成が高校生の 説明文読解に及ぼす効果 安田女子中学高等学校 広島大学大学院 井川 麻里 山西 博之 1 1. 問題と目的 問題 ・ 英語で書かれた説明文を正しく読解することは,重要 なことであると考えられる ・ 高校生にとって英語で書かれた説明文を正しく読解 することは困難であるためと考えられるため,それを 補助する手段を身につけることは有用であると言える 目的 ・ 高校生が英語での説明文を読解する際の補助的な 手段として,読んだ文章の内容を書いたり描いたりす る活動を行わせることが,読解に及ぼす効果を多角 的に検討する ・ 具体的には,概念地図の作成と日本語での要約の 作成の効果を検討する 2 2. 理論的背景 2.1 「かく」活動 問題解決場面での,書いたり描いたりすること(「かく」こ と)の有効性(吉村, 2000) 本発表では以下の2つを扱う ① 概念地図(concept map)(Novac & Gowin, 1984) ‥概念間の関係を論理的な構造を持った図として 示すもの(e.g., 階層的概念地図(岩男, 2001) Appendix A参照) ・課題に積極的に取り組むことができる(作成の効果) ・作成した概念間の関係を明示的に確認できる(参照の 効果) ② 日本語での要約 ・文的表象(岩男, 2001)であるため,図的表象よりも明 示性に欠け,参照の効果の点で劣る(岩槻, 2004) 3 2. 理論的背景 2.2 理解の深さ 心的表象(mental representation)(Kintsch, 1994) ・ 逐語的表象‥単語や句などの表層的なレベルの よ 記憶表象 り 深 い ・ テキストベース‥テキストの内容を表したもの 理 ・ 状況モデル‥テキストベースと読み手の既有知識 解 とが「推論」により関連づけられて構築される 本発表では,説明文がどれほど読解されたかを判断 するために用いる。ただし,逐語的表象は前提として 扱わず,状況モデルを説明文からの知識の「獲得」と 「応用」という2つのレベルに分けて検討するものとする 4 3. 仮説 仮説1) 概念地図の作成は,要約の作成よりも説明文 の深い理解を補助する効果がある 仮説2) 概念地図,要約いずれの作成も,説明文の深 い理解を補助する効果がある → ① 課題得点という観点(要綱)と,② 知識の応用とい う観点,③ 学習効率という観点から検討 → それぞれを,① 読解課題の得点に対する直交対比に おける多重t検定(対比検定),② 読解課題の正答者の 割合に対するフィッシャーの直接確率検定,③ 認知負 荷量に対する学習効率の測定,によって検討 5 4. 方法 4.1 調査協力者 広島市内の高等学校の1年生3クラス,2年生1クラスの 計4クラス156名 書き込みを禁止する統制群,要約を作成させる要約群, 概念地図を作成させる概念地図群の3群を設定 各群のL2習熟度を等しくするために時間制限5分,64 点満点のC-test(Appendix B参照)を実施(予稿表1) C-testを受験した153名の平均点(32.2点)は,Maeda (2004)で示された2,761名の高校生に対するC-testの 平均点(28.8点)とほぼ同じ →本調査の高校生のL2習熟度は平均的なものである と見なすものとする 6 4. 方法 4.2 指導 調査に先立って,概念地図の作成と要約の作成を, 調査協力者全員に指導 材料(Appendix C参照) ・ほとんどの高校生が受ける機会のある,センター試験 の問4で課される説明文の過去問を改作したもの 指導案(Appendix D参照) ・4クラス共通の指導案を用い,授業時間の前半または 後半20~25分で2名の教員が,計5回の授業で段階的 に概念地図と要約の作成方法を指導 7 4. 方法 4.3 調査 5回の指導終了後に,授業時間1時限を使って実施 課題文(Appendix E参照) センター試験問題の問4を改作した197語の英文 課題(Appendix F参照) ・ 「内容確認問題」‥文章に書いてある内容の確認 (テキストベース) ・ 「解決問題」‥課題文で問われた問題の解決方法 を記述する問題(状況モデル‥獲得) ・ 「応用問題」‥「解決問題」での解決方法を応用する 必要のある記述問題(状況モデル‥応用) 各課題の解答に対する確証度を測定‥反転データを 心的努力として,学習効率の算出に使用 8 4. 方法 作成活動 ・地図群‥A4の用紙1枚を目安に概念地図作成 ・要約群‥A4の用紙1枚を目安に日本語要約作成 ・統制群‥作成用紙を配布しない ・どの群も,指定された用紙以外には書き込みが できないように,課題文は透明なクリアファイルの 内側に貼り付けて配布 ・作成後に,3種類の課題(「内容確認問題」,「解決 問題」,「応用問題」)に解答 ・解答時には,作成された概念地図および要約は 自由に参照可能 9 4. 方法 分析の手順 ・「内容確認問題」→1問1点,3問で計3点 ・「解決問題」,「応用問題」→0~2点で採点 (解答20%の採点者2名の一致度は,「解決問題」で α=.94, 「応用問題」でα=.89) ・学習効率→課題得点と心的努力(確証度を反転)を 用いて,式(1)によって算出。プロットで図示(図1) 課題得点のz得点 心的努力のz得点) 効率 (E) = 2 (1) 10 4.方法 課題得点 高効率 + A - + E=0 心 的 努 力 - B + - C 低効率 図1. 学習効率を示す図(Paas et al. , 2003 を一部改変) 11 5. 結果(課題得点) 仮説1),仮説2)に基づいた対比1),対比2)を直交対比 における多重t検定(対比検定; 鋤柄, 2002)で検定 対比1) 地図群 : 要約群 : 統制群 = 1 : -1 : 0 対比2) 地図群 : 要約群 : 統制群= 0.5 : 0.5 : -1 「内容確認問題」(各課題の記述統計量は予稿表2) ・対比1) ‥ t(141) = .05, p = .96 ・対比2) ‥ t(141) = 1.55, p = .12 「解決問題」 ・対比1) ‥ t(141) = 1.68, p = .10 ・対比2) ‥ t(141) = 2.19, p = .03 (5%水準で有意) 「応用問題」 ・対比1) ‥ t(141) = 2.16, p = .03 (5%水準で有意) ・対比2) ‥ t(141) = 2.03, p = .05 (5%水準で有意) 12 5. 結果(知識応用の割合) どれほどの被調査者が獲得した知識を応用できてい たのかを,「解決問題」正答者の「応用問題」正答の 割合で判断 フィッシャーの直接確率検定の結果,全体的な人数 の違いは5%水準で有意(p = 0.03) 表 8. 解決問題で 2 点であった被調査者の応用問題の得点(N = 127) 表1. 「解決問題」で2点であった調査協力者の「応用問題」の得点 統制群(n = 35) 要約群(n = 42) 地図群 (n = 50) 応用問題 人数 割合 人数 割合 人数 割合 2点 21 60.0% 21 50.0% 36 73.5% 72.0% 1点 5 14.3% 15 35.7% 11 22.0% 0点 9 25.7% 6 14.3% 3 6.0% 6.1% 13 Note. 解決問題を解答した人数は,統制群(n = 45),要約群(n = 48),概念地図群(n = 51)。 5. 結果(学習効率) 課題得点 0.3 高効率 0.2 E=0 高い 学習効率 要約群 E = 0.08 地図群 E = 0.07 -0.3 -0.2 0.1 0 -0.1 0 0.1 0.2 心 的 努 0.3 力 -0.1 統制群 E = -0.20 低い 学習効率 -0.2 低効率 -0.3 図2. 「内容確認問題」の学習効率 14 5. 結果(学習効率) 課題得点 0.3 高効率 高い 学習効率 地図群 E = 0.08 0.2 E=0 中間的な 学習効率 0.1 0 -0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 要約群 E = 0.00 0.2 心 的 努 0.3 力 -0.1 低い 学習効率 -0.2 統制群 E = -0.20 低効率 -0.3 図3. 「解決問題」の学習効率 15 5. 結果(学習効率) 課題得点 0.3 高効率 高い 学習効率 地図群 E = 0.04 0.2 E=0 0.1 低い 学習効率 0 -0.3 -0.2 要約群 E = 0.02 高い 学習効率 -0.1 0 -0.1 0.1 0.2 心 的 努 力 0.3 統制群 E = -0.06 -0.2 低効率 -0.3 図4. 「応用問題」の学習効率 16 5. 考察(課題得点と知識の応用) 課題得点 「内容確認問題」では,各群の差はなかったが,より深 い理解が要求される課題において,①作成活動を行っ た群の成績が良く,②概念地図作成の方が要約の作 成よりも成績が良かった 知識の応用 概念地図群>要約群>統制群の順に,獲得した知識 を応用できる人数の割合が多かった これらのことから,読解課題の成績を見る限り, 仮説1),仮説2)とも支持される結果が得られたと 考えられる 17 5. 考察(学習効率) 「内容確認問題」(図2) ・ 統制群は低効率であった ・ 要約群と概念地図群は高効率であった 「解決問題」(図3) ・ 概念地図群のみ高効率であった 「応用問題」(図4) ・ 要約群と概念地図群は同程度の学習効率であったが, プロット位置に違いがみられた ・ 要約群:心的努力と課題得点がどちらも低い ・ 概念地図群:心的努力と課題得点がどちらも高い これらのことは,仮説1),仮説2)を読解課題の成績 以外の観点から支持する結果であると考えられる 18 6. まとめ 課題得点 ①概念地図の作成,要約の作成とも,より深い理解を 要求する読解の成績が良く,②概念地図作成の方が 要約の作成よりも,より得点が高かった 知識の応用 概念地図群>要約群>統制群の順に,獲得した知識 を応用できる人数の割合が多かった 学習効率 ①概念地図の作成,要約の作成とも,全ての課題にお いて統制群より学習効率が高く,②概念地図作成の方 が要約の作成よりも,より学習効率が高かった 19 6. まとめ 本発表の限界点 ・ 他の説明文に関してのさらなる調査が必要がある点 ・ 作成の段階と参照の段階を区別する必要がある点 ・ C-testの結果から,平均的なL2習熟度の高校生であ ると言えるが,1校のみからのサンプリングである点 教育的示唆 指導の結果,課題得点と知識の応用とも,要約の作 成よりも優位で,さらに学習効率において,課題成績 が心的努力を上回っていたことから,概念地図作成 法は,生徒の英語での説明文の読解を補助するだけ でなく,生徒の意識的な読みを促進する活動として, 教師が指導可能な有効な方法の1つであると言える 20 参考文献 岩男卓実 (2001). 「文章作成における階層的概念地 図作成の効果」. 『教育心理学研究』, 49, 11-20. 岩槻恵子 (2003). 『知識獲得としての文章理解』. 風 間書房. Kintsch, W. (1994). Text comprehension, memory, and learning. American Psychologist, 49, 294303. Maeda, H. (2004). Structure of learning motivation of Japanese high school EFL learners: Scale development and cross-validation. Annual Review of English Language Education in Japan (ARELE), 15, 51-60. 21 参考文献 Novac, J. D. & Gowin, D. B. (1984). Learning how to learn. New York: Cambridge University Press. Paas, F., Tuovien, J.E., Tabbers, H., & van Gerven, P. W. M. (2003). Cognitive load measurement as a means to advance cognitive load theory. Educational Psychologist, 38, 63-71. 鋤柄増根 (2002).「研究法の理解とデータ分析にお ける学生の誤解」. 『教育心理学年報』, 41, 104113. 吉村匠平 (2000). 「「かくこと」によって何がもたらされ るのか?-幾何の問題解決場面を通した分析-」. 『教育心理学研究』, 48, 85-93. 22
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