語葉習得のための e ラーニング教材を試用した 日本 - 留学生教育学会

語葉習得のための e ラーニング教材を試用した
日本語学習者の学習傾向と教材の改良
The Learning Patterns of Japanese Learners Using an E-learning Vocabulary Acquisition
Software, and the Subsequent Revision of that Program
坂井 美恵子(大分大学国際教育研究センター)
Mieko SAKAI (Center for International Education and Research, Oita University)
中溝 朋子(山口大学留学生センター)
Tomoko NAKAMIZO (International Student Center, Yamaguchi University)
金森 由美(大分大学国際教育研究センター)
Yumi KANAIVIORI (Center for International Education and Research, Oita University)
要 旨
本稿では、筆者らが開発した日本語の語葉習得のための e ラーニング教材を、2007 年 7 月から 2008 年
2 月にかけて試用した学習者の学習履歴およびアンケート調査による評価を用いて、より利用しやすい e
ラーニング教材とするための改善点について分析、考察した。
学習履歴からは、1)特に興味のある分野や授業との関連がなければ、最初から順番に学習する傾向に
あること、2)一つのテーマの中にあるタスクを全部終了しないで途中でやめる傾向があること、3)単
語参照機能は使用頻度が高かったが、登録機能はほとんど利用されていないことなどがわかった。アン
ケート調査からは、1)「絵がわかりにくい」という点は、英語訳も同時に表示されるよう修正を行った
ことにより、評価が大きく上がったこと、2)多くの学習者がタスクは 「難しくない」と評価しているこ
となどがわかった。今後の改善点としては、1)学習者が能力に合わせてテーマを選べるよう難易度を表
示すること、2)タスクの難易度を上げ、興味を持ってチャレンジできるようにすること、3)本教材の
持つ機能を学習者に周知させるために表示を工夫したり、インストラクションを徹底したりすること、
4)日本語入力の指導、アクセスの安定化など本教材の使用環境の整備をすることなどが挙げられる。
[キーワード】e ラーニング、語葉習得、テーマ別モジュール式機能、自律学習、日本語学習者]
Summary
The authors of this manuscript developed Web-based e-learning educational software for the vocabulary acquisition of Japanese language learners. These materials were evaluated during a trial study from July, 2007, through
February, 2008. Based on a questionnaire and tracking data of learners, points for improvement were analyzed and
considered, for the purpose of making it easier to use the program.
From the learners' tracking data we learned such things as the following; 1) in the absence of special interest or
relationship to courses, learners had a tendency to start at the beginning and work through the materials in
sequence. 2) In the tasks, learners had a tendency to stop in the middle of themes without completing them. 3)
The frequency of use of the vocabulary reference function was high, however there was almost no use of the
record function. From the questionnaire we learned such things as the following; 1) learners would welcome revising the program to include English translations along with pictures which they reported were difficult to understand. 2) The majority of learners reported that the tasks were not difficult.
The materials will be revised as follows; 1) level of difficulty will be displayed so that learners can choose topics
in accordance with their abilities. 2) Revisions will be carried out to raise the level of difficulty of the tasks in order
to make them more interesting and challenging to the learners. 3) To better inform learners of the functions contamned in the program, onscreen instructions will be revised and learners will be more thoroughly briefed. 4)
Instruction for Japanese language input, and usage environment with more stable internet access will be provided.
[Key words: e-learning, vocabulary acquisition, theme modularity function, autonomous learning, Japanese
learners]
-91 -
目 次
1,はじめに
2 .先行研究
3 .本教材の特徴
3.1 テーマ別モジュール式機能
3.2 タスクの構造
3.3 自律学習機能
4 .調査について
4.1 調査目的
4.2 調査期間と調査対象者
5 .結果と考察
5.1 アンケート調査の結果
5.2 学習履歴の分析
52.1 各タスクの学習履歴
5.2.2 各テーマの学習順序と学習回数
5.2.3 メインタスクの学習回数
5.3 各タスクの平均点
5.4 辞書参照と辞書登録機能
6 ,まとめと今後の課題
られた時間内に大量の語葉を習得しなければならない留
1. はじめに
学生のために、語句の読みを入力する記述式での練習方
筆者らは初級から中級にかけての日本語学習者の語葉
習得を支援する目的で、2005 年から 3 年間にわたり Web
上で利用できる e ラーニング教材を開発した。本教材の
法を採択し、システムの開発を行っているが、効果の検
証は行われていない。
特徴や機能については金森・中溝(2007)に詳しい。ま
筆者らは日本語学習者にとって使いやすく有益な e ラ
ーニング教材を開発するためには、学習者による教材の
た、本教材の試用者からの評価を得るために、坂井
使われ方や評価を分析することは重要な要素であると考
(2007)では 9 名の学習者による履歴データの分析とアン
える。本稿では筆者らが開発した教材を例に学習者の学
ケートとインタビュー調査を行った。その結果、本教材
習履歴、評価を分析し、学習者に利用されやすい e ラー
に対して否定的な評価を与えている要因として、1.絵の
ニング教材とはどのようなものかを考える一助としたい。
意味のわかりにくさ、2.練習の単調さ、3.アクセスの不
安定さなどが挙げられた。そこでこれらの評価を踏まえ、
2007 年 10 月に 1.に関して、絵だけでなく英語訳も同時
3. 本教材の特微
に表示されるようプログラムの修正を行った(1)。
本教材はさまざまな特徴を持っが、本稿では今回の学
本稿ではこの修正以降、本教材を試用した 10 名の学
習履歴の分析点でもある(1)テーマ別モジュール式機
習者を対象に、修正前と同じ内容のアンケート調査を行
能、(2)繰り返し練習ができるタスクの構造、(3)自律
い、両者の結果を比較・検討した。また、修正前、およ
学習の三点を取り上げる。以下、それぞれの特徴につい
び修正後に本教材を試用した計 19 名の学習履歴データ
て説明する。
を分析し、学習者の具体的な教材の使用状況を分析した。
それにより実際に学習者がどのように本教材を活用した
3.1
かを明らかにし、さらなる改善点を探る。
テーマ別モジュール式機能
認知心理学の分野においては、情報を長く記憶にとど
めるための方略として「体制化(関連する情報をまとめ
て覚えること)」が有効な手段のーつとして挙げられて
2 .先行研究
いる(平田,2007 : 61)。単語をばらばらに覚えるより、
英語教育では e ラーニング教材が盛んに作られてお
意味の関連があるものに分けて覚える方が良いというこ
り、その効果の検証も多く行われている(竹蓋,1999;竹
とである。また、インストラクショナルデザインを用い
て e ラーニングコンテンツを開発する方法が昨今頻繁に
蓋他,2005;吉田他,2006 など)。本教材と同じ Web-BT
(Web Based Training)システムで英語リスニング教材を
開発した藤代他(2007)は、発話指導との併用でリスニ
取り上げられているが、知的技能を習得するためのイン
ング力の向上と学習意欲の改善を成果として挙げてい
が挙げられている(鈴木,2003 : 53)。最終目標に到達す
る。日本語教育においても様々な学習支援システムの開
るために、それ以前に「どのようなことが達成されてい
発が行われている(北村他,1999; 加藤,2008 など)が、
なければならないか」 という前提を基に分割し、段階的
ストラクショナルデザインの分析方法として「階層分析」
英語教育に比べるとその効果の検証は十分に行われてい
に積み上げていくのである。(加藤,2008 :13)。教材を
るとは言い難い。語葉習得に 佳占を当てたものとしては、
効果的なものにするために、順序立っており、かつ相互
新城・金井(2005)が Web Class システムを利用した専
に関連するようにデザインすることがインストラクショ
門分野の日本語語葉の自主学習教材を作成している。限
ナルデザインでは大切なことだとされている。
-92 ー
語葉習得のための e ラーニング教材を試用した日本語学習者の学習傾向と教材の改良
タスクのすべての問題を終了しないとポストタスクには
本教材では、日本語能力試験 3 級から 4 級レベルを中
進めないようデザインされている。
心にした約 1,300 語を 20 のテーマに分類し、関連語葉を
まとめて覚えられるようにした(表 1参照)。各テーマ
メインタスクの部分は基本問題と応用問題で構成され
はその下位目標として複数のトピックに分割し、各トピ
ている。基本問題は単語とイラストのマッチングである
ックはさらに六つの単語ごとにグループに分割されてい
(図 3)。トピックごとに基本総合問題があり、該当トピ
る(図 1)。どのグループからでも学習を始められ、グル
ック全体から 6 問が出題され、同様の方法で解答する。
ープごとに学習を積み上げていけばテーマ全体の語葉を
応用問題でも同様に 6 間ずつ出題され、仮名入力で記述
習得できるように作成されている。
式の解答を行う(図 4)。応用総合問題でも基本総合問題
と同様に、トピックごとに 6 問出題される。各問題はど
3.2
こからでも始められ、反復練習により語葉の定着が図れ
タスクの構造
Laufer & Hulsりin (2001)は、語葉の記憶を決定づけ
る三つの要因(①必要性(need) ②検索度(search) ③
るようになっている。
評価(evaluation))がーつの活動の中で全て関わる場合
3.3
記憶が助長されると指摘している。この考えに基づき、
テーマごとに図 2 のような三つの段階に分かれた活動を
自律学習機能
自律学習を支援する機能のーつとして辞書参照機能が
ある(図 5)0 さらに、ユーザー自身の単語帳に登録され
入れてタスク部分を作成した。まずプレタスクで選択し
る単語登録機能がある(図 6)。単語登録された単語のリ
たテーマに関する学習前の語葉力を診断し、学習の必要
ストはトップページから「私の単語帳」というページに
性を自身で判断する。次にメインタスクで問題に答える
登録され、学習者が自身の語葉習得状況を把握すること
課程で正解となる単語を記憶の中で何度も検索すること
ができる。
により定着を図る。最後にポストタスクでそのテーマで
以上が本教材の持つ、テーマ別モジュール式機能、繰
学習した全ての単語の中から 20 個がランダムに出題さ
り返し練習ができるタスクの構造、自律学習機能である。
れ、定着度を自身で診断する。なお、最初にプレタスク
次に今回実施した調査について述べる。
を行わなければメインタスクには入れず、また、メイン
表 1 学習テーマ
1.自己紹介をしよう
2,人を紹介しよう
3,一日の生活にっいて話そう
4.あいさっ
5.日本の一年
6.町に出よう
7.レストランに行こう
8.教室
9.買い物しよう
10.家で
11,キャンパスライフ
12.困ったな
13.旅行しよう
14.病院で
15.人の一生
16,余暇活動
17.自動詞・他動詞
18.ていねいに話そう
19.数えてみよう
20.日本社会を学ぼう
テーマ:2,人を紹介しよう
一1 グループ名
~トピック名
「 1どんな関係?
一
麗え葡扇戸
3 どんな人?
「百家族く1)
ロ家族く2)
ロ会社
口I艮装(1)
ロ服装(2)
ロ動詞
―二」口その他
~口外見(1)
ロ外見く2)
ロ能力・状態
ロ印象
図 1 トピックーグループの例(テーマ 2)
テーマ 1
プレタスク
メインタスク
トピック 1
基本総合/応用総合
テーマ 2
ポストタスク
トピック 2
~
図2
タスクの構造
- 93 一
グループ 1
基本問題/応用問題
グループ 2
~
-= 戸篇毒、n 与「主ミ三宇ミ
動詞(3)
ーーー私の単語帳一ー一
魚敵
to play to spend
番号単語ひらがな I あいうえお
●
会
え
2 導百 えし而「
b 着楽
おん万又
か‘~かl
カら
畿F きん〔『
スボーツスポーツ
’血皿’
to meet to see (a
忍舞愈肇
tobuy
tosmim
I訳語
訳語
■
レッスン I
叫”』. 備考柵登録日匡匹亘丁
pa加 pct"re」「,
paimm
d wng15
2(07/enノ叫 102856
m諭
2(07ノ(万ノm1029m
泊lusk
ョ
20)71(6/ce1 02248
ca1le
『・
8
2(07/05/48 10:2922
細血
2加7/05ノ叩 1021D2
sp。品
b
2(071(0ノ48 102915
‘
"
,
図 6 単語登録画面「私の単語帳」
to be absent (from>
4. 調査について
‘あ, ぐ
毎う
Meaning 「Pロ nロ untahコ n
M巳 aning 「Pロ noun引討コn
4.1
Mcaning 「
F ロ nロ un口前ロn
調査目的
本稿では、(1)これまで本教材を試用した学習者全て
Meaning P100ロ untalロ n
Meaning P ロ nロ un引ョhロ n
Meaning 「Pロ nロ Un引ョ1ロ n
Cロnodl answers
Try again
Close thはい肝川ひ“
を対象とした学習履歴の分析を行うことで、学習者が本
教材をどのように利用し、どのような学習傾向を持つか
図 3 基本問題画面
を明らかにすると同時に、(2) 2007 年 10 月の修正前お
よび修正後に同じ内容のアンケート調査を実施し、その
比較を行うことで、学習者の本教材への評価および修正
の有効性について検討する。そしてここから、利用され
やすい e ラーニング教材作成のための指針を得ることを
どコこ行くしりきたし、
ですか rWh日r日
vJロ liiiyロii iiiietロ
gロ?
目的とする。
4.2 調査期間と調査対象者
修正前の学習履歴の収集は、2007 年 7 月から 9 月にか
けて行った。授業内で本教材を試用する協力者を募り、
説明会を開き教材の紹介と使用方法を説明した。協力者
は、表 2 の筆者らの大学に在籍する短期交換留学生 9 名
であった(2)。日本語能力は本教材が対象としている初級
から中級であり、受講している日本語クラスのレベルや
母語は表 2 左列の通りである。説明会実施後、学習者は
随時自由にインターネットにアクセスし、本教材での語
葉学習を自律学習として行った。
図 4 応用問題画面
'lItIP ノノtd.IoyaI,,m,ユ ,d.o.t.,
l' iii
Lwk リ1 工
修正後の学習履歴の収集は、2007 年 12 月から 2008 年
2 月にかけて行った。修正前と同様、協力者を募り、説
明会を開き本教材の紹介と使用方法を説明した。調査対
N inroonit レIlemel rn,lorcr
象者は、筆者らの大学に在籍する短期交換留学生 8 名、
大学院生 2 名の合計 10 名で、日本語能力と母語は表 2
の右列の通りである。修正前の調査と同じく学習者は授
wbds 音楽
F-010gana おんがく
業とは関係なく随時インターネットにアクセスし、自律
Parta of sCeath 名詞
Englleh E48yn ents rssgic
学習として利用した。学習履歴は 19 名全ての協力者か
ら取得し、学習履歴のデータベース管理は Microsoft
山らsロn in Gen町 B
Rernarke
Access 2003 を使用した。
アンケート調査に関しては、修正前の調査を 2007 年 7
月と 9 月、修正後の調査を 2008 年 2 月に行った。上記
えいが
おんがく
カメラ
Meaning P「ロ nロ undagon
Meaning Fronounciation
Meaning lPronロ undiaonn
鵬
りよこう
スポーツ
コンビューター
Meaning Pronロ Un引飢 mn
Meaning 「
F ロ nnonv旧niロn
Meaning 三 Prロ nロリndianon
.罵
の協力者のうち、修正前のアンケート調査は 9 名全員、
修正後の調査は表 2 の 15 番、16 番、 17 番以外の 7 名か
ら回答を得た。
図 5 辞書参照画面
-94
語葉習得のための e ラーニング教材を試用した日本語学習者の学習傾向と教材の改良
表 2 調査協力者
修正前
母語
中国語
英語
ドイッ語
中国語
1
2
3
4
タイ語
中国語
英語
中国語
中国語
5
6
7
8
9
在籍クラス
中級後半
中級前半
初級後半
初級後半
中級後半
中級前半
初級後半
中級後半
中級前半
身分
短期交換
短期交換
短期交換
短期交換
短期交換
修正後
母語
韓国語
10
11
中国語
12
中国語
13 イント‘ネシア語
14 べトナム語
15
英語
16
韓国語
17 べトナム語
短期交換
短期交換
短期交換
短期交換
18
19
韓国語
イント’ネシア語
在籍クラス
中級後半
初級前半
初級後半
初級前半
初級後半
初級前半
中級前半
初級後半
中級後半
初級前半
身分
短期交換
短期交換
短期交換
短期交換
大学院生
短期交換
短期交換
大学院生
短期交換
短期交換
と評価した者が多くなっている。アンケートの自由記述
5 .結果と考察
欄の回答によると、「日本語キーボードの使い方がわか
らなかったため、入力に関して評価を低くした」とあっ
5.1
た。初級前半レベルの学習者にとってはパソコンによる
アンケート調査の結果
アンケートでは 15 の質問に対して、「そう思う」5,'
「あまり
「どちらとも言えない」3,'
「ややそう思う」4,'
日本語入力に慣れていないため、入力の仕方を丁寧に教
える必要があることがわかった。
そう思わない」2,「全くそう思わない」1の 5 段階評価
項目 5 の 「使用中問題がよく起こった」というのはア
を行い、各項目の平均値を算出した。修正前と修正後の
クセスの不安定さが一因になっている。インターネット
各項目の質問とそれに対する評価の平均値は表 3 のとお
にアクセスできないという苦情がよく聞かれたので、こ
りである。なお、各タスクについて質問した項目 11 か
の問題に対処する必要がある。また、項目 3「各タスク
ら 14 には、別に 「使っていない」という回答欄を設け
は難しい」 に対する修正後の回答の平均値が 1.71 で、多
た。
くの学習者は「タスクが難しくない」と感じていること
英語訳を表示した修正後は修正前に比べて、項目 6
がわかった。
「絵が単語を覚えるのに役に立った」、項目 15「絵の意味
学習履歴の分析
はわかりやすい」共に平均値が上がり、修正に対して良
5,2
い評価が出た。また、項目 6 の日本語入力に問題があっ
5.2」 各タスクの学習履歴
たかどうかについては、修正後の方が「問題があった」
表 4 はタスクごとの学習履歴で、タスクを一度でも行
った者のデータをまとめた。プレタスクはログインした
全員が行っているが、そのうちメインタスクの基本問題
表 3 アンケート調査の結果
質問項目
評価(平均値) 修正前
n=7
修正後
n=7
に進んだのは 15 名、つまり 4 名はプレタスクだけの学
習で終わっている。応用問題を行ったものは 13 名で、
最後のポストタスクまで進んだのは 6 名だけという具合
1 単語の練習に役に立った
3.29
4.29
2 このプログラムをするのが好き
3.57
3.71
3 各タスクは難しい
2.57
1.71
マ数の平均や最大値からも、プレタスクを行った後に必
4 使い方はわかりにくい
2.00
1.71
ずしもメインタスクやポストタスクを学習していないこ
5 使用中問題がよく起こった
2.17
2.57
とがわかる。学習者は選んだテーマを最初のプレタスク
6 日本語を入力するときに問題があった
1.33
2.43
から最後のポストタスクまですべて学習するというわけ
に、先に進むに従って少なくなっている。学習したテー
7 新しい単語をたくさん勉強できた
3.14
4.00
ではなく、途中でやめたり、プレタスクだけを 19 テー
8 絵が単語を覚えるのに役に立った
3.57
4.14
マ行い、その後のメインタスクでの練習はまったくしな
9 ナビゲーションがわかりやすい
3.86
3.57
かったりなど、学習を継続しない学習者が少なからずい
10 開始画面「MYページ」 は使いやすい
4.00
4.57
るということである。
11 「プレタスク」 は役に立った
4.00
4.29
52.2
12 「基本問題」 は役に立った
3.80
4.14
表 5 は、各学習者がどのテーマをどんな順番で行った
13 「応用問題」 は役に立った
4.20
4.29
のかをタスク別にまとめたものである。(テーマ番号は
14 「ポストタスク」 は役に立った
4.33
4.29
学習が行われた順番に表記されている。)本教材はどの
15 絵の意味はわかりやすい
2.83
4.43
各テーマの学習順序と学習回数
テーマからでも学習を始められることが特徴のーつだ
-95 ー
表 4 各タスクの学習履歴
メインタスク
プレタスク
基本問題
応用問題
ホ。ストタスク
ログインして学習した人数
19
15
13
6
学習したテーマ数(平均)
4.11
3.00
2.92
2.50
1
0
0
0
9
8
5
学習したテーマ数(最小値)
学習したテーマ数(最大値)
19
表 5 タスク別学習順テーマ番号
学習者
プレタスク
メインタスク
ポストタスク
1 1,2
2 1
1
3 1,14,15,16,17
1,14,15,16
4 1,2,12,3,6,7
1,2,3
5 1,2,3,4,5,6
1,2,3,4,5,6
1,6,5
6 17
17
7 1,2,3,6,7
1,2
8 17,18,1,2,3,6,7
17,1,2,3,6,7,2,3,6,7,1,2,1,3,7
6,1,2
9 1
10 1,2,3,6,7
1,2,3,6,7,3,2
1,7,2,3,6
11 17,1,2,3,4,5,6,7,8
17,1,2,3,4,5,6,7,8
17
12 1
1
13 1
1
14 1-18
(全て順に),20
15 1
1
16 13,14
17 1,2
1,2
1
18 1,2,3
1,2,3
1,2,1,2,1
19 1
1
が、実際のところプレタスクで言えば 19 名中 15 名がテ
も考えられる。
ーマ 1から学習を始め、その内ほとんどがテーマ番号の
次に、学習者がどのテーマを多く学習しているかをグ
順に学習を行っていることがわかった。テーマ 1から始
ラフに表した(図 7)。全ての学習者がそれぞれのタスク
めなかったのは 4 名のみである。同じ傾向がメインタス
を学習した回数を合計したものである。基本総合問題を
クやポストタスクにもうかがえる。テーマ 1から始めて
含む基本問題と応用総合問題を含む応用問題は学習を終
いない学習者 4 名のうち 3 名(学生番号 6, 8, 11 番)
が先ず 17 から始めているが、この 3 名は初級後半レベ
了したグループ数を数えた。前述のようにテーマ 1から
ルの学習者で、アクセス時期から見て、授業で扱われる
「自動詞・他動詞」を復習するために利用したものと考
が進むに従って少なくなっている。テーマ 6 と 7 は少し
挽回しているが、6 は「町に出よう」'7 は「レストラン
えられる。もう一人テーマ 1から始めていない学生番号
に行こう」というテーマで、他のテーマに比べて親しみ
16 番は協力者の中で唯一医学部の学生で、最初に学習し
たテーマは 13「病院で」である。
始める学習者が多いため、テーマ 1が一番多く、テーマ
が持たれたのかも知れない。後半のテーマの中では 17
「自動詞・他動詞」が他のテーマに比べて多くなってい
テーマ 1しかしなかった学習者もプレタスクでは 6 名
る。
いる。継続して学習しない理由については追跡調査が必
一方、一度もアクセスのないテーマは 19「数えてみよ
要であるが、最初の方のテーマは初級の前半で習う簡単
う」で、助数詞を学習するこのテーマを選んだ学習者は
な語葉を集めたものになっているので、自分のレベルに
いなかった。また、プレタスクのみでメインタスクの学
合っていないと判断し興味を失ってしまったということ
習が一度もされていないテーマは、 9, 10, 11, 12, 13,
-96 -
語葉習得のための e ラーニング教材を試用した日本語学習者の学習傾向と教材の改良
50
45
■ポストタスク
40
口応用問題
35
■基本問題
30
回っに
数一、
J
20
■プレタスク
15
10
5
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
テーマ番号
図 7 テーマ別学習履歴
回もやり直すケースも多く見られた。本教材は同じグル
18, 20 で後半に多い。
このように多くの学習者が、特に興味のある分野や理
ープの問題でもやり直すたびに語句の提出順序が変わる
由がなければテーマ 1から順番に学習する傾向にあると
設計になっているため、飽きることなく同じ問題にトラ
いうことがわかった。
イすることができる。そのため、新しいテーマの問題を
52.3
次々とこなすよりも、同じものを繰り返し練習するケー
メインタスクの学習回数
スが多いのだろう。
メインタスクを構成している基本問題と応用問題の学
習履歴によると(表 6)、学習した回数は基本問題(グル
ープ数)と基本総合問題の合計が 885、応用問題(グル
各タスクの平均点
5.3
次に、学習者の各タスクの点数の平均点を出した(表
ープ数)と応用総合問題の合計が 892 とどちらもほぼ同
じで、偏りなくどちらも学習されていることがわかった。
7)。これを見ると、基本問題(6 点満点)の平均点は
また、メインタスクは同じグループの問題を何度でもや
5.69、基本総合問題(6 点満点)は 5.84 と満点に近い点
り直すことができ、実際に何度も繰り返している学習者
が取れており、ばらつきも少ない。このような結果が、
は多かった。基本問題の最大値は 10 回、一人平均 3.53
前述したアンケートで「各タスクは難しい」に対する回
回、応用問題の最大値は 12 回で、一人平均 5 回も同じ
答の平均値が 1.71 という低い評価に結びついているもの
問題を回答していた。絵と単語のマッチングである基本
と思われる。
各タスクの平均点の差に有意差があるかどうかについ
問題に比べ、語句を入力しなければいけない応用問題の
方が繰り返しの回数が多いということがわかった。最初
て、母集団の正規性は仮定できないので、ノンパラメト
にトライしたときの点数が悪く満点を取るまでやり直し
リック検定であるウィルコクスンの符号付順位和検定に
たケースのほかに、満点を取っているにも関わらず、何
よって検討した。ただし、基本問題は行ったが応用問題
表 6 メインタスクの学習履歴
応用問題
基本問題
学習した回数
(合計)
基本問題
基本総合
応用問題
応用総合
723
162
637
145
892
885
繰り返し回数の最大値(平均値)
10
12
(3.53)
(5.00)
表 7 各タスクの平均値と標準偏差
タスク
基本問題
基本総合問題
応用問題
応用総合問題
基本問題全体
応用問題全体
平均(6点満点)
5.69
5.84
4.58
5.03
5.76
4.81
SD
0.讐
0.37
1.26
0.86
0.41
0.94
n
15
13
13
11
15
13
z
0.60
0.87
3.41*
*p<.05
197 -
は行わなかったなど、対応がない場合は除外した。その
り通すには、飽きずに興味を持って学習に取り組める工
結果、基本問題と基本総合問題、応用問題と応用総合問
夫が必要である。同じ問題を繰り返して学習するときに
題の間に有意差はなかった。一方、基本問題全体と応用
提出順序がランダムになる機能は活用されており、学習
問題全体の平均の差は、Z=3.41, p<.O5 であり、これら
者は何度も同じ問題を繰り返す傾向があることがわかっ
の差は 5 %水準で有意であった。応用問題の方が基本問
た。しかし、基本問題は学習者の獲得点数の平均値が満
題に比べ有意に平均点が低いという結果が出た。絵と文
点に近いこと、またアンケート調査の結果からも、ほと
字のマッチングである基本問題はほぼ満点に近い点数を
んどの学習者が各タスクは難しくないと思っていること
取れており、難易度は高いとは言えないが、文字を入力
から、タスク自体の難易度を上げる必要があるのではな
しなければならない応用問題は、基本問題ほど高い点数
いかと考えられる。そこで興味を持って新しいタスクに
は取り難いことが理由として考えられる。
チャレンジしたくなるよう、現在は 6 個の絵に対して単
5.4
難易度を高めることにする。
語の選択肢は 6 個であるが、単語の選択肢を 9 個にして
辞書参照と辞書登録機能
表 8 は、単語の意味がわからないときに使用する辞書
自律学習を促す目的で作られた単語登録機能は、ほと
参照機能と、そこから自身の単語帳に登録する辞書登録
んど利用されていない。この機能自体が学習者にとって
機能の学習履歴である。辞書参照機能については、プレ
あまり必要がない可能性もあるが、現在、このボタンは
タスクしか解答しなかった学習者 4 名を含む 5 名以外は
日本語版においても「Put the word into My Vocab Book]
全員活用していた。全部で 138 語が参照されており、一
とされており、日本語版使用者にとってこの英語表記が
番多く参照した 19 番の学習者の参照単語数は 44 語であ
わかりにくいために使用されていないという可能性もあ
った。一方、単語登録をした学習者はわずか 2 名で、全
る。したがって今後はこれを「単語帳に登録」 という日
部で 5 語しか登録されていない。辞書参照機能で意味を
本語表記に直し、説明会などでもこの機能のことに触れ、
確認した後、[Put the word into My Vocab Book」という
学習者に機能を周知させる必要があると考える。
ボタンを押せば「私の単語帳」に登録でき、プリントア
アンケート調査から得られた改善点としては、特に初
ウトもできるようになっているのだが、この辞書登録機
級レベルの学習者には日本語入力のしかたを丁寧に説明
能はほとんど活用されなかった。
する必要がある。また、学内でウェブにアクセスするこ
とができないことがあったという学習者からの苦情に対
表 8 辞書参照と辞書登録機能の履歴
辞書参照
利用者数
合計単語数
一人の最大単語数
応するため、ウェブにアクセスするためのパスワードを
はずし、ログイン時のパスワード入力のみにすることも
辞書登録
考えられる。
14 人
2人
138 語
5語
志で参加してくれたのだが、積極的に本教材の機能を活
44 語
4語
用した協力者は少ないと言える。ただ、テーマ 17「自動
本稿の調査は、本教材に興味を持った学習者が自由意
詞・他動詞」 を授業と関連づけて学習した学習者がいる
ことから、積極的な活用を推進するためには、授業や教
科書と関連した単語で構成されたテーマを追加するな
6. まとめと今後の課題
ど、より学習者が取り組みやすいテーマ分類を検討する
調査の結果、利用されやすい語葉学習のための e ラー
必要もあるであろう。さらに、今後本稿で指摘した修正
ニング教材ができるよう、改善しなければいけない点が
を行い、再度学習者の評価と学習履歴を分析し、修正が
見つかった。
有効だったかどうか検証していきたい。
学習者の多くはテーマ 1から順番に学習を行ってい
e ラーニングに興味のない学習者、説明会に来ても本
る。自分の興味に合わせたテーマの選択をしないのであ
教材にアクセスしなかった学習者、既に自分の覚え方を
れば、せめて自分の日本語のレベルに合わせてテーマが
持っている学習者など、すべての学習者が興味を持って
選べるように、難易度を表示することを検討したい。そ
e ラーニングに取り組むわけでもなく、また e ラーニン
れにより、どのテーマからでも学習を始められる本教材
グ教材がすべての学習者に適しているわけではない。ど
の特徴が生かされるであろう。
の学習者も自分なりのストラテジーを持っており、学習
また、プレタスク、基本問題、応用問題と進むにつれ
者の語葉習得の方法は様々である。e ラーニング教材が
て学習したテーマ数が少なくなっている。調査期間が短
どのように日本語学習者の語葉習得に貢献できるかにつ
いため、学習者は十分に練習できなかったこともあるだ
いては、さらなる研究が必要である。
ろう。しかし、より多くのテーマを各タスクにおいてや
-98 ー
語葉習得のための e ラーニング教材を試用した日本語学習者の学習傾向と教材の改良
藤代昇丈・宮地功(2007)「英語のリスニング教材と発話指導の
注
(1) 2007 年 10 月の修正ではこのほかに以下の点についても修
告集』JSETO7-1 号
正を行った。
・
基本問題の単語をドロップするエリアを広げ、正確に枠に
当てはめなくても解答できるようにした。
・
基本問題、応用問題の答え合わせをした後、[close」 のボ
タンしかなかったが、「もう一度挑戦」 ボタンを追加した。
また、次のグループに直接進めるように 「次のタスクに挑
ー基本問題、応用問題の画面の
うボタンを 「try
again」
クを閉じるボタン 「close
・
タスク終了後 My
pp.137-140
平田真美(2007) 「語葉習得と記憶」『国際交流センター紀要』
創刊号,埼玉大学国際交流センター
pp.61-67
金森由美・中溝朋子(2007)「日本語初級学習者のための語葉習
得 WebBT の開発」『大分大学国際教育研究センター紀要』第
1号 pp.11-21
加藤由香里(2008) 『日本語 e ラーニング教材設計モデルの基礎
戦」 ボタンも追加した。
rback to the beginning」とい
という表記に改めた。また、タス
this wnidow」
を追加。
Page に戻ったときに画面の一番上に戻っ
ていたが、終了前に行っていたテーマと同じテーマの行に
戻るようにした。
・
My Page のタイトル行を独立させ、下にスクロールしても
常にタイトル行が表示されるようにした。また、My Page
の上部にテーマー覧を表示し、学習したいテーマにクリッ
クで飛べるようにした。
・
編集ページにすべてのタスクが見られる機能を追加し、タ
スク作成中に編集者がタスクを確認しやすくなるようにし
た。
(2)本稿では、学生交流協定に基づいて海外の協定校より半年
もしくは 1年間日本に留学している留学生を「短期交換留
学生」 と呼ぶ。
付記
本研究は、平成
ブレンディング学習による学習効果」『日本教育工学会研究報
17 年一 19 年度科学研究費補助金基盤研究
に)課題番号 17520348 「遠隔地学習者の語葉習得を支援するタ
スクの開発とその効果に関する試行的研究」 による研究成果の
一部である。
的研究』ひつじ書房
北村達也,川村よし子,内山潤,寺朱美,奥村学(1999)「学習
履歴管理機能を持つ日本語読解支援システムの開発とその評
価」『日本教育工学会論文誌』 23 号 3 巻
pp.127-134
Laufer, B., & Hulstjin, J. (2001) "Incidental vocabulary acquisition
in a second language: The construct of task-induced
involvement." Applied Linguistics 22, 1, pp.1-26
森美子(2003)「日本語における語葉習得」『第二言語習得研究
への招待』くろしお出版 pp.47-66
坂井美恵子(2007) rwebBT による語葉習得プログラムの評価
と学習傾向一中間報告ー」『大分大学国際教育研究センター紀
要』第 1号
pp.37-50
鈴木克明(2003)『教材設計マニュアル』北大路書房
竹蓋順子(1999)「学習結果が定着する語葉指導システムの開発」
『関東甲信越英語教育学会研究紀要』第 13 号 pp.39-Si
竹蓋幸生・高橋秀夫・土肥充・草ケ谷順子 ,与那覇信恵(2005)
「使える英語力を養成する総合的英語 CALL システムの開発
とその評価」FIT 活用教育方法研究』第 8 巻第 1号 pp.36-40
谷内美智子(2002)「第二言語としての語葉習得研究の概観ー学
習形態・方略の観点から一」『第二言語習得・教育の研究最前
線―あすの日本語教育への道しるべ』日本言語文化学研究会
pp.155-169
吉田国子・ブレンダ・ブッシェル・後藤正幸・松元崇子(2006)
参考文献
新城直樹‘金井勇人(2005)
[c-learning を利用した『専門分野
の語葉』学習」『一橋大学留学生センター紀要』第 8 号
pp.49-58
「環境英語を学ぶ e ラーング教材開発とその評価」『武蔵工業
大学環境情報学部情報メディアセンタージャーナル』第 7 号
pp.14-19