Managerial Accounting 管理会計学 会計学 • 会計が果たす役割から企業会計を区分すれば,会計学は本質的に次のように相互に関連する 2つの領域に分けることができる。 1. 財務会計 2. 管理会計 • 財務会計(financial accounting)とは,期間損益計算を行って配当可能利益を算定するとともに, 主として投資意思決定に必要かつ有用な情報を,投資家,債権者など,多様なステークホル ダーに提供する会計である。財務会計の主要な課題は,一定時点における財政状態,一定期 間における経営成績,キャッシュフローおよび資本の変動に関する情報を,定期的に外部のス テークホルダーに開示(ディスクロージャー)して会計責任を果たすことにある。 • 管理会計(management accounting, managerial accounting)とは,経営戦略を策定し,経営上 の意思決定とマネジメント・コントロールを通じて経営者を支援する会計である。管理会計のこと を経営管理会計とか内部報告会計ということもある。管理会計は,企業だけでなく,政府・自治 体などの公的組織や非営利組織でも盛んに活用されるようになってきた。 財務会計と管理会計の特徴 視 点 財務会計 管理会計 情報の利用者 外部のステークホルダー 内部の経営管理者 報告書の種類 財務諸表 予算報告書,中長期計画書等 法規制の有無 会社法,金融商品取引法等 不要 主な利用目的 配当可能利益の算定 ディスクロージャー 戦略策定,経営意思決定 マネジメント・コントロール 情報の特性 意思決定有用性 忠実な表現 目的適合性,有用性,適時性 実体概念 • 財務会計上の会計実体は,企業実体(business entity)である。企業実体の公準 とは,個々の企業はその企業所有者から離れた別個の存在であって企業自体 が独立の資産,資本をもつ存在であり,会計単位となることを意味する。連結財 務諸表を前提にすれば,連結対象となる企業集団が企業実体となる。 • 管理会計における実体には,企業実体を含め,製品・サービス実体,プロジェク ト実体,および責任実体に細分される。 製品・サービス実体 製品・サービス別,製品系列別の収益性の検討および 原価分析も管理会計では重要である。 プロジェクト実体 設備投資計画など,プロジェクト別の利益管理,原価管 理などもまた管理対象になる。 責任実体 子会社,事業部,工場,部門,課,係など,責任区分 (セグメント)別の計画と統制も管理会計の対象になる。 継続企業の概念 • 財務会計では,企業は予期しうる将来において清算するとは考えられておらず, 意図している企業活動を実行するに足る十分な期間,安定して企業を継続する という継続企業(going concern ; ゴーイングコンサーン)の公準がもたれている。 • 管理会計における測定・伝達の対象は,確定した会計期間に限定されない。た とえば,予算管理では1年,半年だけでなく,月別の分析も必要になる。原価計 算期間は1か月である。また,管理会計ではプロジェクトの収益性計算もまた会 計実体として検討されるから,設備投資のプロジェクトなどでは,5年とか1O年 というプロジェクトの経済命数が計算上の会計期間になる。 貨幣的評価の概念 • 財務会計では,貨幣という測定尺度を用いて収益と費用によって期間損益計算 が行われ,貨幣以外の物量で経営成績や財政状態が測定されることはほとん どない。 • 管理会計でも,貨幣による測定はもちろん重要ではある。しかし,管理会計情報 では貨幣だけに限定することなく,個数や重量など物量による測定を無視して はならない。たとえば自動車会社で,自動車が何台売れたかとか,来月は何台 売れるだろうという情報は,管理会計情報にとっては重要である。 財務会計と管理会計の基礎概念 基礎概念 財務会計 管理会計 実体 企業実体 製品・サービス実体 プロジェクト実体 責任実体 継続企業 決算期間(1年) 中間決算(半年) 四半期決算 予算期間(1年か半年) 設備投資計画(10年など) 原価計算期間(1か月) 貨幣的評価 貨幣 貨幣 物量 財務報告 • 企業会計とは組織の活動を係数で(通常は貨幣額で)補足し、様々な人が投資 した資金が現在どのような状態にあるのか示すことである。 • 企業会計は、企業活動を二面的に把握する複式簿記機構を前提にしている。 • 通常企業は株主の拠出により現金を調達することから始まり、それを製造活動 に投下し、製品を販売することで現金を得る。回収した現金を次の製造または 商業活動に投下して企業活動を展開していく。企業活動の拡大に伴い信用取 引を取り入れたり、新たな資金調達も行う。このような企業資本の循環を、複式 簿記機構に基づいて、企業活動を把握し集計及び要約した表は財務諸表とよ び、その主要な表は損益計算書と貸借対照表である。 • 損益計算書は企業の経済活動により利益が出ているのか、それとも損失が出 ているのかを計算している。一方、貸借対照表の左側では資産、つまり企業が 保有する経営資源を表している。右側では負債及び資本をあらわしている。 財務報告 1. 人々が日常行う取引はすべて、資産、負債、純資産、収益、費用の5つの要 素の組み合わせで表せる。 2. 財政状態は資産、負債、純資産の3要素を使って「貸借対照表」で報告する。 経営成績は収益と費用の2要素を使って「損益計算書」で報告する。 3. 貸借対照表と損益計算書を作る時、負債、純資産、収益の3要素は表の右側 に書く。資産、費用の2要素は表の左側に書く。(あとで実物を見れば意味は すぐ分かります) 資産 現金・商品・自動車・建物など、あなたや会社が持っている価値のある品々や、貸付金などのように将来一 定の金額を受け取る権利(債権)のこと。 負債 借入金など、将来一定の金額を支払う義務(債務)のこと。それに近い引当金なども含まれる。 純資産(資本) 負債をすべて支払ったあとで手元にまだ残る資産、つまり、あなたや会社が持っている正味の財産額のこと。 収益 利息や手数料を受け取った、100円で買ったものを200円で売ったなど、会社の財産、つまり、純資産が増え る収入のこと。 費用 水道光熱費を払った、利息を支払った、広告宣伝費を払った、というように、純資産が減る支出のこと。 財務報告 貸借対照表(期末の残高表)12/31 資産 企業資本の待機状態 負債+資本 企業資本の調達源泉 現金 XX 企業資本の行使状態 原材料の未費消分 XX 機械設備の未費消分 XX 借入金(銀行等から) XX 資本金(株主から) XX 損益計算書(期間損益計算)1/1~12/31 資産 収益 企業資本の調達源泉 売上(顧客から) 企業資本の行使状態 原材料の費消分 XX 機械設備の費消分 XX XX 原価償却費 • 減価償却費には他の費用と違う大きな特徴があります。資産(自動車)を購入 した時に現金を払い、「費用を計上する時は1銭の現金も払わない」という点で す。食費でも衣料費でも水道光熱費でも、大抵の費用は現金が直接費用に変 わります。ところが減価償却費では、現金が一旦別の資産(自動車)に変わり、 その資産が次第に減価して費用になるのです。減価償却費は「現金の出ない費 用」です。 自動車を買った時は「お金の利用方法」が60万円の現金から 60万円の自動車に変わっただけです(①)。自動車の帳簿上 の価値を「簿価(帳簿価格)恥」と言い、買った時の簿価は60 万円です。この60万円は1ヵ月後の5月末に59万円、2ヵ月後 の6月末に58万円と次第に「減価」し(②)、60ヵ月後に0円にな ります。 60万円が60ヵ月で0円になりますから、1ヵ月分の費 用は1万円です。 要するに、60万円を毎月1万円ずつ償却するわけです。減価 分を償却するからこれを会計用語で「減価償却」と呼び、減価 償却で費用になる金額を「減価償却費」と呼びます。 損益計算書 • 損益計算書では、営業すなわち企業の本業活動によってどれだけの利益をあ げたのかの計算を行う。 • 本業での製造活動または商業活動による収益と、財務活動(例えば株式投資 等)による収益とを区別するために、営業と営業外に区別し、さらに、経常性と 特別なものに分けている。 名称 内容 記号 売上高 売った商品等の金額 ① 売上原価 売り上げた商品等の仕入額 ② 売上総利益 粗利ともいわれる直接的な利益 ③ 販売費及び一般管理費 営業活動のコスト ④ 営業利益 本業の利益 ⑤ 営業外収益・費用 金融関係の収支 ⑥ 経常利益 通常の経営活動での利益 ⑦ 特別利益・損失 臨時的な取引の収支 ⑧ 税引前当期純利益 最終的な利益 ⑨ 法人税等 利益に対する課税 ⑩ 当期純利益 税引後のもうけの手取り額である可処分利益 ⑪ 算式 ①-② ③-④ ⑤-⑥ ⑦-⑧ ⑨-⑩ 貸借対照表 • 一般の事業会社の貸借対照表では、通常、資産を流動資産と固定資産とに大別し、負債も流 動負債と固定負債とに大別する。流動性とは換金可能性を示し、流動性が高い場合には現金 への変形の近さを示している。このように大別する理由は、買掛金や借入金の返済能力や資金 上の安全性を確認するためである。これは、投資家や銀行にとって重要な情報となる。 貸借対照表 12/31 流動資産 流動負債 現金預金 XX 支払手形 XX 受取手形 XX 買掛金 XX 売掛金 XX 売買目的有価証券 XX 長期借入金 XX 社債 XX 固定負債 固定資産 機械設備 XX 資本金 XX 建物 XX 資本剰余金 XX 土地 XX 利益剰余金 XX 投資有価証券 XX 当期末処分利益 XX 損益計算書:ウォルト・ディズニー・カンパニー 損益計算書 1995年 売上高 娯楽映画 テーマパーク及びリゾート 消費者製品 (単位:100万ドル) 1994年 1993年 6,001.5 3,959.8 2,150.8 12,112.1 4,793.3 3,463.6 1,798.2 10,055.1 3,673.4 3,440.7 1,415.1 8,529.2 4,927.1 3,099.0 1,640.3 9,666.4 3,937.2 2,779.5 1,372.7 8,089.4 3,051.2 2,693.8 1,059.7 6,804.7 原価及び費用 娯楽映画 テーマパーク及びリゾート 消費者製品 営業利益 娯楽映画 テーマパーク及びリゾート 消費者製品 本社活動 一般管理費 支払利息 投資及び利息収益 ユーロ・ディズニー投資の損益 税引前・会計基準変更前利益 法人税 会計基準変更前利益 会計基準変更による累積的影響額 開業準備費 退職後手当 法人税 純利益 発行済み普通株式及び普通株相当株式の平均数 1株当たり金額 会計基準変更前利益 会計基準変更による累積的影響額 開業準備費 退職後手当 法人税 1株当たり利益 1,074.4 860.8 510.5 2,445.7 856.1 684.1 425.5 1,965.7 622.2 746.9 355.4 1,724.5 183.6 178.3 -68 293.9 -35.1 2,116.7 736.6 1,380.1 162.2 119.9 -129.9 152.2 -110.4 1,703.1 592.7 1,110.4 164.2 157.7 -186.1 135.8 -514.7 1,074.0 402.7 671.3 1,380.1 1,110.4 -271.2 -130.3 30 299.8 530.4 545.2 544.5 2.60 2.04 1.23 2.04 -0.50 -0.24 0.06 0.55 2.60 チェック項目 1. 収益性の程度 2. 収益性の動向 3. 利益の構成 貸借対照表:ウォルト・ディズニー・カンパニー (単位:100万ドル) 9月30日に終了した会計年度 1995年 1994年 資産の部 現金預金及び現金預金等価物 1,076.5 186.9 投資 866.3 1,323.2 売掛金 1,792.8 1,670.5 棚卸資産 824.0 668.3 映画・テレビ(原価) 2,099.4 1,596.2 テーマパーク、リゾートその他資産(原価) アトラクション、建造物及び設備 8,339.9 7,450.4 減価償却累計額 -3,038.5 -2,627.1 5,301.4 4,823.3 進行中プロジェクト 778.4 879.1 土地 110.5 112.1 6,190.3 5,814.5 ユーロ・ディズニーへの投資 532.9 629.9 その他資産 1,223.6 936.8 総資産 14,605.8 12,826.3 負債及び資本の部 負債 買掛金及びその他未払費用 未払法人税 借入金 前受ロイヤリティ及びその他前受金 繰延法人税 負債 資本 優先株資本金(額面0.10ドル) 授権済 発行済 普通株資本金(額面0.25ドル) 授権済 発行済 留保利益 為替換算調整額 差引:自己株式(原価) 資本 負債及び資本合計 2,842.5 200.2 2,984.3 860.7 1,067.3 7,955.0 1億株 2,474.8 267.4 2,936.9 699.9 939.0 7,318.0 1億株 0 0 12億株 5億7540万株 5億6700万株 1,226.3 945.3 6,990.4 5,790.3 37.3 59.1 8,254.0 6,794.7 -1,603.2 -1,286.4 6,650.8 5,508.3 14,605.8 12,826.3 チェック項目 1. 会社には支払い能力があるか 2. 会社の資産には十分な流動性があるか 3. 資産の構成はどうなっているか 4. 資金調達の構成はどうか 経営指標 • 投資家が投資する際、当該企業がいかなる収益力を持ち、企業価値がいくらで あるかを知ることは重要である。その際、絶対的な金額だけでなく、比率指標に して、期間比較、同業種間比較することでその情報が得られる。例えば、ある経 済新聞では規模、収益性、安全性、成長力といった財務指標を使用している。 財務指標 • 収益性の財務指標:ROI、ROE、ROA • ROI(Return on Investment)投下資本利益率 • • • • 調達した資金をどれだけもうけにつなげたか見る ROI(%)=経常利益÷投下資本×100 投下資本とは、借入金、社債、自己資本の合計 率が高いほど良い • ROE(Return on Equity)自己資本当期純利益率 • 株主の出資金である自己資本をどれだけもうけにつなげたかを見る • ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100 • 率が高いほど良い • ROA(Return on Asset)総資本経常利益率 • 全ての資本に対して、どれだけもうけにつなげたかをみる • ROA(%)=経常利益÷総資本×100 • 率が高いほど良い 財務指標 • 安全性の財務諸表 • 流動比率 • 短期の支払能力を見るもの。比較的すぐに返さなくてはならない債務に対し、比較的す ぐ現金化できる資産をくらべたもの。100をきるようであれば、支払が滞る可能性があ り危険な状態である。 • 流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100 • インタレスト・カバレッジ・レシオ • 支払利息の支払能力をみる指標。 • インタレスト・カバレッジ・レシオ(率)=(営業利益+受取利息配当金)÷支払利息 • この指標は率が高いほど良い 損益分岐分析 • 損益分岐点(break-even point)とは、売上高と費用が等しい点、すなわち利益ゼ ロのことである。この損益分岐点を利用して企業の損益構造について分析する ことを損益分岐分析(break-even analysis)という。 • 費用は売上高(あるいは販売量)と比例して変化する変動費と、売上高が変化 しても変わらない固定費に分類される。 • 商品(あるいはサービス)の販売金額から変動費を差し引いたものを貢献利益 (contribution margin)という。 • 次にすべての貢献利益を足し合わせた額から固定費を差し引くと営業利益が算 定できる。 • したがって、損益分岐点とは貢献利益が固定費と等しい(営業利益がゼロの) 点であるといえる。 損益分岐分析 • 損益分岐点を計算するには、以下の式を使用する。 固定費 損益分岐点売上高= 変動費 1- 売上高 固定費 損益分岐点販売量= 1単位当たりの貢献利 益 固定費 固定比率= 売上高 管理会計 • 企業の究極的な目的は,多元的な諸目的を勘案しながら,企業にとって長期的 に満足しうる適正な利益を獲得することで永続的な企業の存続,成長,発展を 図ることにある。この目的を達成するため,企業には企業価値創造(value creation)が求められる。経営者の機能は,企業価値創造を主要目的として有効 な戦略を策定し,資源配分に関する意思決定を行い,経営活動を行うことにあ る。管理会計の役割は,経営者が戦略の策定と資源配分に関する意思決定を 効果的に実施し適切に業績を評価できるように,経営者を支援することにある。 企業価値 • 欧米の経営者は企業価値を一般に,(1)株式の時価総額,(2)一株当たり利益 に株式総数を乗じたもの,あるいは,(3)将来のキャッシュ・フローをDCF法で現 在価値に引きなおしたものと考えられている。図は欧米の通説を図解したもの である。 企業価値 経済価値 株価総額 利益 将来キャシュフローの現在価値 株価総額 • 株価操作がない限り「株価は財務業績を映し出す鏡」である。それゆえ,企業価 値は,株式の時価総額によってその概要を知ることができる。日本経済団体連 合会が「企業価値の最大化に向けた経営戦略」のなかで,「企業価値そのもの は具体的に計測することが難しい。そこで便宜上,実際に把握できる株式時価 総額の動向を通じて企業価値の増減を測る」としたのは,株式の時価総額が企 業価値の近似値を表すと考えられているからに他ならない。 • 合併や買収(M&A)でも株価総額が決定的な役割を果たす。証券市場が効率 的である限り,企業の業績が株価に反映されるからである。たとえば,株式時価 総額が300億円,帳簿上の資産価値(純資産)を250億円であるとすると,超過 収益力は50億円になる。この超過収益力は会計学では“のれん”と呼ばれてい る。 超過収益力(のれん) = 株式の時価総額 一 純資産 利益 • 利益(例;一株当たり利益)をもって企業価値とする見解もある。会計上の利益 は,株価などに比べたら遥かに“客観的”である。しかし,キャッシュ・フローが真 実(truth)を表しているのに対して,会計上の利益はオピニオン(opinion)であると する見解が有力である。利益操作の余地もある。それゆえ,過去の会計上の利 益をもって企業価値と考える見解は,必ずしも多くの経営者の支持者を得るに 至っていない。 将来キャシュフローの現在価値 • 企業価値は,将来の期待キャッシュ・フローを,そのリスクを反映する一定の資 本コストで正味現在価値法(net present value ; NPV)を用いて現在の価値に割 り引いたものであるとする見解が多くの経営者,研究者の支持を集めている。 例を使って説明しよう。 • 投下資本を200億円,資本コスト6%,年々のキャッシュ・フロー(収益の予測 値)を,1年目150億円,2年目100億円,3年目50億円であるとすると,正味現 在価値の計算プロセスは表のようになる。 キャッシュ・フロー 現価係数 現在価値 -200 1 -200 150 0.9434 142 100 0.8900 89 50 0.8396 42 正味現在価値 73 将来キャシュフローの現在価値 • DCF法によるとき,企業価値の増加額は,以上の計算のように73億円(273- 200)である。では,株主価値と企業価値の関係はどのように表されるか。式か ら明らかなように,株主価値は,企業価値から負債価値を差し引いた値である。 株主価値=企業価値一負債価値 仮に,有利子の負債価値の増加額を20億円とすれば,株主価値増加額は, 53億円(73億円-20億円)になる。負債価値増加額を100億円と仮定すれば, 株主価値は27億円のマイナスということになる。このことからいえば,有利子 負債の増加は,株主にとっては好ましからざる事態)であるといえる。 責任会計 • 管理会計は,対象とする目的から,業績評価会計(業績管理会計ともいう)と意 思決定会計に区分されることがある。業績評価のための会計は,管理会計のう ちでも主要な領域の1つに属する。業績評価を効果的に行うためには,マネジメ ント・コントロール(management planning & control ; 経営統制)のシステムが必 要となる。予算制度を中核とする業績評価システムは,責任会計制度に立脚す ることで最もすぐれた効果を発揮することができる。 責任会計制度における責任センター • 責任会計(responsibility accounting)とは,会計システムを管理上の責任に結び つけ,職制上の責任者の業績を明確に規定し,もって管理上の効果をあげうる ように工夫された会計制度である。 • 経営者は,責任会計を実施するために,責任会計制度における経営組織上の 構成単位である責任センター(responsibility center ; 責任中心点)の業務活動 に責任をもつ。責任会計では,責任センターに焦点を向けて,管理可能下にあ る業績の結果(実績)を計画値(予算)と対比・測定する。 責任センター • 典型的な責任センターは,原価センター,利益センター,投資センターである。 その他,費用センターや収益センターが知られている。 • 原価センター • 原価センター(cost center ; コスト・センター)は,自己の管理下にあるセグメント(一般には 部門)で発生した原価についてのみ責任を負う組織である。たとえば,製造部長はすぐれた 品質の製品をできるだけ低コストで生産する責任(原価責任)はあっても,利益責任を問わ れることはない。 • 原価センターは,あらゆる組織体において共通に存在し,管理会計報告の核である。内部 報告では原価を管理可能費と管理不能費とに区別し,管理者には管理可能費だけの責任 を負わせるべきである。 責任センター • 利益センター • 利益センター(profit center ; プロフィット・センター,利益責任単位)とは,原価責任だけでな く,アウトプットである収益の責任をも評価対象に含められ,式におけるように,両者の差額 としての利益によって業績が評価される組織である。事業部は,利益センターになる。その 結果,事業部長は自己の事業部の原価をいかに引き下げたかではなく,利益責任が問わ れる。 • • • 事業区分を利益センターとすることによって得られるメリットは大である。それは,人間はだれでも原価を削減することよりも利益の増大に大 きな喜びを感じるからである。たとえば,百貨店の家電製品売場を利益センターとして扱えば,家電部長は利益をあげるためにあらゆる努 力を惜しまないであろう。その際,留意すべきことが2つある。 第1は,自己の利益のために他部門の利益を犠牲にしてはならない。たとえば,いくつかの売場で共通した広告宣伝が必要な場合には,広 告の重複が生じないように他の売場と協調しつつ自部門の広告活動を行う必要がある。要するに,部門利益と全社利益との目標整合性を 図る必要がある。 第2は,当該部門だけでなく,最終的には本社費や部門共通費を回収した利益が必要だということである。先の例で,家電部長は本社費や 建物の減価償却費などの部門共通費を管理することができない。しかし,家電部門の利益の測定では,本社費や共通費のうち応分のコス トを負担しなければならない。 責任センター • 投資センター • 投資センター(investment center ; 投資中心点)では,経営者が原価と収益だけでなく,投資 額も管理する)。事業区分を投資センターとして扱うことにより,使用資本の効率的利用も業 績評価の対象になる。すなわち,式2から明らかなように投資センターでは,利益だけでなく, 利益を生みだすのに利用された投下資本の利用度ないし投資効率が測定・評価される。そ の投下資本の利用度が,投資利益率(return on investment ; ROI)である。 責任センター 責任センター • 費用センター • 費用センター(expense center)は,インプットの要素である費用は貨幣額で測定されるもの の,そのアウトプットは貨幣で測定されることのない,原価センターの一種である。費用セン ターには,2種類のものが区別される。 • 第1は,技術費用センター(engineered expense center)である。典型的な技術費用センター は,工場の製造活動にみられる。製造部の生産する製品は収益として認識することも可能 ではあるが,一般に業績評価のために収益と費用の対応はなされない。同様に,倉庫活動, 物流活動なども技術費用センターとなる。 • 第2は,自由裁量費用センター(discretionary expense center)である。典型的な自由裁量費 用センターは,基礎研究開発の活動にみられる。研究開発センターが提供するアウトプット は計量化が困難なものも多く,費用との対応関係を見つけるのが困難である。同様に,一 般管理活動や支援活動もまた自由裁量費用センターとして特徴づけることができる。 責任センター • 収益センター • 収益センター(revenue center)では,アウトプットは貨幣額で算定されるものの, 費用についてはそれを収益と対応させない。販売部や販売店は典型的な収益 センターである。なお,日立や東芝など,日本の工場でよくみられるような,工場 に利益責任を与えた擬似プロフィット・センターは,仕切価格による計算上の収 益と工場のコストとが対応されるため,利益センターの一種となりうる。 業績評価システム 企業がどれだけ企業価値を創造したかは,業績評価システムで測定される。 事業部制における責任会計 • 事業部制は高度に分権化された形態であり,事業部に大幅な権限を委譲する ことによって硬直しがちな大企業の欠点を排除しようとした組織である。権限の 委譲は,責任の委譲をともなう。責任会計は部門責任者の責任・権限と結びつ いた会計システムとしてもたれる。それゆえ,事業部別の原価,収益,利益およ び投資利益率が問題とされる責任会計では,典型的には経済価値を中心に考 察されることになる。 投資利益率の有効性とデュポン・チャートシステム • アメリカ企業はこれまで,典型的には,投資利益率(ROI)をもとに事業部業績 の評価を行ってきた。投資センターに立脚する投資利益率がすぐれた業績評価 尺度であるとされるのは,それによって投資効率の良否が判断できるからにほ かならない。このことは,次の簡単な設例によって理解できるであろう。 • 【設 例】 X社では当期,プラズマテレビ事業部で200億円の利益をあげたが,IC事業部での利益は400 億円であった。利益の絶対額でみる場合には,IC事業部のほうがすぐれている。’しかし,各 事業部への投資額をみると,プラズマテレビ事業部では2,000億円,IC事業部では8,000億円 であった。いずれの事業部の投資効率が優れているか。 • 【回 答】 プラズマテレビ事業部 IC事業部 投資利益率の分類 • 企業は投資利益率を,投資効率を判定するためだけに活用しているわけでない 。投資利益率は,売上利益率と資本回転率という2つの要素に区分できる。売 上利益率は売上高に対していくらの利益をあげたかという収益性の判定指標で ある。資本回転率は投下資本をいかに効率的に運用して売り上げをあげたかと いう投下資本の効率を見ることができる。 売上利益率 売上利益率 • 売上利益率法の最大の欠点は,投資効率の測定が無視されていることにある。 表3-2で,売上利益率だけをみたら,A事業部のほうがすぐれている。しかし。B 事業部は売上高との関係で少ない資本で大きな利益を上げており,投資効率 がよい。つまり,売上利益率それ自体では投資効率の考慮が欠落している。 事業部 A B 売上高 40,000,000 400,000,000 総資産 20,000,000 20,000,000 純利益 4,000,000 8,000,000 売上利益率 10% 2% 資本回転率 2回/年 20回/年 投資利益率 20% 40% 投資利益率の有効性 • 以上からすれば,総合的な収益性を表す投資利益率で経営判断すべきだとい うことになる。それにもかかわらず,日本企業では投資利益率の採用は少なか った。それはなぜか。日本では現在でも売上利益率を利益計画の目標利益とし て用いている企業が多くある。売上利益率は投資効率を考慮していないからダ メだといえばそれまでであるが,売上利益率をとっていた優良会社は,他方で個 別資産管理の効果的な方法を採用しているところが多かった。 • たとえば,トヨタ自動車では原価企画に売上利益率を用いるとともに,棚卸資産 コストを引き下げるために“かんばん方式”を用いていた。松下電器産業(現・パ ナソニック)では,事業部の利益目標として売上利益率を用いるとともに,借入 金を減少するため(その後は投資効率を向上させるため)に“内部金利制度”を 用いていた。 原価計算 • 管理会計では,製品,サービス,ソフトウェア,プロジェクト別の原価・収益性の 分析が必要になる。これらの原価計算対象の原価と収益性を測定するために, 企業ではいろいろな形で原価計算を行っている。原価計算(cost accounting)とは ,一般に,財貨を生産し。サービスを提供するにあたり消費された,または消費 されるであろう経済財の価値犠牲を測定するための技術,概念の総称であると されている。原価計算は,製造業だけでなく,建設業,ソフトウェア,流通,物流 ,ホテル,政府・自治体,病院などのマネジメントにとって不可欠のツールになっ てきた。 原価計算の目的 • 原価計算は,財務会計(外部報告)にも管理会計(内部報告)にも役立つ。財務 会計への役割に関していえば,原価計算は仕掛品や製品原価を算定し財務諸 表を作成するため,企業にとって欠かしえない概念・ツールである。 • 現代の原価計算に与えられている最も重要な役割は,原価計算の結果を活用 して経営活動を効率的・効果的に運営することにある。管理会計への役立ちに 関していえば,原価計算は,売価(販売価格)を決定し,原価管理を行い,利益 計画や経営意思決定に役立てるため,経営者にとって不可欠のマネジメント・ツ ールとなりつつある。このような意味での原価計算は,伝統的な原価計算と比 較すると,経営原価計算と呼ぶこともできよう。経営原価計算は,経営管理者の 立場から行われる原価計算である。原価計算の目的との関係で原価計算を位 置づけるならば図のようになる。 原価計算の目的 • 原価計算は財務諸表の作成に欠かせないが,より重要な目的は,売価算定, 原価管理,利益管理,経営意思決定などを通じて製品,プロジェクト,セグメント 別の採算計算を行い,企業価値を増大させることにある。 原価の計算手続き • 原価計算制度における原価の計算手続きは,2つに区分される。 1つは製品 原価の計算である。財務諸表を作成するためには,製品原価計算は不可欠で ある。いま1つは販売費および一般管理費の計算である。営業費計算ともいう。 売価決定の基礎になるのは,総原価(製造原価十営業費)である。 原価要素と原価の構成要素 製品の実体を構成する直接材料費に直接労務費を加えたのを素価という。素 価に直接経費を加えると製造直接費になる。直接労務費に直接経費と製造間 接費を加えたものを,原価計算では加工費(conversion cost)という。製造原価 (manufacturing cost)は,直接材料費,直接労務費,直接経費に製造間接費を 加えたものである。販売費および一般管理費は営業費といわれる。製造原価に 営業費を加えたものが総原価である。総原価に利益を加算したものが販売価 格である。 製造原価要素の分類 • 製造原価要素は,形態別分類,機能別分類,製品との関連で分類される。 • 形態別分類で,製造原価要素は,材料費,労務費,経費に分類される。 製造業では原材料を 購入しこれを加工して原価計算対象たる製品を製造する。素材,買入部品,燃料,工場消耗品 などが材料費となる。労務費は,賃金(現場作業員の給料),給料,雑給,従業員賞与手当,福 利費などである。経費は材料費,労務費以外の製造原価要素で,減価償却費,賃借料,保険料 ,電力料,外注加工賃などである。外注加工賃は,自社で加工すべきものを,工賃の安い関係 会社とか特殊な技術をもつ会社に加工させるのであるから,その性格からすれば労務費の色合 いの強い経費である。 • 機能別分類は,原価が経営上いかなる機能のために発生したかの分類である。形態別分類に おける材料費は,主要材料費,修繕材料費,試験研究材料費など機能別に分類される。 • 原価の発生が一定単位の製品の生成に関して直接的な関係がある原価は直接費,でなければ 間接費という。材料費であれば,直接材料費,間接材料費となる。労務費は直接労務費,間接 労務費,経費は直接経費と間接経費とに分類される。直接費は製品に直接的に賦課される。 • 材料費,労務費,経費を複合して1つの費目にすることがある。動力費,修繕費,運搬費,用水 費,教育訓練費,技術研究費などが典型的な複合費である。動力費を例にとれば,動力費は動 力用燃料費(材料費),ボイラーマンの給料(労務費),動力用機械の減価償却費(経費)などか らなる複合費である。 製品原価計算のステップ • 製品原価の計算では,原則として,原価発生額をまず費目別に計算し,次いで 原価部門別に計算し,最後に製品別に計算する。図を参照されたい。 費目別原価計算 部門別原価計算 製品別原価計算 製品原価計算のステップ • 費目別原価計算は,企業全体としての原価の種類別計算である。原価計算は 原則として材料費,労務費,経費(または直接材料費,直接労務費,直接経費, 製造間接費)の区分に従って計算される。費目別原価計算は財務会計におけ る費用計算であるとともに財務諸表の作成には不可欠の計算手続きである。 • 部門別原価計算は,原価の場所別計算である。部門別原価計算における原価 部門とは,原価を分類集計するための計算組織上の場所区分,ないし責任領 域のことをいう。この責任領域のことを,コスト・センターとか原価中心点という。 原価管理のためには,部門別原価計算が不可欠である。 • 製品別原価計算は,原価の負担者別計算である。原価要素を一定の製品単位 に集計し,単位製品の製造原価を算定する手続きをいい,製品原価計算にお ける第3次の計算段階である。製品別原価計算では,個別原価計算か総合原 価計算のいずれかで計算される。 個別原価計算 • 個別原価計算(job order costing)は,製造指図書別に原価を計算する製品別原 価計算の方法である。一般に,種類を異にする製品,プロジェクト,または非製 造業のソフトウェアやサービス原価の計算に適用される。 • 製造指図書のことは,企業によって製番とか作番,プロジェクト別指図書(ソフト ウェア業)などと呼ばれている。製造指図書にはいろいろな種類がある。 • 個別原価計算で用いられる特定製造指図書とは,個々の生産または作業につ いて個別的に発行される指図書であり,具体的な作業はこの指図書で指定され る。 • この製造指図書をもとに個別原価計算表を作成して直接材料費,直接労務費, 直接経費を集計し,それに製造間接費を加えて製造原価を計算する。 • 日本の企業で個別原価計算を採用しているのは建設(79社),電気機器(53社) ,機械(49社),ソフトウェア業などに多い。日本企業の約1/3 (32%)が個別原価 計算を採用している。 個別原価計算 • 製造間接費はなんらかの基準にもとづいて製品に配賦(allocation)されなければ ならない。配賦とは,間接費をいくつかの製品に割り振ることをいう。配賦基準と しては,直接作業時間,機械時間,直接労務費などが用いられてきた。製造間 接費を伝統的な配賦基準である直接作業時間で配賦する(マンレート法)ケー スを例示しよう。 【設 例】 A社では第1製造部門の製造間接費が1,000,000円であった。当該部門では,X, Y, Z製品を生産し,その生産 にそれぞれ2,000時間, 3,000時間, 5,000時間かかったことが製造指図書から知られた。配賦基準として直接 作業時間が採用されているものとすると,製品別の製造間接費はいくらになるか。 【解 答】 配賦率=製造間接費額/総直接作業時間 製造間接費配賦額=配賦率×指図書(製品)別直接作業時間 配賦率は1,000,000円/(2,000+3,000+5,000)時間=100円/時間と算定される。したがって,製造間接費 配賦額は,それぞれ次のように算定される。 X製品 100円/時間×2,000時間= 200,000円 Y製品 100円/時間×3,000時間=300,000円 Z製品 100円/時間×5,000時間=500,000円 総合原価計算 • 総合原価計算(process costing)とは,一定期間における生産量に対応する総製 造費用を算定し,これを期間生産量で除してその単位原価を計算する原価計算 方法をいう。製鉄,化学品,自動車,家電製品など連続・反復的に生産される製 品に適用される。その計算法は,まず1期間(通常は1か月)を区切ってその期 間の完成品数量を計算し,次にその完成品数量の生産にかかった製造原価を 求め,後者を前者で除して製品の単位原価を計算する。仕掛品,すなわち,期 首・期末において,所定の作業を完了していない中間生産物がない場合の単位 原価は,次式で求められる。 単位原価=完成品製造原価/完成品数量 • 現実には,仕掛品(工程に仕掛かっていて残存している未完成品)が存在する。 その場合には,期首仕掛品原価と当期製造費用の合計額が,完成品と期末仕 掛品とに平均的に転化するとの仮定にもとづく計算法(平均法)のほか,当期に 投入した製造費用の単位原価をもって期末仕掛品原価を計算する先入先出法 で期末仕掛品原価を計算する。 総合原価計算 【設 例】 東京工業株式会社は自動車部品を生産している。平成20年10月の生産と原価資 料は次のとおりであった。以下の資料をもとに期末仕掛品原価を平均法で計算し ,完成品原価を計算してみよう。 【資 料】 期首仕掛品の数量40個,その進捗度(加工度) 40%,その直接材料費500円,加工 費128円。当期の直接材料の投入量210個,その原価は直接材料費2,100円,当 期の加工費1,505円。完成品数量は200個であった。期末仕掛品の数量は50個で ,その進捗度60%であった。 総合原価計算表 • 平均法 原価要素 直接材料費 数量 項目 単価 加工費 金額 数量 単価 合 計 金額 単価 金額 期首仕掛品 40 12.50 500 16 8.00 128 15.70 628 当期投入 210 10.00 2,100 214 7.00 1,505 17.17 3,605 合 250 10.40 2,600 230 7.10 1,633 16.93 4,233 期末仕掛品 50 10.40 520 30 7.10 213 14.66 733 完 成 品 200 10.40 2,080 200 7.10 1,420 17.50 3,500 計
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