地震の揺れを科学する みえてきた強震動の姿

地震の揺れを科学する
みえてきた強震動の姿
~第3章
地盤で変わる地震波~
総合科学専攻3061-6008
遠藤恵
第3章 地盤で変わる地震波
1.地盤と基盤
2.地盤に閉じ込められた
地震波
3.平野を伝わる地震波
4.地盤構造を知る
1.地盤と基盤
複雑な地下の構造
Q.強振動を知るには?
A.地下構造が地震波に及ぼす影響
 「深部地盤」…新第三紀(2500万年~
200万年)に堆積した新しい堆積層
深くなるにつれて、圧密の影響で密度・
地震波の速度が大きくなる
 「表層地盤」…より新しい時代(200万年
~現在)に堆積した「第四紀層」(硬質な
「洪積層」+軟弱な「沖積層」)
複雑な地下の構造
 S派の伝わる速度は、地層が硬いほど速くなる
 軟弱な地盤ほど、強振動は増幅する
 深部地盤と表層地盤では、S波速度に大きな変
化!!
基盤で地震波を考える
Q.強振動の特性を考える
A.地殻・マントル(「伝播経路」特性)と深部・表層地盤(「地盤」特性)での地震
波の変化をわける
→「基盤」という考え方
定義には、S波速度・密度の地下での変化を考慮
・基盤には「地震基盤」、「工学的地盤」、「深部地盤」、「表層地盤」などの区分
・「地震基盤」…S波速度3km/秒程の岩盤
 ①震源での地震波の放射特性(震源特性) ②伝播経路での地震波の減
衰特性(伝播経路特性) ③深部・表層地盤での増幅特性(地盤特性)
→これら3つの影響を個別に考慮し、重ねあわせ、地表で観測される強振動が
得られる!!
地震基盤までの地震波の変化
②伝播経路特性
震源から放射された地震波は、距離の増大とともに振幅が小さくなる
→複数の効果による
a.「幾何減衰」…震源から地震波が広がっていくために振幅が小さくなる効果
b.「距離減衰」…地盤が均整な弾性体でないために振幅が小さくなる効果
(「粘性減衰」+「散乱減衰」) 左下図
しかし、振幅の差の最も大きい原因
は各地点での「地盤特性の差」
伝播経路は広域の震度分布や地振
動の強さに影響
比較的狭い地域を考える場合、「地
盤特性の差」の方が地振動の強さの
空間的分布により大きく影響!!
2.地盤に閉じ込められる地震波
地盤での地震波の増幅現象
③地盤特性
地盤によって地震動は大きく異なる
岩盤
軟
弱
地
盤
岩盤
振幅の大きさ、揺れの継
続時間
地震波の周期成分
・堆積層の薄い地点…短
い周期でゆれる
・堆積層の厚い地点…長
い周期でゆれる
地盤のインピーダンス比とQ値
Q.なぜ、地盤によって地震波は増幅するのか?
A.地盤を構成する地層のS派速度とQ値が関係!!
Ⅰ.震源から発生した地震波は、地層の境界を通過し
ながら地表に向かって伝播
Ⅱ.地層境界面でスネルの法則に応じ、反射・透過
(→波の振幅はインピーダンス比による)
Ⅲ.地表に向かって伝播する波の増幅は、境界面を通
過するごとに大きくなる
 Q値(→距離減衰)
・1周期の間に減じる地震波のエネルギーに反比例する量
・Q値が小さいほど減衰効果は大きく、高周波数の波ほど振幅
が小さくなる
 インピーダンス比
・接しあう2つの地層のS波速度と密度の積
・硬い地層(S波速度大)から軟らかい地層(小)へ透過すると
き、インピーダンス比が大きいほど透過波の振幅は大きくな
る(増幅効果)
 スネルの法則
・一般に光や電波は均質な媒質の中ではまっすぐに伝播する
・均質ではなく、物理的性質が場所によって異なる媒質では、
波は折れ曲がって伝播する→スネルの法則
・2つの媒質の地震波速度の差が大きいほど、曲がる角度は
大きい
3.平野を伝わる地震波
遠くの地震で揺れる高層ビル
1984年(昭和59年)9月14日朝
「長野県西部地震」の例
震央:御嶽山直下
→しかし、200kmも離れた地点(横浜市の建物の
7階)でもゆっくりした揺れ(表面波)を感じた(周期
数秒の地震波が1分以上)
原因:地振動に長周期成分が含まれていたた
め!!
やや長周期地震動
 1970年代中頃までの地振動の周期の考え方
耐震工学:周期1~2秒より短い周期帯
地震学:周期10秒より短い周期帯
→長野県西部地震は両者の間に位置
→よって「やや長周期地震動」
 長い周期の地振動は、高層ビルだけでなく、ほかの大規
模な構造物にも影響を与える
→1980年代以降、研究が進み、高層ビルの耐震設計にも
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平野を伝わる表面波
2節 地震波の増幅メカニズム
→「実体波」(P波・S波)
「表面波」
・震源が浅く、規模が大きいほど、やや長周期表面
波が発生
・地表面に沿って伝播
・実体波よりも伝播速度が遅い
・水平構造の地層では、まっすぐ進み、震央距離の
増加に伴い、振幅も小さくなる
表面波
 伝播経路に岩盤で囲まれた堆積平野があった場合
Ⅰ.平野と山地の境界にぶつかる
Ⅱ.反射・透過表面波を生じる
→平野側へ透過した表面波の振幅は大きくなる(インピーダン
ス比)
Ⅲ.「分散性」
・地震波の周期によって伝播する速度が異なる現象
・長い周期成分ほど伝播速度が大きい
→距離が長くなるほど、長い周期の地震波が先に進み、異な
る周期の地震波の到着時間の差が大きくなる
→地震の揺れの長期化!!
表面波
4.地盤構造を知る
地下を探る物理の目
信頼性のある強振動評価を行うために
→地表から地震基盤までの堆積構造の高精度な
モデルの設定
「物理探査」
・地表での物理的計測から地下の物性を解明す
る技術
・一般:地震波、重力、電気、磁気などの物理計
測
・強振動:地震波(P・S)の速度と密度、地震速度
の分布の計測
自然現象を利用するー微動
 「微動」
・人が感じないくらい微小な揺れ
・波浪・風などの自然現象、車両・工場などの人間の活動など
発生原因はさまざま
・地震観測の際はノイズ=邪魔者扱い…
→強振動評価に活用しよう!!
活用法①微動から地振動の特性を推定
②微動の伝播柱状から地下構造の推定
→地盤モデルの作成
→数値計算によって強振動を評価
微動を物理探査の1つとする