上嶋 誠(Makoto Uyeshima) 固体地球科学研究グループ 地震研究所 地震予知研究センター 火山噴火予知研究センター(併)・准教授 居室:地震研究所1号館403号室 e-mail: [email protected] TEL: 03-5841-5739 携帯: 090-7010-3428 専門:固体地球電磁気学 1.教員からのメッセージ 日本列島周辺域は,東から太平洋プレート,南からフィリピン海プレートが沈み込む場であり, それぞれのプレートからもたらされる水が,内陸での局在した地震活動や地殻変動を励起します. またメルトを生成して火山活動をひきおこすと考えられています.私達は,それらのマントル・ 地殻流体の存在様式を地下構造を調べることによって明らかにし,地震・火山噴火発生のダイナ ミクス解明に寄与すべく研究を重ねています. 地下流体に関連した地下構造を明らかにする手段として,私たちは電磁気学的手法による比抵抗 (電気の流れにくさ)構造探査を実施し,その観測・解析手法の開発を行っています.比抵抗は, 水・メルトの存在やその連結度,温度などに敏感な物理量ですので,地下流体の存在や移動を明ら かにするための最も基本的かつ重要な情報を提供します.一般的に地下構造を調べる最も有力な 手段の一つとして,地震波速度構造探査があげられますが,地震波速度に比べ比抵抗は,特に 間隙高電気伝導度流体の存在や連結度に敏感であり,両者をあわせることで確度の高い地下の 物質・状態構造が推定できるようになります. 最近10年間の研究の積み重ねで,以前には1次元や2次元構造解析が主流であった比抵抗構造研究 分野も3次元構造解析が主流となり,地震波速度構造やGPS観測等による歪速度場との直接的な比較 対照が可能となってきました.従来より,地震学・電磁気学・測地学は,地震・火山噴火発生場の 詳細を明らかにするための三種の神器として,共通ターゲットを置いた総合観測を推し進めてきました が,昨今の3次元化によってますます比抵抗構造研究の重要性が増しつつあります. しかし,現状では,その3次元解析手法にはまだまだ未熟なところがあります.また,最近世界的に, 地震波・電磁波を同時に解析して地震波速度・比抵抗構造,そしてそこから物質・状態構造を求める 手法を開発しようという動向がありますが,そこに到達するために研究すべきことが山積しています. 2.研究のターゲット 1)比抵抗構造解明を目指した日本各地での電磁気観測とその解析 昨年度から始まったプロジェクトによって,東北太平洋沖地震で活発化した東北内陸域や,2016年に大 規模なスロースリップ発生が予測されている四国西部をターゲットとして観測や解析を開始します. 2)比抵抗構造・地震波速度の同時解釈による地殻流体の実態の解明 地下の水やメルトに対して,その量やつながり方の構造を求めようとする試みで,今後,それらの 構造からレオロジー構造を推定する方法を模索したいと考えています. 3)新たな観測手法・比抵抗構造(変化)インヴァージョン手法の開発 これまで,NTT通信回線網を用いた構造探査法(ネットワークMT法)を確立してきました. 従来のMT法を合わせたジョイント3次元インヴァージョン手法の開発,MT法や人工電流源を用いる ACTIVE法を用いた比抵抗変化の検出やその解析手法の開発などをすすめています. 4)主として火山地域(伊豆諸島等)における電磁気モニター観測 現在は霧島,桜島や伊豆大島などで比抵抗構造変化の検出をめざしていますが,1)で述べたように, スロースリップに対応した構造変化検出の可能性も探っていきたいと考えています. 九州地方全域におけるネットワークMT法観測 ・左図に示すように九州全域にわたって,NTTメタル通信線を用いて長基線地電位差観測を主体としたネット ワークMT法観測を実施しました.長基線で観測することにより,深部構造を推定するのに不可欠な数万秒程 度までの良好な長周期データを推定することに成功しました. ・その観測データを3次元的に解釈することにより,右で示すような,九州全域にわたる上部マントルに至る広 域深部構造を推定することができました.3次元構造では,沈み込むフィリピン海プレートからの脱水を示す電 気の流れやすい部分(赤系統の暖色で示す)が解像され,地表の火山活動との関連性も認められました(Hata et al., 2015). ・岩石学的情報や比抵抗室内実験結果をあわせて,地下の温度,水やメルトなど間隙流体のマントルウェッジ における存在量を推定しました(Hata & Uyeshima, 2015)が,今後,さらに地震学,熱学的情報を加味すること で推定精度を上げ,プレート給水系の詳細と地殻活動との関連性をより詳しく明らかにしていきたいと考えて います. 準プリニー噴火 2009年/1月 2010年/1月 2011年/1月 2011年1月に準プリニー式噴火を起こした霧島における電磁気観測 ・全磁力観測からは,噴火前のマグマ蓄積過程における熱消磁(キュリー 点を超えることによって磁化を失う現象)を示唆する全磁力変化がとらえ られました(左). ・2010年から2011年にかけてMT構造探査を実施し,3次元構造解析から, 深部マグマ溜まりとマグマ供給系を示唆する低比抵抗領域(暖色系)が推 定されました(中(平面図),右(断面図),Aizawa et al.,2014).
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