第10章 通信品質と信頼性 10.1 10.2 10.3 通信品質 安定品質 信頼性と保全性 10.3 信頼性と保全性 10.3.1 10.3.2 10.3.3 10.3.4 10.3.5 信頼性・保全性とは 信頼性 保全性 アベイラビリティ システムの安全性と信頼性 10.3.1 信頼性・保全性とは (1) 定義 信頼性(reliability) :故障しにくさ 保全性(maintainability) :修理しやすさ ① 信頼度:信頼性の数値的尺度 システム,機器,部品などが,与えられた条件下で, 所定の期間中に要求された機能を果たす確率。 ② 保全度:保全性の数値的尺度 修理可能なシステム,機器,部品などについて,与えられた条件下で, 要求された期間内に修理を完了する確率。 [修理系と無修理系] ① 修理系 :修理可能なシステム,機器,部品など。 ② 無修理系:故障しても修理しないシステム,機器,部品等(例:人工衛星) (保全性の対象外となる) (2) アベイラビリティ 修理系では,信頼性と保全性は切っても切れない関係にある。 信頼性と保全性両者を総合的に表す尺度 アベイラビリティ(availability)または稼働率 動作可能時間 アベイラビリティ A = 動作可能時間+動作不可能時間 10.3.2 信頼性 (1) 基本式 N0 個の部品を一定の条件化で稼動させたとき,t 時間後に Nf ( t )個が故障し, NR ( t )個が残存していたときの t 時間後の信頼度 R ( t ) N0 N f t N R t N R t Rt N0 N R t N f t N0 [信頼度の意味] 特定の条件下で,特定の動作時間後に,部品や機械が故障を起こさないで, 残存する確率。 時間が長くなれば,残存数は少なくなる。 すなわち,動作時間の経過とともに信頼度は減少する。 動作時間と信頼度の関係 N0 N f (t ) N R (t ) N R (t ) R(t ) N0 N R (t ) N f (t ) N0 時間微分すると dN f (t ) dR(t ) 1 dN f (t ) dR(t ) N0 dt N 0 dt dt dt N 0 dR(t ) 1 dN f (t ) 1 dR(t ) N R (t ) dt N R (t ) dt R(t ) dt 式の左辺は,1部品あたりの各瞬間における故障の発生率である。 これをλ( t )と置いて,瞬間故障率と呼ぶ。 1 dN f (t ) 1 dR(t ) (t ) N R (t ) dt R(t ) dt 信頼度の時間変化 1 dN f (t ) 1 dR(t ) (t ) N R (t ) dt R(t ) dt 両辺を定積分すると,時刻0における信頼度は1であるから t 0 (t )dt ここで, (t ) (t ) R (t ) 1 t 0 dR(t ) R (t ) log R(t ) 1 log R(t ) R(t ) (t )dt と置けば, R(t ) e (t ) t が時間に関して一定であれば (t ) (t )dt t 0 R(t ) e t だから (2) バスタブ曲線 多数の部品や装置を一定条件下で動作させた場合,故障率は動作時間とともに 変化する。これを示した曲線は,形状が風呂桶に似ているので, バスタブ曲線(bath-tub curve)と呼ばれる。 故 障 率 λ λ(t) 時間(t) te 初期故障 期 間 tw 偶発故障 期 間 初期故障期間(early failure) 磨耗故障期間(wear-out failure) 磨耗故障 期 間 偶発故障期間(chance failure) バスタブ曲線は,故障密度や信頼度と 密接に関連しているので,これらの曲線も併せて示す。 故 障 密 度 M :平均寿命 信 頼 度 R(t ) f (t ) te tw M te 時間(t ) R = e tw 時間(t ) (b)信頼度関数 (a)故障密度 信 頼 度 色々な曲線 -λt R(t ) 故 障 率 磨耗故障だけの場合, 故障率は1/Mの値に近づく。 1/M λ(t ) 時間(t ) (c)偶発故障期間の信頼度関数 M 2M 3M 4M 時間(t ) (d)事後保全だけで処置した場合の故障率 部品を取り替える方法 ① 予防保全(preventive maintenance) 磨耗開始時間より前に部品を取り替える ② 事後保全(corrective maintenance) 故障のたびに部品を取り替える。 故障が磨耗故障だけで起きると仮定し, 事後保全だけで部品交換を行うと, 故障率は1/平均寿命に近づくことが知られている。 (前図(d)参照) (3) MTTF,MTBF,MTTR (a)基本的な用語 ① ttf(time to failure):無修理系のとき 動作を開始してから故障を起こすまでの時間。 いったん故障を起こしたら修理しないで破棄するような部品のとき重要。 ② 故障間隔(tbf:time between failure ):修理系のとき 故障を起こしても修理して使うので,修理系のときは故障間隔が重要。 正常動作中か修理時間中かで分けると ① アップタイム(up time) ttf や tbf は,部品や装置が正常動作している時間であるから アップタイムに相当する。 ② ダウンタイム(down time) 修理系において装置が故障してから正常な状態に戻るまでの時間。 修理に要する時間なので,修理時間(ttr:time to repair)ともいう。 (b)MTTF,MTBF,MTTRの意味 これまで出てきた ttf,tbf,ttr の実データの平均をとり, それぞれ大文字略号で示す。 ① MTTF(Mean Time To Failure) 平均故障寿命 ② MTBF(Mean Time Between Failure) 平均故障間隔 ③ MTTR(Mean Time To Repair) 平均修理時間 (c)信頼性計算に必要な指標 ① 故障率とMTBF MTTRとの関係でMTBF≫MTTRであれば,以下のように近似できる. 故障率: 1 MTBF ② 修理率とMTTR 修理率: 1 MTTR ③ 稼働率(Operating RateあるいはAvailability)とMTBF,MTTR 稼働率Aは,MTBF,MTTRから次のように計算することができる. 稼働率: A MTBF MTTR MTBF 10.3.3 保全性 (1)保全の種類 保全 予防保全 時間計画保全 定期保全 経時保全 状態監視保全 事後保全 緊急保全 通常事後保全 (2)用語 ① 保全性 与えられた条件で,規定の手順及び資源を用いて保全が実行されるとき, アイテムが要求される機能を実行できる状態に保持されるか, または修復される能力。 ② 保全度 与えられた使用条件のもとで,アイテムに対する与えられた実働保全作業が, 規定の時間間隔内に終わる確率。 保全作業は,規定の条件下で,規定の要領と資源を用いて行われるものとする。 ③ 保全・保守 アイテムを使用及び運用可能状態に維持し,又は故障,欠点などを 回復するためのすべての処理及び活動。 (3)保全に関わる尺度 ① 修復率(repair rate) 当該時間間隔のはじめに修復が終了していないとき, ある時点での修復完了事象の単位時間あたりの発生率。 瞬間修復率ともいう。 ② 平均修復率(mean repair rate) 与えられた時間間隔 ( t 1 ,t 2)における瞬間修復率の平均値。 平均修復率μ( t 1 ,t 2) は,瞬間修復率μ( t ) と次の関係にある。 t2 1 (t1 , t2 ) (t )dt t t2 t1 1 実際には,次の式で求めることが多い。 平均修復率= 修復を行った回数 それぞれの修復時間の合計 10.3.4 アベイラビリティ (1)アベイラビリティの定義 [JISの定義] 要求された外部資源が用意されたと仮定したとき, アイテムが与えられた条件で,与えられた時点,又は期間中, 要求機能を実行できる状態にある能力。 もっと簡単に!! 可用性,稼働率,可動率等と考えればよい。 (2)アベイラビリティに関わる尺度 ① 瞬間アベイラビリティ(instantaneous availability) 要求された外部資源が供給されたとき,与えられた時点において, アイテムが与えられた条件下で,要求された機能が遂行状態にある確率。 ② 平均アベイラビリティ(mean availability ) 与えられた時間間隔 ( t 1 ,t 2)におけるアベイラビリティの平均値。 平均アベイラビリティA( t 1 ,t 2) は, 瞬間アベイラビリティA ( t ) と 次の関係にある。 t2 1 A (t1 , t2 ) A(t )dt t t2 t1 1 固有アベイラビリティと運用アベイラビリティ ① 固有アベイラビリティ(inherent availability) 次の式で示されるアベイラビリティの尺度。(いわゆる稼動率に相当する) 固有アベイラビリティ= MTBF MTBF+MTTR ② 運用アベイラビリティ( operational availability) 次の式で示されるアベイラビリティの尺度 運用アベイラビリティ= 平均アップ時間(MUT) 平均アップ時間(MUT)+平均ダウン時間(MDT) どちらも,利用可能な時間を全体の時間で除したものであるため 用語に惑わされないようにしよう!!。 (3)計算方法(稼動率を例にとる) (a) 直列系システム 直列系の場合,1台が故障するだけで全体が障害を起こしてしまうので, 全体としての稼働率Aは以下の式で与えることができる. 直列系の稼働率:A = A1×A2×・・・×An 稼働率 稼働率 A1 A2 稼働率 An (b)並列系システム 並列系の場合,いずれかひとつが正常動作すればよい.すべて故障する確率は , (1-A1)×(1-A2)×・・・×(1-An) であるから,全体としての稼働率Aは以下の式で与えることができる. 並列系の稼働率:A =1-(1-A1)×(1-A2)×・・・×(1-An) 稼働率 A1 稼働率 A2 ・ ・ ・ 稼働率 An (c)2 out of 3 系システム 以下のように 3 台の機器を並列に連結し,少なくとも 2 台が正常であれば よいシステムを 2 out of 3 系と呼ぶ 稼働率 A1 稼働率 A1 稼働率 A1 個々の稼働率が A1 であれば,3 台共に正常な確率は A13であり, いずれか 1 台が故障し他の 2 台が正常な確率は 3A12(1- A1) であるから, 全体としての稼働率 A は以下の式で与えることができる. 2 out of 3 系の稼働率:A = A13+3A12(1-A1) = 3A12-2 A13 2 out of 3 系システム(もうひとつの計算方法) あるいは, ① 3 台とも故障する確率は(1-A1)3 ② 2 台だけが故障する確率は3C1A1 (1-A1)2 であるから,以下のようにして計算することもできる. 2 out of 3系の稼働率:A = 1-{(1-A1)3+3C1A1 (1-A1)2} =1-{(1-A1)3+3A1 (1-A1)2} = 1-(1-A1)2(1-A1+3A1) = 1-(1-A1)2(1+2A1) = 3A12-2 A13 稼働率 A1 稼働率 A1 稼働率 A1 (d)組合せ(その1) 直列系の機器を並列に連結する場合,最初直列部分の稼働率を計算し, それぞれの稼働率から全体の稼働率を求める. 直列系1の稼働率:A 1 = A 11×A 12 直列系2の稼働率:A 2 = A 21×A 22 全体の稼働率:A =1-(1-A 1)×(1-A 2)=A =1-(1-A 11×A 12)×(1-A 21×A 22) [直列の機器を並列に連結] 直列系1 稼働率 A1 稼働率 A11 稼働率 A12 直列系2 稼働率 A2 稼働率 稼働率 A21 A22 (e)組合せ(その2) 並列系の機器を直列に連結する場合,最初並列部分の稼働率を計算し, それぞれの稼働率から全体の稼働率を求める. 並列系1の稼働率:A 1 = 1-(1-A 11)×(1-A 12) 並列系2の稼働率:A 2 = 1-(1-A 21)×(1-A 22) 全体の稼働率:A ={ 1-(1-A 11)×(1-A 12) }{1-(1-A 21)×(1-A 22)} [並列の機器を直列に連結] 並列系1 稼働率 A1 並列系2 稼働率 A2 稼働率 稼働率 A11 A21 稼働率 稼働率 A12 A22 10.3.5 システムの安全性と信頼性 (1) 用いる指標 システムの安全性,信頼性を論じるときの指標としては, 以下に示すようなRASまたはRASISが用いられる。 R A S I S R A S Reliability : 信頼性 一般にMTBFを用いる Availability : 可用性 一般に稼動率を用いる Serviceability : 保守性 Integrity : 統合性 Security : 安全性 MTTRあるいは保全性を用いる (2) 統合性(Integrity) システムのネットワーク化が常識化されるようになって, データ,ハードウェア,ソフトウェアの相互利用が進んできた。 以下の点にどれだけ配慮しているかが重要となってきた。 ① リソースの相互利用 ② 運用管理 ③ 接続技術の統一性・統合化 (3) 安全性(Security) システムに対して,どれだけ安全対策がとられているかが, 信頼性の基準になってきている。 ① 地震,火災,漏水からの保護 ② 機密防止,プライバシー保護 ③ ハッカー等によるシステム侵入への対処
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