高齢者に多い皮膚疾患の治療 とスキンケア 久留米大学医学部皮膚科 安元 慎一郎 お肌(皮膚)の老化 • しみ、そばかす • しわ • かさかさ →お肌の色の変調 →お肌の「張り」の低下 →お肌の乾燥 • 加齢によるできもの →皮膚腫瘍(良性、悪性) • 白髪 • 脱毛、粗毛 →毛髪の色の変調 →男性型脱毛症 お肌の老化を促進する敵 • 自然老化→加齢に伴ってだれでも (若干の個人差あり) • 紫外線→光による老化の促進。 • 食事、嗜好品(煙草など)の影響→生活習慣の影響 • 全身あるいは皮膚の病気、間違ったスキンケアなど →糖尿病、腎疾患、肝疾患、アトピー性皮膚炎、ナイロ ンタオルでこすりすぎる、etc お肌の若さを保つ: その最大の敵は 紫外線(日光)! 皮膚のバリア機能について ①皮膚表面に分泌される皮脂と汗が混ざり合いクリーム状になることで皮脂 膜を形成し皮膚を保護している. ②角層にセラミドと呼ばれる脂質を含む数種の脂質が水分を保持することで 皮膚の乾燥を防いで いる.特にこのセラミドは,非常に強い水分保持能力 を有しており,脂質代謝が低下した高齢者ではセラミドが減少することで皮 膚の乾燥症状を来す. 老人性乾皮症 • 皮膚が薄くなっており、皮膚からの水分蒸散 は少ないが、水分保持能力が大きく低下して 乾燥状態になる。 • 皮膚の乾燥から痒みがでやすい(皮膚瘙痒 症)。 • 炎症(湿疹)がなければ、保湿薬外用中心の 治療を行う。 • 炎症(湿疹)があれば、弱いステロイド薬の外 用と抗ヒスタミン薬の内服を加える。 エモリエントとモイスチャライザー • エモリエント:角層の表面を覆い、水分の蒸散 を防ぐ。ワセリン、ザーネ軟膏など。 • モイスチャライザー:水分の蒸散を防ぐととも に、その内容物が水分を保持する。尿素軟膏、 ヘパリン類似物質含有軟膏など。 外用薬の塗り方 成人の部位による軟膏使用量の目安 Finger-tip unit 外用量の目安として,成人の人差し指の第一関節 に軟膏を乗せた量をfinger-tip unit(FTU)という単位 とし,その量を手のひら2つ分の範囲に外用するのが 適切な外用量とされている. (1 FTUで軟膏約0.5gに相当) お肌(外観)の若さを保つスキンケア • • • • スキンケアは毎日継続するのが理想的。 外に出るときはサンスクリーンなど紫外線防御を。 乾燥に対しては保湿成分を含む外用薬、化粧品を。 ウイッグ(かつら)や付け爪なども利用価値有り。 たとえば張りのある皮膚を目指して? • 皮膚に塗ったコラーゲンやヒアルロン酸の成分は吸 収されない。 • コラーゲンやヒアルロン酸を健康食品などで摂取して も、お肌に利用されるのはごく一部。 • 適切な手技で表皮を刺激して、皮膚(真皮)でのコ ラーゲン産生を刺激できる。 お肌の若さを保つためのヒント • 自分の肌についてよく知りましょう。 • 無駄な紫外線は避けましょう。 • 乾燥や痒みがあるときには正しいお薬(あるいは化粧 品)を正しく塗りましょう。 • 健康食品などはその効果をしっかり把握して、体にあっ たものを目的を持って使いましょう。 • 美容的な治療法もその効果をしっかり把握して、お肌に あったものを目的を持って行いましょう。 • お肌に悪影響を与える誤った生活習慣は改めましょう。 高齢者で注意を要する皮膚疾患 • 老人性乾皮症、皮膚瘙痒症 • 皮膚腫瘍 (老人性角化症、脂漏性角化症など) • 水疱性類天疱瘡 • 疥癬 • 白癬 • 褥瘡 • その他(湿疹、薬疹、etc.) 真菌(カビ) • • • • • • • 湿潤環境に発生し、寄生する。 住環境では食物、台所、風呂場などによく発生する。 野外環境では森林、湿地、土壌中などに常在。。 食用品(きのこ、酵母)として活用されるものもある。 感染症を起こすものは少ないが存在する。 人体、動物に寄生するものは常在し、あるいは病気を起こす。 住環境に発生したものはアレルギーの原因となることがある。 白 癬 • 白癬菌による皮膚の感染症 • 感染の部位によって病名をつける。(足白癬など) • 水虫、あなまたぐされ、タムシ、インキンタムシなどと呼ばれ る。 • 白癬菌は皮膚のケラチンを分解する。 • ヒトからヒトに伝播。感染力は弱い。 • ペットから感染するものもある。 • 胞子の状態で住環境に長く存在。 • 内部臓器には病気を起こさない。 • 毛髪、ひげ、爪などに入り込むことがある。 • 抗真菌剤の外用、内服で治療。 白癬の治療 • 外用抗真菌薬 クリーム、軟膏、液の製剤がある。 一日1回塗布が最近の基本。 爪病変には効きにくい。 • 内服抗真菌薬 爪白癬、角化型足白癬、深在性真菌症などに。 テルビナフィンとイトラコナゾールが主流。 連続内服と間歇内服(パルス療法)。 肝機能の障害に注意が必要。 薬物相互作用により併用禁忌、注意の薬剤がある。 白癬の伝播 • 床あるいは温泉やお風呂のマットなどから白 癬菌は足底に付着する。 • 健常人では入浴や清拭操作で次の日には消 失する。 • 繰り返し白癬菌が付着する環境下にあって、 皮膚の荒れた状態が存在するなどの条件下 では、白癬菌が角質に定着することがある。 • 白癬菌の代謝産物、菌体成分に対する免疫 反応(感作成立)が起こると、痒みなどの症状 が出現する。 白癬の伝播予防 • 抗真菌薬の使用でほとんどの場合治癒(菌を消 失)させることができる。 • 家庭内、施設内に白癬菌保有者が居ると再び付 着、定着しやすい。 • 湿潤環境では白癬菌が生き延びて、環境から再 感染する可能性がある。 • 同居、共同生活者みんなで治療をしましょう。 • 環境の整備をしましょう(清掃、足拭きマットやス リッパの交換など)。 類天疱瘡とは • 水疱性類天疱瘡は表皮基底膜部抗原(ヘミデス モソーム構成蛋白であるBP230とBP180)に対す る自己抗体(IgG)の関与により、表皮下水疱を 生じる自己免疫性水疱症。 • 皮膚に多発するそう痒性紅斑と緊満性水疱を特 徴とする。 • 年齢的には60-90歳の高齢者に多く、まれに小児 例もある。性差はない。 • 水疱やびらんが多発すれば血清成分の漏出、2次 的細菌感染の合併などが危惧される。 類天疱瘡の治療 • 自己抗体の産生抑制、自己抗体による皮膚での炎 症反応の抑制を目的に、テトラサイクリン・ニコ チン酸アミド併用療法、副腎ステロイド薬全身投 与、免疫抑制薬全身投与、血漿交換療法などを重 症度に酔って選択する。 • 局所療法:皮疹部にはベリーストロング、ストロ ングクラスのステロイド外用薬の外用を行う。限 局性の軽症例ではステロイド軟膏の外用のみで治 療効果の期待できる症例も存在する。その他、抗 生物質含有軟膏(ゲンタシン軟膏®など)、エキ ザルベ®、亜鉛華単軟膏の貼付も用いられる。 水疱性類天疱瘡の治療のアルゴリズム 軽症 ステロイド外用 マクロライド 中等症 ステロイド 0.4-0.6mg/kg/ 日 他のステロイドに変更 難治例 ステロイド 0.6-1.0mg/kg/ 日 他のステロイドに変更 ステロイド外用併用 Tc/NA* ステロイド外用併用 DDS 併用100-150mg 併用 Tc/NA* 併用 血漿交換療法併用 ステロイドパルス併用 Tc/NA* 併用 アザチオプリン併用 50-100mg シクロフォスファミド併用 50mg メトトレキセート 7.5mg/week シクロスポリン併用 3mg/kg/ 日 ミコフェノール酸モフェチル併用 IVIG併用 *Tc/NA: テロラサイクリン 750 -1500mg+ ニコチン酸アミド 600-1500mg ミノサイクリン 100mg -200mg+ ニコチン酸アミド 600 -1500mg リツキシマブ (抗CD20 抗体)併用 インターフェロンガンマ併用 類天疱瘡: 在宅、施設でのスキンケア • 寛解状態か軽症での管理が本来の姿。 • 自己抗体の存在があり、いつでも再燃する可能性があ る。 • 紅斑、水疱がみられない場合は保湿薬などで管理。 • 紅斑がみられるときにはステロイド外用薬。 • 水疱やびらんがあるときには熱傷に準じたスキンケア (抗生物質軟膏、エキザルベなど) • 入浴は特に問題ない。浸出液のついた衣服やリネンは 個別に洗濯、乾燥させる。 • 水疱の新生が続く場合には、医療機関にコンサルトを。 疥癬とは • • • • • • • • • 疥癬虫(ヒゼンダ二)が皮膚に寄生することによる皮膚疾患。 虫さされの一種だが、hit & runではない。主に接触で伝播。 瘙痒(かゆみ)の強い、湿疹様の病変が主症状。 疥癬トンネル、疥癬結節が特徴的症状。 通常型と角化型に区分する。 疥癬後瘙痒症(postscabic pururitis)が問題になることがある。 臨床症状と疥癬虫の検出で診断する。 イベルメクチン、オイラックスなどで治療。 院内(施設内)感染の予防。 疥癬の治療 • • • • 安息香酸ベンジルローション イオウ製剤 オイラックス軟膏 イベルメクチンの内服 • 院内感染の対策 イベルメクチン • 最近保険適応となった内服治療薬。 • 糞線虫症治療薬として元々あった。 • 体重1Kgあたり、約200μgを2週間間隔で2 回経口投与する。 • 体重25〜35Kgで2錠、体重36〜50Kgで3 錠。 • 肝機能障害に注意。 院内(施設)内感染対策−1 • 原則的に個室管理(通常疥癬の場合は必ずしも必要では ないが、角化型疥癬の場合は必須)。 • 接触感染予防マニュアル(MRSA)に準じる 患者接触時は手袋の着用は必須 • 手袋着用前に露出した皮膚にクリームやローションを塗 ることで感染予防になる。 院内(施設)内感染対策−2 • 入室時の長袖エプロンは、患者と濃厚接触する場合や、部屋掃除す る場合には必要であるが、それ以外は必ずしも必要ではない。(角 化型疥癬の場合は入室時からガウン着用する) • 手洗い励行 患者の処置後は可能な限り早く流水と石鹸でよく手を 洗う(退室前が理想的)面会者にも指導が必要。手洗い後は、クリ ームやローションをつけておくと感染予防になる。 院内(施設)内感染対策−3 • リネン取扱い注意 肌着、シーツ、寝衣は毎日交換する。 交換時は落屑が飛散しないようにする。 • リネン類は50℃、10分熱処理してから洗濯が基本。 • 業者に出せるものは、汚染リネン(袋に疥癬と明記する )として業者に出す。家族が持ち帰るものは、密封し持 ち帰り熱湯処理した後に洗濯するよう指導する。 院内(施設)内感染対策−4 • 清掃注意 部屋の掃除は、看護部貸し出しの専用クリーナーを使 用し丁寧に掃除する(毎日)。掃除に使用したモップや雑巾は熱 処理して乾燥させる。ゴミ袋は直ちに密封し焼却。一番大事なの は、落屑を舞い上げないことである。リネン類を絶対パタパタし ないこと!! • 入浴 可能な限り最後に入浴する。浴槽は浴水を抜き、通常の風 呂掃除を行う。脱衣所に落屑がひどい場合は、専用クリーナー、 雑巾を使用し清掃する(要熱処理)。掃除に使用したモップや雑 巾は熱処理して乾燥させる。 院内(施設)内感染対策−5 • 器具取り扱い 食器などは通常扱い。血圧計、聴診器などは患者専 用とする(使用後、消毒用エタノールで消毒できるものは消毒する) 。 • 隔離解除 個室管理は、治療が開始されれば1―2週間で十分である 。角化型疥癬患者の退院後の病室床は、殺虫剤で処理し、一時間後ク リーナーで掃除する。カーテンは交換する。交換したカーテンはピレ スロイド系殺虫剤を噴霧後密封し、1時間後に洗濯部に提出する。可 能であれば病室は、一日間使用禁止(残留薬剤、残留疥癬虫の可能性 を考えて)。 院内(施設)内感染対策−6 • 接触者対策 疥癬と診断されたスタッフの対応 ○通常勤務で問題ない ○患者処置などをする場合は、手袋を着用する。 ○基本的に長袖エプロン(ビニール)衣を着用する必 要はないが、患者と密接に接する場合は着用する。 ○しっかりと治療する。
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