7 終わりに 2006年度「企業論」 川端 望 1 7-1 取引費用経済学と日本企業のシステム 2 TCEの描く組織の必要性 独立した個人が取引によって結びつく ↓ 関係特殊的技能の存在(テクニカルな意味の技能) ↓ 関係特殊的投資の必要性 ↓ 市場利用コスト大 ↓ 組織的解決を選択して高いパフォーマンスを追求 そのまま日本企業論に適用したため、現実と合わない 3 講義で明らかにした日本企業組織の存立の 論理 人格的関係による諸個人の結合と、権利・義務の曖昧さ ↓ 長期継続取引を求められる構造的制約の中で、技能とコミッ トメントに投資 ↓ 技能とコミットメントが関係特殊的なものとみなされる ↓ 市場利用の可能性小 ↓ 組織的に解決するしかないので、その範囲で工夫し高いパ フォーマンスを追求 4 TCEの経済観 TCEは行為の合理性と制度の効率性という 観点からしか制度を見ない(竹田[2001]) 個人の独立性と対等性、個々の取引の独立性が 仮定される それに関わる、当該社会の固有性は捨象される 制度を存続させるのは取引費用節約の論理である テクニカルな存在としての関係特殊的技能が制度 の存続理由の一つである 個人が技能を、それにふさわしい制度の中で高め るほど、その発揮主体に帰属する利益は大きい 5 この講義の経済観 当該社会に特有の編成原理やそれに基づく制度は 強固であり、市場経済・資本主義の経済的要請と相 互作用する 市場経済と資本主義の経済的要請が、これに作用する (当事者の対等性、契約の必要性、円滑な交換、企業 利潤確保) 制度と経済的要請は親和的で、制度が保持されたまま 取引が高いパフォーマンスを示すこともある 制度と経済的要請が矛盾するために経済的要請が制 度を掘り崩すこともある 関係的技能と見えるものは、テクニカルな性質だけで はなく当該社会の制度の中で評価されるから技能とな る 技能もその成果も発揮主体に帰属するとは限らない 6 日本の企業システムにおける長期的な人格 的関係の存在(1) 企業は働き手と人格的関係を結ぶ 個人でも法人であっても同じ 財・サービスと対価を交換する背後に、人格と人格を包摂 する共同関係がある(=「ウチの会社」) 企業の存続・発展それ自体が価値あるものとされる 企業は働き手の能力を使い、働き手の経済的存続を支え る 長期的関係の原理 企業は働き手の供給する財・サービスだけでなく、働き手 自体を、企業発展に貢献するかどうかで評価する 7 日本の企業システムにおける長期的な人格 的関係の存在(2) 個々の取引について権利・義務は曖昧化する 長期的関係であることが前提なので、個々の取引につい ては対等な交換にならなくてもよいとされる 市場経済・資本主義の経済的要請と親和的なことも 矛盾することもある 短期的取引・契約の明示化・個人の独立性など、基本的 形式と矛盾する 短期的取引・契約の明示化・個人の独立性などが必要と される場合も矛盾する 長期継続取引が必要になるような場合、日本の人格的関 係がむしろ親和的なこともある 8 企業にとっての「ウチ」の範囲 長期雇用の従業員は「ウチ」である 女性従業員は「ウチ」であるが、「ウチ」の規範によ りグレードの低い短期的な関係の対象とされてきた 非正規従業員はよりドライで短期的な関係の 対象 有力サプライヤーは「ウチ」ではないがある程 度類似の性格も持つ メインバンク、株主は「ウチ」ではない 9 「ウチ」においては長期継続取引を求められ る 長期継続取引が成り立つことを前提に、技能 とコミットメントに投資 雇用システム(内部昇進制)やサプライヤー・シス テムの中で評価される 取引相手をスイッチするコストは大きくなる 長期継続取引の中で技能とコミットメントが 「関係特殊的」なものと認められる 長期継続取引の中にない技能については評価が しにくくなるか低くなる(市場利用可能性の縮小)。 10 長期継続取引と企業成長 TCEは、長期継続取引のパフォーマンスがよ いがために企業が成長すると考える この講義では、企業がある程度成長できるよ うな環境が与えられていたために、長期継続 取引のパフォーマンスがよかったと考える 11 日本の企業システムの変化 企業と産業の流動化 雇用の流動化 男女共同参画 系列解体 直接金融の台頭 持ち合い崩れ 地縁・血縁規範の弱体化 →その行方は? 12 変化の動力 変化の主な動力:現在の市場経済・資本主義の要 請に日本の企業システムが適合しない部分が拡大 している 破壊的イノベーションの必要性 技術変化への対応 中進国・途上国のキャッチアップに対応 高齢化などの傾向的変化に対応 取引関係のグローバル化 変化の副次的動力:国際的要請 取引の透明性強化 一部、特定国の基準の強要も含むが 男女共同参画 企業システムで報われなかった女性たちの運動も背景に 13 変化の主要な内容と程度は? 構造改革? イノベーション? 再チャレンジ? セーフティネット? 「ウチ」の範囲を縮小した日本的経営? 男女共同参画? 格差固定化? 14 7-2 期末試験について 15 試験と単位認定について 小テスト30点、期末試験70点。計100点満点で60 点以上が合格 実施要領は掲示物も参照 『学生便覧』の「専門教育科目の履修上の注意」の 試験関連事項をよく読むこと 追試験は、試験終了後3日以内に教務係に願い出る 試験結果はWeb入力するので2月半ば以後、各自 確認可能になる 試験結果に疑義がある場合は、教員に申し出ること ができる ただし、結果への疑義と関係ない頼み込みは受け付けない 16 試験の方法 出題の少なくとも一部は選択、穴埋めである。記述 式も出すかどうかは非公開。 出題範囲は、授業内容すべてとする TCEやテキストに沿った説明を求める場合と、講義での教 員の見解に沿った説明を求める場合とは、区別が明らかな ように出題する テキスト(宮本光晴『企業システムの経済学』新世社、 2004年)のみ持ち込み可。 実物のみ可。コピーは不可 書き込みは自由。表紙の裏側の使用も可 紙、付箋、しおり等の挿入・添付は不可 17 何に注意して勉強するか テキスト、スライド資料、ノートの理解 スライドを極度に詳しくつくっているので、スライドに特に注 意を払う わからないところは参考文献も読む キーワードを定義できるように練習する 経済辞書は『有斐閣経済辞典第4版』、『岩波現代経済学辞 典』を推奨するが、辞書が正しいとは限らないので注意 テキストにもスライド資料にも書いていない、教員の スピーチ内容をよく再現する ノートを取っている者は強い 18 どのような筋道で理解するか TCEの主張をきちんと理解する TCEの理論 TCEによる日本の企業システムの説明 この講義の主張をきちんと理解する TCEによる日本の企業システム理解はどこまで有効で、ど こがおかしいか TCEによらないのであれば、日本の企業システムをどう理 解すべきか 注意。テキスト批判とTCE批判はイコールではない 第2章の講義では、TCEを正確に理解するために、テキスト の不備を批判しているところが多い 第3章以後の講義では、テキスト批判=TCE批判であること が多い 19 主な参考文献 竹田茂夫[2001]「J企業論の失敗」(上井喜 彦・野村正實編著『日本企業 理論と現実』ミ ネルヴァ書房)。 20
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