ラージ・エディ・シミュレーションによる 局地的風況予

2001年3月28日 京都大学 防災研究所
LESを用いた局地的風況予測モデルの開発
○内田 孝紀,大屋 裕二
(九州大学 応用力学研究所)
本研究の背景(1)
日本の地勢を概観すると,欧米とは著しく異なり,
多様性に富む複雑地形がほとんどである.
日本国内において,
1)風力発電の適地選定(風力エネルギーの利用)
2)立地後の日々の発電予測
(強い風⇒風車稼動,弱い風⇒風車停止)
などを考えた場合,地形起伏の影響を受けた
風況特性を把握することが極めて重要となる.
本研究の背景(2)
欧米で汎用的に使用されている線形数値モデル
(Jackson-Huntモデル,Mass-Consistentモデルなど)
国内の局所風況予測に適用した場合,
⇒その予測精度は著しく低下する.
(原因)
流れの剥離を伴わない比較的なだらかな地形を
対象にしているから.
本研究の背景(3)
日本の地勢に適した,すなわち,急峻な地形起伏に
起因して生じる剥離流や,あるいはその周辺の風況
変化を高精度に予測できる局地的風況予測モデル
の確立が強く期待されている.
このような社会的,工学的要請があるにも関わらず,
十分な予測精度を有する数値モデルは未だ確立され
ておらず,各方面で精力的な研究が行われている.
本研究の目的
差分法(FDM:Finite-Difference Method)を用いて,
数百m~数十km程度の空間スケールを対象にした
局地的風況予測モデルの開発を行う.
RIAM-COMPACT
◎局所的な風の増速域の推定
◎増速率の把握
◎強風発生のメカニズム解明
Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu University,
Computational Prediction of Airflow over Complex Terrain
RIAM-COMPACTの特徴(1)
~2種類の計算格子を適宜選択可能
直交座標系
一般曲線座標系
+
+
CPU時間はほぼ同じ
スタガード格子
コロケート格子
RIAM-COMPACTの特徴(2)
~LESにより非定常乱流場の計算
粗視化
(coarse
graining)
グリッドスケール(GS)⇒直接解く
乱流場
大小様々な
渦の流れ
サブグリッドスケール(SGS)
⇒モデル化する
RIAM-COMPACTの特徴(2)
~LESの支配方程式
 ij  i 3
 ui
 ui
p
1  2 ui
 uj




t
x j
xi Re x jx j x j Fr 2
ui
0
xi
h j


1
2 
 uj


w
t
x j Re Pr x jx j x j
dθB/dz=1
ブシネスク近似
スマゴリンスキーモデル
b g
2
SGS  Csfs S
d i
S  2SijSij
1/ 2
hj  
SGS  
PrSGS x j
e
j
fs  1  exp  z / 25
d i
u I
1F
u
 G 
J
2H
x
x K
  hxhyhz
Sij
1/ 3
i
j
j
i
RIAM-COMPACTの特徴(3)
~ネスティング手法の導入
広域(Grid 1)から注目する局所域(Grid 2)まで
多段階で効率良く計算することが可能
Grid 1
Grid 2
Flow
one way nesting
RIAM-COMPACTの数値計算法
CodeⅠ
CodeⅡ
Coordinate system
Orthogonal coordinate
Generalized curvilinear
coordinate
Variable arrangement
Staggered arrangement
Collocated arrangement
Discretization method
Finite-difference method (FDM)
Coupling algorithm
Fractional step method
Time advancement method
Euler explicit method
Poisson equation for pressure
Successive over relaxation (SOR) method
Convective terms
3rd-order upwind scheme based on an interpolation method
(α=0.5)
Other spatial derivative terms
2nd-order central scheme
SGS model
Smagorinsky model + Wall damping function
RIAM-COMPACTの計算精度の検証
~壁面せん断乱流場
壁面せん断乱流場のLESを行い,
DNSデータベースとの比較を行う.
◎レイノルズ数:Reτ(=uτδ/ν)=180
◎計算領域:2πδ(x)×πδ(y)×δ(z) 但し,zが鉛直方向を示す
◎格子点数:129(x)×129(y)×65(z)点
◎速度の境界条件:
主流方向(x)と主流直交方向(y)は周期境界条件,
上部境界は滑り条件,地表面は粘着条件 z
◎スマゴリンスキー定数:CS=0.1
◎無次元時間刻み:Δt=1×10-4
δ
x
2πδ
壁面せん断乱流場の流れの可視化
(瞬間場,Rear view,Reτ=180)
スタガード格子
コロケート格子
δ
z
y
πδ
流れはこちらへ
壁面せん断乱流場の乱流統計量
3
20
Staggered grid
Col located grid
DNS (Kawamura)
urms
15
2
10
Staggered gri d
Col located grid
DNS (Kawamura)
5
0
1
10
100
平均速度分布
vrms
1
w
rms
0
0
10
20
30
40
50
60
70
乱流強度分布
80
RIAM-COMPACTの計算精度の検証
~孤立地形周りの安定成層流
一様近寄り流速に対する流れの増速率とその発生
場所を精度良く予測できるかどうかに注目する.
◎レイノルズ数:Re(=Uh/ν)=3000
◎フルード数:Fr(=U/Nh)=∞(中立成層流),1,0.5,0.1(安定成層流)
◎格子点数:221(x)×121(y)×81(z)点,Δzmin=2×10-3h
◎地形の断面形状:z(x, y)=cos2(π(x2 + y2) 1/2 /2L) 但し,L=2.5
◎速度の境界条件:
流入境界は一様流入条件,側面と上部境界は滑り条件,
流出境界は対流型流出条件,地表面は粘着条件
◎モデル定数:CS=0.1, PrSGS=0.5
孤立地形の周辺風況場,コロケート格子
(瞬間場,Re=3000,Fr=∞,1,0.5,0.1)
Fr=∞
(中立成層流)
Fr=1
(安定成層流)
Fr=0.5
(安定成層流)
Fr=0.1
(安定成層流)
流線
主流方向の速度成分
実地形上の風況場予測(中立成層流)
~九州大学新キャンパス移転地周辺
志
賀
島
糸島半島
能
古
島
海の中道
九州大学
箱崎地区
博多湾
福岡市
九州大学
六本松地区
福岡平野
九州大学
筑紫地区
広域地形の風況シミュレーション
~移転地に対する火山と可也山の影響
移転地
計算パラメータの設定,コロケート格子
◎実地形の形状:国土地理院の数値地図データ (50mメッシュ)
◎格子点数:196(x)×157(y)×81(z)点
水平方向は等間隔(Δx=Δy=50m,すなわち, Δx=Δy=0.14h)
鉛直方向は不等間隔(Δz=1.78~178m ,すなわち, Δz=5×10-3h~0.5h)
◎レイノルズ数:Re(=U∞h/ν)=2.5×104
可也山(365m)を高さhとし,流入境界面での高さhにおける風速U∞に基づく
◎速度の境界条件:
U∞=5 (m/s)とすると
流入境界は一様流,側面と上部境界は滑り条件, Δt=0.073 (sec)
流出境界は対流型流出条件,地表面は粘着条件 T=100h/U では
∞
Time =7300 (sec)
◎無次元時間刻み:Δt=1×10-3
≒ 2 (hour)
◎スマゴリンスキー定数:CS=0.1
計算結果と考察(1)
~時間平均流(水平断面)
z*=60m
z*=100m
キャンパス移転地に対して,可也山に起因した
乱れの影響はほとんどない.
計算結果と考察(2)
~乱流統計量の鉛直分布
地表面からの高さ z* (m)
600
600
P
Q
R
S
500
500
400
300
P
Q
R
S
400
速度欠損
⇒火山後流の影響
300
乱れの極大値
200
200
100
増100
速
0
-0.2 0
0.2 0.4 0.6 0.8
1
1.2
平均速度(<u>/U∞)
0
0
0.05
0.1
0.15
乱れ強さ(σu)
火山
の頂部
0.2
ネストグリッドを用いた風況シミュレーション
~キャンパス移転地の高解像度計算
(水平分解能50m)
(水平分解能25m)
移転地
計算結果と考察(1),Grid 2
~移転地周辺の時間平均流(水平断面)
石ヶ岳
z*=20m
石ヶ岳
z*=60m
火山と可也山の谷部下流域にあたる石ヶ岳
山頂付近において,一様流入速度に対して
約20パーセントの増速が確認される.
計算結果と考察(2)
~平均速度の鉛直分布
地表面からの高さ z* (m)
600
600
P
Q
R
S
500
P
R
400
400
300
300
200
200
100
100
0
-0.2 0
Q
500
0.2 0.4 0.6 0.8
1
1.2
Grid 1(50m分解能)
S
0
-0.2
0
0.2 0.4 0.6 0.8
1
1.2
Grid 2(25m分解能)
計算結果と考察(3)
~乱れ強さの鉛直分布
地表面からの高さ z* (m)
600
600
P
Q
R
S
500
500
S
400
400
300
300
200
200
100
100
0
P
Q
R
0
0
0.05
0.1
0.15
0.2
Grid 1(50m分解能)
0
0.05
0.1
0.15
0.2
Grid 2(25m分解能)
計算結果と考察(4)
~キャンパス移転地周辺の風況特性
乱れ大
⇒火山の
後流域
西の風
乱れ小
⇒火山と
可也山
の谷部
1)Bird’s-eye view
2)Top view
石ヶ岳山頂付近:
一様流入速度に対して
約20パーセントの増速
風洞実験による計算結果の検証
◎1/5000の地形模型を大型風洞内(幅3.6m×高さ2.0m×長さ15m)に設置
◎地形への流入風 : 一様流(計算と同じ状況を再現,325mm持ち上げる)
◎可也山(365m)を基準高さとしたレイノルズ数 : Re=1.6×104
◎ I 型熱線風速計による気流特性の計測(風の増速域や増速率など)
◎スモークワイヤー法による流れの可視化
一様流
3m/s
移転地
4500
地形模型
(単位:mm)
地球大気動態シミュレーション装置
(大型境界層風洞)
測定胴
全体図
単回路回流式
風速:0.5~30[m/s]
測定胴:3.6[m]幅
×2.0[m]高
×15[m]長
風洞実験の様子
測定胴内に設置した
1/5000の地形模型*
キャンパス移転地周辺
*地形模型は九州大学
新キャンパス推進室所有
数値計算と風洞実験の比較
~平均速度の鉛直分布
600
地表面からの高さ z* (m)
600
P
Q
R
500
P
Q
R
S
500
S
400
400
速度欠損
速度欠損
300
300
有意な差異
200
200
100
100
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
風洞実験
1
1.2
0
-0.2 0
0.2 0.4 0.6 0.8
数値計算
1
1.2
スモークワイヤー法による流れの可視化
Flow
火山の頂部を過ぎる流れ
火山と可也山の谷部を過ぎる流れ
まとめ
数百m~数十km程度の小規模から中規模な空間
スケールを対象にした局地的風況予測モデル
(RIAM-COMPACT)の特徴を示し,計算コードの検証
を行った.
次に,九州大学新キャンパス移転地周辺の風況場
予測を行った.また平行して風洞実験を行い,計算
コードの有効性および計算結果の妥当性を検証した.
今後の課題
1)地面境界条件の精緻化
2)実際の流入気流が有する速度勾配と乱れ効果の再現
3)大気成層乱流に適したSGSモデルの改良
4)RIAM-COMPACTにおける境界条件を適切に設定する
ための,広域スケールを対象にした地域気象モデル
(CSU-RAMS)との接続法の開発
5)局所風況観測網(NeWMeK)を利用した局所風況予測
地域気象モデル(CSU-RAMS)との接続
~広域な気象場を反映した局所風況予測
CSU-RAMS
(Grid 2)
RIAM-COMPACT
への接続(境界条
件)
CSU-RAMS(Grid 1)
ECMWF(ヨーロッパ中期予報センター)
の客観解析気象データをナッジング
RIAM-COMPACTによる局所風況予
局所風況観測網(NeWMeK)との接続
~局所域の気象観測データを利用した風況予測
RIAM-COMPACT
への接続(境界条
件)
NeWMeK site
NeWMeK風速分布図
NeWMeK (Network for Wind
Mesurement of Kyushu)
九州広域高密度風観測システム
RIAM-COMPACTによる
局所風況予測