市川伸一・伊東祐司(編)『認知心理学を知る<第3版>』おうふう 第14章 コンピュータと教育 執筆者:野島久雄 授業者:寺尾 敦 atsushi [at] si.aoyama.ac.jp Twitter: @aterao 1.なぜコンピュータ教育なのか • 1980年代後半の状況 – コンピュータは人工物であり,本来は人間の認知 プロセスとは無縁のもの.しかし,認知心理学で は,人間の認知プロセスのモデルとして用いられ てきた. – コンピュータはまだ道具として成熟しておらず,コ ンピュータの使い方を教えることは,教育の問題 として重要であった.(まだ学校教育にはほとん ど入っていなかったが) • 現在,技術としてのコンピュータは急速に進 歩.コンピュータと教育をめぐる状況の変化も 激しい. • この章では,「コンピュータと教育」についての, 過去および現在(1990年代中ごろ)の状況を 紹介して,今後を考える手がかりとする. 2.コンピュータと教育の結びつき • コンピュータによる学習の制御 • 体験に基づく学びを支援するコンピュータ 2.1. プログラム学習 • テキストでは,プログラミングの考え方が学習 場面に応用されて「プログラム学習」が生ま れたと書かれているが,これは誤り. • 行動主義心理学の成果を生かす教育方法と して,プログラム学習が生まれた. – オペラント条件づけの実験(例:ネズミがレバーを 押したら,エサを与える) – 主体的な反応と,反応に対するフィードバック 原理 内容 積極的反応の原理 学習者がどの程度理解したかは、問題に答えさせ て判断する。 外に出してみることで初めて学習の 程度が判明すると考えよ。 即時確認の原理 学習者の反応の正否をすぐ知らせる。 学習者は、 自分の反応が正しかったかどうかを知った上で、 次の反応を要求されるようにせよ。 スモールステップの原理 学習者がなるべく失敗しないように、学習のステッ プを細かく設定する。 失敗をするとそれが定着す る危険性があると考えよ。 自己ペースの原理 学習者個々が自分のペースで学習を進められる ようにする。 適当なスピードは学習者それぞれに よって異なると考えよ。 学習者検証の原理 プログラムの良し悪しは、専門家が判断するので はなく、実際に学習が成立したかどうかで判断す る。そのためには、未学習の協力者に開発中のプ ログラムを試用してもらい、必要に応じて改善せよ。 http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/opencourses/pf/3Block/07/07-2_text.html 出典:鈴木克明(編著)(2004)『詳説インストラクショナルデザイン』 2.2. コンピュータに支援された 教授・学習 • 初期のプログラム学習に用いられた装置 – 紙(テキスト) – ティーチングマシン:プログラム学習を制御する機 械 • Computer-Assisted Instruction (CAI):プログラ ム学習の制御をコンピュータにまかせた. – 教育工学の始まり – 学習者の知識を診断し,適切なフィードバックと 出題を行う Intelligent Tutoring System へと発展 2.3. コンピュータで学ぶ • 構成主義的知識観:知識伝達としての学習で はなく,自発的な活動を通して知識を獲得し ていく. • 自発的な活動,体験に基づく学びを支援する ためにコンピュータを活用する. – LOGO を用いた実践.タートルを動かして絵を描く プログラム.単純だが,これを用いたさまざまな 実践が生み出された. • ヒマワリの葉の成長過程を理解するために, プログラム(LOGO)を用いた実践(戸塚実践) – 葉に放射状の線を入れる – 毎日,線の長さと,線の間の角度を測定する. – すべての線を記述するプログラムを書く. – 葉の成長が止まるまでこれを繰り返し,最初の日 から最後の日までのプログラムをまとめて実行す る. • 村の道の地図を作成するためにプログラム (LOGO)を用いた実践(戸塚実践) – 村の道(5本ある)を歩いて方向と距離を測定す る – それぞれの道をプログラムで描く – すべての道を描くと,地図ができる – 自分たちの主観と違った地図だったが,航空写 真と一致していることを確認 – 伊能忠敬の地図作成過程を理解できた 3.コンピュータ観の変化 3.1. “コンピュータ不安”から “道具としてのコンピュータ”へ • かつて,コンピュータは巨大で複雑な機械 だった. • 大型計算機や,初期のパソコンは,身近なも のではなかった.これらを使うには,プログラ ミングの知識を必要とした. • コンピュータを使う教育では,コンピュータ不 安を取り除くことが大きな課題のひとつだった. • コンピュータの使い方を学ぶことが目的にな りがち. • しかし,コンピュータを使って何かを行うことが 本来の目的のはず.コンピュータは道具にす ぎない. – 当然の考え方.しかし,道具として考えるには,コ ンピュータはまだ未成熟だった. 3.2. コンピュータはどのように 受け入れられてきたか • コンピュータは何度かブームになってきた. 1. 1960年代後半の Management Information System (MIS).企業の持つ情報をコンピュータ で管理. 2. 1970年代から80年代にかけてのパソコンブー ム.BASIC のプログラムを書いて動かす. 3. 1990年代からのコンピュータ・ネットワークの ブーム.現在に続いている.他者とのコミュニ ケーションのためのコンピュータ. • コンピュータは成熟し,「道具としてのコン ピュータ」として簡単に使うことができるように なった. – コミュニケーションの道具 – 情報検索の道具 – などなど 3.3. 認知的な道具としての コンピュータ • 認知的な道具:コンピュータは情報(文字や 記号などのシンボル)を取り扱う道具. • 普通の道具と何が違う? – 他の道具と同様に,能力を拡大する.高速な計 算,大量の情報保持. – 人が行う作業の性質を変える.作業のやり方が 変わる.コンピュータを使って,日常の問題解決 をより簡単に,より創造的なものに変えたい. 4.情報環境としてのコンピュータ • コンピュータを使うことで,情報を扱いやすく デザインすることができる. – 情報デザイン:われわれが使いやすいように情報 を加工する.わかりやすく情報を伝達し,共有す る. • コンピュータの画面は,われわれと情報との 接点(インタフェース)である. – 適切にデザインされたインタフェースは,情報の 利用を助ける. • 「情報教育」とは? – かつてはコンピュータの使い方を教育すること だった. – 現在では,情報の適切な利用法(情報読解,情 報発信,情報デザイン,など)を学ぶという側面 が強い.
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