地球環境の成り立ち

第6回 植物と環境
植物の構造
 光合成
 植物の分類

植物の成長を支える働き

同化
 植物は生命活動を維持するために外から物質を取り入
れ,これを合成して自分自身の体につくりかえ,エネル
ギーを蓄積することです.生体内での合成.
 光合成,炭素同化,窒素同化

異化
 同化した複雑な化合物を簡単な化合物に分解する働き.
生体内での分解.排泄.
 酸素呼吸,無気呼吸
光合成

葉緑体を触媒とし,空気中から二酸化炭素を取り入れ,根から水を吸い上
げ,太陽エネルギーを固定して炭水化物(ブドウ糖)を作り出す過程である.

光合成は明反応と暗反応の2段階から完成される.
H2 O
O2
光
ブドウ糖
CO2
H2O
光合成と呼吸
光合成の化学式
(生物学)
光エネルギー
二酸化炭素
水
ブドウ糖
酸素
水
6CO2+12H2O → C6H12O6+6O2+6H2O
(化学)
光エネルギー
二酸化炭素
水
ブドウ糖
酸素
6CO2+6H2O → C6H12O6+6O2

どちらが正しいのか
光合成量の条件

光の強さ・二酸化炭素濃度・温度
下
光補償点・光飽和点は植物の種類や生育環境によって違う.
植物の呼吸

植物の生命活動に必要なエネルギーを取り出す過程である.外呼吸と内呼吸が
ある.

外呼吸:


植物体と外界との間で酸素と二酸化炭素の出入を行なうガス交換である.

葉に見られる気孔と樹皮にある皮目によって行なわれる.
内呼吸(細胞呼吸):

細胞内で,ブドウ糖を分解して生命活動に必要なエネルギーを得る過程である.外界
から取り入れた酸素を使う酸素呼吸と,酸素を使わない無機呼吸がある.
ブドウ糖 + 酸素 + 水
(C6H12O6) (6O2) (6H2O)

二酸化炭素 +水 + エネルギー
(6CO2)
(12H2O) (688kcal・ATP38分子)
作られたATPは,物質の生合成や輸送,運動などのエネルギー源として使われる.
明反応と暗反応

明反応(光化学反応)
 光合成の最初の段階で,光のエネルギーを利用し,水を酸
化して酸素にすると共に,暗反応の二酸化炭素還元に必
要なNADPH2+とATPをつくりだす過程である。
2 H2O + NADP+ → 2 NADPH2+ + O2
ADP + Pi → ATP
– 光合成で発生する酸素(O2)はこのように水に由来する。

暗反応
 明反応で作られたATPとNADPH2+を用いて,二
酸化炭素から種々の糖を合成する過程である.
暗反応では光エネルギーは必要としない.
 炭素固定は暗反応で実現される.
炭素固定の回路
炭素原子3個を持つ2分子のリングリセリン酸を作る回路:カルビン回路→C3植物
炭素原子4個を持つオキサロ酢酸を作る第1回路→C4植物
CO2
リングリセリン酸
C-C-C(炭酸原子3個)
グリセロアルデヒドリン酸
ブドウ糖
カルビン回路(C3植物,C4植物第2回路
リズロースニリン酸
C-C-C-C-C(炭酸原子5個)
リズロースリン酸
CO2
CO2
オキサロ酢酸
C-C-C-C(炭素原子4個)
C4植物第1回路
ホスホエノールピルビン酸
C-C-C(炭素原子3個)
リンゴ酸
ピルビン酸
陽生植物・陰生植物

陽生植物
 日光のよく当たる場所を好む植物。草原に生えている大部
分の草や,田畑につくる多くの作物,マツ・シラカンバなどの
木はその例。
 陽地植物ともいう。
 木の場合は特に陽樹ともいう。

陰生植物
 日あたりの悪いところに育つ植物。樹木の場合は特に陰樹
という。
 シダ植物・コケ植物・アオキ・ヤツデ・ブナ・カシなど
 多くの陰生植物は日向でも育つが,日向では育たないもの
もある。
陽生植物と陰生植物の違い
陽生植物
光補償点
光飽和点
葉の構造
呼吸量
光合成量
代表種
高い
強光部
葉は小型
で厚い
柵状組織
が発達
大
大
シラカバ
ヒマワリ
弱光部
葉は小型
で薄い
柵状組織
の発達は
悪い
小
小
シダ類
コミヤマ
1000lx
以上
陰生植物
低い
500lx以下
出典) 駒村ら,土と水と植物の環境,理工図書.
植物による光の強さに対する反応の違い
C4植物
(陽生植物)
C3植物
(陽生植物)
光飽和点
C3植物:普通の温帯の植物
C4植物:熱帯植物,サトウキビ,雑草
C3植物
(陰生植物)
1
光補償点
3
5
光の強さ
10万ルクス
植物の成長過程
頂芽
頂芽
頂芽が成
長したもの
幼芽が成長
したもの
側芽
第二葉
シュート
幼芽
第一葉
①
②
子葉
③
根
植物の分類
出典) 学研学習事典データベース
植物分類の階級

種(Species)を基本として,その上下にいくつか
の分類群をつくる.
界植物界
維管束植物門
種子植物亜門
サクラ属
サクラ亜属
被子植物綱
マメサクラ種
対子植物亜綱
バラ目
亜種
キンキマメサクラ
バラ亜目
変種
バラ科
バラ亜科
品種
ヤエノキンキマメザクラ
植物の名前の書き方

普通名



学名:植物学者の合意を得た国際植物命名規約に従って
作られた植物の名前
学名の書き方

ローマン体

名詞,頭文
字は大文字,
イタリック
各国の固有名.和名はカタカタで表記する.

(科名)Fagaceae ブナ科, Rosaceaeバラ科,Compositaeキク
科
(属名)Chrysanthemumキク属-金の花,Theaチャ属-中国名
の茶
(和名) 属名
種小名
命名者
ヒマワリ
Helianthus annuus
Linneus
太陽の花 一年生の
リンネ
形容詞,小文字,イタリック
命名者名.先頭大文字
またはL.のように略す.
植物の集団

個体群
 大小さまざまな空間を示す同種の個体の集まりを個体群と
いう.
 種の生育地の広がりを分布範囲という.

群集
 生物界では,多くの個体群が共存する集団を群集という.
 植物の群集の場合,群集を特に群落(植物群落)という.
 群落の中で量的に多い種(優先種)で分けた場合,その優
先種の名前を群落の名前にする.たとえば,


スタジイ群落,またはスダジイ林
ススキが多い草原をススキ群落,またはススキ草原
群落の相観の捉え方







植物群落を外からみたときの特徴を相観という.
相観の優先種がもつ生活形:高木,低木,草本など
個体の密度(一定面積内の個体数):密生群落,疎生
群落
群落の高さ:高木林,低木林,草原
季節による変化:常緑樹林,夏緑樹林(落葉樹林)
優先種の葉の形:針葉樹林,広葉樹林
相観によって分類したものは群系という
 熱帯多雨林,常緑広葉樹林,夏緑広葉樹林(落葉広葉樹
林),ステップ,サバンナなど
植物の生育を影響する環境要因

非生物的要因(物理化学的環境)










光:照度・波長(光合成量),年周期,日周期
温度:気温(寒暖),地温,水温,年変化,日変化
降水量:年間降水量(乾湿),雨季と乾季
大気:O2,CO2,SO2,気圧,風向,風力
地形:尾根,谷,平地,傾斜(傾度,向き)
土壌の粒子:粒径,粒子の性質,土性
土壌の成分:養分組成,腐植質,pH
土壌の乾湿:湿地,乾燥地,中生地
水界:養分組成,pH,水圧,水流
生物的要因


種内関係:種内競争
種間関係:種組成,種間競争,寄生,共生
環境要因と植物の相互作用
出典) 駒村ら,土と水と植物と環境,理工図書.
植物の生活と最適温度範囲


植物の生育に最も良い温度範囲を最適温度範囲という.
植物は種によってそれそれぞれ異なった最適温度範囲を持
ち,それぞれの種が生育する地域の温度(気温)は緯度,高
度,地形,季節,時刻などによって異なる.
成長量
C植物
A植物
B植物
温度
温量指数

温量指数(WI):

植物が生活するために,一年間に必要な温度の積算値である.単位
は℃.
n
WI=Σ(t
-5)
i
i=1
ti:
i月の平均温度
日本の温量指数
温量指数と気候帯と植物
温量指数
(WI)
<0
0-15
15-45
45-85
85-180
180-240
>240
気候帯
極氷雪帯
Polar frost zone
寒帯
Polar (tundra) zone
亜寒帯
Subpolar zone
冷温帯
Cool temperate zone
暖温帯
Warm temperature zone
亜熱帯
Subtropical zone
熱帯
Tropical zone
温量指数と日本との対応
温量指数
群系
地域
緯度
常緑針葉樹林
北東北海道
43~45°
(45-55)~85
夏緑広葉樹林
南西北海道
東北
37~43°
85~180
常緑広葉樹林
関東より九州
30~37°
180~240
常緑広葉樹林
琉球・小笠原
24~30°
15~(45-55)
寒冷指数・乾湿指数

寒冷指数:月平均温度が5℃以下の各月の月平均気温と
5℃との差を合計した値に-(マイナス)を付けたもの
12-n
CI=-Σ(5-ti)
ti:
i月の平均温度
 乾湿指数:年間降水量(p)を温量指数(WI)で割ったもの.
K=P/(WI+20)
K=2P/(WI+140)
WI<100
WI>100
乾湿指数(0-3):砂漠,(3-5):ステップ,(5-7):サバンナ,落葉針葉樹林
日本の山岳の垂直分布と温量指数及び寒冷指数との関係
植物の相互作用

競争


種内競争の現象:



自然間引き(枯死)
人工間引き(間伐)
密度効果


同種または異種の複数の個体が空間,光,無機養分,水,二酸化炭素
など生活に必要な資源を奪い合い,相手に対して負の影響を与える相
互作用のこと
密度が高くなればなるほど,平均的個体の大きさが小さくなり,個体重
や種子生産量が減少する
最終収穫量一定の法則

同種,同齢個体群で密度のみを変化させ栽培すると成長初期では単
位面積あたりの個体群の全重量は大差があるが,植物が充分生長す
ると,密度の大小によらず,全重量はほぼ一定の値を取ること.
キャンパス内シラカシ林
植物のその他の相互作用

種間競争



背の低い植物は背の高い植物の陰になると,成長が抑制され,枯れてしまう.
生理的最適域と生態的最適域

競争のない場合,その植物が最大の生長を示す場所を生理的最適域という.

競争の結果,実の生育域は生理的最適域よりずれて生育する場所を生態的
最適域という.
他感作用

植物が排出する化学物質が,同種,他種,動物に及ぼす作用を他感作用とい
う.


リンゴやナシの果実はジャガイモやタマネギの畑では発芽はよくない
絞め殺しの木

熱帯多雨林に良く見られるイチジク属の植物.果実が高木の幹や枝に着くと,
そこで発芽・成長し,いずれ宿主は絞め殺されてしまう.
競争の結果:植物群落の階層構造
25
高木層
地
表
面
か
ら
の
高
さ
20
15
亜高木層
(m) 10
5
低木層
0.5
1
5
10
50
草本層
100 コケ層
相対照度(%)


群系によって,階層構造の発達は違う.熱帯多雨林ではよく発達し,針葉樹林では発
達が悪い.乾燥地帯は多湿地帯より発達が悪い.
階層構造の発達する群落は生物多様性に富んでいる.
植物群落の遷移




ある地域の植物群落の構成種が時間の経過とともに変化し,他
の群落に置き換わる現象を遷移という.地史的遷移もあるが,一
般に生態遷移のことをいう.
火山から噴出した溶岩上,洪水による堆積土上,がけ崩れ,地
すべり,山火事,森林伐採などによってできた裸地に植物が進
入し,着生,生長,変化していき,生態遷移が見られる.
裸地から始まる遷移は一次遷移という.
自然現象または人為的影響で今までに生育していた植物が除
かれたあとに始まる遷移を二次遷移という.
一次遷移(乾性遷移)の過程


火山灰層に成立する遷移.最初の火山灰は保水力はないため,最初は湿りけのあ
るところに地衣類やコケ類しか着生できない.
地衣類・コケ類→夏型一年草→冬型一年草→多年生草本→低木林→陽樹林→混
合林→陰樹林(スダジイなど)(極相林)
伊豆大島での遷移と土壌の発達
一次遷移(湿
性遷移)の過
程



湖沼に河川ある
いは周囲から土
砂が流入堆積し,
さらに植物の枯死
体の堆積により
湖底が浅くなり,
湖岸から植物が
進入して陸化して
いく遷移を湿性遷
移という.
植物プランクトン
→沈水植物→浮
水植物→浮洋植
物→挺水植物→
湿性植物(水生植
物)→中生植物→
低木林→陽樹林
→混合林→陰樹
林(極相林)
貧栄養湖→富栄
養湖→湿地→草
原→森林
出所) 駒村ら,水と土と植物と環境,理工図書,2000.
二次遷移

山火事・風水害・焼畑・森林伐採・田畑の休耕・造成
地のあと地などで始まる遷移.
遷移
裸地
夏型一年
草
冬型一年
草
多年生草
本
陽樹林
陰樹林
主な植物
なし(土壌
に種子や
地下茎が
多い)
エノコログ
サ
メヒシバ
ノギク
ヨモギ
ススギ
ヨモギ
アカマツ
コナラ
エゴノキ
スダジイ
シラカシ
アラカシ
成長が早
く,短期間
に多くの種
子を形成
ロゼット葉
を越冬し,
春に地下
茎を伸ば
す
地上部は
枯れるが,
春に急速
に成長
初期の木
本
低木と高
木
後期の木
本,高木
植物の特
徴
退行遷移




退行遷移は外部からの力が働き,時間とともに群落
が単純になる逆方向の遷移
火山口付近の植物が噴火と火災で枯死し,裸地化
放牧地に,ウシやウマなどを適数以上に放牧し,過
放牧し,砂漠化
農道や芝生や空き地で,人や車の踏みつけ
植物の分布

水平分布
緯度に平
行・温度,
海岸に平
行・水分
垂直分布
 海抜が
100m上昇
するにつれ,
温度は
0.61℃下が
る
 垂直分布は
等高線・等
温線に沿っ
て,低地帯,
山地帯,亜
高山帯,高
山帯に区分


世界の植物群落の群
相
観
森
林
草
原
荒
原
群系
分布地域
優先種の生活形
熱帯多雨林
亜熱帯林
高温多雨の熱帯
多雨の温熱帯
雨緑樹林
硬葉樹林
照葉樹林
夏緑樹林
針葉樹林
乾季のある熱帯・亜熱帯
夏に乾燥する暖温帯
多雨の暖温帯
多雨の冷温帯
亜寒帯
常緑広葉高木・つる植物,着生植物
常緑広葉高木・つる植物,着生植物
やや少ない
乾季に落葉する広葉の高木
常緑硬葉の高木や低木
常緑広葉(照葉)の高木
冬季に落葉する広葉の高木
常緑針葉や落葉針葉の高木
サバンナ
ステップ
乾燥する熱帯や亜熱帯
乾燥する温帯
草本とまばらな高木や低木
イネ科型草本
砂漠
乾燥の激しい熱帯や温帯
ツンドラ
寒帯
植物がないか,まばらな多肉植物や
低木,一年生草本
低木,亜低木,地衣植物,コケ植物
降水条件と温度条件による世界の群系の区分
寒帯・高山帯
(冷温帯)・温帯(暖温帯)
亜寒帯
(mm)
年 4000
平
均
降 3000
水
量
熱帯
熱帯
多雨林
2000
(温帯林)
夏緑樹林
雨緑樹林
照葉樹林
サバンナ
1000
針葉樹林
ステップ (低木のまばらな林)
ツンドラ
0
-20
-10
(高木のまばらな林)
0
10
砂漠
20
30
年平均気温(℃)
世界の群系の分布
出所) 林 一之,植生地理学,大明堂.
日本の植物群系の水平分布
出所) 鈴木・毛利,解明新生物,文永堂.
日
本
の
植
物
群
系
の
垂
直
分
布
出所) 鈴木・毛利,解明新生物,文永堂.