情報システムへの新しい要求 - -IT産業の未来への一考察- - 国際大学(グローコム)教授 日経BP社編集委員 中島 洋 ■ 情報システムの進展は個人と社会のかかわり方を 根源的なところから変容させてゆく。 ■ また、個人と社会のかかわり方の変容に伴って情報 システムに求められる機能は拡大してゆく。 ■ 個人と社会の関係性と情報システムは相互に刺激し あいながら「創発的」に展開してゆく。 ■ 情報システムへの社会からの要求は止まることを知 らない膨張的特質を持っており、これを支える情報シス テム産業の役割も相当の長期間にわたって膨張してゆく ことになる。 ■ 昨今の情報技術の適用範囲は企業においては内部 統制にまで及び、企業倫理や個人の倫理観にまで影響 を持ち始めている。 ■ 個人や社会と情報システムとの絡み合った進展を昨 今の企業倫理問題を参照して考察する。 本日の目次 ① 情報システム社会の歴史的基本的認識 ② 情報技術が社会、企業、ビジネスを変える ⇒ 情報システム市場は膨張する ③ 情報技術が「倫理」に与える機能 情報技術が果たす企業監視の性格 cf.監視社会をどう見るか ④ 企業倫理はどうあるべきか ⑤ 企業と社会的責任の歴史 ⑥ 会社法、SOX法 ⇒ 情報技術の進展が企業倫理を強要する 歴史的認識の確認(第3の波) いろいろな認識があるが、簡潔のためにトフラーの考え ⇒就業者構成からの変化 ①農業人口主体の時代⇒フード・オン・デマンドが目標⇒機械化で達成 ・耕作(耕運)、種蒔、草取り、施肥、収穫は道具まで ・輸送は一部農業側、後に専門業者が分業 ・支配階層による管理、交換(商業) ②工業主体の時代⇒プロダクツ・オン・デマンドが目標⇒情報化で達成 ・製造プロセス直接参加者の人口が急増 ・筋肉代替、視力代替、聴力代替、 ・エネルギー革命による生産方式の革命、「大企業組織社会」 ③情報主体の時代⇒インフォ・オン・デマンドが目標⇒?で達成 ・第3次産業人口急増(市場の効率管理、生産と消費の効率的取引) ・情報処理技術の向上(事務職、管理職、営業職 ・情報創造(映像、音楽、スポーツ、宗教、大量のコンテンツ、 ・工業社会の弊害の克服(環境、安全、安心、価値観の再構築) ⇒ 大企業社会の弊害克服の巨大な課題 ⇒本日の課題 情報技術は社会・企業・ビジネスを変える 社会変革の対象は無限に拡大⇒開発需要は無限 ① ビジネスプロセスの根本的改革 ・単純コスト削減⇒テレビ会議、無料電話 ・システム的コスト削減⇒SCM、ERP、管理、生産・在庫 ・在宅勤務、遠隔オフィス、支店・営業所のネット管理 ・内部統制による企業プロセスの根本的変革 ② ビジネスの道具に使う ・新たな通信ビジネス、ケータイ「着うた」、コンテンツ制作(商品) ・コールセンターによる顧客接近やBPOによる組織変革(手段) ・ケータイ利用の営業管理、訪問管理(道具) ・データベースによる顧客管理、DRによる社会的責任(道具) ③ 既存ビジネス、サービス、産業構造を変える ・宅配便、コンビニ、金融機関、新聞印刷、雑誌印刷・発行 ・ネット通販、ネット証券、ネット銀行、ネット旅行代理店、 ・SuiCa、電子マネー、ネット予約(航空券、新幹線、劇場) ・IPテレビ、ネットラジオ、ネット広告(ラジオ追い抜く) ・ネット保守サービス、第3者保守サービス 情報技術のどの機能が「倫理」に与えるか ① トレイサビリティ(追跡可能性) ・ユビキタスネットワークによる低廉な処理と伝送 有線光ネットワーク、無線(ケータイ、無線LAN、微弱電波) センサー技術 ・ID技術による低廉な処理と伝送(QRコード、RFID・・・・) ・街角カメラ、監視カメラによる事後的追跡精度向上 ② 可視化 ・可視化(グラフ化、閾値設定によるアラーム機能など) ・直感的理解の手段を提供 ・情報技術のリテラシーに関係なく問題点の所在認識 ③ 透明性 ・企業内部の相互監視による生産性の向上とミス、不正のけん制 ・企業情報の一部を外部に開放 ⇒ 行政、周辺住民、消費者、運動団体、株主、取引先が監視役 ⇒ ルールの適正化、ルールの遵守状況の監視 ① トレイサビリティ ・ユビキタスネットワークによる低廉な処理と伝送 ・街角カメラ、監視カメラによる事後的追跡精度向上 ・ID技術による低廉な処理と伝送(QRコード、RFID・・・・) ⇒ 牛肉のトレイサビリティ(生産・流通履歴情報管理) ⇒ 畜産関係者の倫理が厳格に ⇒ 農産物のトレイサビリティ(生産・流通履歴情報管理) ⇒ 農業者の倫理 ⇒ 工業製品のトレイサビリティ(生産・流通・廃棄履歴情報管理) ⇒ メーカーの倫理(製造プロセス、材料、廃棄物、流通過程に責任) ⇒ 乗客のトレイサビリティ(乗客の移動、購入、消費) ⇒ 乗客の倫理 ⇒ ビジネス活動のトレイサビリティ(活動履歴の保管=BAM) ⇒ 管理者、担当者の行動の倫理(会社法、日本版SOX法) ② 可視化技術 ・グラフ化、閾値設定によるアラーム機能など ・直感的理解の手段を提供 ・情報技術のリテラシーに関係なく問題点の所在認識 ・ネットワークを介した遠隔操作技術でユビキタス管理 ⇒ 統制ルールに基づく違反の抽出とアラーム 統制ルールはビジネスプロセスの革新(BPR) ルール違反と同時に非効率の改革 ⇒ 製造現場、流通プロセス、消費者に渡ってからの異常の抽出 製品ライフサイクルにわたる企業の責任の拡大 マンション、各種器具・機械、アスベスト、医薬品、食品、衣料品 cf.イオングループの製造物監視(?) ⇒ 管理可能な案件は制度による義務化(企業倫理の範囲の拡大) ⇒ 日本版SOX法、会社法、ソフトウェア違法複製の社内監視 ③ 透明性拡大技術 ・企業内部(役員・管理者・従業員)の相互監視 ワークフロー、ERP、BAMによる複数の視線 ・企業情報の一部を外部に開放(HPなど) 企業外部の監視の目による倫理の厳格化 ⇒ 生産性の向上とミス、不正のけん制 ⇒ 行政、周辺住民、消費者、運動団体、株主、取引先が監視役 管理者が見られる情報を社内、社外に開示 機密保持や個人情報保護とのバランスが課題 HPによる開示が容易になったため、HPへの開示義務 ⇒ 会社法 ⇒ ルールの適正化、ルールの遵守状況の監視 ⇒ 取り扱い担当者の明示(レストラン、レジ係、生産者名) 監視社会をどう見るか ① 個人の権利は絶対的で不可侵か 絶対的な「個人の権利」が存在するか⇒ 「有り」と「無し」の意見 日本の障子・ふすま文化、大部屋文化はどう見るか 「個人の権利」が相対的なものならば許容範囲はどこか 対抗価値(法益)として公共の安全(利益)とのバランス 「公共の利益」は社会の意見をどう採用するかで判断 ② 個人の権利を相対的に保護する方法はあるか 「監視カメラ」の映像に通常はジャミングをかける ⇒ 異常があるときだけジャミングをはずす ③ すでに受容している エレベーター、コンビニでは以前から監視カメラがあり受容されている 英国の監視カメラは犯罪を防ぐ効果を発揮している 高速道路の監視システムは長い実績があるが「侵害」による訴えはない 企業内部ではメールは秘密保護の対象にならない(公共空間の限界?) 「企業倫理」はどうあるべきか ① 倫理とは何か 「倫理」はある共同体の存続のため、共同体の中で構成員が守ることを約束し たルール。生まれながら強制される「社会倫理」から、国や民族で継承される 「共通価値」、職業集団で形成されるルール、「やくざ世界の仁義」など、大くく りのものから、特殊集団でのみ機能するものまで多様。(政治倫理、医の倫 理、マスコミ倫理、アマチュア精神、人倫、仁義、「常識」、「人の道」・・・・・) ② 共同体と個人 「倫理」には文章や言葉にしたものもあれば、不文律という形で無意識のうち に形成されているものもある。これまでは意識されていなかったことが、突然、 自覚され、絶対視されることもある。そのためには個人が犠牲にされることも ある。(不祥事隠しの自殺・・・・) ③ ローカルルール 「倫理」は共同体ごとに個別、特殊、相対的で、倫理の衝突が存在する。もち ろん、相互に共通する部分も多くある。 ④ 企業は社会と共生 「企業倫理」では、「企業の存続」の条件が局面ごとに変化するので共通の一 定の倫理を明示することは難しいが、企業は社会との共生が不可欠なので、 最近の状況では、より大きな「社会倫理」に従う傾向にある。(経団連の企業 倫理綱領・・・・・) 企業はどういう社会責任を引き受けるか ① 住民・地域侵害の環境公害 ⇒ 足尾鉱毒、水俣、阿賀野川、光化学スモッグ、有害廃液・排煙 ② 地球環境に対する企業行動の影響の評価 ⇒ 環境報告書 ③ 製造物責任の会社側立証責任 ⇒ PL法 ④ 医薬品・食品の健康被害 ⇒ O157 砒素ミルク カネミ油症 乳業 菓子の消費期限切れ原料 ⑤ 長期的な建築物の安全保証 ⇒ 耐震性、アスベスト問題の顕在化 ⑥ セクハラは誰が訴えられているのか? ⇒ 企業の管理責任 ⑦ ソフト不正コピー・ウィニーの利用 ⇒ ソフト資産管理の企業責任 ⑧ 個人情報保護法 ⇒ 情報を盗まれた企業の処罰 ⑨ 新会社法 ⇒ 取締役の社会に対する責任 ⇒ 内部統制の可視化とIT化 ⑩ 日本版SOX法 ⇒ 経営者の投資家に対する責任 ⇒ IT統制 ⇒ 業務プロセス・データの一元管理と可視化(サーバ統合) まだまだ企業が果たす社会責任は情報技術による救済を求める ⑪ 事業継続計画の要求 ⇒ 計画宣言・DR 投資家や取引先の新「企業判定基準」事業継続(三洋電機、不二家) ⑫ CO2排出しない企業体制 企業倫理=会社法内部統制の多面的要請 企業のトラブル、外部から要求⇒情シスによる管理と監視 ① 社会から 公害防止、有害商品排除、特殊株主排除 ② 従業員から ハラスメント防止、多重派遣、労働基準法 ③ 行政から コンプライアンス、犯罪防止、談合防止 ④ 株主から 企業統治、資産保全、財務会計適正化 ⇒米国流(SOX法) ⑤ 取引先から ⇒ 日本流 適正取引、有害事項感染防止(個人情報保護等) ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ 企業に対して再発防止の保証を要求 再発防止体制の確立とその開示 自己の内部けん制が働いていることの説明責任 責任者としての取締役の義務の履行 米国=株主資本主義 日本=顧客・従業員主義 会社法と情報技術(情報技術が倫理を要求) 新会社法で規定する「内部統制システム」は、幅広く、ステークホルダーに対す る取締役の責任を規定している。(株主に対してはSOX法=金融商品取引法) 新会社法の内部統制システムは、「取締役の職務執行が法令・定款に適合す ること等、会社の業務の適正を確保するための体制」で、加えて、「その他株式 会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制 の整備」とし、その体制として次の5つの体制が要求されている。 ① 取締役の職務執行に係る情報の保全および管理に関する体制。 ・ワークフロー、電子メール経営・・・・ ② 損失の危険の管理に関する規程、その他の体制。 ・BAM、リスクアラームシステム・・・・ ③ 取締役の職務執行が効率的に行われることを確保するための体制。 ・見える化経営、企業経営の情報化 ④ 使用人の職務執行が法令、定款に適合することを確保するための体制。 ・ワークフロー、電子メール経営・・・・ ⑤ 当該株式会社並びにその親会社および子会社から成る企業集団における 業務の適正を確保するための体制。 ⇒ ステークホルダーの視線=業績の開示義務(電磁的方法も可能) ⇒ 情報技術で可能になったことは制度に取り入れて厳格に
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