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プレートテクトニクス
[VI]
講義レジメ
固体地球を“生きさせている”エネルギー源
1. 地球形成初期における微惑星集積過程での衝突による熱エネルギー
地球は太陽系内に分布する微惑星を集めて,半径 R(6.4x106 m)の球になった
ものである.その集積過程で
E  G 
*
g
R
0
M r 
dM
r
(G は万有引力定数=6.67x10-11 m3/kg・s2)
の重力ポテンシャルエネルギーが熱に変わるだろう.地球内部の密度が一様だと
すると,
3GM 2
E 
 2.24 1032 J
5R
*
g
(Mは地球の全質量 5.973x1024 kg)
となる.地球がどの程度高温になるかは原始大気による温室効果の程度によって
異なるが,地球表面から半径の1/3程度が熔融し,マグマオーシャンが形成され
たらしい.
2. 地球内部層構造形成に伴う重力ポテンシャルエネルギーの開放による発熱
地球内部は密度成層構造をなしている.これを考慮して上の積分を実行すると,
重力ポテンシャルエネルギーEg**は-2.5x1032Jである.したがって,地球内部の
層構造(とくに核とマントル)が形成されたときには,両者の差2.6X1031J の熱
エネルギーが放出されたことになる.
岩石の比熱 Cは約1000J/kg・℃なので,上昇する温度はこれだけでも
T  Eg**  Eg*  CM  4.2  103 ℃
程度となる.
3. 断熱圧縮による発熱
圧力P によって物質の体積V が収縮すると,その仕事EA は
V2
r2
V1
r1
E A   PdV  
1
Pd  
r
で,rはPの関数(固体の状態方程式)である.この仕事が発熱量であり,
EA は1031Jのオーダー.
4. 放射性元素の崩壊による発熱量
岩石中の主要放射性元素は238U,232Th,40Kで,現在の平均的マントル中の含有
量C,発熱rate H,半減期t はTable4-2に,現在の各種岩石中の放射性元素の含
有量はTable4-2に示してある.
○現在のマントル物質の総発熱rateは,
H m  Cu H u CTh HTh  CK H K  6.181012 W kg
○現在の花崗岩の総発熱rateは,
Hg  Cu Hu CTh HTh  CK H K  9.61010 W kg
放射性元素の個数は
dN dt  lN,すなわち N  N 0 exp lt  で減少.
t は経過時間,lは壊変定数,N/N0=1/2 となるときの経過時間が半減期tである.
すなわち,1 2  exp lt  または t  ln 2 l  0.69325 l である.
したがって,現在の放射性元素の含有量をC0とすると,t 時間過去の含有量Cは
C  C0expt  ln2 τ となる.このことから,過去の総発熱rate H は,
H  H UC0U  expt  ln2 τU   H ThC0Th  expt  ln2 τTh   H KC0K  expt  ln2 τK 
この式を t について現在まで積分すれば,現在までの総発熱量となる.
◎花崗岩の場合は,数千万年で融けてしまう!!
◎マントル物質の場合は,40億年(地球の年齢にほぼ等しい)で融けてしまう!!
5. 固体地球のエネルギー代謝
微惑星集積による発熱,地球内部層構造形成による発熱,断熱圧縮発熱,放射
性元素の崩壊熱はいずれも地球の大部分を熔融させるほどのものである.他方,
物体の粘性率は温度の上昇とともに減少する.粘性の低下によってマントル対流
は活発になり,地球外への熱放出速度も増加する.このバランスが地球内部の温
度構造を決定する.
上記の熱源のうち,前3者は地球形成初期における1回かぎりの出来事である.
これに対し放射性元素の崩壊は継続的な熱源である.以下に,地球創成期以後の
エネルギー収支を考えてみよう.
a) 放射性元素の崩壊によるマントルの総発熱速度
マントルの総質量は4.06x1024 kgなので,これに単位質量あたりの発熱速度
を掛けて,総発熱速度=2.5x1013 W
b) 熱伝導による地球表面からの熱放出速度:3.53x1013 W
q  k  dT dy(フーリエの法則)
q:単位面積を単位時間に通過する熱量,T:温度,k:熱伝導率,y:深度
陸上では,深井戸・ボーリング孔を利用し,異なった深度の温度を計測.
海底では,間隔をおいて複数のサーミスタを着けた棒を海底に突き刺す.
◎全大陸域の平均熱流量:56.5 mW/m2.
大陸域(総面積:2x108 km2)の総熱流量:1.13x1013 W
大陸内では地殻の固化年齢が古いほど熱流量が小さい.
◎全海域の平均熱流量:78.2 mW/m2.
海域(総面積:3.1x108 km2) 総熱流量:2.4x1013 W
海洋性地殻の放射性元素含有量は,大陸地殻より1桁小さい.
それにもかかわらず熱流量が高いのは,熱いプレートの冷却による.
熱流量はプレートの年齢のルートに比例する.
c) 海洋性プレートの平均生産速度:2.8 km2/y,300 m3/y.
海洋性プレートの比熱:I kJ/kg・℃,比重:3300 kg/m3,
生産された時と海溝から沈み込むときの平均温度差:500℃,
潜熱:4x105 J/kg とすると,
総放熱速度=(1000x500+4x105)x3300x300・109/3.15x107=2.8x1013 W
**実際は,この量の大部分が全海域の熱流量として観測されることになる.
海域の熱流量
d) 火山活動と地殻変動による放熱速度
地表からの熱伝導による放熱の1%程度しかない.
地球のエネルギー収支
エネルギーの収入
放射性元素崩壊熱
J/年
9.5x1020
45億年の総計(J)
1x1031
微惑星集積によるエネルギー
2.24x1032
層構造形成によるエネルギー
2.6x1031
2.6x1032
合計
エネルギーの支出
火山活動のエネルギー
3x1019
1.4x1029
温泉・地熱エネルギー
2x1018
9x1027
地震のエネルギー
4-7x1017
2-4x1027
地殻熱流量
1.2x1021
0.5-3x1031
合計
0.5-3x1031
以上の概算から,全マントルでの発熱は,プレートの冷却によるものとマン
トルからの熱伝導によるものとの和である全海洋域からの放熱とほぼ等しいこ
とが分かる.陸域の熱流量は大陸地殻内に濃集した放射性元素崩壊熱がかなり
の部分を占める.したがって,固体地球のエネルギー源のかなりの部分はマン
トル内での放射性元素崩壊熱であるといえる.すなわち,
『プレートテクトニクスとは,有効な地球内部熱放出機構であり,地球は放射
性元素の崩壊熱で駆動する巨大な熱機関である.』
6. 非線形熱機関としての固体地球
継続的エネルギー源としての放射性元素の崩壊熱は,過去から現在に向かっ
て単調減少するので,熱放出機構としてのプレート生産速度も単調減少してき
たと予想される.ところが,プレート生産速度は絶えず変化している(下図).
一体何が起きているのだろうか?
固体地球の未来はどうなるのだろうか?