第10回授業(6/12)の学習目標 第5章 平均値の差の検定の基本的な考え方を 学ぶ。 平均値の差の検定の一連の手順を学ぶ。 分散の等質性の検定の具体的手順を学ぶ。 分散の等質性の検定の後の、平均値の差の検 定の具体的手順を学ぶ(この途中までで、終了)。 第5章 平均値の差の検定-1 心理学では、検査や実験により得ら れた得点に、あらかじめ設定した2 つの条件間で差が見られるかどうか を検討することがよくある。 第5章 平均値の差の検定-2 例えば、ミラーリエル錯視実験の 30度30mm条件と30度45mm 条 件の2条件間の錯視量に差がみら れるであろうか。 あるいは、30度30mmの条件での 錯視量に、男女差は見られるので あろうか。 検定における標本と 検討すべき仮説-1 これらの課題を検討するための1 つの客観的・実証的な方法は、既 に第3章の後半で少し紹介した統 計的仮説検定を行うことである。 検定における標本と 検討すべき仮説-2 これを行うためには、まず第1にそ れぞれの条件下で実験を行い、 それぞれの条件での測定値を得 ることが必要である。統計学では、 これを標本を収集するという。 検定における標本と 検討すべき仮説-3 標本は漠然と収集するのではなく、 何らかの(統計的)仮説を立て、無 作為に収集する必要がある。 平均値の差の検定での 2群の標本とは? 例えば、ミラーリエル錯視のある条件下での男 子と女子の錯視量がそれぞれ Nx 人、Ny 人づ つ得られたとすると、2群の標本は、一般的には 、それぞれ x1 , x2 , , x N x (男子) y1 , y2 , , y N y (女子) と書ける。 平均値の差の検定 における帰無仮説 平均値の差の検定における仮説は、帰 無仮説と呼ばれ、両条件の母集団の平 均値 μx, μy に差がない、というものであり、 これを数式で書くとつぎのようになる: H0 : x y 母集団と標本での平均値の差の違い うえの仮説は、両条件での標本の平均値 に差がない、すなわち xy とは異なり、標本が抽出されるもとの母集 団での平均値に差がない、というものであ る点に注意が必要である。 母集団の特徴の違いによる 平均値の差の検定方法の違い-1 2つの群間で平均値に違いがある かどうかを検討する場合、データが 得られるもとの母集団の特徴の違 いにより、検定方法が異なる。 母集団の特徴の違いによる 平均値の差の検定方法の違い-2 1つの方法は、テキスト p.19 の 5.1 節の 「母集団の分布形が未知だが、母 分散は既知で、標本数が大の場合」 である。 母集団の特徴の違いによる 平均値の差の検定方法の違い-3 他方は、テキスト p.20 の 5.2 節 の 「母集団の分布が正規分布で、 母分散は未知の場合」 である。 t-統計量とその分布 帰無仮説のもとでは、5.2 節の条件の下 では、テキスト p.23 の (5.9) 式、すなわち 次の量 t がどんな値を取る可能性がどれ ぐらいであるかが理論的にわかっている: t N x N y ( N x N y 2) X Y NxS N yS 2 x 2 y Nx N y 自由度 v の t-分布の分布とは? -正規分布に近い y 軸対称な分布 確率 斜線部 1-α t- 分布 t - t N-1(α/2) t N-1(α/2) 帰無仮説の棄却とは?-1 つまり、帰無仮説のもとでは、標本 から計算される上記の t の値が上 の図の下限値以下か、上限値以上 の範囲に入る可能性は α である。 この α の値は、統計学では通常 0.05 か 0.01 を考えるのが慣習で ある。 帰無仮説の棄却とは?-2 そこで、もし帰無仮説のもとで標本か ら計算された t-値が下限値以下や上 限値以上の値を取ったならば、われわ れは帰無仮説のもとでは起こりえそう もないことが起こったとして、帰無仮説 を捨てる。統計では、帰無仮説を棄却 するという。 帰無仮説の棄却とは?-3 平均値の差の検定で、帰無仮説を棄 却することは、両条件の平均値に差 があることを意味する。 なぜならば、この場合の帰無仮説は 先ほど示したように、 H 0 : x=y であるから。 帰無仮説の採択とは?-1 一方、帰無仮説のもとでは、標本から 計算される上記の t の値が上の図の 下限値から上限値の範囲に入る可能 性は 1-αである。 通常、ここでの α は 0.05 か 0.01 なの で、1-α の値は、通常 0.95 か 0.99 で ある。 帰無仮説の採択とは?-2 そこで、帰無仮説のもとで、標本から 計算された t-値が下限値から上限値 の範囲の値を取ったならば、われわ れは帰無仮説のもとでは起こりえそう なことが起こったとして、帰無仮説を 受け入れる。統計では、帰無仮説を 採択するという。 帰無仮説の採択とは?-3 平均値の差の検定で、帰無仮説を 採択することは、両条件の平均値に 差がないことを意味する。 なぜならば、この場合の帰無仮説は 先ほど示したように、 H 0 : x=y であるから。 平均値の差の検定における t-分布の自由度はいくつ?-1 既に第3章でもふれたように、一般 に t-分布の形を決めるパラメータは、 自由度と呼ばれる量で表される。 ただし、第3章での t-分布の自由度 νはサンプル数 N に対して、 ν=N-1 であった。 平均値の差の検定における t-分布の自由度はいくつ?-2 これに対して、第5章での t-分布の形 は第3章のそれとは異なる。その値は、 つぎに述べる、ある条件の違いにより、 テキスト p.22 末尾の N x N y 2 (5.8) となったり、 平均値の差の検定における t-分布の自由度はいくつ?-3 同 p.23 の下方の (Wx Wy ) 2 W /( N x 1) W ( N y 1) 2 x 2 y (5.12) となったりするので、注意せよ。 t-分布の形を変える、 ある条件とは?-1 平均値の差の検定では、2群の標本 が抽出される元の集団すなわち母集 団分布に正規分布が仮定される場合 (テキストでは、p.20 からの 5.2 節) には、t-統計量が用いられる。 t-分布の形を変える、 ある条件とは?-2 ただし、この場合、t-統計量そのも のが、2つの母集団の分散(母分 散)が等しいかどうかで、異なるも のになることがわかっている。これ が、t-分布の形を変える「ある条件」 である。 母分散の等質性の検定とは?-1 つまり、2群の母集団が正規分布に 従うとみなされる時、われわれは平均 値の差の検定に先立ち、2つの母集 団の分布の分散が等しいかどうかの 検定を行わないといけないのである。 母分散の等質性の検定とは?-2 この検定は、母分散の等質性の検 定と呼ばれ、つぎに示す、テキスト p.21 の最上部の (5.4) 式がそのた めの統計量であり、F は F-分布に従 うことが知られている。 U x s N x ( N y 1) F (5.4) U y s N y ( N x 1) 2 x 2 y F-分布の形状を決めるパラメータ F-分布の形は、t-分布と異なり2つの自由 度により決まる。テキスト p.21 の (5.4) 式 の F-分布の自由度は、テキスト p.20 の 末尾の下から2行目にあるように、2群の 標本のサンプル数をそれぞれ Nx, Ny とす ると、 x N x 1, y N y 1 F-分布の標準的な形状 F-分布の標準的な形状は、つぎのとおりであ る: F-分布 α/2 α/2 上側α/2%点 F1 2 2 F-統計量の実際の計算方法(1) テキスト p.21 の中ほどに書いたように、実際 のF-統計量の計算には、数表を用いる場合、 (5.4) 式ではなく、(5.5) 式を用いる、すなわち s N1 ( N 2 1) F s N 2 ( N1 1) 2 1 2 2 F-統計量の実際の計算方法(2) この式の分子の分散と分母の分散は、順に s , s , 2 1 2 2 であるが、前者は、2群の標本での不偏分散の大 きい方に対応する分散でないといけないので、注 意が必要である。 F-統計量の実際の計算方法(3) うえに示した (5.4) 式の F は、両群のサ ンプル数 N1 及び N2 が等しい時、テキ スト p.22 の (5.6) 式、すなわち、 2 1 2 2 s F s (5.6) となり、両群のサンプルでの標本分散の 比の形に書ける。 平均値の差の検定の一連の手順 平均値の差の検定の一連の手順は、つぎのと おり: (1)最初に、分散の等質性の検定を行う。 (2)その結果、両群の分散が等しいと見なさ れる場合は、(5.9) 式の t の値を計算する。 (3)もし、両群の分散が等しいとみなせない 場合は、(5.10) 式の t’ の値を計算する。 分散の等質性の検定の手順 平均値の差の検定に先立つ、分散の等質性の検 定を行うには、テキスト p.26 の上部にあるように、 (1)2組の標本の平均を、それぞれ求める。 (2)2組の標本の分散を、それぞれ求める。 (3)テキスト p.22 の (5.6) 式により F-値を 計算する。 (4)テキスト p.24 の下方の、F-検定の危険率に 対応する棄却点の値と上の F-値を比較する。 F-統計量の実際の計算方法(1) テキスト p.21 の中ほどに書いたように、実際 のF-統計量の計算には、数表を用いる場合、 (5.4) 式ではなく、(5.5) 式を用いる、すなわち s N1 ( N 2 1) F s N 2 ( N1 1) 2 1 2 2 F-統計量の実際の計算方法 この式の分子の分散と分母の分散は、順に s , s , 2 1 2 2 であるが、前者は、2群の標本での不偏分散の 大きい方に対応する分散でないといけないので 、注意が必要である。ただし、2群のサンプル数 が等しい場合は、単純に分散の大きい方を分子 に、小さい方を分母に取ればよい。 F-統計量の実際の計算方法(3) 前回、既に見たように、結局 F は両群のサン プル数 N1 及び N2 が等しい時、テキスト p.22 の (5.6) 式、すなわち、 2 1 2 2 s F (5.6) s となり、両群のサンプルでの標本分散の比の形 に書けるので、この式の値を求めればよい。 平均値の差の一連の検定 の危険率(1) 平均値の差の検定では、多くの場合分散 の等質性の有無が不明であるので、平均 値の差の検定に先立ち、分散の等質性の 検定を行う必要がある。 この時、両母集団の分散が等しい場合に は、分散の等質性の検定統計量 F と、平 均値の差の通常の検定統計量 t とは、互 いに独立であることが知られている(Hogg, 1961)、 平均値の差の一連の検定 の危険率(2) この時、両検定をそれぞれ危険率αで行う と、全体的な危険率α*は、テキスト p.24 の (5.14) 式のようになる。すなわち、 1 (1 ) , * となる。 2 平均値の差の一連の検定 の危険率(3) 例えば、それぞれの検定の危険率を 0.01 とすると、 * 1 (1 ) 2 , 1 (1 0.01) 0.0199 2 0.02 となり、危険率のインフレをまねく。 平均値の差の一連の検定 の危険率(4) これを避けるには、個々の検定の危険率 α は、全体の危険率を α* として、 1 1 , * にすればよい。これを実現するには、全体 の危険率α* =0.05 ならば、個々の危険率を およそ 0.025 に、α*=0.01 ならば、個々の 危険率をおよそ 0.005 に取ればよい。 分散の等質性の検定の手順 (1) もし諸君の標本での F-値が、演習時に指定され た危険率に対応する棄却点の値(テキスト p.24, 中程) 0.05 F (0.025/ 2) 2.9021, * 19 19 ( * 0.01 F19 (0.005/ 2) 3.8616) 19 未満ならば、等分散仮説を採択する。こ の場合、分散は等しいとみなされる。 分散の等質性の検定の手順 (2) それに対して、もし諸君の標本での F-値が、演 習時に指定された危険率に対応する棄却点の 値 0.05 F (0.025/ 2) 2.9021, * 19 19 ( 0.01 F19 (0.005/ 2) 3.8616) * 19 以上ならば、等分散仮説を棄却する。こ の場合、分散は異なるとみなされる。 両群の分散が等しいとみなされる時の、 平均値の差の検定の手順(1) 両群での分散が等しいとみなされる場合は、テ キスト pp.22-23 の t-統計量と対応する自由度 を計算する。すなわち、 t N x N y ( N x N y 2) X Y NxS N yS 2 x 2 y また、自由度は、 N x N y 2. Nx Ny , 両群の分散が等しいとみなされる時の、 平均値の差の検定の手順(2) t-統計量を計算し、自由度を計算 したら、最後にテキスト p.24 の下 方の、授業中に指定された危険 率に対応する「分散が等しいとき の t-検定の危険率と棄却点の値」 を見る。すなわち、 両群の分散が等しいとみなされる時の、 平均値の差の検定の手順(3) 標本での t-値がこの棄却点の値 0.05 t38 (0.025/ 2) 2.3337, * ( 0.01 t38 (0.005/ 2) 2.9803) * 未満ならば、等平均仮説を採択する。この 場合、平均値の差がないことを意味する。 両群の分散が等しいとみなされる時の、 平均値の差の検定の手順(4) 一方、授業中に指定された危険率に対応する 「分散が等しいときの t-検定の危険率と棄却点 の値」を見て、標本での t-値がこの棄却点の値 0.05 t38 (0.025/ 2) 2.3337, * ( 0.01 t38 (0.005/ 2) 2.9803) * 以上ならば、等平均仮説を棄却する。この 場合、両群の平均値に差があることを意味す る。
© Copyright 2025 ExpyDoc