波浪の予知

波浪の予知
風波の発生,うねりの伝搬
酒井哲郎:海岸工学入門,森北出版
第2章(pp.19-26)
エネルギー
数十秒から0.1秒の周期
一日周期の潮汐
うねり 風波
半日周期の潮汐
さざ波
周波数
波の周波数とその周波数の波が持つエネルギーの分布(スペクトル)
相対的に大きなエネルギーを持つ海の波は風波とうねりである.
風波(wind wave):風が原因で波が発生する波.復元力は重力
波のエネルギー源は風
うねり(swell):風域を離れて進行する波
水面上を風が吹き続けると小さな波(さざ波)が発生し,風からエネルギー
を吸収しながら次第に発達して巨大な風波(海洋波)に成長する.
風波はいつまでも成長を続けるのではない.波速(波の位相速度)が風速
に近づいてくると風から波へのエネルギーの輸送効率が低下する.一方,
風波は発達するに従い不安定となり波峰付近から崩れはじめ(砕波)エネ
ルギーの一部を失う.風から送られるエネルギーと砕波などで失うエネル
ギーが釣り合い平衡状態に達する.このような波を「十分に発達した波
(fully developed wave)」という.
風が止むと風波のうちの短い周期の波の成分は水の粘性効果により減
衰する.波面は滑らかな波長の長いうねりに転化する.うねりは減衰が非
常に小さく遠くまで伝播する.
風波は不規則波
様々な周期の波の重ね合わせである.
波が伝わる ⇒ エネルギーが伝わる
⇒
水面の変動がなく静止している.
エネルギーがない
水面が変動している.
運動エネルギーと位置エネルギーを
有する.
波の到達やその大きさはエネルギーの到達やその大きさを考えることと同義
微少振幅波理論では波のエネルギーは
1
E   gH 2
8
エネルギーは群速度Cgと呼ばれる速度で輸送される.
と表される.
波のエネルギー保存の法則は次式で表される(一次元の場合).
エネルギー平衡方程式
E 
  EC g   G
t x
E 単位面積当たりの波のエネルギー
Cg 波の群速度(group velocity)
G
風によるエネルギーの流入あるいは砕波などによる
エネルギーの損失を表す
質量保存の法則
 


  u     v     w  0
t x
y
z




u
v
w
0
t
x
y
z
非圧縮性流体の条件
u v w
 
0
x y z
連続の式
単位時間単位面積当た
りの風からのエネルギー
の流入
検査面積
x
1
単位時間に入ってくる波
のエネルギー
E  Cg 1
単位時間に出ていく波
のエネルギー

E  Cg 1   E  Cg 1  x
x
E   x 1
t
E  Cg 1
検査面積のエネルギー
の時間変化

単位時間に入ってくる波のエ
ネルギー



  E  Cg 1   E  Cg 1  x 
x


単位時間に出ていく波のエ
ネルギー
正味の入ってくるエネルギー

G   x 1
検査面積の風によるエネルギー流入量
E  Cg 1  x
E   x 1

 G   x 1
t
x
風波の発生機構
共鳴機構(resonance mechanism)
水面上の風は乱れており(乱流),圧力も複雑に変動している.この圧力変動
が外力となって水面波を発生させる.
波がある程度発達すると波がつくる圧力変動が支配的になるが(Miles機構),
風が吹き始める初期段階では水面形状に無関係で風の平均風速に関係する.
Phillipsは初期段階では波速と波の進行方向の風速が一致するときに波が
共鳴的に大きくなるという理論を発表した( Phillips の共鳴機構).
(Phillips の共鳴機構による波の発達率は現実の発達率よりも小さい.)
2層流の不安的機構
空気と水の境では摩擦力により,水面に流れが生じる.しかし,水面下では
流速は遅いので大きな流速差(速度勾配)が生じる.これが不安定な波を発達
させる要因となる.
現在のところ未解明の部分が多く,研究中である.
左端から発生した波a
風の方向
F
左端より風下側で発生
した波b
波aの吹送距離
波bの吹送距離
吹送距離(fetch):波が風を受けて発達しながら進行する距離
Fにおける波の中で最大のものは左端から発生した波aである.
ここで波aがFでエネルギー平衡状態(定常状態)になるとすると,波aがFに
到達するまでの時間を最小吹送時間という.
最小吹送時間(minimum duration) :
波が十分に発達するために必要な最低限の時間
風がある時間吹き続けたとき,波がその時間内で最大限に発達す
るために必要な水域の長さを最小吹送距離という.
風は吹き続けても波はここで発
達を終える
波はここで限度一杯に発達する.
風はここで止まるので,これ以上水
路が長くても波は発達しない.
吹送時間t
平衡状態(定常状態)
波aの軌跡
Tmin
最小吹送時間
非平衡状態
(非定常状
態)
F
t  Tmin
:平衡(定常)状態
t  Tmin
:非平衡(非定常)状態
吹送距離x
ここで波は平衡状態
波高,周期が定常となる.
波aの軌跡は単独の波の進行跡ではなく波浪エネルギーの進行跡と考え
るのが妥当.よって進行速度は波速ではなく群速度を用いる.位置の時
間微分が進行速度(群速度)であるので次式が成立する.
dx
 Cg
dt
1
dt 
dx
Cg

tmin
0
dt  
F
0
tmin  
F
0
1
dx
Cg
1
dx
Cg
波高H,周期T
U,F
時間t
Tmin
風波の波高H(有義波高),周期T(有義波周期)は吹送距離F,吹送時間t,
風速Uの関数であるが,吹送時間が最小吹送時間よりも大きいかどうかで
以下のような関数になる.
t  Tmin
:平衡(定常)状態→波高,周期は風速と吹送距離で決まる.
t  Tmin
:非平衡(非定常)状態→波高,周期は風速と吹送時間で決まる.
現在の波浪予測はエネルギー平衡方程式を電子計算機を用いて数値的
に解くことで行われている.
現在気象庁では第3世代波浪モデル(MRI-Ⅲ)を1998年に導入し,波浪
予測業務を行っている.
計算機が発達する以前の方法
SMB法(1958):
第二次大戦中の研究成果を戦後に発表した先駆的な研究(1947)の改良版
静止した風域を対象
PNJ法(1955):
波浪スペクトルをもとにした波浪推算法
Wilson法(1955):
SMB法を移動する風域に適用できるように修正
うねりの伝播
風域からでた波はエネルギーを得ることができないので水の粘性の作
用で次第にエネルギーを失う.
群速度(エネルギーの伝播速度)は周期によって異なる.周期の短い波
は群速度が遅い.一方,周期の長い波の群速度は速いので,次第に波
長が長い滑らかな波に転化していく(速度分散).
エネルギーの伝播方向が一方向ではないので各方向に広がっていく
(方向分散).
夏,我が国の太平洋沿岸で見られる土用波は台風の先駆けとしてやっ
てくるうねりである.
うねりの伝播に伴う変形
HD
0.4 Fmin

HF
0.4 Fmin  D
TD
HD
 2
TF
HF
うねりの伝播時間
4 D
tD 
gTD
風波を発生させた吹送距離
F
H D , TD
H F , TF
風域
D
うねりの伝播距離
宿題
風速U=10m/s,吹送時間t=9h,吹送距離
F=80kmの場合の深海での波高,周期を
求めよ.