論理トレーニング 論文指導 思索と言語 『文章読本』批判 担当小野芳彦(文学研究科) 議論の骨格をつかもう1 やさしい例文1 ① すなわち ② (①~②) だから (③+④) (③+④) だから ⑤ とどのつまり ②なのだから⑤だ ①キリスト教がはじまったのは、イエ スの弟子たちが、「十字架上に死 んで復活したイエスは救世主で ある」と宣教を開始したときであ る。すなわち、②キリスト教とはイ エスをキリストと告白する宗教の ことにほかならない。だから③イ エスはクリスチャンではないし、 ④イエスの宗教は基本的になお ユダヤ教の枠内にある。つまり、 ⑤イエスの教えはキリスト教成立 の諸前提のひとつにすぎないの である。 例題2 次の議論の骨格を示せ ①「昭和」の最後はテレビの映像とともにやってきた。② それは、おそらく「明治」や「大正」の最後とはそうとう 違ったものだったに違いない。たとえば③「明治」の最後 と言って、筆者が思いうかべるのは夏目漱石のある種 の作品を筆頭としたいくつもの小説であり、そこには確 かに1つの時代が最後の言葉によって見事に表現され ていた。もちろん、④今回の「昭和」の最後を伝える言葉 もまた数えられぬほど書かれ、そして、⑤そのいくつか は確実にぼくたちの記憶に染みこんでいくだろう。だが、 ⑥それにもかかわらず、我々がまずなによりもテレビの 映像を通して「昭和」の最後を看取ってしまったという事 実の重要さだけはどうやっても消すことができないので ある。 議論の骨格をつかもう2 例題2の詳細構造と 骨格 「明治」や「大正」の最後 が小説によって描写さ もちろん④、そして⑤。 れたのに対して、「昭 だが、⑥ 和」の最後は映像に ④+⑤ であっても よって描写されたといえ ⑥ る。なぜなら、我々がテ たとえば③ と ④~ ⑥ は「明治」対「昭 レビの映像で「昭和」の 和」の対比 最後を見取った事実の ①+② が主張 重さは消すことができ ③~⑥が理由(例 ないからである。 示?) 複雑な論証(例文3) 事実 ①②③、 ①土偶は縄文時代中期 には丁寧に作られるよう になった。にもかかわら ず、②土偶が完全な形で 発見されることがほとん どない。しかも、③同じ場 所から発見された破片を つなぎ合わせて完全な形 が復元されることもない。 複雑な論証(例文3) ①②③→④+⑤ 一般的事実からの推 論 ⑥⑦⑧ 事実 このことから④当時の人々が、土 偶を入念に作っておきながら、最 後には人為的に壊していた。そし て⑤破片を別々にして、離れた 場所に持っていったと推測できる。 たとえば、⑥山梨県の釈迦堂遺 跡で1116点もの土偶片が発見 されたが、⑦完全な形の土偶は ひとつもなかった。また、⑧完全 な土偶を復元することもできな かった。 複雑な論証(例文3) ⑨⑩→⑪ ⑥⑦⑧+⑪→⑫ ⑫=④+⑤の実例 しかも、⑨これらの土偶は、破 片が別々の粘土の塊りからでき ていた。そして、⑩それらを木や 竹で接合した上から粘土をかぶ せてその上に文様をつけて仕上 げられていた。⑪こんな手のか かるやり方は、破片への分断を 容易にするためだったに違いな い。つまり、⑫まさに、土偶は壊 してその破片を離れた場所に移 すために作られたものなのであ る 複雑な論証(例文3) ⑭→⑬→⑮ (⑬な ぜなら⑭このことから⑮) さらに、⑬壊した土偶の破片は、 大切に祭られたと思われる。な ぜなら、⑭破片が当時の住居跡 から丁寧に祭られた状態で発見 されることがあるからだ。このこ とから、⑮土偶が表わす女神が、 破片になっても神としての価値と 効験を持ち続けると当時の人々 に信じられていたと推測される。 複雑な論証(例文3) 結論=⑯ 事実 ①②③、⑥⑦⑧、⑨⑩、 ⑭ ①②③→④+⑤ ⑨⑩→⑪ ⑥⑦⑧+⑪→⑫=④+⑤の実 例 ⑭→⑬→⑮ (⑬なぜなら⑭このこ とから⑮) ⑫(④+⑤) + ⑮ → ⑯ 以上のことから、⑯当時 の人々の信仰には、女神 を殺し、死体を分断して 分ける儀礼を土偶で行っ ていたと考えられるので ある。 反論を試みる 導出の関連性の強さと疑問の弱さ 推測:背景法則に基づく 背景法則は一般論のこともあれば個別則であることもあるの で、それを明確化するように求めることが有力な反論になるこ とがある。 彼は徹夜明けだから疲れているにちがいない。 背景法則(一般則):人は徹夜すると疲れる 背景法則(個別則):彼は徹夜に弱い 背景法則が容易に考えられる場合は導出の関連性は強く、導 出への疑問は弱くなる。 反論を試みる 仮説形成の論証 証拠(被説明項)を説明する仮説 彼女は野菜しか食べないけれど菜食主義者かな。 仮説:彼女は菜食主義者だ。 背景法則:菜食主義者は野菜しか食べない。 証拠:彼女は野菜しか食べない。 補助前提や消去条件を加える ①ワトソンの靴に赤土がついている。②郵便局の前は赤土で、③近所には赤土 の場所はない。④ワトソンは郵便局に行ってきたに違いない。 (証拠①+補助前提②+消去条件③→仮説④) 反論を試みる 仮説形成の確実性 仮説が証拠を適切に説明しているか 適切:郵便局に行ってくれば、赤土がワトソンの靴につく。 不適切:ワトソンはその靴をもう履いていない場合。 他にもっと有力な仮説がないか うちの猫が顔を洗うとたいてい雨になる。どうもうちの猫には雨を降らせ る能力があるらしい。 反論を試みる 帰納の構造と確実性 帰納=一般化と外挿 今まで飼った猫は“お手”を覚えなかった。猫は芸を覚えないのだろう。 今まで飼った猫は“お手”を覚えなかった。こんどの猫も“お手”を覚えないだろう。 サンプルの適切性 猫を何匹飼ったことがあるのか。特に頭の悪いねこばかりであったという可能性 はないのか。 的外れの一般化 大安の日に結婚したカップルのほうが、仏滅の日に結婚したカップルより離婚し た数が多い。君たちも大安に結婚しないほうが良い。 反論を試みる 価値評価の構造と適切性 価値評価型の論証構造 ~がよい/わるい。 ~すべきだ/する必要はない (直接論証と)間接論証 仮定から得られる帰結の評価から仮定の承認・拒否を結論する 価値評価の内在的適切性 証拠の根拠/導出の関連性/評価基準の適切性 対立評価の提示 相手の評価に対立する評価を別に提示する 条件構造 ごまかしの演繹を防ぐには 対偶のみが正しい演繹である 漏電しているならば、電気の使用量が増えているだろう 電気の使用量が増えているのならば、漏電している 漏電していないならば、電気の使用量は増えていない 電気の使用量が増えていないならば、漏電していない それぞれ、逆・裏・対偶という 誤った推論の練習問題1 1. 2. 3. 英語の教師のすべてが英会話が得意なわけではない。 だいたい、内気な人は英会話が得意じゃないよね。 ということは、英語の教師の中には内気な人がいるってことか。 ¬(∀x ET(x)⇒H(x))⇔(∃x ET(x)& ¬ H(x)) ∀x U(x)⇒¬ H(x) ( ∀x ¬ H(x)⇒U(x)ならOK) ∃x ET(x)&U(x) 宇宙人のすべてが人間型というわけではない。 だいたいかぼちゃは人間型じゃないよね。 ということは、宇宙人の中にはかぼちゃがいるってことか。 1 2 内気 英語 教師 得意 誤った推論の練習問題2 日本人ときたらそろいもそろって日本語をしゃべる。しかし、人類の中 には日本人でないものもいる。だから、人類のなかには日本語をしゃ べらない人間もいるはずだ。 学者ときたらそろいもそろって非現実的な連中だ。しかし、教授の中 には学者でないものもいる。だから、教授のなかには現実的な人間も いるはずだ。 ∀x S(x)⇒¬R(x),∃x P(x)&¬S(x) ∃xP(x)& R(x) (裏の誤謬) 若者ときたらそろいもそろって目が二つある。しかし、日本人の中に は若者でないものもいる。だから、日本人のなかには目が二つでない 人もいるはずだ。 批判と異論 立論:死刑は廃止すべきでない 死刑があることによって凶悪な犯罪をある程度防げているからだ。 批判 抑止効果があることは認めてよいかもしれないが、過大評価されるべきではな い。実際、死刑があるから犯行を思いとどまるというのはそれほど多くない。 異論 死刑もまた殺人である。殺人が許されないから罰するというなら、その罰が殺人 であってよいはずがない。 批判の観点 立論:「開かれた皇室を」というキャンペーンは、①天皇は国家・国民の象徴 であり、②それゆえ世俗を超えた存在であり、③したがって世俗に対して閉じ られた存在であるからナンセンスである 批判①→②:「象徴ならば世俗を超える」か? 国民の象徴でありつつ、世俗に属することは可能ではないか 批判②→③:「世俗を超えていると世俗に対して閉じている」か? 世俗を超えた生活をしていても、国民に姿を表わす(閉じていない)こと は可能であろう。 予想される再反論:そんな存在では象徴たりえない。 論文を組み立てる テーマから問題を見出す 「自然保護」→自然保護はたいせつか 問題の立論の可能性を探る 異論の可能性→異論の論点→容易には否定しがたい論点を否定す る立論 なぜそういえるのかを書く 立論に対して なぜそういえないのかを書く 異論に対して 論文設計図
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