30歳過ぎの米国内科臨床研修 ~生き残りのポイント~ 滋賀医科大学公衆衛生学部門 大学院生・特任助教 藤吉 朗 日米医学医療交流セミナー 2009年 11月14日 • 米国臨床留学で私が得たもの • 30歳からの臨床留学“生き残りのポイント” “You can’t teach an old dog new tricks” “生き残りのためのポイント” =留学体験を充実させるポイント 私の場合 • 医学部卒業=20歳代 • 一般内科医として臨床研修(3年間) • 消化器内科として臨床経験(5年間) • 米国での臨床研修を決意=33歳 • 東京、市中病院勤務(1年間) • 在沖縄米国海軍病院(シニア・インターン:1年間) • 沖縄県、市中病院(内視鏡・内科:1年間) • USMLE全て合格=36歳 嫁さん・子供:なし 学位(博士号):なし 名声:なし 私の場合(米国留学~現在) • ハワイ大学内科レジデント – (3年間:37~40歳) – Resident of the year (2004-2005) – ABIM(米国内科認定医) • メイヨー・クリニック予防医学フェロー • ミネソタ大学公衆衛生学 – (2年間:40~42歳) – 公衆衛生学修士(MPH, Epidemiology) – ABPM(米国予防医学認定医) • 現在:滋賀医科大学社会医学講座 – (循環器)疫学研究 – 予防医学 米国臨床留学で得たもの • 臨床に関する医学知識(>手技) – USMLE (米国の医学生と同じ試験)に合格 – 米国医学生に求められる基礎・臨床知識、面接技能 – 臨床経験 • 患者との医療面接 – 面接技術 – 個人主義に重きをおき、父権主義(paternalism)を嫌う米国文化 – Informed decision、Shared decision • Professional Communication Skill – 適切な用語、論理性、明快さ – 時にはassertiveness(毅然とした態度) – Presentation能力・経験 • 根底 = 自身 JOURNAL CLUBで文献の批判的吟味 説明・プレゼンするためには – “原著論文を”(または学術的文献を) – “批判的に吟味”した上で – “理解”している 米国留学で得たもの • 英語でのコミュニケーション能力 • 米国でのものの考え方・常識 • 日本の常識の相対化 – 医学、医療 – その他広い意味で •人間の普遍性に対する自分なりの洞察 •友達 • Girl friend 30歳過ぎの米国内科臨床研修 考えておくべきこと なぜ、今から(米国)臨床研修か? 家族は? キャリアは? 現在の職場環境は? 時間管理のマトリックス 「7つの習慣」より 重要 • • • • 重要で ない 緊急 緊急でない I II 締め切りのある仕事 クレーム処理 せっぱ詰まった問題 急病や事故 III • 突然の来訪 • 多くの電話 • 多くの会議や報告書 • • • • • 人間関係作り 健康維持 準備や計画 リーダーシップ 勉強や自己啓発 IV • 暇つぶし • だらだら電話 • 多くのテレビ “The Seven Habits of Highly Effective People” by Stephen R. Covey 一部抜粋 “中年”のメリット・デメリット • メリット – 臨床経験・研究経験 • 患者さんの扱い、特定の分野に秀でている • デメリット – 経験や過去の知識にとらわれすぎる – 医学・医療の進歩を認識していない – テクノロジーの進歩についていけない • UpToDate、PDA、などのnew device – 体力 – 気力? – 若い人と同じ扱いがいや?:プライド? – 年齢による差別・偏見 • “若手” “Young Investigator”の対象外 海外での臨床研修を勝ち取る • 語学力(英語) • 情報収集・選択能力 • 人間力 – ヴィジョン – 柔軟性 – 協調性 – 問題解決能力 – 勤勉、仲間 英語力 • 正確な専門用語、フォーマルな英語を身につ けることがまず第一! • 読む: – 学術誌:NEJMのreview articleやAnnals of Internal MedicineのJournal Club • 聴く • 面接/TOEFL (USMLE) 英語編 • 話す・書く • 適切な発音、簡潔かつ正しい表現と論理、プ レゼンテーションスタイル • “早く”ではなく、“はっきり”と話す – 論理の流れ、聞き取りやすさ、言葉の流れの方 がスピードよりもよっぽど大事 • 英語が母国語でないものに細かい枝葉の表 現は難しい。まず”何が幹か?”を考えて話す 英語編 Native check • 英語でpresentationの機会を – 英語の塾、米国海軍病院、その他の研修病院 Native checkがない場合でも….. • Steadman’s Medical Dictionary • ついでに専門用語(technical term=jargon)を一般の人の分 かる英語に直す練習も – Acute Coronary SyndromeHeart attack – Diabetes mellitus (disease of) high blood sugar • Resourceの例 – Annals of Internal Medicine – Mayo Clinic.com Annals of Internal Medicine “Patient Information” http://www.annals.org/ Annals of Internal Medicine “ACP: Journal Club” 論文の批判的吟味 Mayo ClinicのWebsite http://www.mayoclinic.com/ 医学書よりもわかりやすい医学の概念の説明 New England Journal of Medicine 動画による手技の解説 http://content.nejm.org/misc/videos.dtl New England Journal of Medicine Review article 最近の知見からみた臨床上の問題の解説 英語 Personal Statement (Resume) • • • • 簡潔!簡潔!簡潔!+ 個性 自分の言葉・思考で書く 英語的な論理、習慣・文化 相談しながら作り上げること!! – 臨床医学研修経験のある日本人 – Nativeのmedical staff (参考文献リスト) • How to write a winning personal statement for Graduate and Professional School (Peterson’s) • Perfect Personal Statements: Law, Business, Medical, Graduate School (Peterson’s) • Resumes and Personal Statements for Health Professionals (James W. Tysinger) Personal Statement どれが評価される? 1.クラブ活動「部のレギュラーで西医体で優勝した」 2.WJEMAの英語の弁論大会で2位をとった 3.僻地離島で研修(clinical clerkship)を3ヶ月行った 4.論文がmedical journalに採択された 5.ボランティアとして年に2回は献血をしている 6.WHOの学生日本代表としてNew Yorkで発表した 7.アルドステロン症をはじめて診断できたときの喜び 8.癌で亡くなられた受け持ち患者さんの家族からい ただいた温かい言葉が忘れられない 情報収集・選択能力 • 勉強材料・資料 – USMLE、医学、英語 • よき先輩、よきアドバイス • 参考文献 • 日米医学医療財団の著書 • Blog E-mail Mailing list 人間力:1 ヴィジョン • ヴィジョンのある人は強い • ヴィジョン=目的+計画(+柔軟性) • 目的 – なぜ留学したいのか – 留学してどの分野で何を行いたいのか • 計画:限られた時間枠の中で – いつまでに – 何を達成するのか • 柔軟性:うまくいかなかったときに – 次に何をすべきか – 目標・計画の変更・修正 – なぜできなかったのか? 人間力:1 ヴィジョン • だけど! • 今は立派な目的がなくても、はっきりとした ゴールが分からなくても大丈夫! – 「アメリカで留学したい」症候群 – 私の場合 • 代替療法の勉強をしたい(フェローシップ)内分泌 フェロー(選ばれず)臨床予防医学フェローシップ 疫学(Univ of Minnesota)循環器疫学(公衆衛生) 人間力:2 柔軟性 • 柔軟性のある人は強い – “唯一絶対”の治療法や診断法は少ない – エビデンスの度合いやリソースの有無によって変わる (QuantiFERON、大腸がんのスクリーニング) • 医学は常に進化(変化)する • 医療は場所と時間で変わる • 宇宙飛行士の選択基準 – 悪いことが起こっても与えられた情況で問題解決に向け て前向きな対応が出来るか?(過去にこだわらない) • 「出羽の海症候群」に陥らないよう・・・ • 目標・計画はうまくいかない 人間力:3 協調性 • 協調性のある人は強い! • 臨床医療は協調性が不可欠 – スタッフ、コメディカル、先輩、後輩 • 協調性 – 周囲の人を大事にし、人の言うことを本気で理解 することに努め、チームとしてより良い医療をより 安全により効率的に提供できるようにできる力 • 飛行機事故分析 – 重大な事故は当該最高責任者(機長)が独裁的な 性格を持っている場合に起こりやすい – クルーからの有益なフィードバッグを得にくい問 題を未然に発見できない • 友達を作れる人 – 自分からきっかけをつくれるか? – プライベート、レジデンシーで支え合う 伊藤 守 著 ディスカバー21 その他 • 予防接種 – 結核(BCG,ツ反)、水痘、麻疹、風疹、B型肝炎、破傷 風トキソイド • CV:今からコツコツ記録しておこう! – – – – – – 卒業学校(小学校から)の住所、電話番号、在籍期間 勤務病院の住所、在籍期間 Clerkship、Voluntary activityの内容、期間 教育経験(“00看護学校の講師”) 学会発表:題名、学会名、場所と日付 論文 • 業績はあったほうが良い。しかし今はなくても大丈 夫! 道は開ける! むすび • 米国での臨床研修そのもの及びその過程で得る ものは非常に大きい。 • 医師国家試験に合格できる者は米国留学を可能 にする潜在的な能力はある。 • しかし、目的意識、自己の努力、周囲のサポート・ 理解、生活・勤務環境の整備なくしては超えがたい ハードルも多いであろう。 • この発表が、皆さんの留学を考える際の戦略・計 画作りに少しでも役に立てば幸いである。
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