情報技術演習Ⅰ 人文学研究のための情報技術入門

バベッジのスチーム・コンピュータ
と分業論
林晋
2013.5.29
On the Economy of Machinery and Manufactures, 1832
機械と製造業の経済について 1832年刊
• 1832年:天保3年盗賊鼠小僧処刑される、頼山陽死去
• Google Books で無料で読めるのは1846年の 4版。
– バベッジのこの本についてのおそらく唯一の日本語の本での詳しい
言及:「コンピューター200年史―情報マシーン開発物語, マーチン キ
ャンベル‐ケリー , ウィリアム アスプレイ」
• 現代的には生産工学(テイラリズム、トヨタ生産方式)、経営
学のような感じ。目次。
• Chap I :バベッジの時代、イギリスを特別な国家としていた産
業革命について
• …
• Chap XX: 知的労働の分業について
Chap XX. 「知的労働の分業について」
の内容目次
1. フランスの大対数表 (§241-246)
2. 機械による算術計算の実行 (§247)
3. 数学的原理の説明.
階差による2乗の表 (§248)
4. 三つの時計による説明 (§249)
5. 鉱山における労働力の配分 (§252)
階差原理の説明と蒸気計算機計画
• 機械による計算という,当時としては当たり前とは言えない
考え方を読者に説明する。(247)
• その原理は「階差計算」。の例、つまり、
「x の2乗」の数表。(248)
• これは全く数学的なので、それを機械で実行できることを説
明するために、として、三つの「時計」A,B,Cの説明を表を
使い行う。そして、これにより限定された場合だが、(248)の
階差計算が「時計」の紐(string)を繰り返し引くという操作で、
行えることを説明する。そして、the first model of the
calculating-engine (蒸気計算機の最初のモデル)が、このよ
うに作られつつあるという。(249)
階差機関と解析機関
• バベッジは蒸気エンジンで動作する,歯車とクランクのコンピ
ュータを2種類構想した:
– 階差機関 difference engine YouTube
– 解析機関 analytic engine
• 英国政府から多額の資金を得て,それを構築を試みたが,
結局失敗した.その額は,一説によると軍艦を作れるほどだ
ったという.
階差機関:The differential Engine
• 階差機関の原理 階差計算
– バベッジ の著書より.F(x)=x2
•
•
•
•
•
x
1 2 3 4 5 6... から
F(x) 1 4 9 16 25 36… を作る
階差 3 5 7 9 11….
階差 2 2 2 2….
これを下から,上に作れば,足し算だけで
F(x)=x2 が計算できる.
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階差計算の能力 advanced
• 数学の理論により,殆どの(連続)関数は,多項式 F(X) で近似できること
が知られている.
• 1回の階差計算は,1回微分することにあたる.したがって,
n次の多項式は,n回階差計算すれば,定数になる.
– F(x)=x2 を2回階差計算したら,定数 2, 2, 2, … になった.
• よって,近似の誤差を処理すれば,ほとんどすべての関数の計算,した
がって,実質,どんな関数でも,その計算が可能.
• 計算するために必要なのは,数列を記憶しておくこと.そして,数列の項
に対して足し算を行うこと.
• バベッジ は,これを機械にやらせようとした.
– 注. 階差計算を機械に実行させるというアイデアは,バベッジ 以前にもあった
.
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解析機関: The Analytic Engine
• バベッジ は,英国政府から多大の研究費を得て,階差機関
を作ろうとしたが,当時の機械技術では,難しかった.そのた
め,ヨーロッパ各地の工場を使える技術を求めて視察し,そ
の結果が On the Economy of Machinery and Manufactures
の執筆となったとも言う.
• しかし,バベッジ の計画は,遅々として進まず,英国政府か
らも信用されなくなり,資金も続かなくなる.
• さらにまずいことにバベッジ は,階差機関を完成させずに,
解析機関という,さらに進んだ機械の設計に没頭するように
なる.
• この機械は,一戸建ての家くらいの大きさで,6台の蒸気機
関で動かす設計になっていた.
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解析機関の能力は現代のコンピュータと同等
advanced
• 階差計算の出力を,再び,階差計算の入力にできるように,出力を入力
に結びつけていた. これは現代的用語で「ループ」という.
• 足し算,数列の記録,ループ,条件分岐(つまり、条件を判定して、次の
仕事を2つの候補の中から選ぶこと)の四つがあると,現代のコンピュー
タと,同じ計算ができることが知られている.
• 解析機関は、この4条件を備えており,さらには計算手従,つまり,「プロ
グラム」を,ジャガード織機のために使われていたパンチカードで指定す
ることができた.つまり、原理上はであるが,現代のコンピュータと「同じ
能力」を持っていた。
– このパンチカードによるプログラミングの部分は、最初のデジタルコンピュータの一つと
も言われるENIACより進んでいるとさえ言える。ENIACにおけるプログラミングはケーブ
ルによる配線で行っていた。
• もし,バベッジが成功していたら,世界はどんな風だったろうか、と空想し
たいのは人情!
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小説「ディファレンス・エンジン」
• 「もし,バベッジが成功していたら,世界はどんなだったろう」
,これをテーマに,SF作家,ギブスンとスターリングが書いた
スチーム・パンク小説.
– 英語版表紙
– 日本語版表紙
• スチーム・パンクとは:1,2
• 話を[まじめな]経済学に移して…
分業と計算機 (250)
• これにより、分業 (division of labour)の効果が機械的
(mechanical)な作業(operation)でも、知的(mental)な作業でも
見られ、それにより「非熟練労働者の雇用を避けることがで
きる」という(250)
– we avoid employing any part of the time of a man who can get eight or
ten shillings a day by his skill in tempering needles, in turning a wheel,
which can be done for six pence a day;
– 「つまらない計算のために数学者を雇わなくても済むということも言っ
ている: and we equally avoid the loss arising from the employment of
an accomplished mathematician in performing the lowest processes of
arithmetic.
分業と資本 (251)
• 分業の効果は大量生産のデマンドを前提とする。そして、そ
れは、大資本を必要とする。この前提がない限り、分業は成
功しない:
– The division of labour cannot be successfully practiced
unless there exists a great demand for its produce; and it
requires a large capital to be employed in those arts in
which it is used.
– 時計の生産では成功するだろう….