情報経済システム論:第2回 担当教員 黒田敏史 2015/9/30 情報経済システム論 1 講義概要 • 初日:導入・マクロ的影響・ミクロ経済理論 – – – – – イントロ 情報通信技術と経済成長 市場メカニズム 寡占市場の理論 ネットワーク効果の理論 • 二日目:続・ミクロ経済理論・情報通信政策・政 策分析 • 三日目:構造推定アプローチによる戦略・政策 シミュレーション 2015/9/30 情報経済システム論 2 情報通信と経済成長 • 経済成長とは – 一国の経済の規模は、市場で取引された財に与 えられた付加価値の合計(GDP)で測られる – 各財の付加価値 • 付加価値=生産財価値-中間投入財価値 – 一国全体の合計 • 国内総生産=総生産財価値-総投入物価値 – 三面等価の法則 • 国内総生産=国内総支出=国内総所得 • 国内総所得=労働所得+資本所得 – 市場規模=財単価*財数量(=生産財価値)とは 異なる概念である 2015/9/30 情報経済システム論 3 情報通信と経済成長 • GDPの意義と限界 – GDPを測ることで、我々が生み出した価値額を量 ることができる – 生み出された価値は、生産要素である労働と資本 への対価として支払われ、所得となる – 与件を一定にすれば、より多くの所得を得ることに より、より多くの選択肢の中から行動を選択する事 ができるようになる – GDPの成長とは、「我々が、昨日できなかったこと が、今日は可能になる」事を意味する 2015/9/30 情報経済システム論 4 情報通信と経済成長 • GDPの意義と限界 – GDPは市場で取引されない価値を含まない • 市場で取引されない価値:余暇・家事労働・贈与・交換 など – 金額と主観的価値は一致しない • 支出額の大小と、人間の満足・幸福・充足とは必ずしも 一致しない – 付加価値が一体何に用いられたのかを反映しな い • GDPは消費・投資・純輸出・政府支出の合計であり、 人々の今日の生活水準は消費と一部の政府支出に依 存する • GDPは誰の所得か(分配)に留意しない 2015/9/30 情報経済システム論 5 情報通信と経済成長 • 経済成長の源泉 – Acemoglu (2009)は経済成長率の差の決定根源 的要因を以下の4つに分類 – 1・運 • 与件が一定であっても、小さな不確実性や偶然によって 実現する状態が変化する事による差 – 2・地理 • 人々が生きる物理的、地理的、自然環境による制約 – 3・文化 • 個々人の行動の源泉になる信念、価値観、選好 – 4・制度 • 経済的インセンティブや技術・物的資本、人的資本への 投資インセンティブに影響を与える規制・法律・政治 2015/9/30 情報経済システム論 6 情報通信と経済成長 • 成長会計 – 経済成長を要因に分解する事を成長会計と呼ぶ • 労働投入量・資本ストック・生産性 – 生産量と投入量の比を生産性と呼ぶ • 生産性=生産量/投入量 → 生産量=投入量x生産性 – 変化率に置き換える • 生産の伸び率(GDP成長率)=投入量の伸び率+生産性成長率 – 投入量を労働と資本に分解する • GDP成長率=労働成長率+資本成長率+生産性成長率 • 成長を労働・資本などの複数の生産物に分解した後に残った生産 性の伸びを、全要素生産性(TFP:Total Factor Productivity)と呼ぶ – 労働生産性 • 労働生産性=生産量/労働投入量 • 捕捉が容易なのでこちらが用いられる場合もある • 労働生産性が高くなれば雇用者の賃金は高くなるが、雇用を減ら して外注するようにすれば会計上の労働生産性が増加するため、 あまり意味のある指標では無い 2015/9/30 情報経済システム論 7 情報通信と経済成長 出典:経済産業研究所 JIPデータベース2011 2015/9/30 情報経済システム論 8 情報通信と経済成長 • 生産性パラドックス – 1980年代以降、先進諸国で「膨大なIT投資が行わ れたにもかかわらず、生産性の上昇が統計的に確 認できない」ことが「ソロー・パラドクス(生産性パラ ドックス)」と呼ばれ、その原因が議論されてきた 2015/9/30 情報経済システム論 9 情報通信と経済成長 • 情報通信ストックと経済成長 – Roller and Waverman (2000) • OECD21ヶ国の20年間のデータを、GDP・電話普及率・通信 インフラ投資・通信インフラストックの遷移の4変数の同時方 程式モデルを推定 • 情報通信インフラへの投資は成長率に正の有意な影響を与 えており、固定電話普及率1%の上昇は、0.034%の経済成 長をもたらしている事を発見 • 電話普及率にはクリティカル・マスがあり、普及率が40%を越 えると、成長率への貢献は0.07%と高くなる事を発見 – Czernich, Falck, Kretschmer and Woessmann (2011) • 1996年から2007年の25ヶ国OECDデータを用いて分析を行っ たところ、10%のブロードバンド普及率上昇は、経済成長率を 0.9-1.5%増加させることを発見 2015/9/30 情報経済システム論 10 情報通信と経済成長 • TFPの変化要因の分解 – 内部効果:各企業内で達成された企業のTFP上昇によ る産業全体のTFPが上昇する効果 – シェア効果:基準時点においてTFPが高い企業がその 後市場シェアを拡大させることによるTFP上昇の効果 – 共分散効果:TFPを伸ばした企業の市場シェアがより 拡大することによる効果 • シェア効果と共分散効果の和を存続企業間の資源再配分効 果と呼ぶ – 参入効果と退出効果:基準時点の産業平均生産性よ り生産性の高い企業が参入したり、相対的に低い企業 が退出したりすることによる産業全体のTFP上昇効果 を表す 2015/9/30 情報経済システム論 11 情報通信と経済成長 宮川・深尾(2003)「労働全体の寄与が低下しているだけでなく、労働力の再配分効果が マイナスに働いて、IT資本の蓄積効果やTFP上昇の寄与を相殺している。建設業など 生産性の低い業種で就業者シェアが増加。財政拡張の負の効果。」 2015/9/30 情報経済システム論 12 情報通信と経済成長 出典:Fukao, Miyagawa, Mukai and Shinoda (2009) 2015/9/30 情報経済システム論 13 情報通信と経済成長 出典:Fukao, Miyagawa, Mukai and Shinoda (2009) 2015/9/30 情報経済システム論 14 情報通信と経済成長 • クラウドと経済成長 – Etro (2009) • クラウドコンピューティングによりインフラへの固定投資 をサービスの従量利用に置き換える事で、企業の新規 参入が促進され、競争が促進される事により経済成長 率が高まる、というDSGEモデル(動学的確率一般均衡 モデル)を構築 • EUの国々のデータによる分析結果、 GDPに与える影 響は短期的(1年)には0.05%、中期的(5年)には0.3%で ある事が明らかになった • クラウドによる新規参入が促進される結果、卸売り・小 売り部門、次いで不動産部門での中小企業数が増加す る事が明らかになった。(イタリアで8万1千、スペインで5 万5千、フランス4万8千、ドイツ3万9千、イギリス3万5千、 ポーランド3万2千) 2015/9/30 情報経済システム論 15 情報通信と経済成長 • 参考文献 – Acemoglu, D. (2009). Introduction to Modern Economic Growth. Princeton and New York:. – Czernich, N., Falck, O., Kretschmer, T., & Woessmann, L. (2011). Broadband Infrastructure and Economic Growth. Economic Journal, 121(552), 505-532. – Etro, F. (2009). The Economic Impact of Cloud Computing on Business Creation, Employment and Output in Europe: An Application of the Endogenous Market Structures Approach to a GPT Innovation. Review Of Business And Economics, 54(2), 179-208. – Fukao, K., Miyagawa, T., Mukai, K., Shinoda, Y., & Tonogi, K. (2009). Intangible Investment in Japan: Measurement and Contribution to Economic Growth. Review Of Income And Wealth, 55(3), 717-736. – Roller, L., & Waverman, L. (2001). Telecommunications Infrastructure and Economic Development: A Simultaneous Approach. American Economic Review, 91(4), 909-923. 2015/9/30 情報経済システム論 16
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