200万都市が有機野菜で自給できるわけ

『200万都市が有機野菜で自給できるわけ』
4.4 市民社会とキューバのNPO
4.5 市場原理とバランスを求めて
06A2050H 木内 健司
4.4 市民社会とキューバのNPO
○地方分権化の推進と省庁再編
1980年代のキューバ⇒中央集権体制がはびこり、体制が硬直していた。
・1986年から、キューバ流ペレストロイカがスタート。
「新自由主義の下で物質的な欲望に支配される社会になることだけは避け
たい!」⇒経済的インセンティブに代わり、国民の意思決定への参加が
重視される。
・「選挙制度改革」が行われた。
1992年の選挙制度で州議員と国会議員が間接から直接選挙へとなった。
(市会議員は以前から直接選挙)
投票率は90%後半と非常に高い。
16歳から選挙権を持ち、不正な選挙が行われないようにチェックするのは
小学生というユニークなシステムがある。
・「行政改革」も行われた。
1、共産党組織の人員削減、国家中央行政機構の再編
2、財政赤字を削減するために国営企業への補助金を大幅に削減
○経済危機の中で急成長するNPO
・NPOの数は1989年から1993年にかけて急速に増加、1995年時点で
2200団体にも及ぶ。内容もスポーツ、科学技術、友好連帯、文化など
多岐にわたる。
・NPOが期待される理由
①政府の財源が逼迫するなかで、対処できないローカルな問題を解決する
ため、自助組織への市民の期待が高まった。
②海外からの援助などを受ける資金ルートの受け皿として、有益な仲介機
関としてNPOが役立つと政府が判断した。
○市民社会の活性化に欠かせないNPO
・NPOは、住民参加や海外との連携という面では政府機関以上に重要な役
割を果たしている。
例:アクタフ(都市農業や有機農業に深く関わるNPO)
⇒1987年に団体許可を受け、有機農業運動を展開してきた。
自由な研究をしたい人、国で働きたくない人、国を退職した人などがス
タッフとなり、農家のために研究、技術指導、問題解決の支援を行ってい
る。国からの補助金はもらわず、独立採算で運営。
1988年12月にはスウェーデンからオルタナーティブノーベル賞として知
られる「ライト・ライブリーフッド賞」をキューバで初めて受賞。
○官製市民組織があればNPOはいらない?
・今でこそ社会的な認知が高まったNPOであるが、経済危機以前は政府か
ら国家破壊活動を行う危険分子とみなされていた。
・海外援助は「外国投資国内協力省」が統制⇒NPOが援助を受けるには省
の許可が必要。さらに、省の高官はNPOの存在に否定的。
・市民がNPO団体を設立するのも大変
⇒登録は法務省が行い、1985年の民法第54条「協会とその規制」に基づ
き、7つの用件を満たさなければ許可されない。
ちなみに、アメリカでは・・・
NPOの設立は、1枚の申請書に団体名、目的、住所、法的代理人を書き込
み、30ドルの手数料を支払うだけですむ。
・キューバでNPOが不要とされてきた理由
⇒官製の巨大組織の存在
例:革命防衛委員会、キューバ女性連盟など・・・
・しかし、こうした組織だけでは経済危機で直面した諸問題を解決できなかっ
た⇒NPOの台頭
○海外NGOとの連携とインターミディアリーNPO
・1990年以降、ボトムアップ型のNPOが数多く登録されるようになり、次第にN
POの必要性が当局にも受け入れられるようになった。
・キューバでNPOが急成長⇒その背景には海外NGOからの援助の役割が大
「キューバとの協力会議」が1991年、1993年に開催
⇒海外NGOからの資金援助を獲得
また、海外のNGOは援助金がNPOの自立にどれだけつながったかをチェックし、
より自立できていれば、さらに追加援助を行うという寄付戦略をとった。この
戦略がNPOの独立に大きくつながった。
・中間(インターミディアリー)NPOも発達した。
中間NPO⇒地域で直接的な活動を行うNPOに対して、経営マネジメントや人材
育成などの支援を行ったり、あるいは関連するNPO同士やNPOと行政との
橋渡しを行う。
例:ヨーロッパ研究センター
⇒ヨーロッパの統合、ヨーロッパのNGOなどの研究
⇒海外とのネットワークの蓄積が海外NGOとのコラボレーションを取り結ぶう
えで有利に働いた。
○行政、官製巨大NPO、市民NPOのパート
ナーシップ
・今、キューバでは従来のトップダウン型の官製巨大市民組織に加えて、ボ
トムアップ型の多数のNPOが誕生。
・ボトムアップ型のNPOとトップダウン型の官製NPOとの境界も明確ではな
い。⇒トップダウン型のNPOが草の根の市民団体と連携して活動してい
る場合もあれば、ボトムアップ型のNPOが国と密接な関係を持っている
場合もある。
・要するに、地方分権化の動きの高まりと海外からの援助で、今キューバで
は次々とNPOが誕生し、それが市民社会の強化にもつながっている。
・「行政、既存の巨大官製NPO、そして新しく誕生した市民型のNPOのそれ
ぞれが、果たすべき役割を分担しながら、パートナーシップで連携してい
くことが大切。
4.5 市場原理とのバランスを求め
て
○ソ連流のモノ重視経済の破綻
・革命直後の1960年代
⇒モノよりもモラルに重きを置く「ゲバラ主義体制」
・1970年⇒カストロがソ連をモデルとした体制を導入
このソ連スタイルの計画経済と管理システムの採用はキューバ経済を回復
させる。ソ連の援助もあって、1980年代にキューバ経済は、平均年率7.
3%という驚異的な率で高度成長する。
・ところが、市場メカニズムを軽視した中央指令型の計画経済における問題
が発生⇒利益をあげる必要なし、給料の差がなく労働意欲も向上しない、
生産性は低く非効率、品質は度外視など
・有用なモノを生産する代わりに、年間計画を達成することのほうが優先
例:両側の橋梁は完成しているのに、それをつなぐ間の橋がない。
○モラルによるボランティア動員とその失敗
・1986年からソ連に先駆けて、「失敗の修正」として知られるキューバ流ペ
レストロイカがスタート。
⇒肥大した官僚組織を簡素化し、あわせて地方分権を進めることで、より地
域レベルでの意思決定を行うもの。ゲバラ主義も復活。
・改革に着手する中で経済危機を迎える
⇒その解決策として出てきたのがボランティアであった。
・労力不足をまかなうために、政府は都市住民のボランティアからなる農業
支援隊を結成。
・派遣団⇒優先度が高い作業をハードスケジュールで長時間こなすのものだ
が、その仕事の間は、もとの仕事先から給料やボーナスが支払われ、か
つ派遣団にいる間は、望ましい生活条件を与えられるという制度。
この制度が、緊急的に農業へと適用された。
・こうした努力の結果、確かに食糧生産は増加。
しかし、食料輸入の低下を埋め合わせるまでにはいたらず、食料は不足し
続けた。
○痛みの伴わない構造改革
・ラテンアメリカでは、1982年の経済危機でIMFや世界銀行から「構造改
革」への働きかけもあったこともあり、あらゆる政府が、自由化政策を採
用するようになった。
⇒1990年代には毎年平均2.5%という高率で農業生産が向上
⇒しかし、輸出向けの市場や海外資産が成長しているだけで、自由化に伴う
輸入食料価格の下落で多くの小中規模の農家はダメージを受け、失業
者も増え、不平等が拡大した。
・キューバの場合は「痛みを伴わない構造改革」を進めている。
キューバの市場原理の導入は、国営公団や国営企業への無駄な補助金を
断ち切って効率性を高めるという「あるべき」成果をあげながら、一般国
民の間での貧富の差の拡大という、社会問題を引き起こすことにつな
がっていない。
なぜか?⇒ミクロ経済面でコミュニティレベルでの地域経済の回復を図りつ
つも、あわせてマクロ経済面での明確なセーフティネット戦略を政府が
持っているから。
例:政府はNPOや国営公団に自己管理や独立採算制を奨励し、民間レスト
ラン経営など起業家精神を持った市民の活動を鼓舞しながら、同時に
しっかりと規制の網を張り、社会的な平等が崩れないようにバランスを
保っている。
・社会的弱者を守るため、廉価な配給システムが保たれ続けていることも重
要。
キューバは最悪時にも食料プログラム(老人、子ども、妊婦、子どもを持っ
た母親向け)と配給を通じた食料分配システムという2つの政策を通じて
食糧危機を回避した。
・医療、教育はいまだに無料のままである。
○守るべき社会主義の理念
・「社会主義は生産面から見て効率が悪いという批判がある。仕事や収入を
失うことへの恐怖心は生産への原動力を生み出す。」
これに対するブランコさんの反論
⇒「恐怖心が人々に働く意欲を起こさせるのはそのとおりで、資本主義的な
手法である。もちろん、社会主義が別の形の動機づけを持たなければな
らないことは否定しない。キューバ革命は人々が働く動機について、モラ
ルであれ、物質であれ、飴については検討しいてきたが、鞭については
十分に論じてこなかった。しかし、効率性を上げるというためだけに、ベー
シック・ヒューマン・ニーズを保障することから社会主義が引き下がるべき
だとは思わない。分配については需要と供給の法則を無条件には信じな
いし、市場の力が物事を決定すべきだとは考えない。人間の尊厳は市場
より上にあり、暮らしの権利は自由市場よりも重要。だから、他の分野で
は柔軟に対応するとしても、富の分配については、社会主義の原理にし
たがって維持していこうと考えている。」
・カストロ⇒社会主義を捨てるつもりはない
・キューバの人たちは、今地球上できわめてユニークな社会の構成員の一
員であり、政治的な実験の場の中にいることを認識している。
⇒このことがキューバの人々のプライドの源にもなっている。
まとめ
・キューバでは様々なNPOが誕生しており、その重要
性も高まっている。それぞれのNPOのパートナー
シップが大切。
・キューバでは、ベーシック・ヒューマン・ニーズが重要
視され、現在でも社会主義をとっており、良い面と悪
い面があり、キューバはこの体制を変えるつもりは
ない。