スライド 1

内科医から見た特定健診・特定保健指導
神奈川県歯科医師会
生活習慣病対策地域保健担当者研修会
神奈川県医師会 公衆衛生担当理事
羽鳥 裕
川崎市幸区鹿島田1110-1
(医)はとりクリニック
[email protected]
044-522-0033
2009.3.22
メタボリック・シンドロームの概念を導入
メカニズムを理解すれば、保健指導で予防が
可能
保健指導の対象者が明確になる
– 内臓脂肪の改善で予防できる対象を絞り込むこと
ができる
– リスクの数に応じて保健指導に優先順位をつける
ことができる
腹囲という分かりやすい基準により、生活習慣
の改善による成果を自分で確認・評価できる
2
開始
St ep 1
男:腹囲≧85cm
女:腹囲≧90cm
はは
ははは
ははは
BMI≧25
はは
St ep 2
①血糖 FBS≧100mg/㎗ または HbA1c≧5.2% または、薬物治療を受けている
②脂質 TG数が150mg/㎗ または HDL-chol<40mg/㎗
または、薬物治療を受けている
③血圧 収縮期血圧≧130mmHg または 拡張期≧85mmHg
または、薬物治療を受けている
④問診 喫煙歴あり
①血糖 FBS≧100mg/㎗ または HbA1c≧5.2% または、薬物治療を受けている
②脂質 TG数が150mg/㎗ または HDL-chol<40mg/㎗
または、薬物治療を受けている
③血圧 収縮期血圧≧130mmHg または 拡張期≧85mmHg
または、薬物治療を受けている
④問診 喫煙歴あり
St ep 3
異常が3つ以上あるもの
異常が2つ以上あるもの
異常が2つあるもの
異常が1つあるもの
異常が1つあるもの
異常がないもの
異常がないもの
St ep 4
肥満のない糖尿病予備
群は拾い出せない。
前期高齢者?
(65~74歳)
積積積積積
3
積積積積積積
積積積積
特定健康診査の項目
必須項目
○ 質問票(服薬歴、喫煙歴 等)
○ 身体計測(身長、体重、BMI、腹囲)
○ 理学的検査(身体診察)
○ 血圧測定
○ 血液検査
・ 脂質検査(中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール)
・ 血糖検査(空腹時血糖又はHbA1c)
横浜国保では両方実施
・ 肝機能検査(GOT、GPT、γーGTP)
○ 検尿(尿糖、尿蛋白)
横浜国保では CRTNN,UA、尿潜血 追加あり
詳細な健診の項目
○ 心電図検査
横浜国保では、 個別方式 集団方式
心電図 眼底 について調査依頼
○ 眼底検査
○ 貧血検査(赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値)
注)一定の基準の下、医師が必要と認めた場合に実施
4
保健指導判定値と受診勧奨値
項目名
保健指導
受診勧奨
収縮期血圧
130
140
日本高血圧学会
拡張期血圧
85
90
日本高血圧学会
150
300
日本動脈硬化学会
HDL-コレステロール
39
34
日本動脈硬化学会
LDL-コレステロール
120
140
日本動脈硬化学会
空腹時血糖
100
126
日本糖尿病学会
HbA1c
5.2
6.1
日本糖尿病学会
AST(GOT)
31
61
日本消化器病学会
ALT(GPT)
31
61
日本消化器病学会
γGTP
51
101
日本消化器病学会
Hb 男
13.0
12.0
WHO、人間ドッグ学会
Hb 女
12.0
11.0
WHO、人間ドッグ学会
中性脂肪
根拠
標準的な健診・保健指導プログラム
• 健診の標準化
– 健診項目、判定基準の標準化により保健指導の対象者を客観
的に絞り込む
– 健診データの電子的提出様式を標準化
• 保健指導の標準化
– 階層化基準の標準化などにより保健指導の対象者に優先順位
をつける
– アウトソーシング基準による質の高い実施体制の確保
– 保健指導データの電子的提出様式を標準化
• データ分析・評価の標準化
– 保健指導の成果を客観的に評価できる
(健診データの改善、リスクの減少、該当者・予備群の減少等)
– 保健師・管理栄養士等の仕事を客観的に評価することができる
6
医療保険者に健診・保健指導を義務化
• 40歳~74歳の被保険者・被扶養者が対象
– 40歳未満、75歳以上は努力義務(75歳以上は後期高齢者
医療制度で対応)
– 対象者を明確に把握できる
– 健診未受診者を把握し、発症予防ができる
• 健診・保健指導のデータ管理
– レセプトと突合することにより医療費との関係を分析できる
– 治療中断者、治療未受診者を把握し、重症化防止ができる
• 特定健康診査等実施計画の策定
– 健診実施率、保健指導実施率、
メタボリック・シンドローム該当者・予備群の減少率を明記
– 後期高齢者医療制度への支援金の加算・減算に反映
健康保険の健診なので受診券の他、保険証の提示も必要
7
(2)保険者別の参酌標準(国が示す基準)
○ 各保険者は、実施計画における平成24年度の目標値を、国の基本指針が示す参酌
標準に即して設定
○ 毎年度の目標値は、各保険者がそれぞれの実情を踏まえて、円滑に平成24年の目
標値に至るよう、設定
健診=保健指導が対等な関係に
全国
項目
参酌標準(案)
設定理由等
目標
被扶養者比率
80%
被保険者分については、保
単一健保 が25%未満※
当該保険者の実際 険者の種別で3区分し(被扶
被扶養者比率
共済
の被保険者数・被扶
が25%以上※
養者は分けない)、それぞれ
養者数で算出
①特定健康診
70% 総合健保
の目標実施率を各保険者に
査の実施率
おける対象者数(推計値)に
政管(船保)
70%
乗じて(加重平均値を基礎
国保組合
に)算定(次ページに詳細)
市町村国保
65%
健診の場合の事業主健診
②特定保健指
45%
45%
のような実施率に影響する
導の実施率
明確な要因はない
保健指導実施率の目標を一
③メタボリック
律とすることとあわせ、保健
シンドロームの
10%
10%
指導の成果である該当者及
該当者及び予
び予備群の減少率も一律と
備群の減少率
するのが合理的
※単一健保・共済の中でも、被保険者・被扶養者の構成が平均的な割合と大きく異なる保険者(被扶養者比率の高い保険者)は、
その比率に即した参酌標準とする。
•
•
•
なぜ、いま、メタボリックシンドロームが標的なのか?
なぜ、基本健診がなくなって、特定健診・特定保健指導なのか?
なぜ、国の事業でなく、保険者に責任をもたせるのか?
•
•
•
開業医の日常診療のなかで特定健診はできるか?
開業医で、特定保健指導 動機づけ支援、積極的支援 はできるか?
昼休み、 夜間、 土日 を想定しているのか?
•
後期高齢者の特定健診はどうすればよいか?
•
•
•
後期高齢者の保険者からの医療支援の加算減算とは?
無保険者は検診を受けられるのか?
介護保険との関係は?
•
会社検診 がん検診 などとの関係は?
•
開業医は 健診・保健指導を受託すべきか?
•
データの電子的収集報告 統一フォーマットは? 厚生労働省版、日医版は?
•
オンラインレセプトと特定健診との関連は?
•
レセプト突合 医療保険への影響は? 特定健診未受診者、治療中断者は保険を享受で
きるのか?
最新の科学的知見に基づいた保健事業に係る調査研
究班報告(2005/08 班長 福井次矢)
1
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項 目
一般的な問診
飲酒に関する問診
喫煙に関する問診
うつ病を調べる問診
身長・体重の測定
血圧の測定
視力検査
聴力検査
身体診察
聴診
腹部診察
心電図測定
胸部X線
評 価
明確な証拠はない
効果を示す十分な証拠があった
効果を示す十分な証拠があった
健診後の指導や治療の体制整備があれば有効
減量指導を充実充実すれば有効
効果を示す十分な証拠があった
勧めるだけの証拠はない
勧めるだけの証拠はない
明確な証拠はない
明確な証拠はない
ほとんど証拠がない
虚血性心疾患の発見には無意味
肺がん発見に有効との証拠なし
コレステロール低下には役立つが心筋梗塞予防
コレステロール検査
に有効との証拠なし
肝機能検査(GOT、GPT、γGTP)実施の意義を再検討すべきだ
糖尿病発見には不適切
尿検査
腎不全などを防ぐ証拠はない
血球数
有効性を示唆する十分な証拠はない
C型肝炎検診
判定保留
B型肝炎検診
判定保留
糖負荷試験
健診後の指導や治療の体制整備があれば有効
健康増進法に秘められたねらい
国が個人の健康問題に介入、国民の義務
 第2条
国民は、健康な生活習慣の重要性に対する
関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健
康状態を自覚するとともに、健康の増進に努め
なければならない
11
12本にわたる「医療改革法」
1. 健康保険法(船員保険法等含む)
2. 国民健康保険法
3. 老人保健法(→高齢者の医療の確保に関する法律)
4. 介護保険法
5. 社会保険医療協議会法
6. 医療法
7. 医師法
8. 歯科医師法
9. 保健師助産師看護師法
10.薬剤師法
11.薬事法
12.外国人医師等の臨床修練にかかわる医師法等の特例
医療制度構造改革のポイント
将来の医療費の伸びを抑えることが重要
今回の改革のポイントは以下の3つ
– 健診・保健指導にメタボリック・シンドロームの概念
を導入
– 糖尿病等の生活習慣病有病者・予備群25%の
削減目標を設定
– 医療保険者に健診・保健指導を義務化
13
各種の健診・検診と対象となる年齢
20
30
40
50
60
65
70
75
80
労働安全衛生法に基づく事業所健診(労働者)
人事院規則に基づく健診(公務員)
学校保健法に基づく学校健診(学生・教職員等)
被爆者援護法に基づく健診
介護保険法による生活機能評価
以上は高齢者医療確保法の特定健診より優先される
特定健康診査・特定保健指導(高齢者医療確保法)
後期高齢者医療制度
除外対象者:妊産婦・刑務所入所中・長期入院者・生活保護世帯*
*生活保護世帯者は健康増進法に基づいて市区町村が実施する
肝炎ウイルス検診
以下は、
平成19年度までは各自治体の判断で行わ
れているが、平成20年度からは健康増進法
に基づき行われる
胃がん検診
肺がん検診
大腸がん検診
乳がん検診(40歳以上の偶数歳の女性)
子宮がん検診(20歳以上の偶数歳)
骨粗鬆症検診(45/55/60/65/70歳)
14
歯周疾患検診(60/70歳)
の保健事業
広域連合による努力義務
医療計画主要9事業
◆医療計画制度の見直しを通じた医療機能の分化・連携の推進
⇒都道府県が20年度に策定する新しい医療計画に、4疾患と5事業の医療提供体制を明記
【4疾患】
◇がん
◇脳卒中
◇急性心筋梗塞
◇糖尿病
※患者数が多く、かつ、死亡率
が高い等緊急性が高いため、
限られた医療資源による効率
的な対応が必要。
※症状の経過に基づくきめ細
やかな対応が求められること
から、医療機関の機能に応じ
た対応が必要
4疾患
→発症から各種入院を経て在宅
復帰の流れつくり
【5事業=救急医療等確保事業】
(都道府県独自事業もプラス可)
◇救急医療
→医療圏ごとの救急医療期間役割と医療機能明記(医療機関
名)、搬送患者の状態明記、救護体制・消防機関との連携
◇災害医療
→都道府県内・外での災害発生時の医療対応、広域搬送方法、
広域災害・救急情報システムの状況、災害拠点病院の耐震
化、医薬品備蓄状況、災害時の訓練計画
◇へき地医療
→第10次僻地保健医療対策を踏まえた対応、搬送・巡回診療・
医師確保等僻地支援医療体制
◇周産期医療
→総合周産期母子医療センターと地域周産期医療の連携体制
(搬送含む)、自治体病院の医療資源効率
◇小児救急を含む小児医療
→夜間救急センター、入院救急医療期間、病院間搬送、電話
相談事業なと
医療制度改革法の概要
医療制度改革大綱の基本的な考え方
1.安心・信頼の医療の確保と予防の重視
【良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療
法等の一部を改正する法律】
(1)患者の視点に立った、安全・安心で質の高い医療が
受けられる体制の構築
・医療情報の提供による適切な選択の支援
・医療機能の分化・連携の推進による切れ目のない
医療の提供(医療計画の見直し等)
・在宅医療の充実による患者の生活の質(QOL)の向上
・医師の偏在によるへき地や小児科等の医師不足問題
への対応 等
(2)生活習慣病対策の推進体制の構築
・「内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)」の概念
を導入し、「予防」の重要性に対する理解の促進を図る
国民運動を展開
・保険者の役割の明確化、被保険者・被扶養者に対する
健診・保健指導を義務付け
・健康増進計画の内容を充実し、運動、食生活、喫煙等
に関する目標設定
等
①都道府県を通じた医療機関に関する情報の公表制度の創設
など情報提供の推進
②医療計画制度の見直し(がんや小児救急等の医療連携体制
の構築、数値目標の設定等)等
③地域や診療科による医師不足問題への対応(都道府県医療
対策協議会の制度化等)
④医療安全の確保(医療安全支援センターの制度化等)
⑤医療従事者の資質の向上(行政処分後の再教育の義務化等)
⑥医療法人制度改革
等
2.医療費適正化の総合的な推進
【健康保険法等の一部を改正する法律】
(1)中長期対策として、医療費適正化計画(5年計画)に
おいて、政策目標を掲げ、医療費を抑制(生活習慣病
の予防徹底、平均在院日数の短縮)
(2)公的保険給付の内容・範囲の見直し等(短期的対策)
3.超高齢社会を展望した新たな医療保険制度
体系の実現
(1)新たな高齢者医療制度の創設
(2)都道府県単位の保険者の再編・統合
医療計画・介護保険事業支援計画、
健康増進計画との調和が必要
①医療費適正化の総合的な推進
・医療費適正化計画の策定、保険者に対する一定の予防健診
の義務付け
・保険給付の内容・範囲の見直し
・介護療養型医療施設の廃止
②新たな高齢者医療制度の創設(後期高齢者医療制度の創設、
前期高齢者の医療費にかかる財政調整)
③都道府県単位の保険者の再編・統合(国保の財政基盤強化、
政管健保の公法人化等)
等
医療費適正化計画の仕組み(平成20年4月施行)
医療費適正化に関する施策についての基本的な方針
・都道府県医療費適正化計画の目標の参酌標準
・都道府県医療費適正化計画の作成、評価に関する基本的事項 等
全国医療費適正化計画(期間5年)
都道府県医療費適正化計画(期間5年)
・国が達成すべき目標
-国民の健康の保持の推進に関する目標
-医療の効率的な提供の推進に関する目標
・目標達成のために国が取り組むべき施策
・保険者、医療機関その他の関係者の連携・協力
・計画期間の医療費の見通し 等
・都道府県における目標 ※市町村と協議
-住民の健康の保持の推進に関する目標
-医療の効率的な提供に関する目標
・目標達成のために都道府県が取り組むべき施策
・保険者、医療機関その他の関係者の連携・協力
・計画期間の医療費の見通し 等
※健康増進計画、医療計画、介護保険事業支援計画との調和既定
進捗状況の評価(計画策定年度の翌々年度)
・全国医療費適正化計画、都道府県医療費適正化計画の進捗状況を評価、結果を公表
実績の評価(計画終了年度の翌年度)
・全国医療費適正化計画、都道府県医療費適正化計画の目標の達成状況等を評価、結果を公表
・厚生労働大臣は、都道府県と協議の上、適切な医療を都道府県間において公平に提供する観点
から見て合理的であると認められる範囲で、都道府県の診療報酬の特例を設定することが出来る
保険者又は
医療機関に
対する必要
な助言又は
援助
老人保健制度の改正について
-生活習慣病の予防健診を充実、他の各種健診や保健事業も引き続き漏れなく実施-
<現行>
老人保健法
高齢者に対する医療給付
(老人拠出金制度等)
市町村による健診等の
保健事業
公費による助成
老人保健法の目
的や趣旨を踏襲
しつつ、それを
発展させるもの
として「高齢者の
医療の確保に関
する法律」へと改
正
<改正後(平成20年度より)>
高齢者の医療の確保に関する法律
高齢者に対する医療給付
後期高齢者医療制度
前期高齢者医療財源調整
医療費適正化の推進
市町村等医療保険者による生活
習慣病健診・保健指導の義務化
※健保被扶養者も対象
公費による助成
法的に連携を担保
国民の健康増進に関する
基本方針等の作成
市町村による生活習慣
相談等の実施
健康増進法等
現在実施されてい
る各種事業を健康
増進法等により漏
れなく継続して実施
国民の健康増進に関する
基本方針等の作成
市町村による生活習慣
相談や生活習慣病以外の
健診等の実施
健康増進法等
連
携
を
と
っ
て
総
合
的
に
健
康
増
進
を
推
進
– 健診は、
– ①老健法に基づいて市町村が40歳以上の住民に対して行う成人病検診・基
本健診(多くの場合、市町村が地区医師会に委託し地元の開業医が実施)、
②労働安全衛生法に基づいて事業主が労働者に対して行う定期健康診断
(事業主が費用を負担し委託先を選定)、
– ③その他、個人レベルで実施する人間ドック等、に大別される。
– ①の基本健診を廃止し、平成20年4月より「特定健診・特定保健指導」制度を
開始する。
– 実施主体を市町村から各保険者に変え、健診実施の責任を保険者に持た
せる。対象者のうち40~74歳(約5,600万人)への実施は義務化し、40歳未満
と75歳以上への実施は努力規定とした。
– 今までの住民に対する基本健診は、「個別疾病の早期発見、早期治療」が
目的とされていた。そのため、健診結果は「異常なし」「要指導」「要精査」「要
治療」などと判定されていた。
新しい特定健診・特定保健指導は、その目的を「糖尿病等の生活習慣病の
有病者・予備群の減少を通しての医療費削減」とし、内臓脂肪型肥満(メタボ
リックシンドローム)をターゲットとしている。
– このため、基本的健診項目は大幅に単純化される。従来の健診で医師の判
断に委ねられてきた精密検診(心電図、眼底検査、貧血検査)も同時実施が
困難となる。保険者の承諾が必要とされたためである。
–
保険者が実施しデータを管理するために、医療機関を含めた全健診機関は
IT化が必須とされる。医療機関にとっては「高すぎるハードル」となっている。
特定健診の理念に対する疑問
–
この健診が国民の健康診断として意味があるかについて各方面か
ら疑問が提起されている。
–
最近メタボリックシンドロームについての議論が盛んであるが、4人
に1人が肥満者とも言われ、肥満に関連する医療費は約7兆円とも
言われる。英国でも近い将来3人に1人が肥満者になるとして、国家
事業として肥満対策に取り組み始めている。腹囲測定で明らかなよ
うに、新たに始まる健診・保健指導は「肥満者の特定とそのダイエッ
ト指導」と言っても過言ではない。
–
欧米で国家事業としているのは小児から青年までの肥満対策であ
り、40~74歳を対象者とするのは正しくない。国家事業であれば、逆
に小児期から40歳までを対象者とすべきである。
–
医療現場で見ていても、肥満者にならないためには小児に対する
「かかりつけ医による絶え間ない指導」が必要であり、20歳台ですで
に肥満者になってしまった者に対しては、さらに綿密なダイエット指導
が必要である。
なぜ医療機関ではなく健診事業者か
– この市場規模は「小さな検診車や狭い検診場所で実施できる。
– 特定健診だけで年間約3,000~4,000億円、特定保健指導においては毎年約1兆円」
–
医療機関での基本健診は廃止されるが、事業主が法律に基づいて行う定期健康診
断は今まで通りであり、事業主が近くの医療機関に委託していた定期健康診断も健診
業者が請け負うことになる。
–
–
健診業者は極めて類似した二つの健診を受注する。
特定保健指導システムは複雑、個人の医療機関では構築不可能なシステムである
だけでなく、その内容や金額も健診業者と保険者によって決定されるから、総額も見
当がつかない。
– 健診・健康増進産業界は毎年何兆円もの市場を手にすることになるであろう。
– 大病院にもビッグビジネスチャンス
– 特定健診での簡単な検査で1人7,000円を得る。
– それをきっかけに健診センターに囲い込み、人聞ドックへ誘導し、特定保健指導で収
入を上げる。
–
急性期対応型の大病院の外来が、財政的理由により健診業務に比重を移していく
のは機能分化の構想からは大きく乖離する。しかも、この支払いは、保険者が医療給
付費のために徴収した保険料から行われる。
医療費削減
–
多くの医療機関は診療報酬だけでは経営が成り立たず、健診業務を実施し
ている。
– 基本健診、定期健診などの収入が医療機関を支えてきた。
–
基本健診が廃止されれば、健診収入がゼロとなる。現在、日本の医療機関
は深刻な財政悪化に苦しみ、大病院ほど利益が生まれる方式の選択に奔走
–
今回の政策は、健診事業を民間に渡す「健診民営化」であるが、診療報酬
改定の歴史を振り返ると、財政的配慮なく医療機関の収入を営利目的の株
式会社(製薬会社や調剤薬局)に付け替えるたびに、医療機関は財政悪化し
ていった。
–
最近、介護制度において、「介護予防」に保険料を使用するのはどうか、と
いう意見もあるように、メタボリックシンドローム予防に対する医療費(保険
料)からの支出はどうかという意見もある。
かかりつけ医制度の崩壊
–
全国展開する健診業者が検診車で遠くからやってくる。レントゲンも心電図
もない健診項目であるから小型検診車でよい。診療所の近くで、身体測定や
採血などの“営業”をしていく。検診車だけでなく、調剤薬局やコンタクトレンズ
販売店スタイルの健診店舗が医療機関の周辺に林立するであろう。「かかり
つけ医制度の崩壊」という以外に言葉はない。
–
経済的基盤が脆弱化すれば、当然余裕を持った かかりつけ医であること
はできない。
– 健診のために投資はできない。もし、経過措置として健診機関と認定されても、
ほとんどの開業医は「保険者との健診データの電子的やり取り」「情報管理」
などのシステムを個人で構築することはできないため、健診機関から脱落し
ていく。
–
かかりつけ医においてさえ、検査をしようとしたら「もう少ししたら健診があり
ますから」とか「定期健康診断を受けたばかりですから」と拒否されることがあ
る。来年からは基本健診すらかかりつけ医ができなくなるのである。
– 開業医はデータを個人ごとに蓄積し、比較し、保健指導も実施してきた。「結
果を渡す」だけの医療機関などには翌年も健診に来るわけがない。
医師会組織の危機
–
今回の「数千億円の医療機関収入を民間企業に移す政策計画」は、5年ほど前、「社会保障も
市場原理主義で」という嵐の中で発想された数多くの案件の一つである。
– その中でこの健診民営化計画だけが実現したとすれば、日本医師会は大きなダメージを受ける。
–
–
「今までの健診体制のどこに問題があるのか」と、日本医師会は十分に問い詰めていない。
開業医を健診から外して、24時間対応の診療に限定させるべきという構想もあるかもしれない
が、大病院が健診業者化すると、その構図は大きく狂う。
–
開業医が健診を諦めなければならない時、最大の被害を受けるのは実は医師会組織である。
–
今まで在宅診療などは郡市医師会が中心となったシステムであったが、在宅療養支援診療所
制度においては、開業医は医師会に頼らず、個人でシステムを構築しなければならなかった。今
回の「健診は民間の健診業者に」という制度変更に、
– 「成人病検診の委託がなくなれば、開業医が医師会に入会・所属するメリットはなくなる」という意
見が広がりつつある。
開業医は医師会会員として「学校健診、集団検診、地域保健、予防注射、輪番制夜間深夜休
日診療、救急センター出動、災害時出動訓練」など数多くの義務を受け入れている。健診事業の
消失は、会員としてのモチベーションだけでなく医師会運営費をも直撃する。
–
ほとんどの郡市医師会は、成人病検診・基本健診を市町村から委託される際の委託料収入や、
会員からの会費にその運営費を頼っている。この時期に医師会は公益法人として認可されるた
めに、全会員一律の会費にせざるを得ない環境になる。
対応が遅れているため、医師会事業を中止できない医師会は、平成20年4月より会費を何倍
にも引き上げなければならないであろう。
– 会費はさらに高額となり、メリットがないと判断した一般会員も脱会する。地区医師会が実質的に
崩壊すれば、都道府県医師会、日本医師会も一気に壊滅していく。
現時点でも、「今年度も実施されている基本健診が来年度から廃止される」ことを国民や医療
機関が知らないように、郡市医師会から日本医師会に至るまで、事の重大性が理解されていな
い。
がん検診 受診者減った
読売2009/3/3
•
自治体のがん検診を受ける人が減っている。昨年4月に始まった特定健診・保健指導(メタボ健診)
が足を引っ張っている
•
香川県小豆島町では昨年9-12月の胃がん検診を受けた人が前年比6割減の484人となるなど、が
ん検診の受診者が激減した。
•
メタボ健診は昨年4月、高齢者医療法で自治体などに実施が義務付けられ、受診率が低いとペナル
ティーもある。町は保健師による地区説明会を開き、約3700人の全対象者に案内を送った。一方で、
がん検診は前年度行った個別案内をやめ、広報や防災無線で呼びかけただけだった。
•
「日本対がん協会」(本部・東京)の道府県支部に昨年4-12月の受診状況を尋ねたところ、全国約9
00市町村から委託を受けている肺がん検診の受診者の減少は、前年同期の11%にあたる約27万
人に上った。
•
メタボ健診の前身は、市町村の基本健診。職場で定期健診を受ける機会のない主婦や高齢者らも
対象で、がん検診と同時に行っていた市町村も多い。ところが、メタボ健診は保険事業の運営者が実
施。自営業者など国民健康保険加入者は市町村のメタボ健診を受けられるが、サラリーマンの妻は夫
が勤める会社の健康保険組合で受けることになった。
•
•
•
福島県猪苗代町は基本健診だった時と同様に、メタボ健診をがん検診と同じ会場で行った。すると、メ
タボ健診が受けられないサラリーマンの妻の中には「がん検診だけなら受けない」と怒って帰った人も
いた。がん検診も受けられなくなったと誤解して来なかった人もいたといい、胃がん検診の受診者は前
年から500人以上減った。
東北大の大内憲明教授(腫瘍(しゅよう)外科)は「混乱は予想されたが、ここまで影響が出るとゆゆし
き事態。メタボ対策ばかりでなく、がん検診も大切で、おろそかにしないためにも両立の工夫を」と話す。
高齢者の階層化の2つの流れ
特定健診と介護申請
高齢者(65歳以上)
65~74歳は義務
希望により申請
「基本健診」受診案内
市町村窓口に申請
基本チェックリスト
要介護認定
医師の総合判定
認定審査会
非該当
該当
自立
(非該当)
一般高齢者
特定高齢者
要支援1、2
要介護1~5
予防給付
介護給付
該当
事業に同意?
yes
事業参加者
26
介護予防事業(地域支援事業)
特定健診の業務の流れ
計画
特
定
健
診
・
特
定
保
健
指
導
計
画
の
立
案
・
策
定
特定健康診査
4
0
~
7
4
歳
のの
(
受年被
診1
回保
券の険
の健者
発康(
行診被
)査扶
養
者
を
含
む
)
契
約
医
療
機
関
等
で
施
行
保険者による階層化 特定保健指導 解析・評価
契約医療機関
腹囲・肥満度から
3リスク群に階層化
血圧・血液検査・
喫煙歴から
階層修正
動
機
づ
け
支
援
群
65~74歳は
積極的支援群から
動機づけ支援群へ
下方修正
積
極
的
支
援
群
服薬中の者は
保健指導対象
から除外
利用券
の発行
保面
健談
指に
よ
導る
繰
り
返
し
保
健
指
導
生活習慣病発症者の受診勧奨
受診
勧奨
保険者へのデータ電送
27
情
報
提
供
群
医療機関へ受診
契
約
医
療
機
関
か
ら
の
報
告
健
康
診
査
実
績
レ・
セ保
プ健
ト指
解導
析実
評績
価・
医
・
報療
告ア
ウ
ト
カ
ム
実
績
・
WHO基準
2型糖尿病、耐糖能障害、空腹時高血糖、インスリン抵抗性のうちいずれかと下記のうち2つ以上を満た
すもの
Risk Factor
Defining Level
腹部肥満
または ウエストヒップ比
男性
女性
トリグリセリド
BMI > 30 kg/m2
> 0.90
> 0.85
≥150 mg/dL
HDLコレステロール
血圧
< 35 mg/dL
< 39 mg/dL
≥ 140/≥ 90 mm Hg
尿中微量アルブミン
≥ 20 µg/分または30 µg/gCr
男性
女性
World Health Organization: Definition, Diagnosis and Classification
of Diabetes Mellitus and Its Complications. Part 1: 1999
ATP III基準
以下の危険因子が3つ以上あれば診断
Risk Factor
内臓肥満*
†)
(Waist circumference
男性
女性
トリグリセリド
HDLコレステロール
男性
女性
血圧
空腹時血糖
Defining Level
>102 cm (>40 in)
>88 cm (>35 in)
≥150 mg/dL
<40 mg/dL
<50 mg/dL
≥130/≥85 mm Hg
≥110 mg/dL
≠ BMI.
*Abdominal obesity is more highly correlated with metabolic risk factors than
is
†Some men develop metabolic risk factors when circumference is only marginally
increased.
JAMA. 2001; 285: 2486-249
メタボリックシンドロームの診断基準
内臓脂肪(腹腔内脂肪)面積 必須
ウエスト周囲径
男性≧85cm
女性≧90cm
(内臓脂肪面積 男女とも≧100cm2に相当)
上記に加え以下のうち2項目以上
高トリグリセライド血症
かつ/または
低HDLコレステロール血症
≧150mg/dL
<40mg/dL
男女とも
収縮期血圧
かつ/または
拡張期血圧
≧130mmHg
空腹時高血糖
≧110mg/dL
8学会策定新基準 2005年4月
≧85mmHg
日本内科学会雑誌 94(4), 188, 2005
メタボリックシンドローム の診断基準
NCEPによる脂質管理ガイドライン
日本における診断基準
(ATPⅢ)
1. 腹部肥満(ウエスト周囲径)
男性 > 102cm
女性 > 88cm
1. 腹部肥満(ウェスト周囲径)
男性 > 85cm
女性 > 90cm
2. 中性脂肪 ≧ 150mg/dl
3. HDLコレステロール
男性 < 40mg/dl
女性 < 50mg/dl
2. 中性脂肪 ≧ 150mg/dl
かつ/または
HDLコレステロール
< 40mg/dl
4. 血圧
3. 血圧 ≧ 130/ ≧ 85mmHg
≧ 130/ ≧ 85mmHg
5. 空腹時血糖値 ≧ 110mg/dl
(JAMA 2001; 285: 2486-2497)
5項目中3 項目以上を満たす場合を
メタボリック・シンドロームと定義
4. 空腹時血糖値 ≧ 110mg/dl
(日内会誌 2005; 94: 188-203)
1 に加え、2~3のうち2 項目以上満たす場合
を
メタボリック・シンドロームと定義
IDFのメタボリックシンドローム診断基準
新しいIDFの診断基準により、メタボリックシンドロームは以下のように定義さ
れる:
中心性肥満 (腹部周囲径 男性≧94cm、女性80cm )
上記に加え以下のうち2項目以上
•高TG血症: >150mg/dLまたは高TG治療
•低HDL-C血症: 男性<40mg/dL、女性<50mg/dLまたは低HDL-C治療
•高血圧: 収縮期血圧≧130mmHgまたは拡張期血圧≧85mmHgまたは
高血圧治療
•血糖高値または糖尿病: 空腹時血糖≧100mg/dLまたは糖尿病と診断、
FPG≧100mg/dLの場合、OGTTが推奨されるが、メタボリックシンドローム
の診断に必須ではない。
NCEP ATPⅢ M 102 F 88
民族別ウエスト周囲径の診断基準値
国/民族
ウェスト周囲径
欧州人
〔米国では臨床の場ではATPⅢの基準値(男性
≧102cm,女性≧88cm)を引き続き使用する見込
み〕
男性
≧94cm
女性
≧80cm
南アジア民族
(中国人、マレー人、インド人)
男性
≧90cm
女性
≧80cm
男性
≧90cm
女性
≧80cm
男性
≧85cm
女性
≧90cm
中国人
日本人
中南米民族
暫定的に南アジア民族の基準を使用
サハラ以南アフリカ民族
暫定的にヨーロッパ人の基準を使用
東地中海・中近東(アラブ)民族
暫定的にヨーロッパ人の基準を使用
•
•
•
•
Metsは、世界中で共通する概念はない
NCEP-ATPⅢに準拠、腹囲を修正した
日本人の心血管系リスク評価となるか
代謝異常、高血圧、肥満はそれぞれ伴いやすい異常であるので、
単一の評価のみでは不十分
• 大規模研究から、
• 脳血管は減少、心血管系の一次予防効果が予測の半分
• 糖代謝、脂質代謝に好ましくない降圧剤の長期使用が問題
• Reaven インスリン抵抗性を主 肥満が入っていない
• DeFronzo 米国の疫学調査から 肥満を加えた
–
–
–
–
IDF基準
腹囲 で、規定される内臓肥満が必須
別表で 国別基準 しかし、アジアの国でも 男性>女性
TG 高値と、 HDL低値は別々にカウント
– 端野壮瞥町研究 808名の男性は、新基準で21%
– 8年間の心イベント 1.9倍のリスク
– 非肥満者は、Mets ではないのか?
• 本文中に、腹囲が基準を満たさなくても、複数の要素があれば、M
etsに準じて観察
• 男性559 女性196の臍高レベル での CT 腹腔内内臓脂
肪100cm2
• 男性25%、 女性14%が、この腹囲計測値を満たす
• 日本人2型糖尿病 1424例 8年間
• 男性では、どちらも心血管系のリスク評価になった
• 女性では、WHO基準のみが評価
• フィンランド
• WHO基準を満たす群が、心血管系のリスクが2.6-3倍
• アメリカ
• San Antonio Heart Study
• 2815case 199 WHO 197 NCEP 509 Both
– アメリカでは、高度の肥満が多い
–
–
–
–
Shen
Metsを構成する病態には、インスリン抵抗性の寄与率が高い
インスリン抵抗性を簡便に測定する方法がない 疫学調査が困難
肥満がすべての最上流であるかは不明
Metsに 腹囲測定が必須であるか? 肥満がなくてもMetsが生じる
– ブラジル在住日系人では、NCEP基準では内臓肥満の14%しか診断
できない
– 男性90cm 女性80cmで、WHO基準のMetsに近くなった
– 日本人の腹囲と心血管系リスクの長期縦断調査の知見がない
– CTでの評価は、日本人のリスク評価につながるか?
– CTでの、内臓脂肪量の評価を男女とも同じ値で設定したことに無理が
なかったか?
– 腹囲よりも、BMI の方が妥当ではないか?
–
久代登志男
2005.8
34,臨床高血圧
医師による3つの判定
38
1
メタボリックシンドロームの判定
2
保健指導レベルの判定
3
医師の診断(従来型の判定)
1 基準該当
2 予備群該当
3 非該当
4 判定不能
1 積極的支援
2 動機付け支援
3 なし
4 判定不能
1 異常なし
2 要指導
3 要医療
4 要保健師指導
肥満者における脂肪吸引はインスリン作用
および冠動脈性心疾患の危険因子を改善しない
40
30
39.9
±5.6
60
*
55.3
36.0
40
±5.1
±13.6
20
10
0
0
BMI (kg/㎡)
腹部MRI
上段:脂肪吸引前
下段:脂肪吸引後
4000
3000
2000
脂肪吸引前
脂肪吸引後
平均±SD
*p<0.05、**p<0.01(vs 脂肪吸引前)
44.8
±10.0
20
外観
**
4000
3803
±661
脂肪量 (kg)
3000
**
2751
2000
±670
1000
1000
0
0
皮下脂肪体積 (㎤)
2653
±597
n.s.
2425
±643
内臓脂肪体積 (㎤)
腹囲が100cm以上の女性2型糖尿病患者7例(平均体重106.5kg)に脂肪吸引を行い、その9日
前および10~12週後での各指標を検討した.
Klein S. et al.:N.Engl.J.Med.,350,2549,2004.
日本のウエスト基準値のエビデンス
The examination committee of criteria for ‘obesity disease’ in Japan,
Japan Society for the Study of Obesity. New criteira for ‘obesity disease’
in Japan. Circ J 2002; 66: 987-992. (20-84 years old 1193 Japanese: 775
men and 418 women)
男性
300
肥満関連疾患の数
高血圧、脂質異常症、高血糖
VFA (cm2)
250
2.5
2.0
200
150
100
50
0
60
1.5
70
80
90
84.4
100
110
120
女性
300
1.0
VFA (cm2)
250
0.5
0
<10 20 40 60 80 100
140
180
内臓脂肪面積 (cm2)
200
260≤
200
150
100
50
0
50
60
70
80
ウエスト周囲径 (cm)
90
92.5
100
正しい腹囲の測り方
メタボリックシンドローム実践マニュアル 監修 松澤佑次 フジメディカル出版
腹囲の簡便な測定方法と測定省略の範囲
○腹囲の簡便な測定方法を明示及び周知
健診会場で腹囲を自己測定することや、着衣の上から測定すること
も可能とすることを明示し、周知を徹底する。(-1.5cm?)
経営者側からの抵抗?
※)現在の定期健康診断でも行われている、医師の診察又は心電図
検査時に腹囲を自己測定することも可能であり、新たな負担を強い
るものではない。
※)さらに、腹囲の測定自体を省略できる者を、医師の判断に基づき
省略することのできる者として告示する。
一 腹囲が内臓脂肪の蓄積を反映していない者(妊婦等)
二 腹囲の基準値を満たしていないと考えられる者(BMI20未満)
三 腹囲を測定し自己申告を行った者(BMI22未満)
『情報提供』『動機づけ支援』『積極的支援』に区分
特定保健指導の対象者の絞り込み
(①血糖100mg/dl以上 ②脂質 中性脂肪150mg/dl以上 HDLコレステロール
40mg/dl未満 ③血圧 収縮期130mmHg以上又は拡張期85mmHg以上)
腹囲
≧85cm(男性)
≧90cm(女性)
追加リスク
喫煙歴
①血糖②脂質③血圧
40-64歳
65-74歳
2つ以上
積極的支援
動機付け支援
1つ該当
あり
無し
上記以外で
BMI≧25
対象
3つ該当
2つ該当
積極的支援
あり
無し
1つ該当
動機付け支援
動機付け支援
動機付け支援
保健指導対象者の選定と階層化(その2)
ステップ4
必要度に応じ、階層化された保健指導(半強制的)
○服薬中の者については、特定保健指導の対象としない。
特定健診の実施は可能
(理 由)
○継続的に医療機関を受診しており、栄養、運動等を含めた必要な保健指導については、医療機関に
おいて継続的な医学的管理の一環として行われることが適当であるため。
(参 考)
○特定保健指導とは別に、医療保険者が、生活習慣病の有病者・予備群を減少させるために、必要と
判断した場合には、主治医の依頼又は、了解の下に、保健指導を行うことができる。
○市町村の一般衛生部門においては、主治医の依頼又は、了解の下に、医療保険者と連携し、健診
データ・レセプトデータ等に基づき、必要に応じて、服薬中の住民に対する保健指導を行う。
○前期高齢者(65歳以上75歳未満)については、積極的支
援の対象となった場合でも動機づけ支援とする。
(理 由)
①予防効果が多く期待できる65歳までに、特定保健指導が既に行われてきていると考えられること、
②日常生活動作能力、運動機能等を踏まえ、QOLの低下に配慮した生活習慣の改善が重要である
こと等
48
自院での高血圧症例解析対象例の背景
(472例)
年齢
(歳)
身長
(cm)
体重
(kg)
腹囲径
(cm)
BMI
SBP
(mmHg)
DBP
(mmHg)
mean
66.2
157.3
60.9
24.5
86.2
144.9
82.6
SD
11.98
9.74
13.00
6.49
9.66
13.50
11.39
mean
63.0
165.2
67.6
24.7
87.4
145.2
84.1
SD
12.39
6.57
12.34
7.16
9.88
14.05
12.53
mean
69.2
150.2
54.9
24.3
85.1
144.6
81.1
SD
10.72
5.93
10.32
5.80
9.31
12.96
10.03
全例(472)
男性(229)
女性(242)
メタボリックシンドローム該当率
(全472例における判定)
(%)
45
42.2
40
36.5
35
30
36.5
33.1
27.8
27.8
24.4
25
19.4
20
15
10
5
0
全体
男性
女性
19.4
日本基準
ATP-Ⅲ基準
IDF基準
JSH 2009
性別,年齢別の国民の血圧水準の推移
(mmHg)
180
170
160
収 150
縮
期
血 140
圧
130
(mmHg)
男性
年齢
30-39
40-49
50-59
60-69
70-
180
170
160
150
高血圧の疫学
女性
年齢
30-39
40-49
50-59
60-69
70-
140
130
120
120
110
110
100
100
1956 60 64 68 72 76 80 84 88 92 96 2000 04 1956 60 64 68 72 76 80 84 88 92 96 2000 04
58 62 66 70 74 78 82 86 90 94 98 02
58 62 66 70 74 78 82 86 90 94 98 02
年次
年次
OLM-1384
Ueshima H:J Atheroscler Thromb 2007;14:278-286より, 2002-2004年を追加し, 作図
JSH 2009
血圧値別にみた脳卒中発症率
高血圧の疫学
久山町第1集団,60歳以上の男女,580名,追跡32年,性・年齢調整
対1000人・年
80
* p<0.05(対<120/80mmHg)
*
61.7
60
発
症
率
40
*
23.8
*
23.8
140-159
または
90-99
160-179
または
100-109
20
7.3
血圧
12.5
0
収縮期(mmHg) <120
かつ
拡張期(mmHg) <80
OLM-1385
8.9
120-129
または
80-84
130-139
または
85-89
180≦
または
110≦
Arima H, et al:Arch Intern Med 2003;163:361-366より作図
JSH 2009
年齢群ごとの脳卒中リスクと収縮期血圧の関係
高血圧の疫学
64.0
≧70歳
32.0
60-69歳
ハ 16.0
ザ
ー
ド 8.0
比
と
95 4.0
%
信 2.0
頼
区
間 1.0
<60歳
0.5
0.25
110
120
130
140
150
160
170
日常収縮期血圧(mmHg)
OLM-1386
Lawes CM, et al: J Hypertens 2003; 21: 707-716
収縮期血圧2mmHgの低下から推計される
脳卒中死亡・罹患および日常生活動作(ADL)低下者数,
虚血性心疾患死亡・罹患者数,循環器疾患死亡者数の減少
血圧2mmHgの低下
JSH 2009
高血圧の疫学
脳卒中
虚血性心疾患
循環器疾患
死亡者の減少(人)
9127
3944
21055
罹患者の減少(人)
19757
5367
―
ADL低下者の減少(人)
3488
―
―
OLM-1389
健康日本21企画検討会・健康日本21計画策定検討会報告書.健康・体力づくり事業財団,2000,177pより改変
JSH 2009
診察室血圧測定法
血圧測定と臨床評価
1.装置
a.精度検定された水銀血圧計,アネロイド血圧計による聴診法が用いられる。精度検定された電子血圧計も使用可。*1
b.カフ内ゴム嚢の幅13cm,長さ22-24cmのカフを用いる。
[小児上腕周27cm未満では小児用カフ,太い腕(腕周34cm以上)で成人用大型カフを使用]
2.測定時の条件
a.静かで適当な室温の環境。
b.背もたれつきの椅子に足を組まずに座って数分の安静後。
c.会話をかわさない。
d.測定前に喫煙,飲酒,カフェインの摂取を行わない。
3.測定法
a.カフ位置は,心臓の高さに維持。
b.急速にカフを加圧する。
c.カフ排気速度は2-3mmHg/拍あるいは秒。
d.聴診法ではコロトコフ第Ⅰ相を収縮期血圧,第Ⅴ相を拡張期血圧とする。
4.測定回数
1-2分の間隔をあけて少なくとも2回測定。この2回の測定値が大きく異なっている場合には,追加測定を行う。
5.判定
a.安定した値*2を示した2回の平均値を血圧値とする。
b.高血圧の診断は少なくとも2回以上の異なる機会における血圧値に基づいて行う。
6.その他の注意
a.初診時には,上腕の血圧左右差を確認。
b.厚手のシャツ,上着の上からカフを巻いてはいけない。また厚地のシャツをたくし上げて上腕を圧迫してはいけない。
c.糖尿病,高齢者など起立性低血圧の認められる病態では,立位1分および3分の血圧測定を行い,起立性低血圧の有無を確認。
d.聴診者は十分な聴力を有する者で,かつ測定のための十分な指導を受けた者でなくてはならない
e.脈拍数も必ず測定し記録。
*1 最近では水銀の環境への影響,水銀柱の精度管理,アネロイド血圧計の精度の問題などから,電子血圧計の使用が勧められている
水銀計の代わりに電子式のアナログ柱を用いたハイブリッド血圧計の入手も可能である
自動巻き付け式血圧計を待合室などで使用する場合,十分な指導と管理のもとで測定されなければ大きな誤差が生じる
*2 安定した値とは,目安として測定値の差がおよそ5mmHg未満の近似した値をいう
OLM-1390
JSH 2009
各血圧測定法の特性
血圧測定と臨床評価
診察室血圧
自由行動下血圧
家庭血圧
測定頻度
低
高
高
測定標準化
困難
不要
可
短期変動性の評価
不可
可
不可
概日変動性の評価
(夜間血圧の評価)*
不可
可
可*
薬効評価
可
適
最適
薬効持続時間の評価
不可
可
最良
長期変動性の評価
不可
不可
可
再現性
不良
良
最良
白衣現象
有
無
無
* 夜間就眠時測定可能な家庭血圧計が入手可能である
OLM-1391
JSH 2009
家庭血圧の測定
1.装置
血圧測定と臨床評価
上腕カフ・オシロメトリック法に基づく装置
2.測定時の条件
必須条件
a.朝
起床後1時間以内
排尿後
朝の服薬前
朝食前
座位1-2分安静後
b.晩
就床前
座位1-2分安静後
選択条件
a.指示により
夕食前,夕の服薬前,入浴前,飲酒前 など
b.その他適宜
自覚症状のある時,休日昼間など,装置によっては深夜睡眠時測定も可
3.測定回数
1機会1回以上(1-3回)*
4.測定期間
できるかぎり長期間
5.記録
すべての測定値を記録する
* あまり多くの測定頻度を求めてはならない。
OLM-1392
注1:家庭血圧測定に対し不安をもつ者には測定させるべきではない
注2:測定値に一喜一憂する必要のないことを指導しなければならない
注3:測定値に基づき勝手に降圧薬を変更してはならない旨を指導しなければならない
JSH 2009
異なる測定法における高血圧基準(mmHg)
収縮期血圧
拡張期血圧
診察室血圧
140
90
家庭血圧
135
85
24時間
130
80
昼間
135
85
夜間
120
70
自由行動下血圧
OLM-1393
血圧測定と臨床評価
JSH 2009
降圧目標
血圧測定と臨床評価
診察室血圧
家庭血圧
若年者・中年者
130/85mmHg未満
125/80mmHg未満
高齢者
140/90mmHg未満
135/85mmHg未満
糖尿病患者
CKD患者
心筋梗塞後患者
130/80mmHg未満
125/75mmHg未満
脳血管障害患者
140/90mmHg未満
135/85mmHg未満
注:診察室血圧と家庭血圧の目標値の差は,診察室血圧140/90mmHg,家庭血圧135/85mmHgが,高血圧の診断基準である
ことから,この二者の差を単純にあてはめたものである
OLM-1394
JSH 2009
成人における血圧値の分類(mmHg)
分類
収縮期血圧
血圧測定と臨床評価
拡張期血圧
至適血圧
<120
かつ
<80
正常血圧
<130
かつ
<85
正常高値血圧
130-139
または
85-89
Ⅰ度高血圧
140-159
または
90-99
Ⅱ度高血圧
160-179
または
100-109
Ⅲ度高血圧
≧180
または
≧110
(孤立性)収縮期高血圧
≧140
かつ
<90
OLM-1395
JSH 2009
(診察室)血圧に基づいた脳心血管リスク層別化血圧測定と臨床評価
血圧分類
リスク層
正常高値血圧
Ⅰ度高血圧
Ⅱ度高血圧
Ⅲ度高血圧
130-139 / 85-89
mmHg
140-159 / 90-99
mmHg
160-179 / 100-109
mmHg
≧180 / ≧110
mmHg
付加リスクなし
低リスク
中等リスク
高リスク
中等リスク
中等リスク
高リスク
高リスク
高リスク
高リスク
高リスク
高リスク
(血圧以外のリスク要因)
リスク第一層
(危険因子がない)
リスク第二層
(糖尿病以外の1-2個の危険因子,
メタボリックシンドローム*がある)
リスク第三層
(糖尿病,CKD,臓器障害/心血管
病,3個以上の危険因子のいずれ
かがある)
*
OLM-1397
リスク第二層のメタボリックシンドロームは予防的な観点から以下のように定義する。正常高値以上の血圧レベルと腹部肥満(男性85cm以上,女
性90cm以上)に加え,血糖値異常(空腹時血糖110-125mg/dL,かつ/または糖尿病に至らない耐糖能異常),あるいは脂質代謝異常のどちらかを
有するもの。両者を有する場合はリスク第三層とする。他の危険因子がなく腹部肥満と脂質代謝異常があれば血圧レベル以外の危険因子は2個
であり,メタボリックシンドロームとあわせて危険因子3個とは数えない
JSH 2009
2剤の併用
降圧薬治療
Ca拮抗薬
利尿薬
β遮断薬
推奨される併用を実線で示す
OLM-1410
ARB
ACE阻害薬
高血圧治療におけるコントロール不良と
治療抵抗性の要因と対策
要因
JSH 2009
降圧薬治療
対策
血圧測定上の問題
小さすぎるカフ(ゴム嚢)の使用
偽性高血圧
カフ幅は上腕周囲の40%,かつ長さは少なくとも上腕周囲を80%取り囲むものを使用
高度な動脈硬化に注意
白衣高血圧,白衣現象
家庭血圧,自由行動下血圧測定
アドヒアランス不良
十分な説明により長期服用薬に対する不安を取り除く。副作用がでていれば,他剤に変更
繰り返す薬物不適応には精神的要因も考慮,経済的問題も考慮
患者の生活に合わせた服薬スケジュールを考える。医師の熱意を高める
生活習慣の問題
肥満の進行
過度の飲酒
カロリー制限や運動について繰り返し指導
エタノール換算で男性20-30mL/日以下,女性10-20mL/日以下にとどめるよう指導
睡眠時無呼吸症候群
CPAPなど(別項参照)
体液量過多
食塩摂取の過剰
利尿薬の使い方が適切でない
腎障害の進行
減塩の意義と必要性を説明,栄養士と協力して繰り返し指導
3種以上の併用療法では,1剤を利尿薬にする。血清クレアチニン2mg/dL以上の腎機能低下例で
はループ利尿薬を選択,利尿薬の作用持続を図る
減塩の指導と,上に述べた方針に従い,利尿薬を用いる
降圧薬と拮抗する,あるいはそれ自体
で血圧を上昇させうる薬物の併用や
栄養補助食品の使用
経口避妊薬,副腎皮質ステロイド,非ステロイド性抗炎症薬(選択的COX-2阻害薬を含む),カンゾ
ウを含む漢方薬,シクロスポリン,エリスロポエチン,抗うつ薬などを併用していれば,その処方医と
相談し,可能なかぎり中止あるいは減量する
各薬物による昇圧機序あるいは相互作用に応じた降圧薬を選択
作用機序の類似した降圧薬を併用
異なる作用機序をもち,かつ相互に代償反応を打ち消しあうような降圧薬を組み合わせる
二次性高血圧
特徴的な症状・所見の有無,スクリーニング検査→12章「二次性高血圧」 を参照
OLM-1411
JSH 2009
利尿剤を含む3剤で目標血圧に達しない場合の対応
降圧薬治療
 3つの作用カテゴリー間のバランスを図る
– 血管拡張薬:ACE阻害薬,ARB,ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬
– 心拍数抑制薬:β遮断薬,非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬
– 利尿薬(腎機能に応じた選択,作用持続を図る)
 増量または1日1回投与を2回に
 アルドステロン拮抗薬の追加(高K血症に注意)
 適切な時期に高血圧専門医に相談
 さらなる併用療法
– αβ遮断薬(ラベタロール,カルベジロール)の使用
– ジヒドロピリジン系,非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬の併用
– ACE阻害薬,ARBの併用(血清カリウム,クレアチニン値に注意)
– アルドステロン拮抗薬,サイアザイド系利尿薬,ループ利尿薬間の2剤併用
– α遮断薬,中枢性交感神経抑制薬の追加
– 直接的血管拡張薬ヒドララジンの追加(頻脈,体液量増加に対応が必要)
OLM-1412
Moser M, et al: N Engl J Med 2006;355:385-392より改変引用
GFRの推算式,
CKDの定義およびCKDのステージ分類
JSH 2009
臓器障害を
合併する高血圧
日本人のGFR推算式
eGFR=194×Cr
-1.094×年齢 -0.287(女性は×0.739)
CKDの定義
①尿異常,画像診断,血液,病理で腎障害の存在が明らか 特に蛋白尿の存在が重要
②GFR<60mL/分/1.73m2
①,②のいずれか,または両方が3か月以上持続する
CKDのステージ分類
病期ステージ
高リスク群
≧90
1
腎障害は存在するが,GFRは正常または亢進
≧90
2
腎障害が存在し,GFR軽度低下
60-89
3
GFR中等度低下
30-59
4
GFR高度低下
15-29
5
腎不全
<15
透析患者(血液透析,腹膜透析)の場合にはD,移植患者の場合にはTをつける。
OLM-1415
進行度による分類
GFR(mL/分/1.73m2)
重症度の説明
(CKDのリスクファクターを有する状態で)
慢性腎臓病(CKD)を
合併する高血圧の治療計画
継続
原疾患の治療
生活習慣の修正
JSH 2009
臓器障害を
合併する高血圧
腎機能,血清電解質,尿検査,尿のAlb/Crの測定*1
ACE阻害薬あるいはARB*2
 ACE阻害薬,ARBの続行
 降圧不十分なら利尿薬,
Ca拮抗薬の併用,用量調節,
他薬の併用
腎機能,電解質,尿の定期的検査
No
目標
血圧:130/80mmHg未満*4
尿Alb/Cr:30mg/g未満*5
300mg/g未満*6
OLM-1416
 Scr30%以上の上昇
 血清 K5.5mEq/L以上 Yes
 急激な血圧低下
専門医に相談
原因検索*3
*1 尿アルブミンの測定は保険診療上,「糖尿病性腎症疑い」でのみ認可さ
れている。それ以外では尿蛋白を測定する。
*2 血清クレアチニン値(Scr)2.0mg/dL以上では少量より投与開始
*3 原因:腎動脈狭窄,NSAID,心不全,脱水,尿路異常など
*4 尿蛋白1g/日では125/75mmHg未満
*5 糖尿病性腎症
*6 糸球体腎炎
JSH 2009
糖尿病を合併する高血圧の治療計画
他疾患を
合併する高血圧
治療開始血圧 130/80mmHg以上
生活習慣の修正・血糖管理と同時に薬物療法*
第一選択薬:ACE阻害薬,ARB
効果不十分
用量を増加
Ca拮抗薬,利尿薬を併用
効果不十分
3剤併用:ARBあるいはACE阻害薬,Ca拮抗薬,利尿薬
降圧目標 130/80mmHg未満
* 血圧が130-139/80-89mmHgで生活習慣の修正で降圧目標が見込める場合は,3か月を超えない範囲で生活習慣の
修正により降圧を図る
OLM-1417
特定健診に関して、
血圧130/85(勧奨値140/90)について
⇒2008日本高血圧学会よりhttp://www.jpnsh.org/teigen080117.html
1. 診断基準について
血圧130/85mmHg以上をもって基準値としているが、
この値は正常高値血圧の基準値で、世界的にも同一の基準が用いられており、
本邦においても正常高値血圧から心血管疾患も増加するなど
疫学的にはエビデンスが証明されているところで、この基準値を支持する。
4.受診勧奨について
本プログラムでは、140/90mmHg以上の高血圧を受診勧奨の基準値としている。
この値は高血圧の基準値であり、保険診療を考慮しても矛盾はない。
一方で、本邦の高血圧治療ガイドライン(JSH 2004)では、
140~159/90~99mmHgの軽症高血圧の場合、
糖尿病や腎障害の合併症がない場合には、
直ちに薬物療法をすすめているわけではない。
JSH 2004では、心血管リスクの層別化を行っており、リスク別の高血圧治療の方針あり。
低リスクの軽症高血圧では、3ヶ月の生活習慣改善
(食塩制限、肥満是正と運動療法)を行い、
その後血圧が140/90mmHg未満にならない場合に薬物療法に入るとしている
生活習慣の修正
食塩制限6g/日未満。
野菜・果実の積極的摂取*。
コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える。
適正体重の維持:BMI(体重(kg)÷[身長(m)]2)で25を越
えない。
運動:心血管病のない高血圧が対象で、有酸素運動を、毎
日30分以上を目標に定期的に。
アルコール制限;エタノールで男性は20~30mL/日
以下、女性は10~20mL/日以下。
禁煙。
生活習慣の複合的な修正はより効果的である。
*慢性腎障害や糖尿病がある場合には推奨されないこともある
JSH2004より
生活習慣の修正により見込まれる降圧*
(mmHg)
0
減塩
DASH食
見 -5
込
ま
れ
る -10
収
縮
期 -15
血
圧
低
下 -20
-25
JSH2004より
*JNC7に準拠
減量
運動
節酒
減塩:食塩摂取量6gの減少で換算
DASH食:野菜・果物の摂取、コレステロー
ルや飽和脂肪酸の摂取を控える
減量:体重10kgの減少で換算
運動:少なくとも30分の早歩きをほとんど
毎日施行
節酒:男性は、30ml/日、女性は15ml/日
以下のアルコール摂取
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版(日本動脈硬化学会)
診断基準(高コレステロール(LDL))
1997年
LDLコレステロール
2007年
適正域
200(120)mg未満
境界域
200~219mg
高値
220(140)mg以上
高中性脂肪血症
←*
←**
140mg以上
:150mg/dl以上
←*、#
300mg/dl以上 ←**
低HDLコレステロール血症:40mg/dl未満
35mg/dl未満
←*、#
←**
*:保健指導判定値**:受診勧奨判定値
# メタボの基準
2008-2009の変更点
糖尿病合併症とその対策の項に歯周病が加わった
8.糖尿病合併症とその対策 C.慢性合併症 5.歯周病
旧ガイド p71
新ガイド p74
● 記載なし。
記載内容(抜粋)
● 歯周病は糖尿病の重大な合併症のひとつ。
● 糖尿病患者では歯周病が重症化する。
● 血糖コントロールが不良だと歯周病が増悪しやすい。
● 歯周病が重症であるほど血糖コントロールは不良とな
る。また、局所治療にて歯周組織の慢性炎症を改善す
ると、インスリン抵抗性が軽減し、血糖コントロール状
態が改善することが報告されている。
9.専門家に依頼すべきポイント E.合併症があるとき 4.歯周病
旧ガイド p76
● 記載なし。
新ガイド p81
● 初診時に必ず歯科に依頼する。以後も定期的に歯
科を受診させ、必要に応じ治療を受けさせる。
日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2008-2009.より要約
参考)糖尿病患者では歯周病が高頻度でみられる
(1,000例当たりの例数)
76
80
歯
周
病
発
症
を
自
覚
し
た
患
者
数
60
40
2.6
28
(95%信頼区間
1.0,6.6)
20
0
非糖尿病患者
糖尿病患者
15歳以上のピマインデイアン2,273例を糖尿病者群と非糖尿病者群に分け、6年間にわたり2年ごと歯周組織の状態の変
化を観察した。方法は、「この2年間で歯周病が発症、もしくは進行したと思うか」という質問を参加者に投げかけ、それに
対し「はい」と答えた例数をカウントした。
Nelson R.G. et al., :Diabetes Care,13,836,1990.
糖尿病の診断基準(日本糖尿病協会)
従来基準(1982年)
新基準(1999年)
糖尿病型
糖尿病型
空腹時 140mg/dl以上
空腹時 126mg/dl以上 ←**
2時間値 200mg/dl以上
2時間値 200mg/dl以上
正常型
正常型
空腹時 110mg/dl未満
空腹時 110mg/dl未満 ←#
1時間値 160mg/dl未満
2時間値 140mg/dl未満
2時間値 120mg/dl未満
境界型
糖尿病型にも正常型にも属さない
*:保健指導判定値は100mg/dl
**:受診勧奨判定値
# メタボの基準
空腹時血糖検査の基準値を100に下げる理由
糖
空
腹
時
血
126mg
糖尿病
単独
IFG
IGT
+
IFG
110mg
正常
軽症
糖尿病
?
単独
IGT
140mg
200mg
=食後高血糖
糖負荷2時間
「空腹時血糖値の正常域に関する新区分」
• 日本糖尿病学会 2008年06月12日
• 日本糖尿病学会は、空腹時血糖値の正常域のうち、110mg/dLか
ら100mg/dLを「正常高値」とする報告を公表した。
•
改訂した場合のメリットとして次のことを挙げている――
• 日本人を対象とした研究の新しいデータによると、空腹時血糖値が
従来の正常域である「110mg/dL未満」であっても、「100mg/dL以上」
の場合は糖尿病への移行率が有意に高かった。
• 従来の正常域である空腹時血糖値「100mg/dL以上109mg/dL未満」
を対象に経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行うと25~40%が境界型
や糖尿病型に属する。
• 従って、110mg/dLから100mg/dLを正常高値にすることで、「これら
を見逃す可能性を低下させることができる」というもの。
HbA1c5.2%について
⇒厚労省特定健診ワーキンググループ報告より
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/02/s0219-4e.html
さらに、ワーキンググループでは、空腹時血糖100mg/dlに対応する
HbA1c値についても検討を行った。
HbA1cと空腹時血糖は良く相関しており、HbA1c 5.2%に対応する
空腹時血糖は100mg/dlであった。
また、健診受診者における空腹時血糖値100mg/dl以上の者の割合と
HbA1c 5.2%以上の者の割合はほぼ同数であった。
そこで、保健指導対象者を選定する上での判定値は、
HbA1cの下限値として、5.2%をとることが適当であると提言する。
日本内科学会雑誌94:188-203,2005
Diabetes Care26:3160-67,2003
Circulation112:2735-52,2005
HbA1c(空腹時血糖検査かいずれか)
・HbA1cは、糖尿病患者の血糖コントロールの指標として血糖より有用。
但し、糖尿病のスクリーニングとしては適さない
理由:HbA1c値と血糖値の関連に重なりが多い
検査法が標準化されていない
他の条件(貧血)などに影響される
メタボの診断ができない
・特定健診では 保健指導判定値 5.2%(空腹時血糖100mg)*
受診勧奨判定値 6.1%(空腹時血糖126mg)**
・国民健康栄養調査 糖尿病実態調査(老人保健法によるのと同じ)
糖尿病の可能性を否定できない 5.6%≦ <6.1%
糖尿病が強く疑われる
≧6.1%
・日本糖尿病学会(2006~2007)
6.5%以上でほほ糖尿病と診断してよい
耐糖能正常者の基準値 4.3~5.8%
情報提供
これは健診にふくまれる 検診結果と同時に行う
保険者が行う。 または 健診を行った医療機関で行う。
支援
●健診結果送付に合わせて情報提供用紙を送付する
形
●IT等活用されていれば、個人用情報提供画面を利用する
態
〈個別支援〉
●健診結果や健診時の質問票から対象者個人に合わせた情報の提供
が必要
支援 ●特に問題とされることがない者に対しては、健診結果の見方や健康
の保持増進に役立つ内容の情報を提供する
内
●健診の意義や健診結果の見方を説明する。また、健診結果の経年変
容
化をグラフでわかりやすく示す
●対象者個人の健康状態や生活習慣から、重要度の高い情報を的確
に提供することが望ましい
●身近で活用できる社会資源情報も掲載する
特定保健指導
動機付け支援
・
医師、保健師、管理栄養士の面接による
原則1回
初回面接 1回のみ 行動計画の作成
20分以上の個別支援、
80分以上のグループ支援(1グループ8名以下)
生活習慣の見直し振り返り 知識習得
生活習慣改善の必要性 改善しないときの不利益
初回面接を行ったものが、6ヶ月後の評価
面接、電話、FAX、メール、手紙など通信でも可 双方向であること
実績評価 身体状況 生活習慣変化
自らの評価
面接者による評価 対象者に伝える
腹囲、体重、血圧(自宅血圧計のある場合)
特定保健指導
積極的支援
支援A 160ポイント、支援 B20ポイント
・最低
○初回
面接による1回(20分以上の個別支援、80分以上の
グループ支援(1グループ8名以下)
喫煙、食事、運動、休養その他の生活習慣に関する調査 行動の変化
自らの評価
面接者の評価
将来の生活像 行動変容の必要性
具体的な実戦可能な行動目標を示す 優先順位も示す
○3ヶ月以上の継続的な支援
個別支援(個別の栄養・運動指導)30分(120ポイント)
グループ支援(集団の講義と実技)120分(120ポイント)
電話 A
10分(30ポイント)
電話 B
10分(20ポイント)
○6ヶ月後の評価(通信か継続的な支援の中で)
6月たっても継続的な支援中、脱落機器、中断者への再開の督促、支援が終了し
たときに評価、基金への報告が間に合わなければ次年度実績として申請する。
運動負荷テストの測定風景
脂質燃焼量曲線の1例(太い点線が最大脂質燃焼量)
G;糖質 F;脂質 HR;心拍数
30
200
G
F
HR
335.21 495.55 109.14
mg/min mg/min beat/min
100
HR
300
50
10,000
5,000
40
1,000
500
F G
50
糖質燃焼量
100
脂質燃焼量
time
0
日本医事新報. No.4301より引用
5
運動負荷開始
10
0
0
0
0
0
10
20
心拍数
15分
運動負荷中止
運動強度を徐々に強めていくと脂質燃焼量が増加する。しかし、ある程度の強度を超えると、
逆に急激に脂質燃焼量が減少する。坂本氏の検討では、40~50%の運動強度が、最も効率
よく脂質が燃焼される最大脂質燃焼量を呈していた。
ライフコーダによる運動療法
ライフコーダ
• 日常の身体活動状況(強度、持続時間、頻度)を200日のメモリー (EX)
• 加速度センサーがあるので運動強度を評価できる
• 厚労省策定運動指針に準拠したエクササイズレポート出力(PLUS)
• 総消費カロリー 基礎代謝量(身長・体重 体表面積から)
微小運動量(デスクワークなど) 運動量 歩数
身体活動レベルによる評価
• 活動時間分布 運動量・歩数 総消費量 1週間の運動状況
• 意識的運動日数
(身体活動レベル4以上連続10分以上 1日20分以上)
• テキパキ度 運動量と歩数の比較
• 活発度
運動強度4以上時間に対する歩数の比較 活動的な時間
運動で消費するエネルギー量
強度(メッツ)
運動時間
運動量(Ex)
ゴルフ
軽い
ジョギング
ランニング
4.0
3.5
6.0
8.0
7.0
10分
20分
60分
30分
15分
20分
1.3
1.3
3.5
3.0
2.0
2.3
速歩
水泳
4.0
8.0
10分
0.7
自転車
(軽い負荷)
テニス
(シングルス)
体重別エネルギー消費量 単位:Kcal
50Kg
25
60
55
130
130
90
105
60Kg
30
75
65
155
155
110
125
70Kg
35
85
75
185
185
130
145
80Kg
40
100
85
210
210
145
170
・身体活動の強さを、安静時の何倍に相当するかで表す単位で、座って安静にしている状態が1メッツ、
普通歩行が3メッツに相当する。
・エネルギー消費量は、強度(メッツ)×体重×時間(h)×1.05の式から得られた値から安静時のエネルギー量
を引いたもの。全て5kcal単位で表示。
厚生労働省 健康づくりのための運動指針2006から
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2002-2003年度合同研究班報告)
循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン
Guidelines for management of anticoagulant and antiplatelet therapy in cardiovascular disease (JCS 2004)
Ⅳ 捕捉
2. 抜歯や手術時の対応 ①
クラス IIa
1.抜歯はワルファリンを原疾患に対する至適治療域にコントロールした上で,ワ
ルファリン内服継続下での施行が望ましい。
2.抜歯は抗血小板薬の内服継続下での施行が望ましい。
3.体表の小手術で,術後出血が起こった場合の対処が容易な場合は,ワルファ
リンや抗血小板薬内服継続下での施行が望ましい。
4.体表の小手術で出血性合併症が起こった場合の対処が困難な場合,ペース
メーカーの植え込み,及び内視鏡による生検や切除術等への対処は大手術
に準じる。
5.大手術の場合は,手術の3~5日前までにワルファリンを中止し,半減期の短
いヘパリンに変更して術前の抗凝固療法を行なう。活性化部分トロンボ時間
(APTT) が正常対照値の1.5~2.5倍に延長するようにヘパリン投与量を調整
する。手術の4~6時間前からヘパリンを中止するか,手術直前に硫酸プロタミ
ンでヘパリンの効果を中和する。いずれの場合も手術直前にAPTTを確認して
手術に臨む。術後は可及的速やかにヘパリンを再開する。病態が安定したら
ワルファリン療法を再開し,INRが治療域に入ったらヘパリンを中止する。
笠貫 宏ほか:Circulation,Journal,68(Suppl.IV),1153-1230,2004(一部改変)
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2002-2003年度合同研究班報告)
循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン
Guidelines for management of anticoagulant and antiplatelet therapy in cardiovascular disease (JCS 2004)
Ⅳ 捕捉
2. 抜歯や手術時の対応 ②
クラス IIa
6. 大手術の場合,アスピリンは手術の7日前に,
チクロピジンは手術の10~14日前に中止する。
シロスタゾールは3日前に中止する。その間の血
栓症や塞栓症のリスクが高い症例では,脱水の
回避,輸液,ヘパリンの投与などを考慮する。
7. 緊急手術時の対処は,出血性合併症時の対処
に準じる。
笠貫 宏ほか:Circulation,Journal,68(Suppl.IV),1153-1230,2004(一部改変)
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2002-2003年度合同研究班報告)
循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン
Guidelines for management of anticoagulant and antiplatelet therapy in cardiovascular disease (JCS 2004)
Ⅳ 捕捉
2. 抜歯や手術時の対応 ①
ワルファリンを休薬とすると血栓性・塞栓性疾患発症のリスクが上昇し,一度発症すれば病
態は重篤で予後不良である場合が多い1)2)。過去の報告をまとめた研究によれば,ワルファリ
ン休薬100回につき約1回の割合で血栓塞栓症が発症する2)。
PT-INR2.0~4.0であれば,ワルファリン継続下でも重篤な出血性合併症を伴わずに抜歯で
きることが前向き研究で示されている3)4)。またINR2.5以下での抜歯を勧める報告もある5)~7) 。
抗凝固療法を突然中止すると,リバウンド現象として一過性に凝固系が亢進し,血栓塞栓
症を誘発する可能性が示唆されている 8)。このリバウンド現象の有無に関しては異論もある
が,少なくとも,ワルファリンを中止すれば,ワルファリン療法導入前に個々の患者が有して
いた凝固亢進状態が再現される可能性は高い8)9)。
本邦歯科医師より報告された最近の研究報告や総説には,抜歯時には抗凝固薬を含めて
抗血栓薬を中止しないようにと記されている10)~13)。
本邦では依然として抜歯前にワルファリンの休薬を指示する医師が少なくないが 14),以上
の報告を踏まえると,歯科医と連絡を取り合い,十分な情報提供を行ってワルファリン内服
継続下での抜歯を依頼すべきであると考えられる。
日本消化器内視鏡学会のガイドラインには,内視鏡による切除術を行う場合はワルファリ
ンや抗血小板薬(アスピリン,チクロピジン,シロスタゾール)を2週間程度休薬し,待機的に
施行することが望ましいと記されている15)16)。
1) 矢板正弘他;老年医誌, 40(Supple), 122, 2003.
2) Wahl MJ; Arch Intern Med, 158(15), 1610-1616, 1998.
3) Devani P et al; Br J Oral Maxillofac Surg, 36(2), 107-111, 1998.
4) Evans IL et al; Br J Oral Maxillofac Surg, 40(3), 248-252, 2002.
5) Loeliger EA et al; Haemostasis, 15(4), 283-292, 1985.
6) 青崎正彦他;JIM, 3, 419-421, 1993.
7) 青崎正彦他;ワーファリン訂正使用情報のQ&A.
8) Palareti G et al; Thromb Haemost, 72(2), 222-226, 1994.
9) Agnelli G et al; N Engl J Med, 345(3), 165-169, 2001.
10) 藤本耕二他;阪大歯学雑誌, 40, 400-404, 1995.
11) 北村龍二他;日口外誌, 47, 1096, 2001.
12) 金田敏郎;日歯医師会誌, 46, 567-572, 1993.
13) 藤喜久夫;大歯会誌, 596, 2-14, 2000.
14) 矢坂正弘他;日医新報,4124,21-25,2003
15) 多田正弘他;医学書院, 230-239, 1999.
16) 安田健次朗他;医学書院, 310-326, 2002.
笠貫 宏ほか:Circulation,Journal,68(Suppl.IV),1153-1230,2004(一部改変)
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2002-2003年度合同研究班報告)
循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン
Guidelines for management of anticoagulant and antiplatelet therapy in cardiovascular disease (JCS 2004)
Ⅳ 捕捉
抜歯や手術時の対応 ②
大手術の場合は,手術の3~5日前までにワルファリンを
中止し,半減期の短いヘパリンに変更し術前の抗凝固療
法を行う。活性化部分トロンボ時間(APTT)が正常対照値
の1.5~2.5倍に延長するようにヘパリン投与量を調整する。
手術の4~6時間前からヘパリン投与量を調整する。手術
の4~6時間前からヘパリンを中止するか,手術直前に硫
酸プロタミンでヘパリンの効果を中和する。いずれの場合
も手術直前にAPTTの低下を確認して手術に臨む。術後
は可及的速やかにヘパリンを再開する。病態が安定した
らワルファリン療法を再開し,INRが治療域に入ったらヘパ
リンを中止する1)~3)。
1) Loeliger EA et al; Haemostasis, 15(4), 283-292, 1985.
2) 青崎正彦他;JIM, 3, 419-421, 1993.
3) 青崎正彦他;ワーファリン訂正使用情報のQ&A.
笠貫 宏ほか:Circulation,Journal,68(Suppl.IV),1153-1230,2004(一部改変)
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2002-2003年度合同研究班報告)
循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン
Guidelines for management of anticoagulant and antiplatelet therapy in cardiovascular disease (JCS 2004)
抜歯や手術時の対応 ③
アスピリンは1回の投与で血小板のシクロオキシゲナーゼを不可
逆性に阻害し,血小板機能を抑制する。その効果は血小板寿命に
相当する約10日間持続する。American College of Cardiologyと
American Heart Associationの冠動脈バイパス術に関するガイドラ
インには,アスピリンや他の抗血小板薬を手術の7日前に中止する
ように記されている 1) 。チクロピジンはADPによる受容体を介したア
デニレートシクラーゼの活性抑制を阻害することにより持続的に血
小板抑制作用を呈する。パナルジンの添付文書や適正使用情報 2)
には手術の10~14日前に投与を中止する事と記されている。シロス
タゾールはcGMP-inhibited phospho-diesterase活性を阻害すること
によって抗血小板作用を呈するが,その作用は濃度に依存し可逆
的であり,通常48時間以内には体外へ排出される。出血量が多いと
予測される手術では,アスピリンは7日前に1) ,チクロピジンは10~
14日前に2),シロスタゾールは3日前に中止する3)。
Ⅳ 捕捉
1) Eagle KA et al; Circulation, 100(13), 1464-1480, 1999.
2) 池田康夫他;第一製薬株式会社, 110, 2002.
3) Yasunaga K et al; Arzneimittelforschung, 35(7A), 1189-1192, 1985.
笠貫 宏ほか:Circulation,Journal,68(Suppl.IV),1153-1230,2004(一部改変)
AHA/ACC合同ガイドラインのエビデンス評価に採用し
ている米国保険政策研究局(AHCPR)による分類
Ia
Ib
IIa
Evidence obtained from meta-analysis of randomized controlled traials
ランダム化比較試験のメタアナリシスによる
Evidence obtained from at least one randomized controlled trial
少なくとも一つのランダム化比較試験による
Evidence obtained from at least one well controlled study without randomaization
少なくとも一つのよくデザインされた非ランダム化比較試験による
Evidence obtained from at least one other type of well designed quasi-experimental study
IIb
少なくとも一つの他のタイプのよくデザインされた準実験的研究に
よる
Evidence obtained from well designed non-experimental descriptive studies, such as comparative
studies, correlation studies and case control studies.
IIb
IV
比較研究や相関研究、症例対照研究など、よくデザインされた非実
験的記述的研究による
Evidence obtained from expert committee reports or opinions and/or clinical experience of respected
authorities.
専門家委員会の報告や意見、あるいは権威者の臨床経験
AHCPR:Agency for Health Care Policy and Reseach
術前に休薬を考慮する医薬品
抗凝固薬
抗血小板薬
(冠)
血管拡張薬
脳循環・
代謝薬など
アスピリン
トラピジル
おもな作用機序
休薬データ
COX阻害
(不可逆的)
7日a)
作用時間:7~10日(血小板の寿命),
T1/2:0.4±0.13時
TXA2合成阻害
2日b)
作用時間:12(100mg)~24(300mg)時,
代謝物TM1は24(300mg)時間以上,
T1/2:1.35~1.36時
1日b)
T1/2:2.4±0.4時
1日b)
T1/2:約4時
ニセリトロール
塩酸ジラゼプ
休薬期間
PLA2活性阻害
イコサペント酸
エチル
アラキドン酸
代謝阻害
(不可逆的)
7~10日d)
塩酸
チクロピジン*
AC活性化1)
10~14日a)
リマプロスト
アルファデクス3)
作用時間:7~10日(血小板の寿命),
T1/2:6.60±1.85時,MRT:31.84±1.42時,
約24時後に元に戻る
作用時間:8~10日(血小板の寿命),
T1/2:1.58±0.03~1.61±0.04時
1日c)
作用時間:3時間(30~40µg/回),T1/2:7時,
20µg/回以下では凝集抑制はほとんどない
1日b)
作用時間:6~8時間, T1/2:1.11時
2日c)
作用時間:約48時間(反復投与後)
T1/2:2.3±0.6時(Cap),2.2±0.8時(Tab)
2日b)
作用時間:48時間, T1/2(β):18時
3日b)
T1/2:12時
セロトニン(5HT2)
受容体結合阻害
1日b)
作用時間:12時間, T1/2:0.69時
酒石酸イフェン セロトニン(5HT2)
プロジル
摂取・放出抑制
1日b)
T1/2:1.3~1.4時
ベラプロスト
ナトリウム
ジピリダモール4)
血小板PDE活性
阻害
シロスタゾール
イブジラスト
塩酸
サルポグレラート
ワルファリン
カリウム
ビタミンK依存
血液凝固因子
合成阻害
大手術:5日
作用時間:48~72時間, T1/2:36.3時
小手術:4~5日前より減量し
凝固能を治療域下限に緩和e)
COX:シクロオキシゲナーゼ,TXA2:トロンボキサンA2,PLA2:ホスホリパーゼA2,AC:アデニル酸シクラーゼ,PDE:ホスホジエステラーゼ。
*塩酸チクロピジンは不可逆的,a)添付文書記載,b)インタビューフォーム薬物動態データ,c)文献作用時間,d)文献半減期,e)適正使用情報
1) Wahl, M, J.: Arch. Intern. Med., 158, 1610-1616, 1998
3) Maeda, Y., et al.: Blood & Vessel., 13, 142-145, 1982
4) 飯塚邦夫ほか:医学と薬学,25,1085-1109,1991
二宮佐好:治療学,40(3),343-346,2006
抗凝固薬・抗血小板薬の休薬期間
抗凝固薬
抗血小板薬
一般名
薬剤名
ワルファリンカリウム
ワーファリン
アスピリン
バイアスピリン
アスピリン81
塩酸チクロピジン
パナルジン
シロスタゾール
プレタール
イコサペント酸エチル
エパデール
ベラプロストナトリウム
プロサイリン、ドルナー
塩酸サルポグレラート
アンプラーグ
ジピリダモール
ペルサンチン
オザグレルナトリウム
カタクロット、キサンボン
トラピジル
ロコルナール
塩酸ジラセブ
コメリアン
術前中止期間
術後中止期間
3~4日程度
3~4日
7~10日
4~5日
7~10日
4~5日
3~4日
3~4日
7~10日
2~3日
24時間
24時間
24時間
24時間
24時間
24時間
宮原良二ほか:臨床に直結する消化管疾患治療のエビデンス(編集/上村直実ほか),P329-331,2005
各種抗血小板薬の特徴
薬品名
作用機序
可逆性
アスピリン
チクロピジン
クロピドグレル
シロスタゾール
EPA
サルポグレラート
ベラプロスト
COX-1阻害
ADP受容体阻害
ADP受容体阻害
PDE3阻害
アラキドン酸代謝阻害
5-HT2受容体阻害
PGI2受容体刺激
不可逆性
不可逆性
不可逆性
可逆性
不可逆性
可逆性
可逆性
一般的な休薬期間
7~10日
7~10日
7~10日
48時間
7~10日
24時間
24時間
長尾毅彦ほか:Progress in Medicine,26(6),1255-1258,2006
Ziffer AM, Scopp IW, Beck J, et al: Profound bleeding after
dental extractions during dicmoral therapy. N Engl J Med
1957;256:351
ワルファリン内服 100万人
中断すると
脳梗塞など発症 1万人
抗血栓薬を中止すると、、
死亡 8千人
抜歯時 Wahl MJ: Arch Inern Med 1998;158:1610
542回 ワルファリン中止
虚血5例 (約1%)、5例中4例死亡 (80%)
内視鏡検査時 Blacker DJ Neurology 2003;61:964
AF症例に1,137回 ワルファリン中止/減量
脳梗塞12回 (1.06%)
アスピリン休薬
ワルファリ
脳梗塞発症のオッズ比 3.4 (Arch Neurol ン
2005;62:1217)
リバウンド
現象
109
Palareti G
AHAのPCIガイドライン クラスI
1.日常的にアスピリンの長期投与を行っている患者の場合、PCI実施前にアスピリン75
~325mgを服用させる(エビデンスレベルA)。
2.日常的にアスピリンの長期投与を行っていない患者の場合、PCI実施の2時間以上前
(24時間前が望ましい)にアスピリン300~325mgを服用させる(エビデンスレベルC)。
3.PCI実施後、アスピリンに対する抵抗性やアレルギーを認めず、出血リスクが高くない
患者では、アスピリン325mg/日を服用させる。ステント植込み後のアスピリン投与期
間は、ベアメタルステントの場合1ヵ月以上、シロリムス溶出ステントの場合3ヵ月、パク
リタキセル溶出ステントの場合6ヵ月とし、その後も無期限にアスピリン75~162mg/日
の投与を長期間継続する(エビデンスレベルB)。
4.PCI実施前にローディングドーズのクロピドグレルを投与する(エビデンスレベ
ルA)。PCI実施の6時間以上前にローディングドーズ300mgのクロピドグレル
を経口投与する用法は確立した用法である(エビデンスレベルB)。
5.PCI実施後、クロピドグレル75mg/日を投与する。ステント植込み後の投与期
間は、ベアメタルステントの場合1ヵ月以上(出血リスクが高い場合には最低2
週間投与する)、シロリムス溶出ステントの場合3ヵ月、パクリタキセル溶出ス
テントの場合6ヵ月とし、さらに出血リスクが高くない患者では12ヵ月まで継続
投与することが望ましい(エビデンスレベルB)。
110
Smith Jr. SC et al: Circulation 113 2006
2007ESC ACS治療ガイドライン
Aspirin:
禁忌症例を除き、すべてのNSTE-ACS患者に初期用量160-325mg、維持
用量として75mg-100mgの長期投与が推奨される。(I-A).
Clopidogrel:
・すべての患者について早急に300mgローディングドーズと75mg投与が
推奨される。(I-A).
・クロピドグレルは過度の出血の危険がない限り、12ヶ月間投与されるべ
きである。 (I-A).
・すべてのアスピリン禁忌患者について、クロピドグレルは代替薬となる (I-B).
・PCIを考慮される患者において、クロピドグレル600mgローディングは、
より速い血小板凝集抑制を得るために使用される可能性がある。(IIa-B).
・クロピドグレル服用中の患者において、CABGが必要な場合、臨床的に
可能であれば、クロピドグレルを5日間休薬するまで手術は延長される
べきである。 (IIa-C).
111
顎骨壊死:Osteonecrosis of the Jaw(ONJ)
ASBMR Task Force, JBMR WebFirst,2007
ACL情報提供ガイド
「顎骨壊死・顎骨骨髄炎」の添付文書の記載
2006年11月より添付文書へ記載
重要な基本的注意
本剤を含むビスフォスフォネート系薬剤による治療を受けている患者におい
て
、
顎骨壊死・顎骨骨髄炎があらわれることがある。報告された症例のほとんど
が
抜歯等の歯科処置や局所感染に関連して発現しており、また、静脈内投与
された癌患者がほとんどであったが、経口投与された骨粗鬆症患者等に
おいても報告されている。
リスク因子としては、悪性腫瘍、化学療法、コルチコステロイド治療、放射線
療法、口腔の不衛生、歯科処置の既往等が知られている。本剤の投与に
あたっては、患者に十分な説明を行い、異常が認められた場合には、直ちに
重大な副作用
歯科・口腔外科に受診するよう注意すること。
顎骨壊死・顎骨骨髄炎(頻度不明):顎骨壊死・顎骨骨髄炎があらわれること
があるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止する
など適切な処置を行うこと。
「顎骨壊死・顎骨骨髄炎」における現況
1.報告の9割がビスフォスフォネート注射剤による
2.経口BP剤の発生頻度は10万人に一人未満
3.報告の約6割が抜歯等の歯科処置後に発生
●悪性腫瘍
●化学療法
●コルチコステロイド治療
●放射線療法 ●口腔の不衛生 ●歯科処置(特に抜歯)既往
4.通常、顎骨壊死の多くは下顎骨に発現するが、
BP製剤では上顎骨での報告が3分の1を占める
1) Marx RE, et al: J Oral Maxillofac Surg. 2005; 63:1567-1575
2) Woo SB, et al: Ann Intern Med. 2006; 144: 753-761
抜歯等の歯科処置と経口BP(日本口腔外科学会2008)
 3年以上持続してBP治療例、3年未満でステロイド
使用例:
侵襲的歯科処置の3ヶ月前で中止
創治癒後に再開
 3年未満BP治療例:
BP中止の必要なし。
(糖尿病、喫煙、飲酒、口腔衛生不良、
癌化学療法例などは、ステロイドに準ず)
(アメリカ口腔外科学会2007より)
歯科医師に対する情報提供
第10回日本骨粗鬆症学会シンポジウムより
テーマ「顎骨壊死 ―ビスフォスフォネートは危険か―」
◆山口先生(東京医科歯科大学口腔病理学分野)
顎骨壊死は、細菌感染でNecrosis(壊死:無菌性)ではない。正しくは顎骨
骨髄炎である
◆別所先生(京都大学口腔外科分野)
積極的な処置をすれば治癒できる。BPの血中濃度は1,2日で低下するので
外科処置の際は、その日だけの中止でよいと考える
◆岩本先生(慶應大学スポーツクリニック)
エビデンス上BPと顎骨壊死の因果関係は不明である。大腿骨近位部骨折
は死亡するが、顎骨壊死は死には至らない
◆11月2日教育セミナー:宗圓先生(近畿大学奈良病院整形外科)
N含有BPの骨折予防のNNTは5-962(Osteopenia含)、ONJ発症のNNHは
294-20000。FDAではNNTとNNHが30倍離れていれば問題なく投与して良
いとされる
◆10月31日LSー8:米田先生(大阪大学歯学部)
口腔内は糞便と同じくらいの細菌数がいて、口腔内の清潔化が予防に繋が
る
ゾレドロネート治療を受けている多発性骨髄腫患者の
顎骨壊死発現頻度:抗生剤投与の効果
A retrospective observational study
グループ
患者数
ゾレドロネート
投与期間
顎骨壊死
発現頻度
グループA
52
26ヵ月
0%
(抗生剤投与)
P=0.007
グループB
(抗生剤非投与)
61
12ヵ月
13%
全例に対し歯科処置手術; Aグループの抗生剤投与は手術1日前から3日後まで4日間
Montefusco V. アメリカ口腔外科学会 2007
RisedronateのNNTと顎骨壊死の発生頻度
成分名
大規模試験
評価項目
期間
NNT
リセドロネート1)
VERT-MN Study
椎体骨折
3年間
10
リセドロネート1)
VERT-MN Study
非椎体骨折
3年間
20
リセドロネート2)
HIP Study
大腿骨近位部骨折
3年間
77
心筋梗塞
平均4.9年
111
プラバスタチン
(70-79歳女性)
WOSCOPS Study
1) Reginster J.-Y. et al.: Osteoporosis Int., 11, 83, 2000
2) McClung M.R. et al.: NEJM, 344, 333, 2001
米国口腔外科学会
Merck社のデータ
ALN投与による顎骨壊死の発生頻度は、
10万人/年あたり0.7件
BP系薬剤関連顎骨壊死(BRONJ)の診断基準
<米国口腔外科学会>
他の遅発性治癒性疾患と鑑別するため、次の特徴をすべて満たす場合。
① BP系薬剤による治療を現在行っているか、または過去に行っていた。
② 顎顔面領域に露出壊死骨が認められ、8週間以上持続している。
③ 顎骨の放射線療法の既往がない。
鑑別が必要な疾患:歯槽骨炎、副鼻腔炎、歯肉炎/歯周炎、う歯、歯の根尖病巣、顎関節障害など
<欧州骨粗鬆症Working Group>
次の特徴をすべて満たす場合。
① 下顎、上顎あるいはこの両者に見られる骨露出
② 8週間以上持続
③ 顎骨への放射線療法の既往や転移がないもの
BP:ビスホスホネート
社団法人 日本口腔外科学会 監修:ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死,p1
BRONJの臨床症状
<典型的な臨床症状>
疼痛、軟組織の腫脹及び感染、歯の動揺、排膿、骨露出
• 一部症例では、歯・歯周疾患に類似した症状を訴えることがある。しかしながら
標準的な歯科治療に反応しない。
• 感染はみられる場合とみられない場合がある。
• BRONJは、数週間から数ヵ月の間、症状が認められないことがある。かかる症例に
おいては、定期検査において顎骨露出が見られ、診断される場合がある。
• これらの症状は、明らかな局所的誘因はなく、自然に発生する場合もあるが、多くは
過去の抜歯部位で発生している。
BRONJ:ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死
社団法人 日本口腔外科学会 監修:ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死,p2
BRONJの病期分類
ステージ1:無症状で感染を伴わない骨露出、骨壊死。
ステージ2:感染を伴う骨露出、骨壊死。疼痛、発赤を伴い、
排膿がある場合とない場合がある。
ステージ3:疼痛、感染を伴う骨露出、骨壊死で、以下の
いずれかを伴うもの。
病的骨折、外歯瘻、または下顎下縁にいたる
骨吸収と破壊。
BRONJ:ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死
社団法人 日本口腔外科学会 監修:ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死,p3
BRONJの発生機序
BRONJの病態生理はまだ明らかになっていませんが以下のような説があります。
・ 骨代謝回転抑制作用
BP系薬剤の投与により骨代謝回転が過度に抑制され、顎骨において微小骨折
が蓄積し、また血管新生も抑えられて骨細胞の壊死、アポトーシスに至るという説
がある。
しかし、諸研究において、BP系薬剤が失活した骨と同程度まで骨の代謝回転を抑制するとする報告は
ない。実際、動物試験、臨床試験においても、BP系薬剤投与中に骨折などの刺激に対して回復力(骨
代謝回転)を保持していることが示されていることから、骨代謝回転の抑制が顎骨壊死の抑制が顎骨
壊死の主な原因であるとは思わない。
・ 血管新生抑制作用
BP系薬剤の抗血管新生抑制作用が顎骨壊死の病態生理に関与しているという
説もある。
しかし、正常骨での研究によれば、ゾレドロン酸の投与によってもリモデリングや骨折修復における骨
新生といった血管新生に依存する過程が阻害されることはないとされている。創傷治癒不全や骨感染
を促進させる癌と関連した病態の何らかの関与が考えられる。
BP:ビスホスホネート
BRONJ:ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死
社団法人 日本口腔外科学会 監修:ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死,p3
BRONJの危険因子
<米国口腔外科学会>
<米国歯科医師会>
・コルチコステロイド療法
・自然に発生することもあるが、抜歯などの
骨を損傷する歯科治療と関連して発生する
ことが多い。
・糖尿病
・喫煙
・飲酒
・口腔衛生の不良
・化学療法薬
・高齢(66歳以上)、慢性疾患に対する
グルココルチコイド使用、歯周炎、BP系
薬剤長期使用
・癌患者(両側性及び多発性BRONJが
報告されている)
・骨隆起やその他の外骨症
BP:ビスホスホネート
BRONJ:ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死
社団法人 日本口腔外科学会 監修:ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死,p4
BRONJと歯科治療
<米国口腔外科学会>
BRONJの局所的危険因子
• 抜歯
• 歯科インプラントの埋入
• 根尖外科手術
• 骨への侵襲を伴う歯周外科処置
注射用BP系製剤投与患者にこれらの歯科外科処置を施行した場合、施行しない患者に比べ、
BRONJの発現率が7倍以上になるとされている。歯科予防処置、う蝕の管理及び保存修復処置は機能的に
健全な歯を維持するのに不可欠で、これらのケアは常に必要である。
<米国歯科医師会>
• 自然に発生する場合もあるが、多くは過去の抜歯部位で発生している。
<米国骨代謝学会>
• 人工歯根などの口腔外科手術及び他の侵襲的歯科治療について注意が必要となる。
• 一般の歯科療法(良好な歯科衛生保持と清掃、歯科充填、根管処置)は、BP系薬剤
の投与中止、または特別な予防処置の必要はない。
BP:ビスホスホネート
BRONJ:ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死
社団法人 日本口腔外科学会 監修:ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死,p4-5
経口BP薬剤投与中に
抜歯等の侵襲的歯科処置が必要な場合
経口BP製剤での臨床試験に基づいた確固たるエビデンスはありませんが、
臨床医の経験に基づき、米国口腔外科学会より以下のように提言されています。
経口BP製剤投与期間が3年未満でコルチコステロイドを併用
している場合、あるいは経口BP製剤投与期間が3年以上の場合
患者の全身状態から経口BP製剤を投与中止しても差し支えないので
あれば、歯科処置前の少なくとも3ヵ月間は経口BP製剤の投与を中止し、
処置部位の骨が治癒傾向を認めるまでは、経口BPを再開すべきでない。
☞経口BP製剤投与期間3年未満で他に危険因子※(コルチコステロド以外)がある場合も上記対応が望ましい
※危険因子:糖尿病、喫煙、口腔内衛生不良、飲酒、化学療法薬、コルチコステロイド療法
経口BP製剤投与期間が3年未満で他に危険因子がない場合
予定された侵襲的な歯科処置の延長・中止や経口BP製剤投与中止の必要
はない
BP:ビスホスホネート
BRONJ:ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死
社団法人 日本口腔外科学会 監修:ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死,p9
介護が必要となった主な原因
脳血管疾患
(脳卒中)
その他
23.2%
23.3%
4.3%
心疾患
(心臓病)
9.4%
骨折・転倒
関節疾患
14.0%
認知症
12.2%
13.6%
高齢による衰弱
厚生労働省 平成19年 国民生活基礎調査の概要
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa07/index.html
大腿骨頸部骨折後の生存率
(%)
100
累
積
生
存
率
男(n= 485)
女(n=1587)
50
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
(年)
生存期間(年)
対象:大腿骨頸部骨折した受傷時65歳以上の2,072名
長寿科学総合研究 平成6年度研究報告 Nol.4 1995
大腿骨頸部骨折に関わる介護・医療費用
A. 大腿骨頸部骨折発生数(人/年、1997年)
B. 寝たきり高齢者発生率(木村らによる)
C. 骨折由来寝たきり高齢者数(人)
a 在宅寝たきり数(×2/9)
b 施設内寝たきり数(70万人/90万人、×7/9)
c 在宅(要介護度1度)費用/年
d 施設内(要介護度3度)費用/年
e a × c 在宅要介護者の費用/年
f b × d 施設内要介護者の費用/年
g 在宅要支援者(48/90×17,480)
h 在宅要支援者費用(g×61,500×12)/年
D. 骨折による全介護費用(e+f+h)/年
E. 骨折に伴う入院・手術費用(92,000×132.0万円)
合 計 (D+E)
92,000人
19%
17,480人
3,884人
13,596人
165,800円×12ヵ月
10,021円×365日
77.28億円
497.30億円
9,323人
68.80億円
643.38億円
1214.40億円
1857.78億円
在宅要支援者数を47.9万人とした
Clinical Calcium, 10(4), 390, 2000
新健康フロンティア戦略
国民自らがそれぞれの立場に応じ
て行う健康対策
1. 子供を守り育てる健康対策
2.女性を応援する健康プログラム
3.メタボリックシンドローム対策の一層
の推進
4.がん対策の一層の推進
5.こころの健康づくり
6.介護予防対策の一層の推進
7.歯の健康づくり
8.食育の推進
9.運動・スポーツの振興
骨折の予防
(大腿骨頸部骨折、脊椎圧迫骨折)
1. 運動や食事等の骨粗鬆症予防に
関する普及啓発と適切な治療提供
2.転倒による骨折の予防のための
転倒予防プログラムの提供や
使いやすい防護装具等の開発、
実用化
大腿骨頸部骨折の発生率の推移
(フィンランド, 50歳以上, 1970-2004)
500
年
齢
調
整
発
生
率
400
女 性
300
200
骨折予防管理の向上が
骨折抑制に寄与
男 性
100
0
70 75 80 85 90 95 00 05 年
Kannus P, et al.: J Bone Miner Res. 2006; 21: 1836-1838
骨密度検査と骨粗鬆症治療薬の使用が増加した時期に、
大腿骨頸部骨折率・前腕骨骨折率が低下(カナダ)
(人/1万人あたり)
60
50
40
30
20
10
0
前腕骨骨折(女性)
大腿骨頸部骨折(女性)
前腕骨骨折(男性)
大腿骨頸部骨折(男性)
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
1992年~2000年:男性および女性の年齢補正した大腿骨頸部骨折率と前腕骨骨折率
2001年~2005年:人口推定データ
Susan B. J. et al.: JBMR, 20, 898(2005)
第9回欧州リウマチ学会(2008年6月)
骨粗鬆症による大腿骨頸部骨折が米で急減、ビス剤承認の影響か
骨粗鬆症が主な原因のひとつと推定される非外傷性の
大腿骨頸部骨折による入院は、1996年をピークに人口比で
減少し続け、1988年から2005年の18年間に約23%と大幅に
減った。
なぜ減少しているかについて、「認知度の向上、スクリーニン
グの実施による早期発見と治療が貢献したのではないか」と
考察した。さらに1996年をピークに減少したことについて、「因
果 関 係 は 不 明 」 と 強 調 し な が ら も 、 1995 年 に 米 国 食 品
医薬品局(FDA)がビス剤を承認したこと、1997年には当時の
クリントン大統領が、ハイリスク高齢者に無料で骨密度測定
を実施する骨量測定法(BMM Act)の実施予算を承認したこ
とを指摘した。
(引用:日経メディカル別冊)
骨粗鬆症患者様の身体的特徴
脊椎骨折 → 脊椎(骨格)変形 → QOL低下
死亡
椎体骨折の約2/3は無症状で進行
(%)
16
14
各都道府県の骨粗鬆症検診率
骨粗鬆症検診率 = (40、45、50、55、60、65、70歳の骨粗鬆症検診者数)/
(40、45、50、55、60、65、70歳の女性の人口)
12
骨 10
粗
鬆
症 8
検
診
率 6
4
2
0
大 山 栃 群 宮 石 福 千青 岩 埼 秋 茨 滋 熊 長鹿 静 富 岐 東 長 全 愛兵 山 奈 大 沖 佐 愛 徳広 新 鳥 宮 山 福 三 香岡 福 島 北 神 京 和高
児
奈 歌
分 梨 木 馬 城 川 島 葉森 手 玉 田 城 賀 本 野 岡 山 阜 京 崎 国 知庫 形 良 阪 縄 賀 媛 島島 潟 取 崎 口 岡 重 川山 井 根 海 都 知
島
川 山
県 県 県 県 県 県 県 県県 県 県 県 県 県 県 県県 県 県 県 都 県 計 県県 県 県 府 県 県 県 県県 県 県 県 県 県 県 県県 県 県 道 県 府 県県
Pharma Medica, 26(6), (2008)
医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案
• 医療安全を巡る動向の中で、調査機関の設置その
ものの必要性は認めつつも、その設置の中立性、
調査・報告の中立性の担保等によって、いわゆる医
療事故の真相が解明され、その後の医療安全確保
に資するものとして十分機能することを願い、その
観点から、これまでも意見を発し、慎重な検討をもと
める。
• 三次試案」に至る問題点が根本的に克服されたも
のとは言えず、多くの課題を残したままのもの
•
福島県立大野病院における産婦人科手術を巡る裁判
• 「業務上過失致死罪」と「医師法21条違反」のいずれにおいても、無罪であるとの
明確な地裁判決
•
当該患者の術中死発生後1年2ヶ月もたって、担当医に見せしめの手錠までか
けた、この異様な刑事警察の介入の不当性が逆に断罪された。 その立件・立証
の破綻を克服できない検察は控訴を断念しましたが、厚労省としては、まっとうな
産婦人科医療を守り育てる立場から、このような不当介入を二度とさせない申し
入れを行うべきです。かりそめにも、そのような刑事介入からの例外措置をお願
いするような形で、本案の調査委員会を受け身かつ刑事処分と連動する設置とい
う本末転倒を犯してはなりません。
•
その上で、患者・家族にも、医療関係者にとっても納得のいく関係システムの構
築を早急に目指すべき
• 与野党を問わない「国民的合意」の得られる法案として、また国際的な評価にも
耐えられるものとして更に検討整備され、確立していくことを願うものです。
WHO Draft Guidelines for Adverse Event Reporting and
Learning Systems
(World Health Organization 2005)
• 法案大綱案の検討の前提として、既に関連する多くの蓄積
を有する国際的な動向も踏まえるべき
• 諸外国では本件関連制度が既に確立し、成功している例も
少なくないからです。
• それらを集約し、その共通点を国際的なガイドラインとして提
起したものが、WHOによる関係者周知のガイドライン
•
その第6章「成功する報告システムの特徴」には、このよう
な「医療事故報告システム」の成功例の指標として、以下の
基本的観点と7点の特徴
<基本的観点>
• ・「報告」することは報告する個人のためにも
安全なものである。「報告」は建設的な反応を
導くものでなければならない。専門的知識」と
「適切な財政基盤」が有意義な分析のために
活用されるべきである。報告システム」は各
種障害やそれを変革するために推奨すべき
方策を拡大提起する能力を持たなければな
らない。
•
•
1.Non-punitive(非懲罰性)
報告者は、彼ら自身に対して報復の恐れがなく、また、報告の結果により他のものも罰
せられない。
•
•
2.Confidential(機密性)
当該患者、報告者、調査対象機関の個別情報は決して明らかにされない。
•
•
3.Independent(独立性)
その報告システムは、報告者やその組織を処罰する権力を持ったいかなる権威からも
独立したものである。
•
•
4.Expert analysis(専門分析性)
報告は、臨床環境を理解し、基盤となるシステム原因を判断するのに訓練された専門
家によって評価される。
•
•
5.Timely(適時性)
報告は、特に重大な障害が識別された時は、迅速に分析され推奨すべき事を知るべき
人々に素早く周知される。
•
•
6.System-oriented(システム指向性)
システム指向の改善方策は、個人行動を矢面にするよりも、システム・経過・成果物の
変化に焦点が当てられる。
•
•
7.Responsive(応答性)
報告を受けた政府組織は、推奨すべき改善策を普及する能力をもつ。参加関係組織
は、それらを可能な限り実行するよう関与する。
法案(仮称)大綱案の検証
•
その目的は「医療事故死等」の原因究明としな
がらも対象は死亡例に絞られています。地方委員
会は調査、中央委員会が安全確保措置の検討と役
割を区別しており、「事故」現場での自主的で活きた
総合的な医療安全対策と結びつく方向性は見受け
られず、
• 後の各章の展開をみれば、むしろ、罰則をもって大
半の事例報告を強制し、その刑事責任を鑑別・通告
することで医師法21条適用の例外措置とするとい
う、前章の国際指標からすれば、極めて異様なもの
となっており、医療安全に資するという目的と具体
的条項が背反しています。
医療現場における医師・患者関係を最優先する
• 現場におけるインフォームドコンセントの徹底、不可避的なリ
スクへの理解と同意、十分な医療安全上の準備と技術提供、
トラブル発生時の院内ルールの確立(迅速・的確な説明と関
連資料提示、原因不明・患者側非同意の場合の次のステッ
プへの誘導
平素より院内の事故調査関連組織や医療安全担当要員を設
置し、上記医療事故とみなされ、当事者間で即決出来ない
場合、まずその院内組織で患者側の訴えも十分踏まえた調
査を行い、必要な資料開示も含めた報告を患者側にも行い、
合意と事後処理に務める。院内組織等が困難な小機関に
あっては、地区医師会など関連組織の支援を得ることとする。
剖検・死後診断技術の拡充も必要である。
「医療事故報告調査システム」は責任追及とは完全に独立
•
前節対応でも、患者側の同意が得られない場合や、原因究明と今
後の安全対策上重要と思われるケースにつき、外部に設置された
第三者組織「医療事故報告調査システム」に医療機関責任者より調
査報告依頼を行う。 同「システム」は、国際基準である「非懲罰性」
「機密性」「独立性」「専門分析性」「適時性」「システム指向性」「応答
性」等に則ったものとして、関連官庁から独立して設置されながら、
その機能が十分発揮できる人員と財政基盤を保障される。 その調
査は強制ではなく、あくまでも関係者の自主的協力による真相究明
と改善に資するものとしてあり、その検討結果は専門的分析を持っ
て当該医療機関に還元され、患者側にはその疑問に答えるものとし、
また、関連行政・政府官庁への次節の提言も含め、公開レベル等は
慎重に考慮される。
医療制度全体から現場に至る具体的改善
•
システム指向的な検討結果による調査結果報告は、単に現場の改善に資する
のみならず、医師・スタッフ不足をはじめとした医療制度上の問題点との関連でも
改善を求める具体的提言として、関係官庁はそれに答える責務を有すると定め
る。
•
医療事故にかかる責任問題・賠償問題には、上記とは別の法制度で処理する
上記結果によっても納得されない患者側の民事・刑事請求権は否定されない。た
だし、それを適正に処理するためのADR(裁判外処理機構)や無過失賠償責任等
について、引き続き慎重に検討することとする。
•
医師法21条は、医療行為によらない死体検案時を対象とする本来の意味に改
正する。 本条と医療事故とは無関係であり、医療行為中の死亡にまでの拡大解
釈されてきたものを改め、本来の意味に限定するよう、条文をより正確に明文改
正する。