呼吸困難

呼吸困難
静岡がんセンター緩和医療科 田中桂子
看護師対象標準教育スライド作成プロジェクト

一般項目
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•

目次
定義
診断方法
頻度
原因
メカニズム
生活に及ぼす影響
評価 何をなんのために評価するか
量・質・生活への影響の評価
マネジメントの考え方
原因病態の治療
薬物療法 (モルヒネ、抗不安薬、コルチコステロイド
気管支拡張剤)
非薬物療法(酸素療法、呼吸リハビリ、ナーシングケ
ア)
症例検討
こんな時どうする?どう考える?
呼吸困難とは?

呼吸困難
– 「呼吸時の不快な感覚」
– 主観的な感覚
– 本人が「息苦しい」と感じること

呼吸不全
– 低酸素血症
(PaO2≦60Torr または SpO2 ≦
90 %)
– 客観的な病態
診断方法は?

呼吸困難
– 本人が「息苦しい」と感じたら
それで診断される

呼吸不全
– 動脈血酸素分圧 PaO2 ≦ 60 Torr
– 酸素飽和度
SpO2 ≦ 90 %
呼吸不全の客観的指標は
呼吸困難の指標になるか?

ならない
「呼吸困難」は、呼吸不全のパラメーターと
相関しない
酸素飽和度
呼吸数
FEV1.0
FVC
相関係数
- 0.12
0.09
- 0.21
- 0.19
Heyse-moore, Palliat Med 2000
呼吸困難の頻度は?

がん患者の19〜64%
(定義や病期により報告は様々)
– 疼痛、食思不振、倦怠感などに次いで
頻度は高い
– 原発性・転移性肺腫瘍がなくとも生じる
– 最期の数日では3/4以上の患者に出現
Oxford Textbook of Palliative Medicine, 2004
呼吸困難の原因は?(1)

呼吸器・循環器病変
•
•
•
•
•
•
•
原発性肺癌/肺内転移の増大
気道閉塞/狭窄*
癌性リンパ管症*
胸水/心のう水*
気胸*
肺炎*
心不全*
Principles and Practice of Supportive Oncologyより改変
*は特異的な治療法あり(治療のスライド参照)
呼吸困難の原因は?(2)

治療関連
• 手術
:片肺全摘出など
• 放射線療法 :放射線性肺臓炎*
• 化学療法 :肺毒性、
骨髄抑制による感染* ・貧血*

全身状態の悪化
• 原疾患の進行による悪液質・筋力低下
• 腹満*
• 貧血*
• 不安*
Principles and Practice of Supportive Oncologyより改変
*は特異的な治療法あり(治療のスライド参照)
呼吸不全のメカニズムは?
延髄
PaCO2↑,
pH↓
化学刺激
脳幹(呼吸中枢)
Input
Output
PaO2↓
頸動脈小体 ( PaCO ↑)
2
大動脈体
機械的刺
激
伸展刺激
血管圧受容体
肺・気道
肋間筋・横隔膜
呼吸困難発現のメカニズムは?
(仮説:3段階理論)
②認知
「息苦しい」という
訴えや表情
中枢レベル(大脳)で
苦痛症状として認識
修飾
①産生
末梢レベル(肺・心)で
なんらかの刺激が発生
③表出
同じように刺激が
産生されても
過去の経験・刷り込
み・苦痛の意味など
により、認知のされ
方が異なる
同じように苦痛が
認知されても
性・年齢・教育・
宗教観などにより
表出のされ方が異なる
Bruera E. Principles and Supportive Oncology
呼吸困難が及ぼす影響は? (1)

呼吸困難の重症度とQOLスコアは反比例する
– 外来肺癌患者120名の調査で、呼吸困難が重症である程
QOL スコアは低かった(p=0.04)
Smith EL, J PSM 2001

呼吸困難は抑うつ・不安と関連する
– 呼吸困難の関連因子(多変量解析)は、HADSスコア・咳・疼痛・
器質的要因ありの4項目(p<0.005)であった
Tanaka K, JPSM 2002
呼吸困難が及ぼす影響は?(2)

呼吸困難は、進行期がん患者の「生きる意欲」
を阻害する
– PCU入院患者585名の調査で ”will to live” のVASと有意に関連
したのは、抑鬱・不安・呼吸困難・sense of wellbeingの4項目で
あった
Chochinov HM, Lancet 1999

在宅療養患者が、救急外来受診・緊急入院を
余儀無くさせられる主な要因である
Escalante CP, J PSM 2002
呼吸困難が及ぼす影響は?(3)

終末期がん患者のセデーション開始の
主な理由である
– PCU入院患者143名中、持続的セデーションを行なった69名の
開始理由:呼吸困難(49%)、疼痛(39%)、倦怠感(38%)、せん妄(23%)
であった
Morita T, J PSM 1996
呼吸困難の「何」を
「なんのために」評価するか?

量(どれくらい?)
– 認識の共有化
– 治療効果や経時変化の把握

質(どんな?なぜ?)
– 病態診断
– 治療方針決定

生活への影響度(息苦しさによりどんなこ
とが障害されるか?)
– 治療の必要性の評価とゴール設定
Oxford Textbook of Palliative Medicine 2004
田中、ターミナルケア2004
呼吸困難の「量」を
どのように評価するか?
ニューメリック
スコア
言葉による
表現
VAS
(ビジュアル
アナログ
スケール)
フェイス
スケール
0-10の11段階評価
簡便、容易
感度・再現性
高い
・息苦しくない
・少し息苦しい
・かなり息苦しい
・非常に息苦しい
全く
息苦しく
ない
耐えられ
ない程
息苦しい
微妙な変化は
とらえるが
複雑
特異度低い
呼吸困難の「質」を
どのように評価するか?



呼吸不全を伴うか?
不安の要素は関与していないか?
Cancer Dyspnea Scale
(がん患者のための呼吸困難スケール)
①呼吸努力感 ②呼吸不快感 ③呼吸不安感
Tanaka. Br J Cancer 2000
http://pod.ncc.go.jp/b_5/b_5.pdf
呼吸困難の「生活への影響」を
どのように評価するか?(1)

MDASI (MD Anderson Symptom Inventory)
–
–
–
–
–
–
–
歩行
仕事(家事など)
日常生活(食事、保清、日常活動動作など)
気分・気持ち
生活を楽しむ
対人関係
睡眠
Cleeland CS, Pain 1996
Okuyama, J PSM 2004
呼吸困難の「生活への影響」を
どのように評価するか?(2)

STAS (Support Team Assessment Schedule)
– 0:なし
– 1:時折/ 断続的な症状、今以上の治療を必要と
しない
– 2:中等度の症状、日常生活動作に支障
– 3:たびたび強い症状、日常生活動作や集中力に
著しく支障
– 4:持続的な耐えられない激しい症状、他のことを
考えられない
STASスコアリングマニュアルより、2004
「呼吸不全」はどう評価するか?
 問診:発症時期・随伴症状
 視診:全身状態、体位、呼吸数・深さ
呼吸パターン
 聴診:呼吸音、心音
 触診:浮腫、リンパ節腫脹
 検査:一般血液検査、血液ガス検査、
胸部レントゲン、肺機能検査、エコー
呼吸困難
の訴え
呼吸困難の緩和ケア
原因病態
の治療
(鎮静)
対症療法
薬物療法
モルヒネ
抗不安薬
コルチコステロイド
気管支拡張剤
その他
非薬物療法
酸素療法
呼吸リハビリ
看護ケア
その他
原因病態の治療とは?(1)

呼吸器・循環器病変
– 気道閉塞・狭窄
– 癌性リンパ管症
– 胸水・心嚢水
– 気胸
– 肺炎
– 心不全
:放射線治療、ステント
:ステロイド
:ドレナージ
:ドレナージ
:抗生剤
:輸液減量・利尿剤・強心剤
原因病態の治療とは?(2)




治療関連
– 放射線性肺臓炎:コルチコステロイド
全身状態の悪化
– 腹満
:腹水ドレナージ、排便調整
– 貧血
:輸血
– 不安
:抗不安薬
原因病態の評価が重要
原因病態が可逆的で治療可能であれば
それを治療する事が最優先
原因病態への治療をどこまでやるか?

予後の見通し
– がんの種類・転移部位・進行スピード
– 全身状態・栄養状態・年齢・合併症・既往症
– Palliative Prognostic Score, Palliative Prognostic Index
Morita T: Support Care Cancer 1999
Maltoni M: JPSM 1999

治療のメリット・デメリット
・症状緩和の
得られる可能性
(奏効率)

・効果出現までの時間
・合併症/副作用
・侵襲性
本人の希望
– 何を大切にして、どう過ごしたいと思っているか?
– 特別なゴールを持っていないか?
田中,ターミナルケア 2004
呼吸困難
の訴え
呼吸困難の緩和ケア
原因病態
の治療
(鎮静)
対症療法
薬物療法
モルヒネ
抗不安薬
コルチコステロイド
気管支拡張剤
その他
非薬物療法
酸素療法
呼吸リハビリ
看護ケア
その他
モルヒネは有効か?
モルヒネの有効性に関する報告(がん患者対象)
著者
患者
デザイン
方法
結果
Bruera
20
オープン 5mg 皮下注
有意な改善
Bruera
10
RCT
有意差あり
(JPSM ’90)
(Ann Intern Med ’93)
50% 増量
vs プラセボ
VAS68→34 (P=0.001)
P<0.02
オピオイドの有効性に関する報告
Jenning
(Thorax ’03)
がん
+COPD
メタアナリシス
(18RCTs)
有意な改善
P=0.0008
モルヒネの投与方法は?
著者
Allard
患者 デザイン
33
RCT
それまで投与量の
25vs50%量の頓用
(JPSM ’99)
モルヒネを
既に使用?
yes
no
方法
結果
有意差なし
両者共VAS↓
25(〜50)%増量
塩酸モルヒネ 1回 2-5mg
1日4-5回経口で開始
ASCO Curriculum 2001
Oxford Textbook of Palliative Medicine 2004
モルヒネは、呼吸不全を改善するか?


呼吸不全を改善するのではなく、主観的症状を
緩和する
作用機序はよくわかっていない
• 呼吸中枢の感受性を低下?
• 呼吸数を低下・酸素消費量を減少?
• 中枢性の鎮咳作用?

呼吸抑制に注意(呼吸数・SpO2をチェック)
• 呼吸数↓でも1回換気量が増加(維持)されていれば
問題ない
モルヒネ プラセボ
呼吸数(回/分) -2±2.2
0 ±1.7
SpO2(%)
0 ±1.5
0.8 ±1.3
p値
0.14
0.31
MassocateC, Ann On 1999
モルヒネの Key Points

モルヒネは、薬物療法の第一選択
ASCO Curriculum 2001

一般に疼痛に対する投与量より比較的少量で
効果がある
Bruera E, Ann Intern Med 1993
Allard P, JPSM 1999

レスキューを使用しながら改善がはかれるまで
微調整を
抗不安薬は有効か?(1)

抗不安薬の有効性
– がん患者のRCT報告なし
– COPD患者, 運動負荷による呼吸困難に対して
有効性の有意差を示せず
抗不安薬は有効か? (2)

しかし、がん患者の呼吸困難は不安と
関係あり
Bruera E, JPSM 2002
Tanaka K, JPSM 2002
呼吸困難
不安
悪循環を断ち切る必要

抗不安薬は、不安に関連した呼吸困難
の改善には寄与するだろう
ASCO Curriculum 2001
抗不安薬のKey Points

症状の現れ方と作用時間により薬剤を選択
– ベンゾジアゼピン系
•
•
•
•
ワイパックスR
ソラナックスR
セルシンR
ドルミカムR
経口
経口
経口/舌下
持続(皮下)注
中間型
中間型
中間型
超短時間型
– 3環系抗うつ薬
– SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)
Oxford Textbook of Palliative Medicine 2004

眠気に注意、少量・眠前に開始して微調整
コルチコステロイドは有効
か?

ステロイドの有効性
• がん患者対象のRCTなし
• 有効性は必ずしも証明されていないが臨床では広く使用

一般的な適応
•
•
•
•

気道狭窄(気管支喘息・COPD)
SVC(上大静脈症候群)
癌性リンパ管症
放射線性肺臓炎
作用機序
• 抗炎症作用
• 腫瘍周囲の浮腫の軽減
• 気管支スパズムの改善
Oxford Textbook of Palliative Medicine 2004
ステロイドのKey Points

漸減法/漸増法
– リンデロンR 1〜12mg/d

副作用
– 消化管出血、易感染症、高血糖の他、
呼吸筋力低下にも注意

効果を適切に評価して使用、漫然と
続けない
Oxford Textbook of Palliative Medicine 2004
気管支拡張剤


閉塞性障害は、呼吸困難を訴えるがん患者に
多く見られる
Dudgeon, JPSM 1998
作用機序
– 気管支平滑筋の弛緩
– 気管支拡張作用
– 横隔膜の緊張性亢進

治療選択
– 吸入β2刺激剤
– コリン剤
– テオフィリン

問題点:治療域が狭く副作用も出やすい
Oxford Textbook of Palliative Medicine 2004
オピオイド/フロセミド吸入

局所作用・速効性が期待されるが、現在効果
は確立されておらず、他の治療の効果が乏し
い時に「試してみる」手段のひとつ
吸入薬
作用機序
有効性
副作用
モルヒネ
(2.5-50mg)
気管支のオピオイド
受容体に作用?
苦味 /不快感
オープン試験では
有効性も報告、
RCTsでは有効性示
せず
フェンタニル
気管支のオピオイド
受容体に作用?
オープン試験では
有効性も報告
ラシックス
(20mg)
肺イリタント受容体 オープン試験では
に作用、肺進展レセ 有効性も報告、
プターを刺激?
RCT進行中
不快感
呼吸困難
の訴え
呼吸困難の緩和ケア
原因病態
の治療
(鎮静)
対症療法
薬物療法
モルヒネ
抗不安薬
コルチコステロイド
気管支拡張剤
その他
非薬物療法
酸素療法
呼吸リハビリ
看護ケア
その他
酸素療法
酸素療法の呼吸困難に対する有効性に関するRCT
著者
対象
Bruera 低酸素血
(Lancet’93)
患者数
14
治療法
5ℓ/分vs.空気
結果 VAS評価(0-100)
酸素有効 (p<0.001)
空気 9.4 ↓,
酸素 11 ↓
空気後酸素 21.5↓
12/14人が酸素を好んだ
Booth
混合
38
(Am J Respir Crit Med‘96)
4ℓ/分vs.空気
Bruera 非低酸素血症 33
(Palliat Med’03)
5ℓ/分vs.空気
両者で有意差なし、両者共有効
before 59 → 空気 48*
酸素 45* (*p<0.001)
両者で有意差なし
VAS/倦怠感/歩行距離に有意な
改善なし
→低酸素血症には有効、それ以外なら空気と同等
酸素療法
メリット
低酸素血症の改善
● 安心感
● 空気の流入
・呼吸を意識
●
デメリット
口渇感
● 束縛感
● ADLの制約
● コスト
●
ASCO Curriculum 2001より
酸素療法のKey Points
酸素療法の適応は低酸素血症(SpO2≦90%)
 しかし、呼吸困難の改善感は、SpO2 などの
客観的データと相関しないため、低酸素血症か
否かに関わらず、治療的試行の価値はあり

ASCO Curriculum 2001


メリットデメリットを評価、ただ漫然と継続しない
酸素投与時の工夫
– 患者の嗜好に合わせる
– 行為・労作によって変える(食事時:経鼻、症状が
強い時:マスクなど)
– 口腔ケア
呼吸リハビリ(1)

呼吸法の指導
一回換気量↑とそれに伴う呼吸数↓を
目的に腹式呼吸(吸気で腹部が膨らみ、
呼気で縮む呼吸)を指導
c/f: 胸式呼吸(頚部や肩などの補助
呼吸筋を収縮させ肋骨を膨らませる呼吸)
は、換気効率が悪く呼吸困難の感覚を
悪化
呼吸リハビリ(2)

ポジショニング
– 横隔膜が下降して換気量が増加しやすい座位
– 排痰させたい肺区域を上にした体位
– 本人が楽な体位

排痰の援助
– 強制呼気法 (huffing)
– 深呼気の徒手補助 (squeezing)
– タッピング、バイブレーションは負担になることもある
ので注意強制呼気法 (huffing)

注:呼吸リハビリは、COPD患者に対してはある程度標準
化されているが、がん患者に対しては必ずしもその有効
性は証明されていない
ナーシングケア(1)

環境の整備
– 窓をあけ換気をよくする・空気の流れを作る・うちわ
の風を送る
– 温度差・湿度差・喫煙などの刺激は避ける
– 低めの室温を保つ など
ASCO Curriculum 2001

リラクセーション
– リラクセーション・筋弛緩法・イメージ療法
– アロマセラピー
– 音楽療法 など
リラクセーション
呼吸法の指導
カウンセリング
看護師による介入プログラムのRCTで
有意に呼吸困難が改善
Bredin M,BMJ 1999
ナーシングケア(2)
排痰の援助

–
痰喀出可能な場合:排痰の援助
•
•
•
•
–
加湿、水分補給
ネブライザー
腹式呼吸+ハッフィング
体位ドレナージ
痰喀出困難な場合:分泌抑制の援助
•
•
•
•
過剰な補液の減量、中止
分泌抑制剤(抗コリン剤)の使用
吸引
体位の工夫
ナーシングケア(3)

生活の援助
– 排便コントロール
– 口腔ケア(口渇感への対応・感染予防)
– 呼吸に負担をかけないような生活動作の工夫

不安の軽減
– 理解(傾聴・そばにいる・気持ちに寄り添
う)
– 保証(全力でサポートすることを伝える)
– リラクセーション(タッチング、マッサー
ジ)
– 自己コントロール感を高める(薬をそばに置
いておく、自分でできることの尊重など)
症例で考える
こんな時どうする?
どう考える?
SpO2は問題ないが「息苦しい」と
訴える患者 (1)
肺癌患者、SpO296%,呼吸数18





呼吸困難≠呼吸不全
呼吸困難は、SpO2・呼吸数などの客観的測定値と
は相関しない
しかしSpO2 を見ることで安心する患者もいる
「気のせい」と過小評価せず、精神的ストレスが
呼吸困難を増悪させていることを理解する
「 SpO2は異常でないから大丈夫」は、「苦しさを
分かってもらえない 」メッセージになってしまう
SpO2は問題ないが「息苦しい」と
訴える患者(2)

患者の苦しさを理解したことを伝える
– 「酸素濃度は良いようですが、苦しい感じがするのですね」

息苦しさに対して対処できるということを伝える
– 「まず一緒に深呼吸をしてみましょう」
– 「呼吸が楽になるような体位に変えてみましょう」
– 「息苦しさを和らげる方法を医師に相談してみましょう」

どんな?どんな時に?を再評価
– 継続しているか?一時的か?
– 不安や心配ごとが関与しているか?
– 日常生活にどのような影響を与えているか?

息苦しさを訴えている限り、効果的な対策を検討する
SpO2が不良だが
「息苦しい」という訴えはない患者
78才肺癌患者、胸水貯留、SpO278%, 呼吸数24, 心拍数110

呼吸困難≠呼吸不全
– 訴えがないからと、見過ごしてはならない
– 心肺への負担を軽減、呼吸不全を改善する努力

チェック項目
– 呼吸不全の重症度は?
– 呼吸困難を訴えない理由は?
(我慢している?意識レベル低下?低酸素で慢性化?・・・・)
– 予後見通しは?

予後が厳しく呼吸不全の改善が困難な場合は
そのまま見守るのもひとつの選択
– 本人家族の認識を確認
– チームカンファレンスで今後の方針を共有
労作時に呼吸困難が増悪する患者(1)
安静時は呼吸困難の訴えなし
トイレ歩行で呼吸困難増悪、SpO2も86%に低下
しかし、身の回りのことは自分で行ないたいと思っている

まず、労作がスムーズに行えるよう工夫
– 酸素チューブを長くする
– 労作前に、モルヒネの予防的投与
– 労作時・労作後に、酸素吸入の増量調整


現在「できていること」と「できないこと」を観察
本人の目標・希望を理解
– 「人に迷惑をかけたくない」
– 「トイレだけは自分でしたい」
– 「動かなければどんどん悪くなってしまう」

支持しながら行動の意味や認識を確認
労作時に呼吸困難が増悪する患者(2)

現実的な目標を段階的に設定する
– 現在「できること」と「できないこと」を共有する
– 状況を説明する
– 工夫や調整することでできることを伝える(可能性の
発見)
– 日常生活動作の優先順位を共に設定する

自己コントロール感を維持する工夫をする
– 自分でコントロールできることをみつける
(自分で酸素・レスキューを選択・依頼するなど)
酸素吸入量を自ら変えてしまう患者
肺癌、45才男性、既往歴特になし、喫煙歴なし。
腫瘍による気管支狭窄、無気肺、肺炎。経鼻カニュラで2Lに
設定したが、自らはずしたり4Lに上げたりしてしまう。





自ら調整している理由を確認、理解する
酸素吸入の意味を説明
酸素量範囲の指示を医師に相談
自己コントロール感は大切
=労作に合わせて自己調整はOK
ただし、CO2ナルコーシスに注意! (COPD患者な
どでは、酸素吸入量が増えることで呼吸が抑制される)
酸素吸入を嫌がって
はずしてしまう患者

酸素吸入前後で飽和度はどうか?
→明らかな改善がないなら酸素投与中止も検討

なぜ嫌がるか?
はずしてしまう原因の改善を試みる
– 経鼻・マスクの臭いは?→ハッカ油
– 圧迫感は?→フェイスマスクの吹き流し
– 束縛感は?→ずっとフェイスマスクでなく
安静時経鼻に変える
– 口渇感は?→口腔ケア
(ウェットケア、ごま油、ぬれガーゼ、氷など)
– せん妄は? →せん妄治療
モルヒネのレスキューを使用すると
眠くなってしまう患者

眠気の原因は他にないか?
– 脳転移、高Ca、電解質異常などはないか?

生活リズムは変化していないか?
– 夜間寝不足で昼夜逆転はないか?

モルヒネは過量ではないか?
– 痛み・呼吸困難はどうか?呼吸抑制・縮瞳はないか?


→ モルヒネが過量なら減量を検討
眠気は本人にとって不快か?(本人に判断してもら
う)
→ 不快なら、リタリンを試みる
モルヒネ以外の「眠くならない」対策を検討
ステロイド、吸入、理学療法、体位の工夫など
痰・気道分泌が多いが、喀出困難な患者
(全身状態は比較的良好)(1)
本人の希望の確認
→ 排痰を援助する方向でのケア





加湿器、十分な水分摂取、補液
ネブライザー
(加湿、気管支拡張剤、去痰剤)
吸引(負担かからないなら)
腹式呼吸+ハッフィングの援助
体位ドレナージ(負担かからないなら)
痰・気道分泌が多いが、喀出困難な患者
(全身状態は比較的良好)(2)

肺理学療法として
– 腹式呼吸+ハッフィングの援助
– 体位ドレナージ(負担かからないなら)
痰・気道分泌が多いが、喀出できない患者
(全身状態は極めて不良)(1)
本人・家族の希望の確認
→気道分泌を押さえる方向でのケア




輸液の減量・中止、利尿剤
吸引(モルヒネなど早送りをしてから、
負担のない範囲で)
分泌抑制剤(抗コリン剤)の使用
チームカンファレンスで今後の方針を共有
痰・気道分泌が多いが、喀出できない患者
(全身状態は極めて不良)(2)

体位の工夫

家族への十分な説明
– 家族のこれまでの体験を知り、価値観を尊
重した対応をする
– 「ゼイゼイすることは必ずしも本人が苦しさを感
じているわけではないと思います」
– 「吸引をすることで余計苦しくなることもありま
す」
痰がらみが多いが
吸引を非常にいやがる患者

吸引のメリット
• 主気管支レベルの分泌液を除去して気道を
確保する

吸引のデメリット
• 本人の苦痛
• 吸引中の低酸素状態
• 不整脈を誘発

メリットとデメリットの
バランスを考えよう!
吸引のコツ
• 吸引圧:150 Torrまで
• 吸引時間:10〜15秒以内
• タイミング:ルーチンで行なう必要はない
呼吸困難あり、全身状態は極めて不良、
輸血が検討されている患者
72才、肺癌(胸水、癌性リンパ管症)、貧血あり、
肺炎併発、傾眠傾向、
Hb7.2, Bun50, Cre3.5, K5.7, CRP15. 3

原因に対する治療をどこまで行なうかは、
多職種チームメンバーで検討
– 貧血を修正することで呼吸困難が改善するか?
– 予後見通しは?(月・週・日の単位)
– 治療のメリット(効果)と
デメリット(侵襲性、副作用)は?
– 本人(家族)の希望は?

原因病態の治療には限界があることを理解する
夜になると「息苦しい」という
訴えが多くなる患者(1)

日中と夜間で何が異なるか観察
– 夜間「呼吸不全」が増悪する原因はないか?
• 夜間の点滴は多すぎないか? →流量の調整
• 仰臥位で増悪しないか?
→ ファウラー位の工夫
• 夜間のドレナージ不全が起きていないか?
→目が覚めた時にタイムリーに排痰を援助
• 眠剤で呼吸抑制がないか?
→眠剤の調整
夜になると「息苦しい」という
訴えが多くなる患者(2)

不安な気持ちの理解
– 「このまま眠ったまま目が覚めないのではない
か」
– 「眠っている間に窒息してしまうのではないか」

精神的サポートとして
–
–
–
–
孤独にさせない(家族の協力を得ることも重要)
対処法があることを保証し、速やかな対応を取る
マッサージ、タッチング
抗不安薬の投与
「息苦しくてつらいから、もう
逝かせてくれ・・・」と訴える患者






「もう死んだ方がましだと思うほど、息苦しいんで
すね」と受け入れる
不安でつらい気持ちに寄り添う
(安易な励ましや否定をしない)
チームとして緩和の方法を可能な限り検討していく
ことを保証
本人が頼りにしているものや人(家族など)による
サポートを強化
「希死念慮」(本当に死のうと考えている)の有無
を」チームで評価
必要に応じて精神科医など専門家に相談
「息苦しそうで辛そうで見ていられな
い」
と訴える臨死期の患者の家族


家族の思いを傾聴
以下の点を説明する
– 多呼吸、頻呼吸、喘鳴など、息苦しそうに見
えても、必ずしも本人が息苦しさを感じてい
るわけではないこと
– 多くの場合、低O2 高CO2血症により意識レベ
ルが低下し苦痛症状を感じていないであろう
こと
– 呻吟は、緊張した声帯に呼気が通過すること
で生じる音であり、苦しくて発するうめき声
ではないこと
– 家族が手を握ったりそばにいることが、本人
の 安心感につながること
意識混濁で本人の呼吸困難の
評価が困難な患者

本人が評価不可能な場合は
–
–
–
–
–

これまでの経過はどうだったか?
眉間のしわなど苦顔はないか?
活動性の低下はないか?
辛そうな、もぞもぞした体動はないか?
そばにいる家族はどう感じているか?
などをもとにチームで判断
意識低下時の多呼吸・喘鳴・呻吟は、必ずしも
本人のつらさとは相関しないことを家族に説明
する
耐えられない呼吸困難が
治療不応性である患者

多職種チームメンバーで検討
–
–
–
–


患者の苦痛の程度は?
他にできることは?
予後見通しは?
本人・家族の希望は?
つらい症状を「眠る薬」を使って、うとう
として、またはぐっすり眠ってやりすごす
ことができることを本人 and/or 家族に説
明
セデーションのガイドライン参照
日にち~時間単位の患者

予想される以下の状況とその対応法を前もっ
て家族に説明しておくとよい

死前喘鳴
– 補液の減量、中止を検討
– スコポラミン(ハイスコ)の使用
– 姿勢の工夫

無呼吸時間の延長
– あわてずにそばに付き添う