キャリアで語る経営組織 第12章 ビジネスのさらに先へ ー経営にできることー テキスト339~368ページ プロローグ 社長として会社の陣頭指揮にあたった2期8年が過 ぎ,あなたは経営を後継者に委ねて会長に就任した。 社内のマネジメントについては,社長以下のリーダ ーシップに任せ,自らは社長のバックアップと会社 の外の仕事,すなわち業界団体,財界,政府,地域 など会社と社会とのつながりについて関わる場面が 増えている。 それと同時にこれまでとは異なる視点で,企業と 社会との接点に関わってゆくことになった。そして 数年後には引退ということになる。いまあなたは, キャリアの締めくくりにあたって個人・企業・社会 の関わりを総括し,企業を離れたあとの第2の人生 を考える時期にいる。 会長になってみると・・・ • ビジネス以外での会社と社会の関わり • 会社の目的と,社会の会社に対する期待とのギャッ プ に気づく。そしてあなた自身のキャリアの締めくくりは? 疑問12-1 (テキスト341ページ) 企業の長期的な存続に必要なものは 何だろうか? 企業のもろさ • 社会に対して,価値ある製品・サービスを供給し続 ける必要性 ←社会(顧客)の意思に依存 cf. 政府(税金,権力),宗教組織(喜捨,信者のボラ ンティア) 企業の長期的な存続に必要なもの • タスク環境への適応能力 • 社会,利害者との良好な関係 図12-1 企業と社会の倫理的関わり (テキスト346ページ) 社会的応答: 社会貢献 社会的責任: 事業内容の社会的・ 倫理的妥当性 社会的義務: コンプライアンス コンプライアンス:企業と法 • 自由主義経済システムにおける企業と個人 → 様々な利益機会を求め多くの試行錯誤を繰り返す → 法や社会的規範の逸脱の可能性 • 組織あるいは事業の社会的支持を失うと・・・ → 企業の破綻 eg. 大手英会話学校,大手乳業,有名日本料理店・・・ • 「法は倫理の最下限」:コンプライアンス(法令遵守) の重要性 表12-1 企業活動がもたらす問題と求めら れる倫理 (テキスト344ページ) (出所)佐久間[2006]38ページを参 照し筆者作成。 企業の社会的責任(CSR) • 企業の社会的責任(corporate social responsibility; CSR):「企業が事業活動において,顧客,株主,従 業員,取引先,地域社会などの様々な利害関係者 との関係を中で果たす責任」 CSRの内容:トリプル・ボトムライン • 経済的側面(消費者保護・人材育成・公正な労働基 準など) • 社会的側面(人権・安全衛生・地域社会貢献など) • 環境的側面(環境保護) 利害関係者との調和・共生 前提条件 • 自社の持続性の確保と余剰経営資源の蓄積 • 利益の配分についての構想 疑問12-2 (テキスト348ページ) 企業と社会との関わりは, ビジネスだけだろうか? 経営とは・・・ 「人をしてことをなさしむ」 (getting things done through others) • 分業する人々を組織化し,問題の解決と目標の達 成へと導くための仕組み • 一人ではできないことを協働を通じて成し遂げるた めのツール • 問題解決や目標達成のツール 社会問題と経営 • 経営というツールを社会問題の解決に使えるか? • 社会問題:単独の主体(個人や組織)では解決で きない複雑な問題 eg.福祉・教育・医療・過疎・少子高齢化・安全・貧困・ 環境保護など → 社会,コミュニティ,複数の組織,複数のプレイヤ ーのネットワークなど,複数の主体による解決が必 要 社会問題の解決の難しさ 1.問題が複雑なためソリューション(具体的な解決 策)がみつからない 2.解決方法が確立されても,その実行に必要な資源 (ヒト・モノ・カネ・情報)が十分に集まらない 3.参加者の間で利害対立があり,問題解決の進展が 止まってしまう 疑問12−3 (テキスト349ページ) 社会問題はどのように 解決すればよいのだろうか? 社会問題を解決する4つの方法 伝統的な解決法 • 市場 • 政府 • 慈善(チャリティ) 新しいアプローチ • 事業 市場による社会問題の解決 基礎原理:交換(利潤獲得動機にもとづく取引) プレイヤー:ソリューションの売り手と買い手 eg. 難病の治療薬 長所:広範囲の領域(経済全体)をカバーし,安上がり 短所:ソリューションを購入できる人に限られる,公共 財問題,外部性問題 政府による社会問題の解決 基礎原理:ルールの設定・権力の行使・税金の投入 プレイヤー:政府と国民・法人 eg. 環境問題への政策 長所:市場の失敗の克服 短所:コストがかかる,最大公約数的な解決法,利 害関係者の関与 慈善による社会問題の解決 基礎原理:贈与 プレイヤー:ドナーとレシピエント,その仲介者(慈善 団体) eg. 難民支援,途上国での教育支援 長所:問題への焦点,問題解決の自由度の高さ 短所:資源供給の不安定さ,ドナー・仲介者の意思 への依存 疑問12-4 (テキスト355ページ) 事業による社会問題の解決とは? あるケース • NPO法人による病児保育事業 • 解決すべき問題:共働き夫婦の病児保育 • 仕組み:小児科医,サポートスタッフ,子育ての 終わったベテラン主婦たちをネットワーク化,月 会費制 ソーシャル・イノベーション 「市場を通じ,事業組織を利用して進められる, 新しい仕組みによる社会問題の解決」 • • • • 事業組織を通じ,未解決の社会問題へ対応 売り手と買い手以外の人びとも巻き込む形での 事業展開 問題領域や地域,対象を絞りこんで解決 持続性を維持できる仕組みを内包 事業による社会問題の解決 基礎原理:事業を通じた共同問題解決 プレイヤー:企業家・中核組織・協働参加者・受益者 長所:問題への焦点,自律性・持続性 短所:問題解決に関わる人々の企業家能力に依存 図12-2 事業による共同問題解決(テキスト358ページ) 共同問題解決者 企業家(プロジェクト・ リーダー):問題解決の リーダー 参加組織: 共同問題解決者に 協力して中核組織 と協働 中核組織内での共同問 題解決者による複雑な 問題の解決 問題解決コミュニティ 中核組織: 問題解決のための事 業の担い手 企業家(プロジェクト・リーダー) 中心的な参加者・組織、重要な資源の持ち主 共同問題解決者 参加者・組織(受益者、ボランティ ア、行政などを含む) 共同企業家:解決の主体 1.問題の認識(たとえば,子育て共働き世帯の妻の解雇) 2.目標の設定(病児保育問題の解決) 3.理念づくり(子育てと仕事そして自己実現に挑戦できる社会作り) 4.ソリューションのデザイン(施設に頼らない在宅ケア,需要変動の 影響を受けない収益構造を作る月会費制) 5.関係者のネットワークづけ(「レスキュー隊」「プロフェッショナル・ ボランティア」) 6.共同問題解決プロセスのマネジメント(中核NPO法人を設立し, 事業の枠組みを作り実行する) 7.中核組織のマネジメント,参加組織との協働のマネジメント(NPO 法人やそこに関わる関係者との協働のマネジメント) 中核組織:解決の場 • さまざまな組織からの資源(ヒト・モノ・カネ・情報)が 集まり,共同企業家によって,解が探索され,実行 される場 • 参加組織のネットワーク化とマネジメント 企業による社会問題の解決 • 制度上,官庁などに比べて,目的や活動について 自由度の高さと柔軟性がある 。 • 専門化を進めることによって高度な知識・ノウハウ の蓄積が可能。 • そもそも組織は資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の蓄積 体であり,他組織との協働を通じて共同問題解決が 可能。 • 企業は社会への有用物の提供による付加価値の実 現を目的としている。残余問題を解決するソリューシ ョンの提供はそれ自体が新たな価値の創造であり, 企業の活動にもなじむ。 表12-2 社会問題を解決する4つの方法 (テキスト363ページ) Column⑫:企業の収益性と社会性 (テキスト360ページ) • 収益性か社会性か? • 収益性と社会性を発揮するまでの時間的ギャップ →非営利組織でも,まずは収益性を確保し存続に必 要な資源を確保する必要がある。 • 社会性を発揮するためには,どのような原理(取引, パワー,贈与,共同問題解決,あるいはそれらの組 み合わせ)を用いるかを考えることが重要。 疑問12-5 (テキスト366ページ) 企業経営の第一線を退いた人々の その後のキャリアは? 定年後のキャリア たとえば・・・ • 企業家として地元の商店街に賑わいを取り戻すた めに新たな事業を始める人 • 問題の解決や組織の運営などについてアドバイス する人 • 問題解決コミュニティを作る際に自らの持つノウハ ウやネットワークを用いて触媒(カタリスト)となる人 • 若い社会企業家を支援するパトロンになる人 • 新たな社会的価値を提案する唱道者となる人 個人と組織のジレンマ • 入社,若手,中堅,トップ・・・ • 組織に参加する限り,変わらないのは,ジレンマと 向き合うこと さらに学びたい人のために 1.駒崎弘樹(2007)『「社会を変える」を仕事にする:社 会起業家という生き方』英治出版 2.小倉昌男(2003)『経営はロマンだ!:私の履歴書』 日経ビジネス人文庫 3.菱山隆二(2009)『倫理・コンプライアンスとCSR』 経済法令研究会 4.谷本寛治(2006)『ソーシャル・エンタープライズ:社 会的企業の台頭』中央経済社 主要参考文献 Inaba, Yushi, 2009. Japan's New Local Industry Creatio n: Joint Entrepreneurship, Inter-organizational Collab oration, and Regional Regeneration. North Andover: Alternative Views Publishing. 佐久間信夫編(2006),『よくわかる企業論』,ミネルヴァ 書房.
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